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レイ視点(2/3)
思い立ったが吉日で、行動あるのみ!!
……というわけで受けてみました。騎士団入団テスト!もちろん勝手に!
そもそも誰かの許可なんて、必要ないはず!
随時募集をかけている入団テストは基礎体力と実技試験。
いつでも募集中な理由は、練習の厳しさに途中で退団を申し出る人も多数いるとか。
だからこそ常に、優秀な人材を募集しているということで、女性の姿もちらほら見かけた。才能があれば性別は問わないらしい。だったらもう、受けてみるしかなくない!?
そう思ったら、もう止まれなかった。
それこそ実技試験は、楽々クリア出来た。
剣を繰り出すと同時に、刃先に魔力を少し込めて、一緒に切りかかるのだ。そうすることによって、相手に向かっていくのは剣の矛先だけでなく、炎の幻影も同時に切りかかっていくのだから、相手は焦って隙が出来る。そこをうまく狙い、なぎ倒した。
「私、受かったから!!」
夕食の場でにこにこと笑顔で告げれば、かの騎士団長様レーディアスは、思いっきり怪訝な顔をした。
「何を……?」
もー。本当は気付いているくせに!それとも団長ともいえるお方は、新米のことまでいちいち把握してないか!そもそもテストの場にはレーディアスはいなかったしね。
「入団テストを受けたの」
そこまで言うと、レーディアスは飲みかけのワインをむせた。あら、珍しい。
「受けたのですか!?」
「うん、受かったよ。それよりも、ワイン!グラスから溢れているし」
片手に持つグラスから、赤いワインが流れ落ちている。
どこかそそっかしいレーディアスだけど、ちゃんと手元を見なさいよ。
そして無言で責めるような視線を投げてくるけど、別に悪いことなんてしていないし?
相談しようにも、最初から聞く耳を持たなかったのは、そっちじゃない。
「一言相談があってもいいでしょう」
「言ったわよ、ちゃんと。でも最初から嫌そうだったじゃない」
口を開いたあと、グッと言葉に詰まったレーディアス。彼が感情をこんなに素直に表す人だとは、思わなかった。一緒にいる時間が長いと、知らない一面が見えてくるものなんだな。
「反対なの?」
直球で聞いてみれば、
「……賛成ではありません」
つまり反対だってことだよね。ははは。悪いね、レーディアス。もう受けちゃったよ。
「それに入団したのならば、共に過ごす時間が減ります」
ん?
そこは仮の婚約者なんだから、気にするべきことではないと思うよ。
「そこでなんだけど!!もし、迷惑がかかるようだったら、婚約を解消しても――」
「解消はしません」
騎士団に入団し、腕を上げてから、メグの護衛に名乗り上げようかと計画中なのだ。
それなら堂々とした理由で、メグの側にいられるじゃない。この婚約を解消しても、問題はないはずだ。
「レーディアス、仮の婚約者だということは、秘密にしましょう。もともと名前だけの婚約者だから、ばれても平気なんだけど、周囲はそう思わないかもしれないし。だから、騎士団の皆には内緒。メグの側にいる間だけ、その肩書きを借りるわ」
「……ええ」
言葉少なにつぶやいたレーディアスは、ため息をついた。なんだか元気がないわ。やっぱり驚かせすぎたみたいだ。
「だけど、いろいろありがとう」
そこで私は顔をほころばせて、ふわっと笑う。レーディアスは、一瞬息を飲んだのがわかった。次に、ため息交じりの声を絞り出した。
「まったくあなたは眩しいぐらい、裏表がないのですね」
「それって単純ってこと?褒められている気がしないわ」
「その純粋さを、自分色に染めたくなる男性も多いでしょう。――私を含め」
口説いているような台詞を受けるけど、いちいち真に受けちゃいけないわ。
「おあいにくさま。私はその時の男によって、染まらないし、染まるつもりもない。誰と付き合おうと私は私だわ」
そう、誰と付き合っても、私は自分を変えたりしないわ。むしろ私を変えるような男性よ、どんと来い!
「では一つ、質問しますが――」
堂々と言い切った私に、レーディアスは真剣な表情で口を開いた。
新緑色の瞳を真っ直ぐに向けてくるので、思わず姿勢を正して聞く。
「レイが好む男性とは、どのようなタイプですか?」
「私?」
「ええ」
いきなりそんなこと聞かれて、正直驚いた。まさかの恋バナ。
「そうだね……」
レーディアスにそんなことを聞かれるとは、夢にも思わなかった。メグとはよく恋バナもしたなぁ。
――ねえねえ、レイちゃんは、どんなタイプが好き?
――そうね、私が好きなのはね……
『筋肉だね!!』
即答すれば、大きなため息をつかれたっけ。だけどそれは、本心なんだ。じゃあ、別の言い方で答えるとしようか。
「強い人が好きだけど」
そう、まさに精神的にも肉体的にも。揺らがない精神力にそれに伴った肉体。側でずっと見ていたと感じるかもしれない。ま、そんな人が身近にいればの話だけどね。
「あー楽しみだわ。騎士団の訓練に参加する日が待ち遠しい」
にこにこ笑っている私とは正反対に、レーディアスは機嫌が良くなかった。眉間に皺がより、口元が歪んでいたけれど、気にしないもんね。レーディアスの邪魔をしない程度に自由にさせてもらうわ。
「新参者ですが、よろしくお願いしますね、騎士団長様!!」
「……その呼び名は外でだけで」
そう告げると、レーディアスの眉間の皺がいっそう深く刻まれた。
**
「メグ―!!」
翌日、早朝にメグの所に顔を出す。一日に数回顔を出しては、その都度一緒に時間を潰したり、時には顔をみてすぐに帰ったり。
これは毎日の日課だった。メグが危険な目にあっていないのか、それに殿下が口先だけじゃなく、態度で示しているかの確認。それに、メグを狙う人物について、何か有力な情報を掴んでいないかの、殿下との意見交換会のため。
ま、一番はメグに会いたいがためだけどね。
「レイちゃん、おはよう。今日も早いのね」
メグがそう言って微笑んでくれるから、私は元気になれる。
「あのね、騎士団に入団する!!」
「えっ!!なんでそんな話になってるの!?」
「入団テストを受けた!!」
結果を報告すれば、メグは呆れたように口を開けて、瞬きを繰り返した。
メグのこの顔は、もう見慣れている。
「またレイちゃんてば、考えるより行動するほうが早いんだから……」
そう言うけれど、メグは私が決めたことに反対はしない。ただ静かに事の成り行きを見守っている。
いつもそう。思いついたら突っ走る私と、それを静かに見守るメグ。
だけど失敗して落ち込んだ私を、真っ先に迎え入れて慰めてくれるのもまた、メグだった。
「レーディアスさんには言ったの!?」
「うん。事後報告だけど、伝えたよ」
「それで、なんて?」
「さすがにいい顔はしなかったね。渋ってた」
「でしょうね」
「最初、相談しようと思ったんだけど、嫌そうだったから、そのまま突っ走った。入団テストに落ちたら、この話もなくなるんだし」
あっさりそう伝えれば、メグが目元を綻ばせた。
「……さすがレイちゃん。レーディアスさんの振り回されている図を想像すると、つい笑ってしまう」
ひとしきり笑ったメグが、私の目を見つめた。
「だけどレイちゃん。怪我だけはしないでね。これは約束だよ」
「うん。強くなって、メグを守ってやるわ!!それこそ殿下に負けてられないしね」
「けど、会える時間が減るのね」
「メグ……」
そんなことを言ってくるから、すごく可愛くてたまらない。
「このっ!可愛い奴め!!」
思わずメグを抱きしめて、頭をグリグリしてしまった。メグは苦しげにしつつも、私の腕の中で笑う。
「大丈夫、必ず毎日、顔を見に来るし、殿下も側にいるんでしょ?それに護衛もしっかり見張ってるって聞いた。この機会に、自分を磨きに行ってくるわ!」
「レイちゃんてば、どこまで男前になる気なの」
そう言って呆れながらも笑顔を見せるメグ。
そうなのだ。この世界に来てからの三年間、毎日一緒にいて、ほぼ同じ空間で過ごしていた私達。
これだけ長い時間、行動を別にすることがなかったのだ。
本音は最初は寂しいと思ったし、今でも寂しいと思う。
この寂しさを、何かで紛らわせようと思ったのもあり、入団したのだ。
寂しいと感じる時間の余裕がないぐらい、剣の稽古に全力でぶつかろう。
私の意気込み感じ取ったメグは、静かに笑った。
そしてメグは最後に『生き生きしている。レイちゃん、頑張ってね』なんて言ってくれるものだから、やっぱり可愛い生き物だと抱きしめて、頭を撫でてしまった。
うん、やっぱり殿下にお任せするのは、勿体ないかしら。そうね、殿下がダメだと思ったら、すぐに奪回しようと心に決める。むしろ失敗して、メグに幻滅されたらいいな。
なーんてね。
思っちゃうけど口には出さない。殿下も今、凄くやる気が出ているらしい。先日会った時、明らかに魔力を自分の中で抑えていた。香りでわかったもの。
魔力は独特の香りがする。これは力の強い者にしかわからない。
それをうまく、抑え込んでいた。その証拠に魔力封じの耳飾りが一つ、減っていたことに気付いた。これから一つずつ外せるように、みずから魔力をコントロールできるように特訓するのだろう。
私も負けていられない。ライバルがいると燃えるよね!?
そしてメグの声援を受けた今、騎士団の稽古も精一杯、私は頑張るわ。




