センパイが
(……)
エイスは皆から離れたところでひとり佇んでいた。
あの三人がいつの間にか集まって何やら話し合っているのはとっくに気付いている。
会話の内容に関心はない。それとは関係なく、これぐらいの距離なら会話は勝手に耳に入ってくる。むこうが秘密にしたかろうが、内容に構わず全て筒抜けだ。
エイスに備わっている機能だから仕方がない。それでもその中から拾い上げなければただの雑音と同じで何の意味もない。
(……どうしちゃったのかな、ボクは)
何故だか、あの輪に加わりがたい圧力を感じている。どんなに目を凝らしても、物理的な阻害物はそこにないというのにおかしな話だ。
(ああ、ボクはおかしい)
そもそもどうして「考えて」いるのだろう。
エイスに己を顧みる仕様はないのに。
巡る思考に経つときすら忘れて世界を眺めていた。彼方からじわじわと夜に侵された街はそこに息づくものをすっぽりと包み込んでいく。
だというのに。
(やっぱりボクらはバグなんだなあ……)
日中と変わらず視界は良好、睡魔の兆しもない。
(……って、ボクを含めちゃいけなかったな)
エイスの仕様は偏ってはいるが、夜目までは備わっていない。つまり世界の異分子だからこそ顕れた証といえる。もっともエイスからすれば間違っているのはこの世界の方だが。
抗っているのはエイスたちではない。
消えるべきはこちらの世界の方なのだ。
エイスの得た情報は本体のエイスに送られ、本体からは今、分身に向けて新たな仕様が追加されようとしている。
時間稼ぎのためのひとつの希望。
「――あのう、センパイが戻ってこないんですけど」
はっとして振りかえったエイスを暗闇の中、怪訝そうに見つめるネネがいた。
(いつの間に……)
いつの間にそこに立っていたのだろう。いつの間に夜は深まっていただろう。どちらも今の今まで気がつかなかった。
鼓動が逸る。
(なにこれ?)
仮初めの心臓が早鐘を打つ。
この兆候が示すものは、驚き、焦り、不安……。
(ボクは……焦っている、のか……?)
理解を超えた自身の反応を理解しても、それで鼓動が休まる気配はない。
(な、なんだっけ、これ……)
エイスはありったけをかき集めるように、情報を手繰り寄せた。
(これは……懼れ、か?)
ネネの接近に気付けなかったことへなのか。それともタクミが消えたことに気付かなかったことか。
いいや。そうなるまで、己の「考え」に没頭していたことだ。




