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誰だって、仮面をつけて生きている。  作者: Mina
一章 ミステリー研究会へようこそ
8/9

月と桜とマングース

お気に入り登録ありがとうございます(*^_^*)

遅れましたが、とても嬉しいです。

 月と花。

 金色の淡い光に照らされて、はらはらと舞う桜の花びらは何と美しいのだろう。

 薄桃色の花弁をすくい取るかの様に、男は手のひらをそっと差し出した。

 浴衣の上から肩に羽織を掛けただけの姿で、足を投げ出し縁側に座る彼の目には今、満開に咲きほころぶ季節外れの桜が映っている。

 この庭に咲く桜の木は千年桜という。

 遥かの昔から、延々と花の散る事を許されない哀れな木。

 永遠の生を強いられた美しい花。

 そんな花に合わせるかのように、男の住まうこの屋敷周りだけ年中温度が低い。

 だからこそ、こんなにも愛おしい……。



 衣擦れの音に振り返ると、男の長い髪が肩の上を流れた。

 歳の頃は三十代前半なのに対して、彼の髪は白銀色だった。

「旦那様……またその様な薄着で……」

 振り返った先に居た女は、困ったものだとため息をついた。

 手に持った盆の上には、温かそうに湯気をあげている湯呑みがあった。

「お茶はどちらでお召し上がりになります?」

 女は穏やかに微笑み、部屋の机と縁側とをゆっくりと目配せをする。

「ありがとうございます。せっかくなので、こちらで花を見ながら頂きましょう」

「夜風はお体に悪いですよ?花冷えで体調を崩されても、私は(わたくし)は知りません」

 ですからお茶で少しでも暖めてください、と女は彼の側に湯呑みを置いて、少し離れた場所に自らも膝を折った。

「何やら、良いことでもあったのですか?私には旦那様が喜ばれている様に見えます」

「ええ、私は今……とても待ち遠しいのです。今度はどの花達が、私と遊んでくれるのかと思うと……」

 楽しくて仕方が無い。

 子供の様に無邪気に笑う男の湯呑みに、ひらりと一枚、桜の花びらが舞い降りる。

 手に持った湯呑みに浮かぶ薄桃色に目を細めて、花びらごと口に含み、味わう様にして飲み込んだ。

「それは楽しみですわね。紫の可憐な花と、青の幻影の花にも、是非ともお会いしたいですわ」

「そうですね……。私も会いたい……」

 月明かりに照らされて、淡く輝く男の白銀の髪。

 どこか神々しささえ感じられるその美しさは、夜の闇になお妖しく咲き誇る桜の如く人の心を魅了する。

 女もその内の一人だった。ただその感情を表に出すつもりはないようだが。

「ふふふ……、さあ、早く見つけ出さないと、またそろそろ綺麗な赤い花の、蕾が開いてしまうよ?」

 私の期待を裏切らないで下さいね……。




 *******************************




 花屋敷家の敷地は広い。

 入り口である門から玄関までの間には、だだっ広い庭園がある。

 俺の家は歴史も古く、さかのぼれば平安時代の貴族様にまでたどり付く。

 家業は祓い屋だけど、陰陽師ではない。(ここ重要だから)

 純和風の日本建築で、年中を通して四季折々の花が楽しめる。

 正にその名の通り〝花屋敷〟だ。

 特に今の季節は、俺の名前にもなっている桔梗の花が満開で、庭師の吾郎さんには感謝しなければ。

 ミステリー研究会での、第一日目の活動感想は……俺、あの人達と本当にやって行けるのかな?…だ。

 重いため息と共に玄関の戸を開けると、一日の疲れを癒してくれる様な、優しい笑顔があった。

「お帰りなさいませ。桔梗坊ちゃん」

「ただいま。吉乃さん」

 大学生にもなって、坊ちゃんかよ!という突っ込みは受け付けません。

 吉乃さんは、物心ついた頃にはすでに家の顔になっていて、忙しい両親の変わりに、俺達の身の回りの世話をしてくれている人だ。

 着物の上からの割烹着が良く似合う品の良い老婦人で、この人の前では俺はただの子供になってしまう。

「お食事はもうすぐご用意できますが、先にお風呂にされますか?」

 まだ風呂には早いような気もするけど、さっぱりして気分を変えたい……。

「うん。じゃあ先に風呂に行くよ」

「はい。ごゆっくりして下さいね」

「はーい」

 育ての親には敬語は要らない。



 ここには使用人や、修行中の祓い人達も一緒に住んでいるので、風呂場は数箇所に存在する。

 銭湯ぐらいの広さのものもあるけど、そこは使わない。

 俺は一人で、ゆっくり湯船に浸かりたいから狭くても構わない。

 落ち着いて考え事をするには、この(ひのき)風呂が一番だ。

 微かに香る檜の匂いに、段々と気分が落ち着いて行く……。この感覚は好きだと思う。

 湯をすくい肩にかけると、心地よい水音と共に波紋が広まって行く。

「は~。生き返る~」

 それにしても、あの人達はテンション高いよなぁ……。

 新井さんの目的についても気になる事がある。

 薔薇の香りか……。

 あの後……、二木のダメージが回復した後に、なぜあのサークルを作ったのかを聞いてみた。


「いきなり何すんねん!!どんだけ痛い思てるんや!」

「うるさいわね!花屋敷君の前で下品な事言うからよ!」

「その花屋敷の目の前で!男の股間蹴り上げたのは誰や!?」

「うっ…うるさい!変態!」

「何んやと?こらぁぁ!」

 ……もしかしたら、この二人はいつもこんな感じなのかな?

 どうせ止めても無駄だよね?

 これって何かに似ている気がする。

 何だっけ?……そうだ、有名なハブとマングースだ。

 二木と新井さん、どっちがハブでマングースだ?

 実際に見たことは無いのだけど、二匹の戦いを想像していると、振り返ってどや顔のマングースが現れた。

 デフォルメされた小動物の姿に、思わずプッとふきだしてしまった。


「北川さん、もう体の方は大丈夫ですか?」

 あの二人は暫く放って置く事にして、相変わらずパックの野菜ジュースを飲みながら、黙々とネット検索をしている彼女に声をかけてみた。

「あっハイ!もうすっかり血の補充は出来ましたから~」

 彼女の側にあるゴミ箱は、大量の菓子袋やジュースの空箱がこれでもかという程押し込められていて、今にも溢れ出てきそうだ。

 あれでは体に悪いだろう……。

 それから野菜ジュースやポカリスエットには、糖分がかなり入ってるから大量に飲むと太るよ?

「美味しい~幸せ~」

 幸せそうに目を細めながら、チョコレートの銀紙を剥き始めてる。

 それにしても……。ゴミ箱いっぱいの糖分や塩分はどこに行ってしまうのだろう?

 人間レーダーに派手な出血と、別腹だらけの胃袋の持ち主で、とても尋常ではないキャラだけど……いやそんな彼女だからこそ、どうしてこんな妖しいサークルに入っているのだろう?

 もっと他に入るべき所もあっただろうに。

「あの……北川さん。ちょっと聞いても良いですか?」

「はいはい、なんでしょう?」

 板チョコをかじりながらの嬉しそうな返事が返ってくる。

「北川さんはどうして、このサークルに入ったのですか?」

「私は、夢姫ちゃんのお手伝いがしたくて……」

 予想外のいじらしい答えに、なんだやっぱり普通の可愛い女の子じゃないかと思ってしまう。

 今日初めて会ったばかりなのに、変な奴だと思ってしまってごめんね。

「夢姫ちゃんは、ずっと人を探しているの。…………あ、これ一口食べます?」

 そう言って北川さんは、自分の食べかけの板チョコを差し出してきた。

「良いのですか?僕が頂いても?」

「お仲間への歓迎です。杯ならぬ契りのチョコです~」

「では、お言葉に甘えて……。美味しいです。ありがとうございます」

 ニコニコと笑いながら、あまりにもあっさりと目の前にチョコを持ってくるものだから。

 甘い物の誘惑に勝てずに、パクリと一口そのままかじりつき、口に入れた。

 その瞬間、キラっと北川さんの目が光ったかと思うと、方笑みを浮かべながらチョコを銀紙にそっと包み直していた。

 あとでどうするつもりなんだろう……?

 考えたくはないと思った。


「何々~?あの人の話をしてるの?」

 いつの間にか二木とのスキンシップを終えた新井さんが、話しに加わってきたので〝探し人〟についても聞いてみる事にした。

「新井さんは人を探しているのですか?」

「うん。そうよ……。もう、ずっ~と探しているの。その為にこのサークルを作ったんだから」

 騒いで喉が渇いたのだろう、橘が淹れたアイスコーヒーを一息に飲み干していく。

 空のコップを机の上に置いた後、『プハァ~』と言ったのはお約束だ。

「人探しの為に、ミステリー研究会を立ち上げたのですか?」

 当然の疑問だろう。人探しとミステリーが結びつかない。

「だって、普通にしてたら見つからなかったし……出会った場所がたぶん、何かの事件現場だったと思うの」

「警察には?」

「警察では無理だった……。兄が刑事なんだけどね……手がかりは無しよ。それに私もあんまり覚えていないの……思い出そうとすると、気分が悪くなるの」

 お兄さんが警察の人間か。〝花屋敷〟の話はここから聞いて、俺を追いかけ回していたのか。

 探し人が見つかるかも知れないと、藁をもすがる感じで。

 そうとは知らず、家業以外で変な事には係わりたくはないという理由で、断り続けていた事に少し罪悪感を感じる。

「何か覚えている事はないのですか?」

「低くて優しい声と薔薇の香りがしたの」

 薔薇の香り……?

「それから他には?」

「それだけ……」

 ゆっくりと首を横にふりながら、北川さんは消え入る様に呟いた。

「そう…ですか……」

 少し、嫌な予感がした。

 危険な場所に現れた、薔薇の香りのする人間には、心当たりがあるからだ。

「もしかして、花屋敷君…心当たりがあったりする?」

「え……?」

「もしかしたら、花屋敷の家だったら、そういう一般の人が知りえない情報を持ってるのかも?と思ったから……だから花屋敷君に来てもらったの」

 一瞬心が読まれたのかと思ったが違うようだ。

 当たってるよ、新井さんの読みは……。

 でもまだ、それだけでは確証は持てないから。

 知らない振りをしていよう……。

「すみません……。僕には見当もつきません」

「そ、う……。うん、そうだろうね~。だからこのサークルで、危ない事件を追いかけてたら…運が良ければばったり会えるかも知れないと思ってね!かなりめちゃくちゃな考えだって、自分でも思ってるけど」

 本当にめちゃくちゃな考えだ。

 出会った場所が事件現場だったというだけで、何者かも分からない人間を探して、凶悪な犯罪者達を追いかけるなんて……。

 そんな危ないことを聞いてしまったら、もう放ってはおけないじゃないか。

 俺が止めてあげないと、この馬鹿みたいに純粋な娘は、どんどんと危険な場所へ走って行ってしまうだろう。

 俺は、本当の意味でこのサークルに入ることを決めた。

「期待に添えなくてすみません」

「やだ、誤らないで……。私が勝手に思ってただけなんだから~。それにね、花屋敷君にはこれから警察って言うか、兄との情報のパイプ役もしてもらいたいし」

「あの……僕では……」

 警察や組織には何の権限も持っていないのだけど。

 過大評価されても困る。

「大丈夫よ~。花屋敷本家の次男ってだけで十分…兄はびびって情報流すから~」

「いや、あの……」

 さっきまでは、あんなに健気で一途な女の子だと思って、守って行こうとか思ってたけど。

「本当にうちに来てくれてありがとう~」

 やっぱり彼女はマングースだった様だ。


作中には出てはいませんが、二木君は戦闘不能となり、橘は眠ってしまいました。


※本当に駄文ですみません……。

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