嫌とは言えないヘタレな俺
コメディ強めで行こう!と思いながらも、今回はやや15禁の表現があります。最初からこんな展開を考えていたのですが、今まで読んで下さっている方が離れて行ってしまわないかと、心配になってしまいます。
切り裂きジャック
1888年イギリスのホワイトチャペル地区で、少なくとも売春婦ばかり5人を殺害した殺人犯だ。
数百年経った今でも、知らない人間は居ないだろう。
なぜジャックがこれ程までに、人の心に恐怖を植え付け、今もなお伝説の殺人鬼として、一部の人間を魅了し続けているのか?
それは、ジャックが最後まで逮捕されなかったという事と、その異常な殺し方だ。
人間の臓器を取り出して、傍に置くなどの猟奇的な思考。
技術の高さ。
医者か?貴族か?
男か?女か?
年齢不明の殺人者。
今となっては知るすべも無い。
全ては真実の闇の中……。
124年後現在。
深い霧と共に、奴は蘇った。
過去、何人もの模倣犯が現れたが、今回のは桁が違う。
その異常性も何もかも、本物かそれ以上の〝シリアルキラー〟だと言われている。
先週末に起こった事件で、犠牲者は3名。
学校は違うが、みんな女子高校生だった。
これ以上犠牲者が増えそうなものなら、そう遠くない内に実家の方に依頼が来るかも知れない。
受けるかどうかは知らないけどね……。
何か最近はジャックより危ない奴らの相手してるみたいだし。
俺は強くないから、ほとんど家でお留守番……。
だから、本当は新井さん達には、あまり期待して欲しくないんだけど……無理だよね。
だって俺〝花屋敷〟だもん。もしそうじゃなかったら、今この場所には居なかっただろう。
「反対が無いんやったら、ジャックで決定?」
二木が椅子に座り直し、俺達全員に同意を促した。
「そうね、これだけ特殊な事件だったら、文句はないわ」
「オーケー」
「夢姫ちゃんが良いなら……」
新井さん、橘、北川さんの順に、二木の提案に賛成の意を述べて行く。
どうやら誰も反対するつもりは無いらしい……。
おいおい、お前ら本当にこんなヤバイ奴を調べるつもりなのか?
『ちょっと興味があるの~』ぐらいしか思っていない一般人が、簡単に足を突っ込んで良いとは思わないぞ。
もし向こうにこっちの存際を知られたら、次の犠牲者は俺達の誰かかも知れないんだぞ?
お前らの親兄弟に、自分の惨たらしい死に方を見せても良いのか?
俺は嫌だ……。
誰の死体も見たくない。
だから言おう、こんなの止めましょうと。
「あの、僕は…」
「なあ、花屋敷も…」
タイミングが二木と同時になってしまい、俺は無意識に言葉を飲み込んでしまった。
「他の皆は賛成なんやけど、お前も良いよな?」
うっ……。
「………………はい」
駄目だ俺……。ヘタレすぎる……。
だって二木と新井さんの目がね……、絶対にこれやりたいんだから、反論は許さないって……。
断ったら何するか分からないよ?みたいな凄い威圧感をかけられたら、ノーとは言えないでしょう。
「よっしゃ~。何や興奮して来たわ~。……あ、俺のジャックもちょっと元気に……」
「変態!!」
見事な新井さんの蹴りが股間にヒットし、声にならない悲鳴を上げる二木。
このまま、二木のジャックが再起不能にならない事を、そっと祈っていよう……。
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甘い花の香りに、鳥のさえずり。
頬を撫でる心地よい風。
ここは楽園の花園だろうか?
いや……私が神の国に昇れるはずがない。
私はその資格を当の昔に、自らの手で失っているのだから……。
ならば、ここは地獄か?
随分と想像とは違ったが、なるほど…そんなに悪くはない。
「ご気分は如何ですか?」
心の奥まで染み入る様な、静かで穏やかな声が私に語りかける。
悪魔の囁きとは、甘く艶やかな物とだ思っていたが、またも想像と外れたか。
「私の声は聞こえていますか?」
澄んだ水面の様であり、全てを包み込む夜の闇の様な心地よい声音。
ああ、聞こえているとも。
「目は開けますか?」
その言葉に少し頷いてから、私は瞼をふるわせゆっくりと目を開いた。
全く、ことごとく想像を外してくれる。
私を覗き込んで淡く微笑む悪魔は、その声音を映した様な、静麗とした美しさを持っていた。
「あなたは自由になったら、何を望みますか?」
私の望みはただ一つ。
唯一の願いを私が口にすると、彼はほころぶ様に微笑んだ。