どうしてこうなった?
いよいよ本編が始まります。
何故だ?
何故なんだ?
どうしてお前らはそんな目で俺を見る?
これ以上俺にどうしろと?
あらゆる角度から情報を集め、その中から出来る範囲で、出来る限り実行してきた。
家が変わっているものだから、せめて外に居る時ぐらいは目立つことなく普通に過ごしたいと……。
なのにどうしてだ……最近は何かをやればやる程、すべてが裏目に出ているような気がする。
見た目か?……確かに俺の顔は整っているとは思う。だがそれは一般の標準より少し上という範囲だ。
本当に人を惹きつける美しい容姿を持っているのは、兄や妹の方だ。
特に兄の方は見るからに派手で華やかな外見で、常にキラキラした物や豪華な花を背負っている……。
その為に苦労も多かった。
子供の頃は単に人懐っこく無邪気に笑っていただけだった兄。
それが段々と成長するにつれて、変なポーズや電波的な言葉を使うようになり、無邪気さに磨きがかかって行った。
生まれ持った華やかな容姿と色素が薄い髪の色の為に、望まずとも王子様の様な扱いを受けて育ち。本人もその期待に応えようと必死になって、王子様とは何かを考え努力した結果。
元の人格がどんなだったか分からなくなってしまったという、可哀相な人になってしまった。
だからこそ、俺は普通でいたい。
他人の理想とする姿を忠実に守ろうとして、段々と痛い方向へ進んで行くあいつを俺は側で見てきた。
俺は嫌だ…本気で嫌だ!
絶対にあんな風にはならないと、心に誓う……。
幸い自分には兄の様な華やかさは無い。
どちらかといえば地味な方だろう。
昔から目が悪く眼鏡を掛けているから、王子様というよりクラス委員の方向へ自ら持って行き、授業も真面目に受け本も沢山読んだ。
本当は俺だって、昼休みには友達と馬鹿騒ぎしたり、給食のおかわり隊に入ったり、授業中に居眠りもしたかった……。
だけど子供心に、王子様よりは秀才君の方がましだと我慢し続けていた…。
そんな俺にも変化が訪れて来た。中学三年の夏だった…。
目立った行動もせず、ただただ勉強をしているという行動が、また別の印象を付けてしまったようなのだ。
クールだとか冷静とか、眼鏡男子萌えとか。思春期女子の思考が理解出来ないまま、高校生になり……。
訳の分からないキャラに成り下がるよりは、冷静沈着な眼鏡の方が良い。イメージ通りに、あまり話さず暇さえあれば絶えず本を読んで過ごした。
妹の助言で、眼鏡は細いメタルフレームが良いという事なので、銀色のものにも変え。
そうしている間に二年になり、周囲の期待通りに生徒会長に就任した。
それが間違いだったと気が付いたのは、会長就任後すぐの事だ……。
三年を押しのけて、学生のトップになったからには、期待された以上の結果を出さなければと、仕事に力を入れた。
それが……。
一体どこをどうしたら……鬼畜でドSな生徒会長になるんでしょう?
妹式チャートによると。
冷静な本の虫→秀才→眼鏡→生徒会長→差し棒→鬼畜会長。……になるらしい。
ここで突っ込んでも良いでしょうか?
一体どうやったら、生徒会長に差し棒がプラスされただけで、鬼畜キャラが出来上がるのでしょう?
意味が分からない。
今まで兄とは違う方向で、俺なりに周りの期待に応えようとしていたけど……済みません、鬼畜は無理です。
ドSな振る舞いも出来ません。何故なら俺はその辺に居る、馬鹿でチキンな普通の男だから。
王子様も嫌だが変態の称号はもっと頂けません。
危ない進路へと向かってしまった高校を卒業した後。
眼鏡を黒のセルフレームに変えて、表情もなるべく温和なものを心がけ、困っている人が居れば出来る範囲で力を貸した。
これでどこからどう見ても、少し見た目の良い、ただの好青年の印象を持ってもらえるだろうと期待した。
結果。
大学に入って暫く経ったある日、偶然に落ちていた何かのアンケート用紙を拾った…。
そこには集計後の結果が書かれていて……。
理想の王子様の欄に俺の名前が載っていたという。
大学生にもなって、王子様もないだろう……。
子供の頃から必死に兄の様にはならないと心に決めて、今まで頑張ってきたけれど、齢十九にして、原点である王子様の印象を強く周りに与えてしまったようだ。
泣いても良いかな?
一体、どうしてこうなった?
名前か?
俺の名前が、花屋敷 桔梗というかなりあれな感じだからか?
仕様がないでしょ。物心ついた時にはもう、花屋敷家の桔梗君だったのだから。
これが山田さんとか、鈴木さんとかだったら、太郎君になっていたかもしれないけどさ。
そうだ、次に自己紹介する時に山田 太郎と言ってみようか。……って今更無理だよね。
深いため息をついた後、西棟325室のドアを開いた。
ちなみに、兄の名前は牡丹で妹は菫です。
桔梗君はメタルフレームの眼鏡がすべての元凶と思い込み、セルフレームにかえたようです。