表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
掌編三つ  作者: 直弥
3/3

空色

 少年はその日、長い眠りから覚めたばかりであった。


「まずはこれを見てくれ」

 年配の男にそう言われ、ベッドから上体を起こした少年は、じっとスクリーンを見た。画面はただ一つの色で塗り潰されていた。他には何も映っていない。

「何だと思う?」

 年配の男が訊ねる。

「空……ですか?」

 少年は答えた。

「よろしい。じゃあ、次」

 プロジェクターと繋がれたパソコンを男が操作する。一瞬間の暗転の後、画面はまた、一色に塗りつぶされた。今度は先ほどと別の色で。

「何だと思う?」

「黄色……?」

「じゃあ、次だ」

 再びの暗転の後、スクリーンに映し出される、またも違う色。

「これは?」

「ええっと、血ですか?」

「オーケー。ちょっと休憩しよう」

 そう言って。男は席を外した。部屋に一人取り残された少年は、手持無沙汰からか、ただ天井を見つめていた。


 背は高いが、まだどこかあどけなさの残る顔つきの女性。廊下を歩いてくる年配の男に気付いた彼女は訊ねた。

「例の子、どうでした?」

 年配の男は暫し考え込む様子を見せてから答えた。

「ううむ。一応、後で改めて目の検査もするがね。少なくとも今は……青色を見て空だと答え、白色を見て白色だと答えた」

 途端、女性は目を丸くした。かと思うと大きく溜息を吐いてから言う。

「まだ混乱してるんじゃないですか? 空は白いに決まってるのに」

 同調して頷く男と並んで、女性は廊下を歩いて行った。

 

 翌日。まだ空の色が“青”だと言い張る少年を連れて、二人の研究者は外へと出た。ほらどうだ、と言わんばかりの二人をよそに、少年は笑いながら言った。

「やだなあ、曇ってるじゃないですか。こんなのずるいですよ」

 一本取られたとばかりに笑い続けている少年に、男は恐る恐る訊ねた。

「くもってる、ってなんだい?」

 この時人類は、いや、地球上のすべての命は、もう一万年近く、晴れた空を見たことがなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ