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神様シュプレヒコール

作者: 木賊


「――もう、嫌だ。何度やっても駄目じゃねぇーか!! 人間ども滅べぇ!!」


 呪詛の言葉を吐きながら、烈火の如く怒り狂う神は立ち上がった。


「落ち着いてくださいっ! そんな風に自棄になってはいけませんよ」


 何とかなだめようと少年が手を伸ばしかけるが一足遅く、宙空に浮いていた美しかったはずの星は、見るも無残に崩壊してしまう。


「何もしてねぇぞ! あいつらが俺の世界を壊したんだ!!」


 地団太を踏む男は、涙を浮かべんばかりに悔しげな表情を模り崩壊していく世界を見た。


「これで、何度目だっていうんだっ!! なんであいつらだけ滅ばないんだ!!」


 小さく小さく、自分を飲み込んでいく星はやがて真っ黒な塊になり、周りの星々を飲み込み始めた。

 既に修正を加えようとしても、いたずらに互いに苦しみを引き延ばすだけで慰めにもならない。

 彼の創った美しい星々は、全てを飲み込んで世界ごと終わるしかないのだろう。


「あらら。彼、相当参ってるねぇ~」


 間延びした声が掛けられた。新たに表れたのは、鷲鼻でたれ目、人のよさそうな笑みを浮かべた初老の男神だ。


「……そりゃそうですよ。何度創っても、いつの間にか人間とかいうのが世界を滅ぼしちゃうんですから。何のための世界創造なのかわかんなくなっちゃいますね~」


 のほほんとした会話の端で、勢いに任せて自らの手で世界を破壊していく神がいるが二人は気にせずに会話を続ける。


「崩壊する世界も最期には莫大な活神力を齎してくれるとは言え、また創るのに相当消耗するからねぇ。できれば、安定的な供給を施してくれる状態で長い事稼働してくれないと採算合わないもんねぇ~」

「そうですね。最期に得られる活神力を沢山得て回そうと考えて、薄利多売精神で沢山作ったのはいいけれど。その分、今回は赤字続きですからねぇ

。ボクとしても焦ってはいるんですけど、何もできませんから」

「ああ、そうか。君はまだ彼の庇護下にあるんだっけ? 世界創世は難しいよねぇ。何やっても人間って生まれちゃうからねぇ」

「ですねぇ。ネズミから人間になった時はボクもびっくりしちゃいましたよ」

「あの世界は、おさるさんが生まれたあたりで何となく想像はしてたけどねぇ。鳥から人間とか、植物から人間とか、人間って凄いねぇ~。進化の神秘だよねぇ~。進化に関しては有難いんだけど、滅ぼされちゃったら元も子もないからねぇ」


 うんうん、と頷く未だ世界を持たない数人の神に庇護される新米神様を前に、一つの世界を長く持たせている熟練神様がのんびりと笑う。


「そういえば、地球の神様は中々上手くやってきたみたいだけど、最近なんだか調子悪いんだって?」

「みたいですねぇ。良い噂も聞きませんし、良く覗かせてもらってるんですけど崩壊の前兆の前兆らしきことがちらほら起こってるようなので……」

「大変だねぇ」

「複数人で一つの星を、それも、自分の代わりとして神様(仮)とそれに準ずる人間を生み出しちゃうなんて、新しくて誰も試してみたことの無い、実にセンセーショナルな世界創造でしたから。真似した神様たちも多かったみたいですね。それらが、いまはことごとく『終わって』ますからね~。地球もそろそろ終わるんじゃないかと噂されてますよ」


 彼らは思い出すようにして一つの世界を見る。

 青く綺麗な星、その周りをまわる惑星の数々。それはとても美しい。

 あの世界からは上質な活神力が得られると聞いているが、それは僅かだと言う。


「でもまあ。あそこは、たくさんの神様で作ったからまだ、まあまあな路線で維持できてるんじゃないかなぁ? 複数の神が関わっているだけあって、すごく特異な世界ではあるけどねぇ」

「あの! 六日間で創り上げて、一日は寝てたって本当ですか? なんか、人間が記す神話とかいうお話にも乗ってるとか……」


 キラキラとした目で新米神様は熟練神様を見つめる。

 新米神様は、いまだ他の神の庇護下にあり世界創造出来ないため、世界を創る神々の偉業を聞くのを楽しみにしているのだ。


「大仕事の部分を複数人でちゃちゃっと片付けちゃったから短期間で世界創造したっていうのも嘘と言うわけではないけど、ハッキリ言って彼らの誇張だよ。人間が世界を滅ぼさないように初期に色々口出ししたせいで、人間たちも混乱してるんだろうねぇ」

「そうなんですか……」


 そりゃ一人でやるところを沢山の神でやれば早いよなぁ、とがっくりと肩を落とす新米神様に熟練神様が笑う。


「彼らの世界が危険なら、我々の創った世界も危ないだろうね。彼らは上手くやっていくと思うよ。活神力の取り合いをしなければの話だけどね。まあ、新しい星を開拓して活神力供給量を増やそうとか相談してるのを聞いたことがあるし、仲良くやってるみたいだから、なんやかんやでまだまだ続きそうな予感はするけどねぇ」

「なるほどぉ。流石、長く世界を保っている神様です! 先見の明がおありで!! これは是非とも、世界創造が出来るようになる前にご教授頂きたいです!!」


 突然テンションを上げてよいしょする新米神様に、満更でもない熟練神様が笑う。


「そんなんじゃないよぉ。まあ、秘訣としては、完成させない事、かなぁ~」

「完成させない事……?」

「そうだよ。『完成されたモノ』は、完成したままでいられない。崩壊していくしかないんだよ。時が流れる以上、そして、保存しようとすればするほど、停滞なんてありえないんだ」

「ふ、深いですね……。ボクには理解できそうにもありません」


 メモを片手に意気揚々と言葉を待っていた新米神様ではあるが、先輩神様の言葉にピンとくるものがなく、自分の理解力と言うものにガックリと肩を落とすばかり。


「魔法がある世界とか、神様が作った神様(仮)が活躍する世界は、簡単に活神力が得やすい分。崩壊しやすいよねぇ」

「あ、そういえばあの崩壊していく世界も魔法があって神様(仮)がいました!! 人間の登場で神様(仮)が倒されて、人間が神として君臨したところで崩壊が始まってましたねぇ……。本当、奥が深い……」

「僕らが困難だから、神様(仮)とか、一時的に作る生き物が似てしまうのは仕方ないけど。人間っていうのは本当に不思議だよねぇ。あらゆる世界に生まれて、無力ながらも僕らと似た『作り』をしている。いったい何なんだろうねぇ?」


 熟練神様の小さな呟きに新米神様が言葉を返す前に、二人に割って入る声があった。


「俺は!! 世界を創るのを止める!! なんて虚しんだ!!」

「そんなっ! それじゃ貴方が消えてしまいます!!」


 活神力を得られない神は何れ弱り、消える。生まれる前と同じように『無』になるのだ。神同士の繋がりはそれほど濃いモノでもないが、全ての個体が僅かずつ繋がり、皆が皆を知っている分、誰かが消えたことを悼む気持ちは強い。

 それこそ暫く世界創造などが行えなくなるほどに落ち込む。そういう時は創った世界にも影響があったりするのだから、人ごとではない。

 悪ければ自分の世界を崩壊させ、活神力を得られずに消えてしまう。悪循環につながることもある。


「なら! お前が創れ!! お前が!!」

「ええぇー!! 無理ですよ!! ボクには、まだ世界創造できるほどの能力も活神力もありませんから!!」

「能力何て知ったことか!! 誰もが皆、初めて世界を創造する時はそうなんだからな!! ほらコレで創れ!! それで俺の事を暫く養え!!」


 新米神様の保護者である男神こそが、薄利多売の精神で世界を沢山作った神様であった。

 しかし、自分の創造した世界が想像以上に短期でいくつも崩壊したものだから回収するのが間に合わず、赤字ギリギリ。

 なんとか一つ世界を創れるだけの活神力を残せたとは言え自棄になっているのだろう。

 自棄になった挙句に、残った活神力を新米神様に押し付けてヒモになる気満々である。

 新米神様としても、これまで養ってもらった恩がある以上、否は無いのだが、何分経験がない。

 上手く立ち回れずに世界を崩壊させ、活神力を失いでもしたら自分自身どころか保護者の男神まで消えかねないという懸念が彼を戸惑わせていた。


「まあ、やってみればいいじゃないですか。ものは試しですよ」

「う、で、でも……ボクに出来ることと言えば、おいしいお茶を入れるくらいしか……」

「それじゃあ、おいしいお茶を入れるのと同じですよ」

「それじゃあって何ですかぁ~そんなわけはないですよぉ~……」

「いいからやれぇ!! そして人間に悩まされろぉ!! ふはははははは!!」

「君はそれが本心ですか。本当に、人間の抱く『神』とは所詮、幻想にすぎませんね……」

「いまさら何言ってんだよ。あの性悪女神たち見てたらそんなんすぐ分かんだろうが。何をどう思い立ったか知らねぇが、創造した世界にひずみ作って世界に影響出しながら入り込んでは美男美女をはべらせ酒池肉林。あーやだやだ」

「おや、覗いていたんですか? それは人の趣味をとやかく言えるような趣味とは言えませんよ。悪趣味です」

「うるせー! 人間から直接活神力食らってたやつらが、その人間に屠られそうになってたのを見て、反面教師にしただけだろうが!!」

「人間って本当にボクらと似てるんですねぇ……」

「君が沢山世界創造する前の、全てを統率した世界もなかなかでしたよ?」

「――るせぇ。黒歴史を掘り返すな。そもそも、効率よく糧を得ようとすることのどこが悪い。奴らがやってることと何ら変わらんだろうが」


 熟練神様の言葉に、先輩神様が嫌なことを思い出したと言わんばかりにブスッとふて腐れた表情を浮かべる。


「あーそうだ。ほら、これマニュアルだ」


 会話を断ち切るように先輩神様は、どこからともなく分厚い装丁の立派な書物を取り出して新米神様に放る。


「え!? そんなものあったんですか!!」

「言っておくけど、それが出来たのは最近だぞ? 俺たちが苦労してかき集めた情報、いわば血と汗と涙とその他もろもろの液体を流しに流して、創られた至宝の書。その名も――『世界創造の書ハウトゥークリエイションワールド:初級編』だ!!」

「……分かりやすい題名ですね」


 なんと表現すればいのかわからない表情を浮かべ新米神様は抱えた『世界創造の書:初級編』を見下ろした。下を向いていた新米神様の頭にポンポンと手のひらが乗せられる。


「まあ、ああは言ったけど、平和で長続きする世界創造を頑張れよ。最初でコケると、次を恐れるようになっちまうからな。耐久年数突破するくらいの勢いで世界創造するんだぞ。――それ見て頑張れ、困った時は助けてやる」


 二カッと笑った先輩神様の顔を見上げ、新米神様がぽかんと呆けたような表情を浮かべる。


「あ、知ってます! 知ってます、それ!!」

「は?」

「ツンデレっていうんですよね!? 地球の極地で発達した『OTAKU文化』と呼ばれるアレですよね」


 新米神様はかなり特殊なつくりをしている『地球』にご執心だった。故に、地球上の文化にも興味を持ち、特に『日本』と呼ばれる世界を楽しんで見ていたのだ。


「いや、しらねぇーよ!?」

「ありがとうございます!! ボク頑張りますね!!」


 ニッコリと笑った無邪気で幼い笑顔に、先輩神様は呆れたようにため息を吐く。これは、人の話を聞かない笑みだという諦めだ。


「そうそう、一つだけ先輩から助言を」


 熟練神様が優しく笑う。


「なんでしょうか」

「困った時は、異世界から『特異点』を招いて世界干渉できるようにすると、維持しやすくなりますよ」

「初耳だけど!? お前、そう言うことは定期報告しろよ!!」

「みなさん知ってますよ? 君が一心不乱に世界を乱立させているから、何か信念があっての事と敢えて皆さんで黙ってたんですけど?」

「なにそれ、聞いてない!! いじめいくない!!」

 二人のやり取りを後ろに、新米神様は貰ったばかりの教本を捲る。その目は、期待と希望の色に濡れ、キラキラと光り輝いていた。



 ――ボクらはみんな、よい世界創世を目指して頑張っております!!




メモ書きに構想が数行書かれていたモノを形にしてみました。

タイトルがもともとあったので、それをつけて投稿。意味は特にないです。ダサさMAXですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話のやり取りが面白かったです。 [気になる点] 改行があると読みやすいかなと思いました。
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