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そこからのレイちゃんの行動は早かった。
レーディアスさんに連絡を取り、なんとかアーシュへの面会をお願いした。
そして今、私と二人でアーシュの部屋を訪ねてきたところだ。
「アーシュレイド殿下、お願いがあります。メグを解放して頂けませんか」
入室の許可を得たあと、開口一番にレイちゃんは直球を投げた。
かしこまった物言いは、先日まで二人で言い合いをしていたとは思えないぐらい、距離を取っていた。
アーシュは瞬きをしたあと、驚いたとばかりに、小さく口を開けた。
「もとより、魔力なしといわれ、無理矢理連れて来られただけです。荷が重すぎます。それに命が大事ですから」
「命……?」
「ええ。殿下の婚約者候補となってから、命の危険を感じるレベルの嫌がらせを受けています」
「なっ……!」
どうやら想像していなかったらしいアーシュは、言葉に詰まった。
「お前、何かあったら言えといっただろ?どうして言わないんだよ?」
「それは……」
明らかにムッとした表情に変わったアーシュだったけれど、だってさ、いきなりさ『狙われているかもしれないんです』なんて言ったって、信じてくれるかも疑問だし。そもそもそこまで甘えてもいいものか、迷うのだ。
ずっとレイちゃんと二人でやってきた私は、他人への頼り方やタイミングが、どうも解らない。
「……そんなに頼りないかよ」
「いえ、そんなつもりじゃ……」
少し傷ついた様な表情を見せた彼を見て、胸がチクリと痛んだのは本当。
何を言っても言い訳に聞こえるかもしれないけれど、まずは聞いて欲しい。
伝えようとすれば、アーシュが先に口を開いた。
「お前の心配は解った」
「では、私達は村へ――」
「だが、断る。悪いが一度決定したことは、簡単には覆せないんだ」
それを聞いて落胆するけど、どこか納得。
やっぱりね、帰ります、はいそうですかとは、いかないと思っていたけどさ。
「そうですか……わがままですね」
納得していないレイちゃんが、文句を吐き捨てた。
「誰がわがままだというのだ。お前は少し過保護すぎやしないか」
その瞬間、空間に、ピキッと亀裂の入る音がした気がする。そして部屋の空気が険悪なものへと瞬時に変わる。これはいけない!
「あの……」
アーシュとレイちゃんが鋭い視線を交える中、勇気を出しておずおずと口を開けば、
「メグ、ちょっと黙っててね?」
「ああ、少し口を閉じててくれ!!」
二人に一喝されるけど、わ、私の話ですよね?当事者ですよね、私。
ビリビリと、目に見えない火花が散る……
うん?あれ?
目に見えないと思ったけれど、あのレイちゃんの手の中でビリビリ光るのは……
私は手でごしごしと、右目をこする。そして再度視線を投げるも――
み、見間違いじゃないぃぃ!!
「レイちゃん……!!手が……」
「大丈夫だよ、メグ」
「な、なにが大丈夫なの?」
「今すぐに放出したい怒りを、魔力の塊にして、ためにためているだけだから」
あっさりと認めたレイちゃんの表情は笑っているけれど、目が笑っていない!
「そ、それまずいよ!レイちゃん!」
「大丈夫、あっちだって強大な魔力を持っているのなら、これぐらい防げるはずよ」
大丈夫だと言い切るレイちゃんだけど、アーシュ本人は無事かもしれないけど、その他は?私は咄嗟に部屋の中を見る。
壁に飾られた絵や、花の入った陶器の花瓶、天井には輝くシャンデリア。
無理無理、調度品、そのすべてが高級品!
壊れたら、とんでもない額を請求されそうだ。
その時、アーシュがすっくと立ち上がる。
「なんだ、やる気か」
ぎ、ぎょへー!!
レイちゃんの反抗に、すかさず気づいた!!
「いえ、なんのことでしょうか」
すっとぼけた声を出すレイちゃんだけど、その手の中には巨大な魔力の塊が、今まさに破裂しようとくすぶっている。
「俺に向かってくるとは、お前命知らずだな」
「まだ向かってないわ。私は、ちゃあああんと、魔力のコントロールが出来ますから、暴走はしませんし」
「ほう、それは俺がコントロールできないと言いたいのか」
「あら、自覚があるのね」
にっこり笑うレイちゃんだけど、怖いぃぃぃ。
ジリジリと睨みあう二人だけど、無理だよ、レイちゃん。仮にも相手は王子様だよ。挙句に一部屋壊してしまったら、私達、一生タダ働きだよ……!!私は皿洗いでも掃除でも出来るけど、レイちゃんは家事オンチじゃない!!
「レ、レイちゃん!!」
私は意を決して顔を上げる。そこに、無理矢理笑みを浮かべる。
「こ、ここに残ろうよ!」
「メグ……?」
不審そうな顔を作るレイちゃんの手の中の炎は、まだ小さくならない。
まだだ、まだ押しが足りない、頑張れ私!!
「ほら、滅多に来れない王都だし、もう数日間だけでも滞在してもいいでしょう?」
「けど、いいのメグ!?危険なんだよ?それに、そんなことを言って、この殿下の婚約者にされたら、どうするのさ!!」
「そ、それは……」
ぶっちゃけ困る。
だけど、本人を前にして、馬鹿正直にも答えにくい。
それになぜかアーシュも私をガン見している。じゃあ、ここは――
「まぁ、そうなったら、そうなったらで……、ア、アーシュだって、す、素敵な人だし!」
声が上ずりながら言うと、アーシュの顔が一瞬にして、赤く染まった。
あれ?
「ま、まあ、お前がそう言うなら、ま、前向きに考えてやらなくもないぞ?」
先程までの険悪な空気は消え去り、一転して上機嫌になったアーシュに、ホッと胸をなで下ろす。
「でも、メグ!!危険目にあうかもしれないんだよ?」
レイちゃんの表情は私を心配しているのだと、痛いほどに感じる。
「大丈夫、レイちゃんだって側にいてくれるんでしょ?レイちゃんがいれば心強いし、それに……」
私は視線をチラとアーシュに投げた。ああ、恥ずかしい。だけど言うしかない、まだだ、もっと頑張れ私。
唇をギュッと噛んだあと、私は羞恥を捨てる台詞を吐いた。
「ア、アーシュも私のことを、ま、ま、守ってくれると信じているわ!」
ああ、羞恥で死ねる。今なら即効で。
しかし私、超頑張った!!
目の前に張本人がいるなかでの、この台詞は吐く方もきついが、言われるほうも相当だろう。顔を見るのが怖いけれど、どの程度嫌がっているのか、反応を確認しておこう。
顔を向ければ、先程よりも、もっと顔を赤くしているアーシュがいた。今は首までも赤い。
「お前がそう言うなら、俺が守ってやる」
そして予想と反して、とても力強い言葉を投げられた。




