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誰だって、仮面をつけて生きている。  作者: Mina
一章 ミステリー研究会へようこそ
6/9

忘れられてた男

後半の関西弁が少し読みにくいかも?です。

 鮮血の惨状も今やすっかりと落ち着き、俺達は何も無かったかの様にお茶を飲んでいた。

 当の本人である北川さんは、美味しそうにジャガリコのトマト味をむさぼり食ってるし……。

 新井さんは何かそわそわしている。そしてその視線の先に居るのは、あの騒動を終止符につけた乱入打ち止め男だ。

 橘 大輔(たちばな だいすけ)……俺と同じ経済学部の一年で、ここのサークルに入部希望という事だから、こいつも相当の変わり者だろう。

 俺はね……何かもう色々面倒になったからの入会だから、決して変わり者ではない……はず。

 それにしてもあいつ、橘は無愛想な見た目に似合わず、何ともまろやかなに、尚且つ絶妙な渋みで緑茶の味を引き出している。

 只者じゃないな!打ち止め男め。

 ああ……本当に美味いな……。

 俺はコーヒーや紅茶よりも日本茶が好きだ。だから自然に顔がほころんで来る。

 これに大福も加われば、最強だね。


 あ……、飲み終わったからお代わり欲しいな……。

 さり気なく目線でお代わりを要求してみると、橘は目聡く気づき立ち上がる。

「御代わりが欲しいのか?」

「すみません……橘君はお茶を淹れるのが上手ですね。とても美味しいので……」

 橘は湯のみを受け取ると、慣れた手つきで急須に茶葉を入れる。どうすればあんなに味だ出せるのか、その所作をじっくり見ても全く分からなかった。

「熱いから、気をつけろよ」

「ありがとうございます」

 子供じゃないんだから、心配はご無用だが……二杯目の湯呑みは確かに熱かった……。

 火傷をしない様にと、ふうふうしながら、湯呑みを口元へ持って行こうとした時、何かの視線を感じて顔を上げると。

 橘以外のメンバーが、熱に浮かされたような目で俺を見ていた……。

 特に新井さんの方は、開いたままの口の端から、一筋の光るものが垂れている。

「……何か……?」

 何だ?どうした?俺の顔に何か付いているのか?

 それともお茶の飲み方が可笑しいのか?

 俺が何かを食べてたり、笑ったりしていると、時々こういう顔する奴がいるが……、凄い気になるから何か言って欲しいんだけど!

「新井さん……」

 女の子がはしたないよと、声に出しては言えないので、自分の口の端を指差してみる。

 数秒後に、新井さんはハッとして口をごしごしと擦り、北川さんは慌ててジャガリコを数本掴み、大人し気な見た目に似合わずワイルドにかじり付いた。

 橘はその光景を只じっと見ている。無表情に見えて、実は頬がピクピクしているのを俺は見た。

 北川さんのがツボったようだ。笑いたいなら、笑えば良いのに……。

 いや……自分もそうなんだから、他人の事は言えないけどね。


「所でさ、橘君はどうして内のサークルに入る気になったの?」

 何事も無かったかの様にして、新井さんが話題を振るが、擦った口の端が赤くなっていて、過去は簡単には消えてくれないようだ。

「ん~、……何となく、面白そうだったから?」

 お茶をずずっ~と飲みながら、答えになっていない様な返事をしている。

 何となくって何なのさ……。まあどうでも良いけどね。

 でも俺と同じ新人なのに、馴染むの早くない?創立メンバーの様な貫禄出てるよ?

「う~む。そうかぁ……」

「まあ、そんな感じで」

「内のサークルは、何ていうか……。名前はミステリー研究会なんだけど……別に推理小説や映画を見たり、話し合ったりする所では無いのだよね」

 新井さんは何とも言いにくそうに、言葉を捜しながらな感じで、橘の顔を見たり逸らしたりしている。

 活動の内容を話して、橘が興味を無くして、入部を取りやめるかも知れないと思っているのだろう。

「それでね……、何をするのかと言うと……実際に起こっているかなり…危険な事件とか、心霊現象とか、とにかく変わってる物を調べたり考えたりする部なの」

 最後の部分は吹っ切れたのか、早口だったね。

「イメージと違った?」

 新井さんの説明を黙って聞いていた橘は、無表情なまま持っていた湯呑みを置いた。

 静まり返った……いや、北川さんのお菓子を食べる音のみ存在する部屋では、湯呑みを置く軽い音さえもよく響く。

 ゆっくりと息を吸い込んで口を開く。

「別に。良いんじゃない?」

 淡々とした一言だった……。

 さっきの妙な緊張感は何だったんだろう?

「……。では、改めて…ようこそミステリー研究会へ!私が会長の新井 夢姫(あらい ゆぶき)よ」

「どうも、橘 大輔だ。宜しく頼む」

 新井さんが差し出した手を、橘が握る。二人が握手を交わして、良い感じに場が和んで来た頃。

 長机を思い切り叩き、その男は勢いよく立ち上がった……。


「お・前・ら、ええ加減にさらせよ!俺の紹介、今か今かてず~と待ってんのに、何もかも終わったみたいに、締めにかかるなや!俺の存在まるっきり忘れとるやないけ!」

 こてこての関西弁で一気にまくしたててる彼は、青筋立てて仁王立ちになっている。

「あれ~?二木君の紹介してなかったっけ?ごめんごめん~」

 二木の怒りを他所に、ひらひら~と手を振りながら、新井さんが実に軽く謝った。

「何が、ごめんごめん~やねん!」

「だって歩ちゃんの事とか、橘君の入部とかで忙しかったし」

 さすが会長、全く怯んでいない。

 北川さんは胸の前で手を合わせて無言で謝っている。その隣では橘が新しいお茶を淹れて配っていた……。

「熱いから気をつけろ」

「すみません」

「ありがとうございます……いい香りです……」

 お茶を飲みながら見守っていよう。

「そこや!北川が鼻血なんかぶっこくからあかんねん!だいたい、汚れた床やら机やら誰が掃除した思てるんや。後、橘が淹れてるお茶の葉や湯呑みと急須も、全部俺が用意したんや!」

「ごっ…ごめん。体質なの……」

 あれだけの量を何回も出しているのか!?今までよく生きてたな……。

「俺は何か?黒子か?コ〇ンに出てくる全身黒い影みたいな奴か?」

「だから、ごめんって~。君の名前は二木 英則君だよ。男前で優秀で私達のすーぱーえーすです」

「棒読みで言うな~よけ業沸(ごうわく)くわ!」

「まあ、茶でも飲んで落ち着け。熱いぞ」

 ナイス橘!上手く割り込んだな。ここで空気を変えるんだ。

 二木もさすがに喉が渇いているのか、受け取ったお茶を勢いよく口に含んだ途端に、勢いよく吹き出した。

「熱いわ!!」

「だから言っただろう。熱いぞ、と」

 橘~!余計に怒らせてどうする。

 だが舌を火傷したおかげで、喋りにくくなった様なので、結果良かったね。

「もう……ええわ……。でも最後に、花屋敷……」

 ええ!俺?指差さないでよ。

「は…い」

「いくら、この学校の儚い系男子上位一位か何か知らんけどやな……ほわほわ~んとしとらんと、もっと喋れ」

「……すみません……」

 ほわほわ~ん?

 俺って今は、そんな風に見られてるの?儚い系男子か……。

 鬼畜ドSから百八十度の大展開だね……。

 でも人畜無害の分、今の方が良いかな?

「ちょっと、花屋敷君にまで何言ってるのよ!」

「あ~ん?別に良えやろ、これで許したるんやから」

「誰も許してくれとは言ってないわよ!」

 ちょとちょっと、新井さん……俺が謝ればこの場はとりあえず落ち着くんだから。

 これ以上は鬱陶しいから、喧嘩を売らないで下さい。

「新井さん……僕は大丈夫ですから、もう止めて下さい……。二木君も……」

 どうかな?儚い系らしく庇護欲を強く感じてもらえただろうか?

 あの……これ以上はもうさすがに無理なので、静かになって下さいね。

「ううっ!」

「な…何やこの気持ち……」

 どうやらそれなりの威力はあったみたいだけど、気持ち悪いから本当はあんまりやりたくはない。

 ………………。 

 そうだ、こいつらよりも北川さんだ!

 ハッとして彼女の状態を確認したら、橘が上手くフォローしていた様だった。

 ホッと一安心。


「それより、当分のお題はこれにせぇへんか?」

 半ば無理やりな感じで、二木がパソコンのモニターを指差した。

「えー。何々?」

 新井さんに次いでメンバー達が二木を囲む様にモニターを覗き込む。

 俺も覗いてみて正直驚いた。

 ええ?本当にこれを研究するのか?

 でも……このサークル、こんなの話し合って一体何が楽しいんだ?



「今をときめく〝切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー〟や」


二木君はこてこての兵庫県民です。

大阪人ではないのでした。


次から少し過激な表現も出てくる予定なので、一応注意です。

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