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そうしていると、後方から笑い声が聞こえた。
「皆さんで、賑やかですわね」
その声の方を振り返ると、ロザリアさんが笑みを浮かべていた。側には可愛らしい女の子が仕えていて、軽く頭をペコンと下げてくれた。
「ロザリア」
そう名を呼んだのは、アーシュだった。そうだった、ロザリアさんは幼馴染だって言ってたっけ。
「とても楽しい方ですのね、メグさんのお友達は」
嫌味を含まないロザリアさんの言い方は、とても好ましい。それに友人を褒められて、私だって嬉しくなる。
「ロザリアさん、私の友人のレイです」
「メグさん、ご紹介ありがとうございます。私はロザリアです。それとこちらは私の小間使いとして側に仕えてくれているラティナです」
ロザリアさんが側にいた少女を紹介してくれた。年齢は10歳ぐらいだろうか、私達を見ると恥ずかしそうにうつむいたけれど、きちんと頭を下げた。真っ直ぐな黒髪がさらさらと、肩から流れ落ちる。
「ロ、ロザリア様にお仕えしているラティナです」
たどたどしく緊張している様子だったが、礼儀がしっかりしている。そんな印象だった。
対するレイちゃんを振り返ると、眉根をひそめ、少し表情が硬かった。どこか緊張したような空気を醸し出している。
「レ、レイちゃん……」
慌てて服の袖を引っ張ると、レイちゃんが我にかえった。
「ああ、ごめんなさい。ボーッとしてました」
どうみたってボーッとしている様子には見えなかった。いったい、何を考えていたのだろう。
不思議に思っていると、ロザリアさんがアーシュに声をかけた。
「アーシュレイド殿下。さきほど騎士団長様がお探しになられていましたわ。私はそれをお伝えに来ましたの」
「あっ、やばい!!もうそんな時間か」
それを聞いたアーシュは焦った様子で、
「じゃあ、俺は行く。またな!!」
そう言うと急いで駆け出した。それを見たロザリアさんは微笑む。
「では私も、失礼しますわね」
ロザリアさんがそう言うと、隣に立つラティナも頭を下げたあと、二人で去って行った。
「素敵な人だね、ロザリアさん」
「…………そうね」
皆の背中を見守る中、私が呟くけれど、レイちゃんの反応が鈍い。
いったい、どうしたのだろう。
「しかしさっきの彼女、なんだっけ?あのそそくさと逃げてった彼女」
「ああ、フィーリアのこと?」
「すっごく解りやすい反応だったわよね」
真っ直ぐに敵意をぶつけてくるフィーリアは、ある意味正直なのだろう。
「うん。最初から敵意を持たれている。それを隠そうともしないのだもの」
「むしろ、そのぐらい直にぶつけてくる方が、可愛いのかもしれないわよ」
レイちゃんが意味深な言葉を吐くけれど、ブロックの件といい、敵は誰?フィーリアさんなの?
「なんだか、ブロックの件があったから、会う人を一瞬、疑ってしまうわ」
「……レイちゃん」
「……本当に、誰が何の目的で、メグを邪魔だと思っているんだろう」
それきり黙ってしまったレイちゃんは、何かを考えている。
私の命を狙って、得することはなに?
このままなにも起こらずに、無事平穏な日々が送れればいいのだけど――
私はそう祈らずにはいられない。
**
翌日になり、私とレイちゃんは気晴らしに城の中を探検することにした。時間を持て余していたのもあるし、城内を歩き回っていいとの許可も貰っている。
これ幸いとばかりに美術品が見たいと思い、骨董品の集められている部屋へと足を向けた。
そこには歴代の王が描かれた絵画に、細かな模様の入った陶器の花瓶がずらりと並ぶ。武器の骨董品などは、歴史を感じる。
ベルベットの真紅の絨毯の上に置かれた甲冑は、本当に人が入っていて、今にも動き出しそうな雰囲気を漂わせていた。
「レイちゃん、すごいねー」
「うん。これ全部売り払えば、いくらになるんだろ」
レイちゃんらしい本音を聞き、思わず倒れそうになった。
「しかしすごいよね、こんな重い甲冑を身に着けるだなんて、それだけで身動きとれなそうだよね」
私は甲冑の騎士の側に寄る。背丈も私よりもぐんと高いし、重さだけで相当ありそうだ。
感心した気持ちで、甲冑の騎士の顔をのぞき込んだ。
「メ、メグ!!」
「え?」
その時急にレイちゃんに名を呼ばれて振り返る。
視界に入ったのは必死の形相のレイちゃんだった。驚いた瞬間、レイちゃんが私の腕をグッと力強く掴み、そのまま引き寄せた。
その勢いのまま、私は前につんのめり、転んでしまい、膝を強打した。
「痛ったー!!」
今のは痛かった!
膝の骨が粉砕したかと思った!!
それから遅れること数秒後、私の背後で轟音が鳴り響いた。
「…………」
今の音はなんだろう。
恐る恐る背後を振り返れば、甲冑の騎士が手に持っていた剣が振り下ろされていた。それが床に、深々と突き刺されていた。
「……レ、レイちゃん……」
その光景を見て私は血の気が引いた。
レイちゃんが私を引っ張ってくれなかったら、あの剣を振り下ろされていたのは私だったはず――
そうだとしたら最悪、ケガどころじゃすまないだろう。想像しただけで、体に震えがくる。
甲冑の騎士の中には人が入っているわけではない。さっきのぞいた時で、確認済みだ。
だけど剣が振り下ろされたのは偶然なの?剣の固定が甘かったとか、緩んでいたの?けれど偶然にしては出来過ぎている。
私が呆然としていると、先程からレイちゃんが言葉を発しないことに気付く。
思わず振り返ると、
「……ひっ……!!」
喉の奥から思わず変な声が漏れ出てしまった。
そこにいたレイちゃんは、ただならぬ冷気を身にまとっていた。
険しい顔をして甲冑を睨むレイちゃんの顔つきが、尋常じゃなく怖い。たった今経験した恐怖体験と同じ、いやそれ以上だ。
「これは……」
レイちゃんは一言つぶやくと、鼻をスンと鳴らした。私が不思議そうにレイちゃんを見ているけれど、それを気にした風もない。
「……ねえ、メグ、帰ろうか」
「うん。部屋に帰ろう」
とてもじゃないが、このまま城の探検気分などではない。深いため息をつく。
「バッカ!部屋なんかじゃなくて、村へだよ」
「え?」
「帰ろう!!」
それは話が飛び過ぎじゃないのか?
「殿下にお願いしてみよう!」
早々に決断を下したレイちゃんに私が焦った。
「え、い、今から?」
そりゃ出来るのなら帰りたいけれど、そんなこと可能なのだろうか。それに報酬のお金も貰えないけどいいの?探るような視線を向ければ、
「お金よりも、メグの身が心配だって!!」
そう言って、私の肩を痛いぐらいにガシッと掴んだ。
「レイちゃん……」
いつも守銭奴だなんて思っててごめん。
こんな時、本当に頼りになる。一番私にいい方向へ決断してくれる。
「善は急げよ、この足で行くわよ!」
そう言って駆け出したレイちゃんは、数歩進むといきなり立ち止まった。
「……あ、忘れてた」
「どうしたの?」
不思議に首を傾げれば、数歩戻り、甲冑の騎士の側まで近づく。そしておもむろに足を振り上げて、
「メグに手を出すな!お返し!!」
甲冑の騎士に蹴りを繰り出した。
「…………」
思わず絶句。しかも相手は甲冑だよ?蹴った足の方が痛いでしょう。
「うん、ちょっとすっきり。よし行こう!」
い、いいのか!足は大丈夫なのか!
心配する私を尻目に、若干だけ気の済んだ顔を見せたレイちゃんは鼻をスンと鳴らした。
そして私と共に、急いでその場をあとにした。




