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15

大声で叫んだレイちゃんは、そのまま私に向かって突進してきた。その勢いのまま、私の上に重くのしかかる人物を勢いよく突き飛ばした。その途端、私の体にかかる重みがなくなり楽になった。


「いっ、痛っ!!」


突き飛ばされた彼は見事地面に転がり、頭をさすりながら、レイちゃんに向かって叫ぶ。


「何するんだ、この女!!」

「うるさい!この暴行魔!!」

「暴……!って誰のことだ!?」


一瞬、きょとんとした表情を見せたけれど、次のレイちゃんの言葉によって、すぐさま表情が変わった。


「あんたしかいないでしょ!!今、メグに乗りかかってたでしょ!私達が来なければ、何をするつもりだったのよ!?」

「なっ……!!」


絶句した後、彼の顔色が赤く変化したのが、夜だというのにわかった。


「ここにいらしたのですか」

「……レーディアス」


レイちゃんと共に駆けつけてきたレーディアスさんは、彼と顔見知りだったらしい。もっとも彼はレ―ディアスさんの顔を見ると、忌々しげに軽く舌打ちをした。


「それにまぁ、ご丁寧に下働き用の服装にまで着替えていらして。しかも堂々とさぼった挙句、女性を押し倒しているとは、感心しませんね」

「なっ……!だれも押し倒してなんていないだろ!!」


指摘されて我に返ったらしく、やや放心状態の私に、ハッと気づくと、更に顔が赤くなったのが見てとれた。


「いや、今のは……ち、違っ……!」


そして私を見て言葉につまりながらも、何かを言いたげだ。しどろもどろに言葉を紡ぐ。そんな彼を尻目に、レイちゃんが激しく怒りを露わにした。


「ああ、メグ可哀想に!レーディアス、お願いよ。この男を去勢して!」


真面目な顔で叫ぶレイちゃんに、男性二人は一瞬たじろいだ。


「二度と同じ過ちを起こさないためにも!この下半身の欲求に逆らえない愚かな男に、重い罰を!!」


レイちゃんの激しい剣幕に、周囲にいる私達は押され気味だ。

レーディアスさんは額に手を当てながら、頭が痛いといわんばかりに、ため息をついた。


「レイさん、それだけは出来ません。この国の血筋が途絶えます」

「そうよ!!こんな血筋など、いっそ途絶えてしま…………え?」


レイちゃんはそこで冷静になり、レーディアスさんを視界に入れた。レーディアスさんは、にっこりと穏やかに微笑んだ。


「すみません、その下半身の欲求に逆らえず、舞踏会など人の集まる場から逃亡を図る癖をお持ちですが、毎回捕まるこの男性こそ、この国の王子、アーシュレイド様です」


それを言われた時、たっぷりと間が出来た。


「…………嘘」

「おい、そこ!レーディアス!俺の紹介、なんか要らない項目増えているから!!」


レイちゃんが怪しむように見ているけど、私も衝撃で動けずにいた。

だって、まさかここにいて、先程まで私と談笑していた人物が、アーシュレイド殿下本人とは知らなかった。想像すらしてなかった私は、大いに動揺していた。


瞬きを繰り返しながらも、私の視線はアーシュレイド殿下に釘づけだ。どうしよう、失礼な態度を取った自覚がある。謝罪した方がいいのかな。

そんな思いを向けていた私の視線に気づいた殿下は、少しバツが悪そうに、鼻の頭をかいた。


「あー、そんなこんなで、俺の名はアーシュレイドだ」


みずから名乗ってくれた殿下に、私も名乗らないといけないと気づき、慌てて頭を下げた。


「わ、私はメグです。色々、失礼しました、殿下」

「やめろよ、いきなり堅苦しく、殿下だなんて」

「でも……」


私は返事に困って、瞳をさまよわせた。


「わかったわ、私の名前はレイ。よろしく」


さすが、レイちゃん。横から突っ込んでくるその発言には、思わず倒れそうになったわ。


「お前っ……まぁいいけどな」


アーシュレイド殿下はそう言って笑った。そしてしばらくすると、私に顔を向けた。


「疑問なんだが、なぜお前から、魔力の匂いが全くしないんだ?」

「それは……」


私に聞かれても困る。それに匂いってなに?何も感じられない私は返答のしようがない。


「じゃあ、アーシュレイド殿下はメグの匂いを嗅ごうと思って押し倒していたってこと!?」

「バッ……!!」


レイちゃんが突っ込むと、暗闇でも解る程、殿下の顔が瞬時に赤くなった。


「匂いフェチ!!」

「なんだ、そのフェチって!違うって言ってるだろ!」

「だって押し倒してたでしょ!!」

「ち……違うって言ってるだろ!!」


アーシュレイド殿下は顔を赤く染め、動揺しながらも大きな声で叫んだ。

それと共に、『ガタッ』という大きな物音が聞こえた。それは何かがぶつかったような音で……。音の出どころ、そこに視線を向ければ、噴水のふちに亀裂が入っていた。


「…………」

「…………なにこれ」


やばい、レイちゃんが騒ぎ出した。

その時私の脳裏には、以前レーディアスさんに言われた言葉が蘇る。


『我が国のアーシュレイド王子は、魔力を制御できません』

『人は彼を『破壊の王子』と呼びます』


私の顔色が、サーッと青くなった。

今がその、やばい状態なんじゃないの?城の一室から響いた轟音と、黒い煙を思い出す。それと同時に、プスプスと焼け焦げる自分の未来の姿が頭をよぎった。

なんとか話題を逸らさないと!


「レ、レイちゃん。あのね、アーシュレイド殿下とは、お話していただけだから。そんな押し倒されてなんていないから、だ、大丈夫よ」


私はうまく誤魔化せただろうか。ここでレイちゃんが怒ってこの殿下とバトルになったら、それこそ収拾がつかない。そうなる前に早く手を打たなくては!


「メグ?」


怪しむような声を出すレイちゃんに、側にいたレ―ディアスさんも、咄嗟にフォローに回る。


「お二人とも、何時の間にか意気投合したのですね。歳も近いでしょうし、会話も盛り上がっていたみたいですね」


そ、そのフォローはどこか違うと思いながらも、私はうなずいた。殿下がすかさず、頬を染めながら、そっぽを向いた。


「そ、そうでもないけどな」


ちょっと、そこ。どうして照れた表情を浮かべているの?そう思ったけれど、口には出せなかった。私は空気を読んだのだ。殿下、ひとまずは落ち着いたらしい。

安堵で胸をなで下した私に気付いたレーディアスさんが、口を開いた。


「心配にはおよびません。殿下は普段、魔力封じの装飾品を身に着けておられますので――」

「おい!!」


そこで殿下はレーディアスさんの言葉を遮った。あまり触れて欲しくない話題なのかな?不意にそう思った。だけど隣にいるレイちゃんは、それを聞いて怪訝な顔をしたのを、私は見逃さなかった。


そして殿下が、何かに気付いたように眉根を上げたあと、鼻をすんと鳴らした。


「お前……強力だな」


瞬きを繰り返したあと、そう呟くと、レイちゃんは肩をすくめてうなずいた。

これはきっと二人にしかわからない。そう、魔力についてのことだと思う。こんな時、疎外感を感じてしまう。魔力がない私じゃ、話にならないもんね…… 卑屈になりかけていた時、声がかかる。


「アーシュレイド様。そろそろ広間に顔をお出し下さい」

「……ああ」


レーディアスさんに言われ、渋々といった様子でアーシュレイド殿下は、すっくと立ち上がった。

私は去ってゆく背中を見つめた。その途中、振り返った殿下は私に視線を投げた。


「……じゃあな。星降る丘の約束……忘れんなよ」


――え、約束って……。したことになってるんだ。


殿下はそれだけを告げると、前を向き、レーディアスさんと並んで歩き始めた。途中、何度か振り返る殿下を、私は不思議な気持ちで見つめていた。


私はさっきも言ったと思うけれど、この舞踏会が終われば村に帰れるのだ。

視線を感じて横を見ると、レイちゃんが思いっきり何かを怪しむような視線で私を見ていた。


「なに?どうしたの」

「メグ、本当になにもされなかった?」

「ええ、大丈夫よ」


それだけを言うと黙りこんでしまったレイちゃん。


「ねえ、さっき聞こえた、魔力封じの装飾品って、なんのこと?」


き、きたーー!

早速つっこんできたね、耳がいいね、さすがだねっ!

レイちゃんは殿下の魔力が巨大なことは知っているけれど、裏では『破壊の王子』と呼ばれているのは知らないはずだ。どう説明しようか迷いながらも、私は事実を伝えることにした。それもオブラートに包んでソフトにしなければ、大変なことになるだろう。


「あ、あのね、レイちゃん――」


殿下は時折、少しだけ魔力が暴走しちゃうんだって。日頃は装飾品で抑えているみたいだから大丈夫だって。

それだけでもレイちゃんは、『なにそれ!?聞いてないし!』と、怒り心頭だった。

これで『破壊の王子』の異名をとり、城の一室から黒い煙を吐き出すのを見ましたなんて、そう教えた時のレイちゃんの激怒っぷりを想像するだけで恐ろしくて、それ以上何も言えなかった。


だけど、これでいいんだよ……ね?

約束の舞踏会には出席したし、こうやってアーシュレイド殿下にも顔合わせはすんだ。


これで無事に役目は果たしたので、帰れるはず。嘘も方便。無駄にことを荒立てる必要はないと、そう判断を下したのだ。


――後日、自分の考えが甘いということを、嫌と言うほど思い知らされたけれど。


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