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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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28/49

27*

レイ視点*(1/3)


そうして物事は着々と進み、私の住居はレーディアスの元へと移った。

レーディアスの屋敷はこの王都より離れた地にあるため、わざわざ殿下の側に身を置くため、城の近くに仮住まいをしているそうだ。私が想像したのが、小さな家なのかと思ったけれど、大きな屋敷を一軒まるごと借りているのだそうで、驚いた。

むっ、無駄じゃないか。屋敷一軒仮住まいだなんて。

しかしここなら部屋数もたくさんあるし、すぐにメグの元にも飛んで行ける距離だから、正直助かった。


本当はメグの側にいたかった。

だけど殿下が『守る』なんていうものだから、しばらく様子をみることにした。

離れがたいけど、それがきっと将来的にメグのためになる―― そう思う。これは一種の賭けだ。

それにどことなく、メグは殿下を信頼しているような雰囲気を醸し出した。


それはメグの成長だから嬉しいことなのだ。そう、良い事なのだ。

ここは半年ほど早く生まれた姉的立場の私からみて、祝ってやるのが普通だ。


だけど、本音を言えば、少し寂しいぞ!!


だけど殿下が側についていながら一度でもメグを危険な目に合わせたら、その時点でアウト。メグは任せられないと判断する。

それなら帰るわ、ヘボン村へ。


そう意気込んで廊下を歩いていると、やたら視線を感じる。

その先に顔を向けると、レーディアスが微笑みを浮かべて歩いている。口にこそ出さないが、やけに上機嫌だ。

ちょっと、前を向いて歩かないと、危ないよ。

そう思いながらも隣を歩くレーディアスに、質問をぶつけてみる。


「ねえ、気になるのだけど、いきなり婚約者だなんてなったら、いくら仮でも、ご家族は驚かれるんじゃないの?」

「殿下の将来の伴侶のご親友とあらば、繋がりを持てると言って反対はされませんでしたよ」


なんて根回しの早さ。

そして、にこやかに笑うレーディアスだけど、まだ決まった訳じゃないからね!私はなんだか面白くない。


「まだメグで決定した訳じゃないわ」

「ですが、殿下の態度を見れば、一目瞭然ではないですか」

「……」


そうなのだ。

殿下の行動は非常に解りやすい。二人で話していた時によほど意気投合したのか、殿下はメグを気に入っていると思う。それも相当入れ込んでいる。


「今、殿下はやる気という導火線に火が付いた状態です。これを機会に、みっちり特訓していただきます」

「そうだね、メグを任せられる男になるかどうかは、今後の殿下次第だね」


さあ、殿下。チャンスは一度だけだよ。

ここからが殿下の見せ所。メグに気持ちが伝わるのか、そして守ることが出来るのか、見届けさせて貰うわ。

私は一人でうなずきながら、レーディアスの隣を歩いていた。


**


そしてレーディアスの元に身を寄せた翌日、来客があった。

聞けば私にだという。思い当たる節がない私は首を傾げながら、客人を出迎えた。


「そうか、あいつもやっと落ち着いたか!!愚弟だが、よろしく頼むよ!!」


初対面の男性にいきなり両手を握られ、ぶんぶんと勢いよく振られた。

目の前の体格のいい男性は、レーディアスの兄だと最初に名のった。私のことを噂で聞きつけ、早朝から訪ねてきたらしい。


「俺がここへ来たことは内緒な」


明るく屈託のない笑顔を見せる兄は、どうやら弟とは違うタイプのようだ。

しかし、こんなに喜んで貰っているけれど、真相は違う。胸に湧きあがるのは罪悪感だ。

だってレーディアスにお願いしたといっても、言い方を変えれば、利用しているのと一緒だ。

そう考えたら、ここは本当の事を告げておいた方がいいだろう。


「本当は違います」

「え?」

「レーディアスさんの婚約者は事情があって――」

「またまた、冗談を!あいつは自分の屋敷に女を入れたことなんてないぞ!……おっと、失言を」

「いえ、大丈夫です」


このお兄さん、明るく豪快に話す、気のいいタイプと見た。


「ここだけの話なんだが、あいつはいつも澄ましているけど、本当は違うから。よろしく頼むわ」

「本当は違う……?」

「ああ。年頃になってからは、上手く隠しているようだけどな。幼い頃から兄弟にもまれすぎたせいだな。なんでもそつなくこなすように見えて、うまく立ち回っているイメージだが、本当のあいつは負けず嫌いで熱い男だぞ」

「はは……」


それは普段の彼の姿からは、到底想像がつかない。なにか間違っていないか?

それにレーディアスは三男だって言っていたのを思い出した。

レーディアスの兄と名乗った人は、真っ直ぐな気性のイメージだ。

世間一般で、こんな人が熱い男だというのじゃないだろうか。盛り上がる筋肉に逞しい腕っぷし。その体を見ているだけでも熱い。対するレーディアスも筋肉はついているけど、細マッチョだと思う。


「じゃあ、よろしくな」


兄はそれだけを伝えると私に背を見せて、颯爽と去って行った。いったい、何だったんだろう。


「ま、いっか」


私は深く考えずにメグのところへ顔を出す準備をし、彼女の元へ走って行った。


**


「兄に会ったと聞きました」

「ん?」


そして夕食時、どこか何かを探るような眼差しを向けてきたレーディアス。内緒にしろって言われたけど、すっかりばれてるじゃんか。そして私は兄の言葉を思い出す。


『熱い男だから』


うっそだー。信じらんないと思いながら、そのことは伏せておいた。


「うん。挨拶をかわして、すぐに帰って行った。お兄さん、豪快な楽しい人だね」

「……」


私は手に持つナイフで肉を切り分けながらも口を開く。


「それとなんか、誤解しているようだったから、訂正しておいた」

「誤解?」

「うん。私とレーディアスの仲を完全に誤解していたから、違うとだけ伝えておいたわ」

「……」


あれで伝わっているのか微妙だけど、訂正するだけしておいたわ。

口の中で肉汁のしたたる肉を味わっていると、レーディアスが手に持つグラスをテーブルに置いた。

そして私の顔をじっと見ているものだから、私は瞬きをした。


「あなたが私のもとに来る選択をしたということは――」

「うん」

「私のことを異性として見ているという認識で受け取ったのですが――」

「あーないない。そりゃないわ」

「…………」


私は手にしていたナイフをテーブルに置き、手を振りつつも即答した。


「それが手っ取り早くメグの側にいれると思ったからさ、その申し出に甘えてみたんだ。ごめんね」

「………………」


そこからレーディアスは、むっつりと押し黙った。なんだろう、この空気。重いんですけど。

そもそもメグの側にいる理由として、仮の婚約者として欲しいと願い出た。

それはレーディアスも承知の上だったと思うけど、今さらつべこべ言われても、私は困る。


重苦しい空気の中、何かを考えている様子のレーディアス。

私は話題を変えようと試みる。


「ねえ、これから私に、剣を教えてくれない?」

「……剣ですか?」


そうなのだ、今日はメグを誘って城内を散歩中、闘技場まで足を伸ばした。

そこでは騎士団の練習が行われていた。

ちらりと見えただけだったけど、剣を手に持ち、汗水たらして訓練する姿を見ていたら、私の中で眠っていた闘志が、ふつふつと燃えてきたのだ。


「ええ、何かあった時に、自分の身はもちろん、メグのことも守りたいし。ただメグの側にいるよりは、自分に何か特技でもあったら、最高だと思って」

「あなたは魔力が強い。しかもうまく制御できている。それをうまくコントロールして剣術に交えることが出来れば、さらなる力が得られると思いますが……」

「えっ!?そうかな!!」


そんなことを聞けば、なおさらやりたいに決まっている。

意気込んで鼻息も荒くなるってもんだ。

そこでレーディアスは、どことなく微妙ともとれる、表情を見せた。


「まあ、そう焦ることもないでしょう」


やんわりと濁したレーディアスは、私に教える気がないらしい。勝手に張り切っていた私はそう聞いて、表情を曇らせた。


「……では今度、皆が訓練している場を見学してみますか?」

「ええ行きたい、連れて行って!!」


しばらく冴えない表情をしていると、彼からそう申し出があったので即答する。

前に騎士達の練習風景を見学させてもらったが、また行きたいと思っていたので、その話に喜んで飛びついた。

間近で見る熱い練習風景に、めちゃくちゃ興奮した。私自身も体が熱くなってしまうほど、動きたくてうずうずした。

こうみえても私はずっと、剣道を習っていた。

それに体を動かすことは大好きだ。ここでの生活も、ちやほやされすぎて、体が鈍ってしまわないか心配なのだ。村では適度に動いていたのに、ここでは何をするでもない。

それにこっそり収集した噂では、騎士団に入るには、入団テストをパスすれば、性別は問わないらしい。

まさに実力主義。

それを聞いて、ものすごくやる気が湧いてきた。私でも受けることが出来るんじゃない?

そう思った私は、早速レーディアスに申し出てみた。


「出来れば騎士団に入りたいと思う」


さすがにこれを告げた時は、たっぷりと間が空いた。


「……入ってどうするのですか」

「だって暇だし、メグを守れるように腕を上げたいわ」


今メグの側では、殿下が守っている。

殿下が席を外す時や、用事がある時は、護衛が側についているはずだ。

けれどメグに何かあった時に、私だって対処できるようになりたいの。


「……それは、私はあまり賛成できません。それよりメグさんは、最近どうですか?」


レーディアスは急に、話をそらしてきた。


あっ、そうですか。そっちがその態度なら、私だって考えがあるもんね。

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