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第2話:『初登校』

いよいよ初登校日。眞琴の高校生活の始まりです。

入学式から数日経った今日、待ちに待った初登校日。

所々にいる人を横目に、ドキドキしながら1-Bのプレートが下がっている教室の戸を開けた。

−あれ?

教室に来るまでに結構な人とすれ違ったので、もう教室には人がたくさんごった返しているのかと思ったら、男の子が数人いるだけで、女の子は1人も見当たらなかった。

女の子はまだ誰も来てないのかな?と考えつつ、自分の出席番号の席を探し座った。

人見知り気のある私は、女の子がいない事もあり、1人で大人しく席に座っていた。

席に座りぼーっとしていると、突然上から声が降ってきた。

「おはよう!君は生徒会見に行かないの?」

ふっと顔を上げると、そこにはニッコリと笑った可愛いという形容詞の似合う男の子が私を見下ろしていた。

私は緊張した面持ちでその男の子に挨拶する。

「あ、おはよう…」

私がそう答えると、彼は満面の笑みを浮かべまた話し掛けてきた。

「ねぇ、君は生徒会の人達見に行かないの?」

「…うん、私はあまり興味ないし…。それに、私が行ってもみなさんのご迷惑になるだけだろうし、人と話すのもあまり得意な方じゃないから…」

私が俯きながら話すと、彼は私の机の前に座り目線を合わせてくれた。

「ふーん、結構変わってるね。この学校に入って生徒会の人達に興味ないなんて君ぐらいだよ。…あ、自己紹介まだだったよね?!俺は、須川尚人。尚人って呼んでね」

私も慌てて尚人君に視線を向けると、自己紹介をした。

「あっ、私は楠木眞琴。眞琴って呼んで。よろしくね。ねぇ尚人君、みんな生徒会の人達を見に行ってるって言ってたけど、朝に何かあるの?」

質問があまりにも意外だったのか、目を見開いて聞いてくる。

「…知らないの?眞琴は生徒会の誰かの追っ掛けでこの学校に入学したんじゃないの?」

この学校の生徒会が人気なのは入学式の時、先輩達から聞いていたので知っていたが、“追っ掛け”という言葉が出る程とは予想外だ。

違うと首を振りながら言葉を続けた。

「…私がこの学校に入学したのは、母親のいる病院に通う為なの」

私はなるべくシリアスにならないように明るく話したつもりだったが、尚人君は頭を垂れて落ち込んでいる。

「…ごめん。そんな理由があったなんて知らなくて…。俺眞琴は生徒会の誰かの追っ掛けで入って来たんだと思い込んでた。本当にごめん」 そんな責めるつもりで言ったわけじゃないのに、頭を下げて謝ってくる尚人君に向かって、慌てて頭を上げるように言った。

「ち、違うの。私が好きで行ってるだけで…。だから、尚人君を責めるつもりじゃ…。えっと…その……」

どんな言葉を出したら良いのか困ってしまう。

とにかく謝らないでほしいと、一生懸命言葉を繋いだ。

「そ、そうだ!お母さんがね、私が来るの凄く楽しみにしてくれてるの。それが凄く嬉しくて、だからこれからは毎日行けるようにって近くのこの学校を受験したの。マンションも借りて1人暮らししてるんだよ!それに、私はこの学校が気に入ってるの。だから…そんな顔しないで…」

私がそう言うと、尚人君は不思議そうに私の顔をじーっと見たあと、ふっと破顔した。

−ドキッ!!

その顔があまりにも可愛くて、私は不謹慎にもドキドキしてしまった。

「そっか、良かったよ。眞琴って結構可愛いんだな。そういう一生懸命なとこ、俺好きだぞ!」

−ドキッ!!!

好きなんて言葉をストレートに言われた事がないので、ドキッとしてしまう。 今まで付き合ってきた人はみんなあまりそういう事を言ってくれなかった。

私はそれが当たり前なんだと思っていた。

でも、こうやってストレートに褒めてもらうのも悪くないと思った。

「あ、ありがとう…」

照れながらもお礼を言うと、尚人君はまたニコッと笑い掛けてくれた。

そんな尚人君に私も笑い掛けた時、廊下が騒がしくなり教室に女の子達が入ってきた。

その後ろからこのクラスの担任と思われる女の先生が一緒に入ってきた。

「みんな、早く席に着きなさい。HR始めるわよ!」

先生の号令と共に、さっきまで騒いでいた女の子達も大人しく席に着いた。

「じゃあ、まず私の自己紹介からね」

先生はそう言うと、教壇からクラス全員の顔を一瞥し喋り出した。

「私の名前は篠澤紗耶華です。担当教科は世界史。趣味はガーデニング。

特技はテニス。もちろん部活はテニス部の顧問よ。年齢は秘密だけど、こう見えても二児の母です。私の紹介はこんなとこかな!?じゃあ次はみんなに自己紹介してもらおうかな?!名前、趣味、特技、中学の時の部活と高校で入ろうと思っている部活、最後に一言で閉めてもらいましょう。じゃあ出席番号順に!」

篠澤先生がそう言うと、出席番号1番の子が立ち上がり自己紹介を始めた。

そして、2番3番と自己紹介が終わり、徐々に自分の番が近づいてくるに連れて緊張が高まってくる。

いよいよ私の番だ。

小さく深呼吸をすると、ゆっくり立ち上がり教室中に響くくらい声を張り上げた。

「出席番号12番、楠木眞琴です。趣味は、絵を描くことで、特技は…特にありません。中学の時の部活は弓道部で、高校では合気道部に入ろうと思っています−」

そう言い終わった途端、教室中がざわめき出した。『…え?私何か変な事言っちゃったかな?』

周りの反応に私がオタオタしていると、篠澤先生がコホンッと一つ咳ばらいをし、生徒達を黙らせた。

「…楠木さん、何か一言ありますか?」

篠澤先生の言葉に我に帰ると、ピシッと背筋を伸ばしみんなに向かって頭を下げた。

「あっ、よ、よろしくお願いします!!」

私はそう言い終わると、気が抜けたみたいにペタッと椅子に座り込んだ。

そして、自己紹介が続く。

時々送られる、何だか分からない視線が妙に気になって仕方ない。

でも、その視線もある時を境に綺麗になくなっていった。

次は尚人君の番だ。

尚人君は自分の番が来ると早々に立ち上がり、元気な声を張り上げた。「出席番号18番、須川尚人です。趣味は体を動かす事で、特技は剣道です。中学ん時の部活は剣道部で、高校でももちろん剣道部に入ります。楽しい高校生活にしようと思っているので、みんな仲良くしてね!!」

尚人君がそう言ってはにかむと、また教室が騒ぎ出した。

 中には−

『可愛い〜!!』

 とか、

『このクラス、当たりだよ!!』

などが聞こえてくる。

尚人君はたまに見てくる女の子に向かって手を振っている。

もうクラスの子と仲良くなって凄いなーっと思った。

私は人見知り気があって、こういう自分をアピールすることが苦手な私は、尚人君がすごく羨ましく思う。

自己紹介が終わって気付いたことなのだが、女の子のほとんどが高校の部活で、『生徒会親衛隊部』に入りたいと言っていた。

有名な部活なのかな?

あとで誰かに聞いてみようと考えていると、ちょうど篠澤先生の話が終わった。

この後は各部活の見学会が行われる。

私はもちろん合気道部に行こうと仕度をして教室を出た。

この時、クラスのほとんどの子から視線を送られていることにまだ気付かなかった。

私は散歩をしながら合気道部の道場を探した。 辺りをキョロキョロ見渡していると、どこからか男の人の怒鳴り声が聞こえてきた。

『遊び半分で来たのなら帰れっ!!』

私は何事かと、声のする方へ向かう。

するとそこには、建物の周りを取り囲む女の子の群れと、それを一瞥する男の人がいた。

女の子達は、きゃー!と言いながら散って行った。 女の子達がいなくなった所から、『合気道部道場』という看板が見えた。

見つけた!!と思って近づいていく。

すると女の子達を追い払っていた人が私に気付いて声を掛けてきた。

「なんだ!お前も部長目当てで来たのか?悪いがそういうやつはお断りしてるんだ。他に用がないなら帰ってくれ!!」

そのまま入って行こうとするその人に慌てて近づくと声を張り上げた。

「あ、あのっ…1-B、楠木眞琴です!見学させて下さい!お願いします!!」

私はその人に向かって勢いよく頭を下げた。

「…お前、何を見学しに来たんだ?」

頭上から1オクターブ下がった声が降ってきた。

私はまた何かマズイ事を言ってしまったのかと思った。

もしかしたら看板では『合気道部道場』となっていたが、本当は他の部活が使っていたのかも…

私はまたやっちゃったと思い、謝ってその場を立ち去ろうとした。

「す、すみません!看板に合気道部とあったもので…。私の勘違いでした!失礼しました!!」

私はそのまま踵を返して走り去ろうとした。

すると、今度は違う声が私を静止させた。

「待てっ!此処は合気道部であってるぞ」

その声に振り返ると、そこには額から汗を流してこちらを見ている、長身の格好イイ男が立っていた。

「わぁ〜、格好イイ〜」 私は思わず声に出していた。

それが聞こえたのか、その人は苦笑いを浮かべる。 私はさらに、隣にいるもう1人の男の人の言葉に驚いている。

「部長。どうしたんですか?」

−ぶ、部長〜!!!

「休憩だ。おい、そこのお前!」

突然呼ばれて、慌てて視線を向けて返事をする。

「は、はいっ!!」

私はこの距離だと会話に不便なので、小走りで近づいて行った。

その人を目の前にすると、かなりの身長差で私が必然的に顔を上げる形になる。

「見学しに来たんだろう?見ていかないのか?」

私はその言葉に目を輝かせ、その人に縋り付いた。

「け、見学してもいいんですかっ?!」

すると私と部長さんの会話を聞いていた男の人が慌てたように声を張り上げた。

「ぶ、部長っ!!この女もしかしたら親衛隊のやつかもしれないんですよっ!」

「今日は見学だけだ。正式な入部はまだだろう。それに様子を見ていれば分かる。こいつが何を目当てにして此処に来たのかな…」

「で、でも…」

内容は分からないが、何やら言い争っているみたい。

それにもう1人の男の人は、私を入れるのを渋っているみたいだ。

もしかしたら、本当は何か規則があって私は入れないのだろうか?

だとしたら、私はすごく迷惑をかけている事になる。

「あ、あの〜、私入部できないならいいです。規則で決まっているんですよね?!他の部に行ってみますんで…。お邪魔しました」

頭を下げそのまま帰ろうとした。

でも、また部長さんの制止の声が聞こえて振り返った。

「待てっ!誰も入部出来ないとは言ってないぞ。とりあえず見て行け!ちょうど休憩が終わる頃だ」

部長さんはそう言うと私の手を引いて道場に入れてくれた。

「此処に座れ。…合気道は初めてか?」

私は言われた所にちょこんっと正座すると、部長さんも相向かいに正座し質問する。

入部テストだろうか?

私は部長さんの質問に正直に答えた。

「はい。初めてです」

部長さんは私の答えに、“よし”と頷くと次の質問を投げ掛けた。

「じゃあ、中学のときは何部に入ってたんだ?」

「弓道部です」

「合気道部には何故入ろうと思ったんだ?」

「護身術を学びたかったんです。私、今一人暮しをしていて、両親が心配しているので…」

私がそう答えると、部長さんは“ふむ”と考え込んでしまった。

そして、数秒後ようやく部長さんの口が開かれた。

「…それは、部活でないと出来ない事か?合気道は難しいぞ。護身術を専門に教えている所に行った方がいいのではないか?」

私はその言葉に少し表情を曇らせた。

「…塾などに通える余裕が家にはないので…。入部させてもらえないでしょうか?お願いします!!」

私は部長さんに土下座する勢いで頭を下げた。

「…どうだ?これが親衛隊のやつらと同じ女に見えるか?」

突然、明らかに私に向けられた言葉ではない言葉が聞こえてきた。

私は何事かとゆっくり頭を上げると、そこには合気道部の部員達が私と部長さんの周りを取り託っていた。

部長さんはそちらを向いてその中の1人の人に話し掛けていた。

その人はさっき表にいて女の子達を一掃してた人だ。その人は私をちらっと見ると、部長さんに答えた。

「…いえ。あいつらとは違うようですね。この子なら私は歓迎します!」

その人の答えに部長さんは“うん”と頷いた。

「他はどうだ?こいつの入部に反対のものはいるか?」

部長さんの言葉に意見を上げる人は誰1人いなかった。

部長さんはそれを確認すると、こちらに向き直って口を開いた。

「合格だ。入部の日待ってる。…本当は始めから合格にしようと思っていたのだがな、こいつがどうしてもテストをしたいと言い出してな。急遽やらせてもらうことになった。…すまんな、試す形になって」

私は入部できる事になって舞い上がっていた。

「そ、そんな。気にしないで下さい。私は入部させてもらえるだけで嬉しいんですから。よ、よろしくお願いします!!」

私は元気よく立ち上がると、合気道部のみなさんに勢いよく頭を下げた。

そんな私に向かって、みなさんが拍手をくれた。

「…テストも合格したところで自己紹介でもしておこうか」

部長さんがそう言った途端、周りの部員達が一斉に笑い出した。

「今更自己紹介もないでしょう!?」

「いや、自己紹介とは礼儀だ。俺自身がまだ名を名乗っていないのだからな」

部長さんの言葉に、私も部長さんに自己紹介してない事に気付いた。

まず、私が自己紹介しなきゃ!!

「あ、あの!私、1-B、楠木眞琴です!改めてよろしくお願いします!!」

それを見た部長さんは私に手を差し出して自己紹介してくれた。

「俺は3-B、長戸皇だ。合気道部の部長をしている。よろしく」

私はその手を取り、再び“よろしくお願いします”と頭を下げた。

−あれ?長戸…?

どこかで聞いたことある名前に、私は頭を捻った。−あっ!!

「長戸って、あの生徒会副会長のっ?」

私の言葉に、私が驚いた以上に部長も含め、部員の人達が驚きで固まっていた。

「…知らなかったのか?」

さっき部長と話していた人がボソリと呟いた。

私はその問いに声を出さず、ただ頷いた。

『えぇぇぇぇぇぇっっ!!』 次の瞬間、部室中が大騒ぎになった。

『ありえない』とか、『これは現実じゃない』とか、『この子はきっと遠い遠い宇宙から来たんだ』などなど……

失礼極まりない声が次々と発せられている。

その中で、部長だけが何故か嬉しそうな顔をしていた。

「まぁ、いいじゃないか。ところで、見学はどうするんだ?一応は6時までやっているが。見学会と言ってもこのまま解散になるからな。見ていくなら俺が基本を少しだけだが教えてやるぞ」

願ってもいない申し出だが、このあと病院に行ってお母さんにいろいろ報告しないと…

勿体ないけど、せっかくの申し出を断ることにした。

「…教えて頂けるのはとても有り難い事なのですが、私これから用がありますので、失礼致します」

私がそう答えると、長戸さんが小声で“残念”と呟いた。

「じゃあ、教えるのは最初の部活日に取っておくよ。明日は振り替えで休みだから、明後日だね。場所は各教室に張り出されると思うから。それを頼りに来なさい」

「はい、分かりました。わざわざ丁寧にありがとうございます!!」

私は長戸さんに向かって頭を下げると、荷物を持ち道場をあとにした。

この時私は道場の影から、入口に群がってた女の子達に睨まれている事にまだ気付かなかった。

《病室》

「お兄ちゃんっ!!」

今日もお母さんに会いに病室を開けてみると、そこには珍しい先客がいた。

「よぉ、久しぶり。元気にしてたか?」

お兄ちゃんは椅子に座りながら私に声を掛けてくる。

私は久々の家族に嬉しくなって小走りで近づいて行った。「久しぶりって、まだ1週間も経ってないよ。お兄ちゃんこそ元気にしてたの?」

「もちろん、元気にしてたさ。あ、そうだ。眞琴、今夜泊めてくれないか?明日こっちに用があるんだけど、ホテル代高くてさ。頼むよ」

お兄ちゃんは顔の前に手を合わせ、頭を下げる。

私の返事はもちろん……

「いいよ。見返りはあとで考えておくから!!」

満面の笑顔で答えると、お兄ちゃんは苦笑いを漏らして呟いた。

「…しっかり育ってくれて、お兄ちゃんは嬉しいよ(泣)」

その様子を見ていたお母さんは、吹き出すように笑い出した。 お兄ちゃんも混ざって会話はいつも以上に盛り上がった。


『まもなく面会時間の終了となります』


その放送に反応するように、お兄ちゃんは椅子から立ち上がった。

「もうこんな時間か…。結構早めに来たんだけどな。眞琴、そろそろ帰るか!?」

お兄ちゃんはそう言うと、帰りの仕度を始めた。

「うん!お母さん、また来るね。ちゃんと暖かくして寝るんだよ」

私の言葉にお母さんは、笑顔で“はいはい”と答えてくれた。

「ほら、行くぞ。じゃあな母さん、また来るから」

お兄ちゃんの言葉には、“気をつけて”と答えた。 家に着くまで私とお兄ちゃんは、お互いが会っていない間の出来事を飽きる事なく話していた。

家に着いた私とお兄ちゃんは、お兄ちゃんが作ってくれた晩ご飯を食べて眠りについた。

私はこの時、この後に起きる驚きの事実を知る由もなく、幸せな夢を見ていた。

END

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