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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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29/49

28*

レイ視点(2/3)

思い立ったが吉日で、行動あるのみ!!


……というわけで受けてみました。騎士団入団テスト!もちろん勝手に!

そもそも誰かの許可なんて、必要ないはず!


随時募集をかけている入団テストは基礎体力と実技試験。

いつでも募集中な理由は、練習の厳しさに途中で退団を申し出る人も多数いるとか。

だからこそ常に、優秀な人材を募集しているということで、女性の姿もちらほら見かけた。才能があれば性別は問わないらしい。だったらもう、受けてみるしかなくない!?

そう思ったら、もう止まれなかった。


それこそ実技試験は、楽々クリア出来た。

剣を繰り出すと同時に、刃先に魔力を少し込めて、一緒に切りかかるのだ。そうすることによって、相手に向かっていくのは剣の矛先だけでなく、炎の幻影も同時に切りかかっていくのだから、相手は焦って隙が出来る。そこをうまく狙い、なぎ倒した。


「私、受かったから!!」


夕食の場でにこにこと笑顔で告げれば、かの騎士団長様レーディアスは、思いっきり怪訝な顔をした。


「何を……?」


もー。本当は気付いているくせに!それとも団長ともいえるお方は、新米のことまでいちいち把握してないか!そもそもテストの場にはレーディアスはいなかったしね。


「入団テストを受けたの」


そこまで言うと、レーディアスは飲みかけのワインをむせた。あら、珍しい。


「受けたのですか!?」

「うん、受かったよ。それよりも、ワイン!グラスから溢れているし」


片手に持つグラスから、赤いワインが流れ落ちている。

どこかそそっかしいレーディアスだけど、ちゃんと手元を見なさいよ。


そして無言で責めるような視線を投げてくるけど、別に悪いことなんてしていないし?

相談しようにも、最初から聞く耳を持たなかったのは、そっちじゃない。


「一言相談があってもいいでしょう」

「言ったわよ、ちゃんと。でも最初から嫌そうだったじゃない」


口を開いたあと、グッと言葉に詰まったレーディアス。彼が感情をこんなに素直に表す人だとは、思わなかった。一緒にいる時間が長いと、知らない一面が見えてくるものなんだな。


「反対なの?」


直球で聞いてみれば、


「……賛成ではありません」


つまり反対だってことだよね。ははは。悪いね、レーディアス。もう受けちゃったよ。


「それに入団したのならば、共に過ごす時間が減ります」


ん?

そこは仮の婚約者なんだから、気にするべきことではないと思うよ。


「そこでなんだけど!!もし、迷惑がかかるようだったら、婚約を解消しても――」

「解消はしません」


騎士団に入団し、腕を上げてから、メグの護衛に名乗り上げようかと計画中なのだ。

それなら堂々とした理由で、メグの側にいられるじゃない。この婚約を解消しても、問題はないはずだ。


「レーディアス、仮の婚約者だということは、秘密にしましょう。もともと名前だけの婚約者だから、ばれても平気なんだけど、周囲はそう思わないかもしれないし。だから、騎士団の皆には内緒。メグの側にいる間だけ、その肩書きを借りるわ」

「……ええ」


言葉少なにつぶやいたレーディアスは、ため息をついた。なんだか元気がないわ。やっぱり驚かせすぎたみたいだ。


「だけど、いろいろありがとう」


そこで私は顔をほころばせて、ふわっと笑う。レーディアスは、一瞬息を飲んだのがわかった。次に、ため息交じりの声を絞り出した。


「まったくあなたは眩しいぐらい、裏表がないのですね」

「それって単純ってこと?褒められている気がしないわ」

「その純粋さを、自分色に染めたくなる男性も多いでしょう。――私を含め」


口説いているような台詞を受けるけど、いちいち真に受けちゃいけないわ。


「おあいにくさま。私はその時の男によって、染まらないし、染まるつもりもない。誰と付き合おうと私は私だわ」


そう、誰と付き合っても、私は自分を変えたりしないわ。むしろ私を変えるような男性よ、どんと来い!


「では一つ、質問しますが――」


堂々と言い切った私に、レーディアスは真剣な表情で口を開いた。

新緑色の瞳を真っ直ぐに向けてくるので、思わず姿勢を正して聞く。


「レイが好む男性とは、どのようなタイプですか?」

「私?」

「ええ」


いきなりそんなこと聞かれて、正直驚いた。まさかの恋バナ。


「そうだね……」


レーディアスにそんなことを聞かれるとは、夢にも思わなかった。メグとはよく恋バナもしたなぁ。


――ねえねえ、レイちゃんは、どんなタイプが好き?

――そうね、私が好きなのはね……



 『筋肉だね!!』



即答すれば、大きなため息をつかれたっけ。だけどそれは、本心なんだ。じゃあ、別の言い方で答えるとしようか。


「強い人が好きだけど」


そう、まさに精神的にも肉体的にも。揺らがない精神力にそれに伴った肉体。側でずっと見ていたと感じるかもしれない。ま、そんな人が身近にいればの話だけどね。


「あー楽しみだわ。騎士団の訓練に参加する日が待ち遠しい」


にこにこ笑っている私とは正反対に、レーディアスは機嫌が良くなかった。眉間に皺がより、口元が歪んでいたけれど、気にしないもんね。レーディアスの邪魔をしない程度に自由にさせてもらうわ。


「新参者ですが、よろしくお願いしますね、騎士団長様!!」

「……その呼び名は外でだけで」


そう告げると、レーディアスの眉間の皺がいっそう深く刻まれた。


**


「メグ―!!」


翌日、早朝にメグの所に顔を出す。一日に数回顔を出しては、その都度一緒に時間を潰したり、時には顔をみてすぐに帰ったり。

これは毎日の日課だった。メグが危険な目にあっていないのか、それに殿下が口先だけじゃなく、態度で示しているかの確認。それに、メグを狙う人物について、何か有力な情報を掴んでいないかの、殿下との意見交換会のため。

ま、一番はメグに会いたいがためだけどね。


「レイちゃん、おはよう。今日も早いのね」


メグがそう言って微笑んでくれるから、私は元気になれる。


「あのね、騎士団に入団する!!」

「えっ!!なんでそんな話になってるの!?」

「入団テストを受けた!!」


結果を報告すれば、メグは呆れたように口を開けて、瞬きを繰り返した。

メグのこの顔は、もう見慣れている。


「またレイちゃんてば、考えるより行動するほうが早いんだから……」


そう言うけれど、メグは私が決めたことに反対はしない。ただ静かに事の成り行きを見守っている。

いつもそう。思いついたら突っ走る私と、それを静かに見守るメグ。

だけど失敗して落ち込んだ私を、真っ先に迎え入れて慰めてくれるのもまた、メグだった。


「レーディアスさんには言ったの!?」

「うん。事後報告だけど、伝えたよ」

「それで、なんて?」

「さすがにいい顔はしなかったね。渋ってた」

「でしょうね」

「最初、相談しようと思ったんだけど、嫌そうだったから、そのまま突っ走った。入団テストに落ちたら、この話もなくなるんだし」


あっさりそう伝えれば、メグが目元を綻ばせた。


「……さすがレイちゃん。レーディアスさんの振り回されている図を想像すると、つい笑ってしまう」


ひとしきり笑ったメグが、私の目を見つめた。


「だけどレイちゃん。怪我だけはしないでね。これは約束だよ」

「うん。強くなって、メグを守ってやるわ!!それこそ殿下に負けてられないしね」

「けど、会える時間が減るのね」

「メグ……」


そんなことを言ってくるから、すごく可愛くてたまらない。


「このっ!可愛い奴め!!」


思わずメグを抱きしめて、頭をグリグリしてしまった。メグは苦しげにしつつも、私の腕の中で笑う。


「大丈夫、必ず毎日、顔を見に来るし、殿下も側にいるんでしょ?それに護衛もしっかり見張ってるって聞いた。この機会に、自分を磨きに行ってくるわ!」

「レイちゃんてば、どこまで男前になる気なの」


そう言って呆れながらも笑顔を見せるメグ。

そうなのだ。この世界に来てからの三年間、毎日一緒にいて、ほぼ同じ空間で過ごしていた私達。

これだけ長い時間、行動を別にすることがなかったのだ。

本音は最初は寂しいと思ったし、今でも寂しいと思う。

この寂しさを、何かで紛らわせようと思ったのもあり、入団したのだ。

寂しいと感じる時間の余裕がないぐらい、剣の稽古に全力でぶつかろう。

私の意気込み感じ取ったメグは、静かに笑った。


そしてメグは最後に『生き生きしている。レイちゃん、頑張ってね』なんて言ってくれるものだから、やっぱり可愛い生き物だと抱きしめて、頭を撫でてしまった。

うん、やっぱり殿下にお任せするのは、勿体ないかしら。そうね、殿下がダメだと思ったら、すぐに奪回しようと心に決める。むしろ失敗して、メグに幻滅されたらいいな。


なーんてね。

思っちゃうけど口には出さない。殿下も今、凄くやる気が出ているらしい。先日会った時、明らかに魔力を自分の中で抑えていた。香りでわかったもの。

魔力は独特の香りがする。これは力の強い者にしかわからない。

それをうまく、抑え込んでいた。その証拠に魔力封じの耳飾りが一つ、減っていたことに気付いた。これから一つずつ外せるように、みずから魔力をコントロールできるように特訓するのだろう。

私も負けていられない。ライバルがいると燃えるよね!?


そしてメグの声援を受けた今、騎士団の稽古も精一杯、私は頑張るわ。

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