だとしたら
ドアホンのモニターを見つめて、リサは困惑していた。
(家の場所、教えたことあったかしら……?)
画面には、こちらに向けて手を振るモモチユヅルの姿が映っていた。早く早く、と急かす声が勘に障る。
「おねえちゃんのともだち、なんだか犬みたいだね」
弟のショウタが背後を通り過ぎざま、そんなことを呟いていく。笑い飛ばせない自分が悲しい。犬だなんて、あれはそんな可愛らしいものだろうか。
踏ん切りの代わりに息を吐いて、リサは玄関に向かった。外は寒い。だからわざわざ立ち話なんてしたくないし、かといって、ユヅルを家にあげるのもどうにも躊躇う。
自分はなんて嫌な人間なんだろう。
(よし、)
勢いをつけてドアを開ける。瞬間触れる外気の冷たさに息が詰まった。
「やっとおでましだ」
「……こんばんわ。わざわざ家まで、何かあったの?」
リサは戸口の縁に肩をくっつけた。内外を隔てる境に立ちふさがる門番には及ばないが、決して歓迎していないことが少しでも伝わるようにと、その位置から動かないことを決めていた。
「んー、なんとなく直接報告した方がいいかなって」
歯切れ悪い言葉にかぶさる吐息が白く濁る。
(あ、ちゃんと行ってくれたんだ……)
リサはほっとした。
実のところ不安だった。本当にタクミの家へ行ってくれるんだろうか、自分で行った方が早いんじゃなかろうか。悶々としていたのだ。
しかし。気になるのはユヅルの言い方だ。
リサから連絡したことはないに等しいが、互いの連絡先は交換済みである。だからわざわざて訪ねてきて口頭で伝えなくてもいいし、リサもそんなことは付け足さなかった。
「……フジくん、いなかったの?」
「インターホン鳴らしたけど反応なし。おじさんおばさんも仕事だから帰ってきてなくてさ。勝手知ったるなんとやらってやつでお邪魔してみたんだけど」
「鍵……開いてたの?」
「そうなんだよ。だからこりゃ具合悪くてマジ寝てんのかなって、部屋まで行ってみたんだけど――いなかった」
「いなかった……」
「ああ」
風邪でもひいて寝込んでいる、という推測はこれで外れてしまう。
「他の部屋でぶっ倒れてんのかもしんないとも思ったけど、さすがに部外者がうろうろしちゃまずいからとっとと退散してきた。一応出てくる前に呼びかけてみたけど、しんとするばっかだよ」
「……そう。……非常事態、だったのかな……」
施錠に気が回らないほど焦っていたのかもしれない。と、可能性を口にあげながら、リサは自分がちっともそう思ってはいないことも分かっていた。
頭と心がばらばらになったみたいだ。頭の芯は冴えているのに、ひどく落ち着かない。
「そうなのかなあ……携帯も置きっ放しだったよ」
「心当たり、ある?」
ユヅルは大きく頭を振り、
「あったら真っ先に連絡してるって」
その点に関してはリサもユヅルを信用していた。
(フジくんどこいったの?)
どうして連絡くれないんだろう。きっとそれどころじゃないからだ。そうだ、病院なのよ。
「……大丈夫?」
「え?」
黙り込んだリサを心配してだろう。頷き返したリサにユヅルは「そう」と言うものの、納得した顔ではない。
本当のところを言うべきだろうか。言ったら彼は笑うだろうか。
「……あの、さ」
「なに?」
「例の化け物にやられちゃった、とかないよね……」
ユヅルが目を瞬く。
リサは真剣だった。
朝からずっとこの考えに取り憑かれているといっても過言ではないくらい、不安で心配でたまらない。
もし、だとしたら、わたしはどうすればいいんだろう――