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【書籍化】破壊の王子と平凡な私  作者: 夏目みや


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アーシュの婚約者候補は三人だと告げられた。その顔合わせが本日行われるらしい。

私以外の二人は由緒正しい家柄とのことで、きっと淑女なんだろうな。

もしかしたらお友達にでもなれるかしら。――そう考えていた私が、つくづく甘かったと思い知ることになる。

顔合わせの場である広間へと案内されると、私の視界に入ったのは二人の女性だった。

三人向かい合わせで椅子に腰かけると、それを合図かのように、紅茶のセットが運ばれてくる。


「私はロザリア・サナトーラです。ロザリアと呼んで下さい」


私の左側に座っているのは、背の高い黒髪の美人さんだった。

長い髪を下ろして艶もあり、大人っぽい雰囲気で、落ち着いた上品な人だ。切れ長めの瞳の端に笑みを浮かべ、静かに微笑んだ。


「フィーリア・カドスよ」


こちらは、丸顔で目がくりくりしている可愛らしいタイプだ。瞬きをするまつ毛の、なんたる長いこと。パッチリ二重で、髪はクルクルと巻かれて、お人形さんみたいだ。顔なんて、凄く小さい!


「メグです」


この二人に比べると、至って地味な気がするが、それが私だ。

二人に向かって名乗ると、深々と頭を下げた。しかし、生まれも育ちも異なる私達に、共通の話題なんてあるのかしら。

これで緊張するな、って方が無理だと思う。


執事さんがティーセットの準備を始めると、紅茶の香りが部屋に充満してきた。

三段重ねのティースタンドと、その中に入っているお菓子を見た時は、テンションが上がった。


なんて可愛いお菓子!小さなカップケーキに、少し焦げ目のついたスコーン。

美味しそうなクッキーなど、陶器で出来た花柄の皿の上に乗っている。食べるのがもったいないと思ってしまうほど、たまらなく可愛い。思わず瞳を輝かせて、見てしまう。


そうだよね、美味しい紅茶とお菓子に囲まれたら、初対面でもある程度は仲良くなれるかもしれない。

そう考えたら、私の緊張も少し和らいできた。


そして部屋から執事さんが退室すると、隣に座るフィーリアが、私に可愛い顔を向けた。


「あなたみたいな平凡くさい女が婚約者候補だなんて、驚いたわ」


……ん?

この台詞は私に向けたのですよね?思わず周囲を見回していると、


「あなたに言っているに決まっているじゃない。メグ」


やっぱり私でしたか!いきなりそうきたか!!予期せぬ攻撃的な言葉に驚いてしまう。


「それに、すごい食い意地ね。ティースタンドを奪って食べそうなほど、見入ってたわよ」


確かに美味しそうだと思ったけれど、それ以上に、その可愛らしさに目が釘づけだったのだ。

しかしそう思われても仕方ない。瞳を輝かせて見ていたのは認める。思わず頬が赤くなってしまった。


「だいたい胡散臭いわよ。魔力がゼロだなんて。あり得ないわ。あなた、ここに来る前は、どうやって生活していたのよ?」

「それは村で……」

「村ですって!?」


私の声を遮ったフィーリアが、驚いた声をあげる。


「驚いたわ。あなた村出身なの?どうりでどこの家の出身とも言わないはずよね」


そこでフィーリアは、私の頭のてっぺんからつま先まで、ジロジロと無遠慮な視線を投げた。

これは完全にケンカを売られている。ここまであからさまな敵意を受けるのは、始めてだ。

クスクスと聞こえた笑い声に思わず顔を向けると、そこには美しい顔で笑うロザリアさんの姿があった。


「ほら、ごらんなさい。ロザリアもあなたのことを笑っているじゃない」


ここでレイちゃんなら、何がおかしいとか、みずから切りこんで行くのだろうけど、私にはそんな度胸もない。

例え言えたところで、後々後悔してしまう性格なのだ。『今のはちょっと言い過ぎたかな?』と、悩んでしまうのが目に見えている。

言いたい事を言ってストレスになるぐらいなら、言わないストレスの方を私は選ぶ。

それとは反対にレイちゃんのポリシーは、『グチグチ悩んでいるよりも、言いたい事をぶつけちゃえ!!』そう考えて、即行動に移す。要するに、私とは真逆の性格なのだ。


ううう。ここは、やはり耐えるのみだ。

クスクスとロザリアさんの笑う声に加わり、フィーリアも嘲笑う。

フィーリアは自分の発した声にロザリアさんが加担したことで、ますます声を張り上げた。


「本当に場違いね、あなた」


そんなこと言われても…………


私もそう思う!!


私も同意するということは、周囲の人間だってほぼそう思っているだろう。出来ればそれを、私じゃなくて殿下に直接言って欲しい。


「本当にそうかしら?」

「え……」


その時、フィーリアと一緒になって笑っていたロザリアさんが、まるで射抜くかのような視線をフィーリアに投げた。


「場違いなのは私とあなたの方だわ。フィーリア」

「なっ……」


予想外の言葉をかけられたフィーリアは、ただ固まっていた。瞬きを繰り返す様子から、まだ頭の中で状況の整理がつかないのだろう。もっとも、私も驚いて口を開けてしまった。


「よく考えてごらんなさい。アーシュレイド殿下本人が候補に残すことを希望した女性、それが彼女だわ」

「……っ!」

「あなたが焦る気持ちはわかるけれど、こればかりはどうしようもないわ。だって、選ばれる女性に身分は関係ないもの」


すごい。一瞬で、フィーリアを黙らせた。


「なぜそうまでして魔力を薄めたいのか、メグさん、解る?」


そこで急に私に振られたので、正直に答えた。


「いいえ、解りません」


私の答えを聞いたロザリアさんは、うなずいた。


「そう、じゃあ、私からお話するわね」


そこから、ロザリアさんの話が始まる――


「昔から王族の魔力は高いわ。だけど、時折並外れた魔力を持った子が産まれるの。先祖返りと思われるわ。千年前に一度、怒りに身を任せた王族の一人によって、一つの街が火の海になるところだったのよ。その王族の血筋が色濃く受け継がれてしまっているのが、アーシュレイド殿下だわ」


怒りに任せて火の海って、どんだけ。

遠い目をする私に構わずに、ロザリアさんは続けた。


「それ以降、強い魔力の王族が現れると、周囲はやっきになって、抑えようとする。魔力封じの装飾品に、日々魔力を押さえつけるようとする訓練。並大抵ではないと聞くわ。しまいには魔力の薄い女性と結婚して、少しでも血を薄めようとする。それもみな、遠い記憶にある出来事を繰り返してはいけないと必死になっているの」


そこで静かにフィーリアを見るロザリアさん。


「だからこそ、重大なのよ。魔力なしのメグさんの存在が稀なの。家柄の良い娘なんて、ゴロゴロいるけれどね」

「……っ……!!」


言葉に詰まったフィーリアに、さらに続けた。


「私もあなたも魔力が薄いと言われているけれど、メグさんには敵わないわ。それこそ私も、初めて聞いたわ。魔力がないなんて」


それは生まれた国が違うからでしょうか。あ、でもレイちゃんは魔力が膨大だしな。

フィーリアは悔しげに唇を噛みしめると、黙り込んだ。


すごい、涼しい顔して相手をやり込めた。

ロザリアさんはレイちゃんとは違う方法で、相手にやんわりと牽制をかけた。

決して感情的にならずに、その方法は鮮やかだ。その後は、何事もなかったかのように、紅茶のカップを口に運ぶ。

そしてフィーリアはというと……

睨んでる、睨んでる!めっちゃ睨んでますけどー!!

しかも相手は私なんですけど…… なぜ!?


どうやらフィーリアは、ロザリアさんに喰ってかかるのは、上手くないと判断したのだろう。その判断は正しい。だって、どうやっても勝ち目がないもの。


だからこそ、八つ当たり兼、むかつく私に標的を定めたのだ。

か、勘弁して欲しい……本当に。なぜか私はいつも損な役割だ。

そこでロザリアさんは、フィーリアの視線を華麗にスルーして、私に向かって微笑んだ。


「さあ、紅茶が冷めてしまうわ。美味しく頂きましょう」


こんな時、レイちゃんだったら、直球勝負に出て相手を威嚇する。

しかし、こんな風にかわす方法もあるのだ。それが私には出来ないことだから、尊敬してしまう。

そこからのお茶会は、ギスギスした空気の中、何事もなかったように紅茶を口に運ぶロザリアさん。

私を睨むフィーリア。空気を読み過ぎて逆にツライ私の三人で、無言のまま時間だけが過ぎた。


**


「メグ、お帰りー」


ギスギスしたお茶会もようやく終わり、疲労感だけが残された私は部屋に戻ると、レイちゃんが出迎えてくれた。彼女の笑顔にいつだって癒される。


「どうだった?」

「うん、疲れたよ」


そう言ってソファに倒れるように座った。


「なんか言われた?」

「……ちょっと、ね」


さすがレイちゃんは私の顔色を見て、察したのだろう。腕まくりを始めた。


「よーし!今からメグをいじめるなよって、牽制かけてくるわ!」

「わわ!いい!大丈夫だから!大したことは言われてないから、レイちゃんは座ってて!」


危ない危ない。うっかり話せばレイちゃんが暴走するかもしれない。それもあり得るので、余計なことは言わないほうがいい。


「メグはさ、我慢しすぎなんだよ。そんなんじゃ、なめられてしまうから、たまに一発先制パンチをくらわすぐらいの勢いじゃないと!」


力説するレイちゃんに、私は苦笑いで返す。

それこそ私のパンチなど、ヨタヨタと相手に当たったのか解らないぐらいの、微妙な強さしかないだろう。

その微妙パンチの結果、フィーリアから痛恨の一撃カウンターをくらいそう。吹っ飛びそうで怖いわ。


「はぁ」


何だろうな、こんな弱い自分が時折嫌になるけれど、私もいつか変わることが出来るのだろうか。


そうこうしていると、アーシュが私を呼んでいると迎えが来た。

私は重い腰を上げると、彼のいる部屋へと向った。

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