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第1話〜『入学』

私は生まれてから今まで“本物の恋”というものをした事がない。

母は、『それはそれは、胸が焦がれるような、熱くて、時には辛くて、それでも幸せなもの』と言っていたが、胸が焦がれるような、熱くて辛くて幸せなものとは、いったいどのようなものなのだろう?

もちろん、私も恋愛経験が全くないわけではない。 一応これでも一通りは経験して来た。

でも、母が言ってたような、胸が焦がれるような想いも、熱い気持ちも、辛い事も、幸せな事も経験した事がない。

今年から入学する私は、〈夢と希望と本物の恋愛〉を胸に掲げ、ココ、洋西白浜学院の門を潜っていた。 この学校の入学式は、春休みの間に、入学生と教師と生徒の代表達だけで行われる。

これは、進学率を上げる為に、手間隙の掛かる入学式は関係者だけで行おうと言ったのが始まりだそうだ。

受付で渡されたパンフレットを見て、自分の名前を探した。

「…えーっと、楠木…眞琴っと……あった!1-B、12番か。さすがに知ってる人はいないな」

そう。ココは、都会のド真ん中の学校。

田舎から来た私に知り合いがいるはずもなく、周りは見事に見覚えのない名前ばかりだった。

少し人見知り気のある私は行き先が曇り空だ。

会場に入ると、まさに都会のド真ん中の学校の雰囲気が醸し出されている。

私は、案内のプラカードに従い自分の位置についた。

それから間もなくして、入学式が始まった。

「それではこれより、洋西白浜学院の入学式を開始致します。全員起立!礼!」

私は少し面倒臭いなと思いつつも、校長の話や、来賓の話を聞いていた。

そして、ある項目に差し掛かったところで、周りの生徒たちがざわめき始めた。

「では次に、生徒の代表として、生徒会長の今野祐貴くんのお話です」 私は少し面倒臭いなと思いつつも、校長の話や、来賓の話を聞いていた。

そして、ある項目に差し掛かったところで、周りの生徒たちがざわめき始めた。入学生の女の子達から黄色い悲鳴が上がった。

『きゃーーーーっ!!』

『今野さーーーーんっ!』『生徒会長ーーーっ!!』『素敵ーーーーっ!!』 その声に司会者が動揺し始め、肝心の生徒会長はというと、檀上から女生徒達に手を振っていた。

その行動に会場内は、ますます騒がしくなって行った。

そしてその騒ぎも、会長が話を始めると、ピタッと止まった。

私がなんの騒ぎだったのだろうと呆然としている中、いつの間にか式が終了していた。式が終了すると、先程の騒ぎの余韻残したまま、女の子達がぞろぞろと校内の方へと歩き出した。

入学式を終えたとはいえ、まだ春休みの校内を歩き回っても良いのだろうか。

「ええ、構いませんよ。春休みでも部活動の方は行っていますからね。どうぞ、見学していって下さい」

近くにいた職員の人に話を聞き、私は校内を探検することに決めた。

まずは校庭に出て野球部と陸上部を発見した。

勉学に力を入れている学校なので、スポーツはそこそこかと思っていたらそこら辺の学校よりもレベルは遥かに上だった。

まずは陸上部をと思い、邪魔にならない所で見学していると、女の人が声をかけてきた。

「ねぇ、あなた新入生?陸上に興味あるの?良かったらちょっと走ってみない?」

私は遠慮したかったけど、その人が強引に人の集まっているところまで引っ張っていってしまった。

「みんな〜、新入生だって」

女の人が部員に声をかけると、興味を持った生徒達がぞろぞろと私達の周りに集まって来た。

「へぇ、この子走れるの?」

「結構ちっちゃいし、無茶なんじゃない?」

「まぁまぁ、ちょっとだけでも走ってもらおうよ」

「うん、いいんじゃない?ものは試しにさ」

私のいない所で、どんどん話が進められている。

「決まり!ねぇ、あなたお名前は?」

いきなり呼ばれて私は咄嗟に声のした方へ振り向いた。

「えっと、楠木眞琴です」「じゃあ、眞琴ちゃん、ちょっと走ってみてくれないかな?!」

いきなり先輩にそう言われ戸惑っていると、先輩が強引に50Mのスタートラインまで私を引っ張って行った。

「50Mでいいからさ。ね?」

有無を言わさぬ言葉に、私は渋々従うしかなかった。

『う゛〜何でこんな事になったんだろう。ただ見てただけなのになぁ〜』

心の中で嘆いてもしょうがない。

もうスタートライン着いちゃったわけだし。

やるしかないよね!

「じゃあ、行くよ!…位置に付いて、よーい…スタート!」

私はその掛け声と共にスタートラインを蹴って、全速力で走り抜いた。

ゴールして先輩たちの方を振り向くと、みんな呆然としながら私を見ている。 何かマズイ事したかなと思い、謝ろうと声を出そうとした時、1人の先輩が私に駆け寄って来た。

「眞琴ちゃん、凄い!タイム、7.3sだよ!」

その先輩に続いて他の先輩もぞろぞろ集まって来た。

「本当、すげぇじゃん!中学ん時陸上部だった?」

「…いいえ。走るのは好きでしたけど、陸上部は入ってませんでした」

「じゃあ、何部に入ってたの?」

「…えっと、弓道部です」

「今回も弓道部に入ろうと思ってるの?」

「…いいえ、今回は……」私がそう答えた途端、先輩達が目を輝かせながら私に詰め寄ってきた。

「じゃあ、陸上部に入ろう!!」

「そうだよ、そんなに早いんだしさ。一緒に全国目指そうよ!」

「…あ、いえ…今回は、合気道部に入ろうと思ってるんです。…すみません」

私がそう言った途端、女の先輩達全員の目が冷たくなった。

「ふんっ!あんたも長戸さん目当てってわけだ」

「多いのよねぇ、合気道が好きでもないのに長戸君に近づきたいからって、合気道部に入る人」

「そうそう、そういうのムカツク!!」

「言っとくけどね、長戸さんもそういう子好きじゃないから、門前払いされるのがオチだよ」

私は先輩達の言っていることが全然分からなかった。

「…あのぉ、長戸さんて…誰ですか?」

先輩達は私の言葉に、目を大きく見開いて見つめてくる。

また、何かマズイ事言っちゃったかな…?

すると、1人の先輩が信じられないと、私に詰め寄って来た。

「…あなた、長戸副会長知らないの?今日の入学式にもいたじゃない」

私はそんな先輩にたじろぎながら、すまなそうに答えた。

「…すみません。式の最中は他の女の子達の騒ぎに目がいっちゃって、あんまりよく見てませんでした。それに、私…人の名前を覚えるのが下手で……」

今度は、男の先輩もジロジロ見始めた。

「じゃあ、あなたはこの学校には今野会長や、長戸副会長達が目当てで入って来たんじゃないの?」

「…?…いえ、この学校の近くの病院に母が入院しているもので、目当てといったらそれですね。私の実家からだと通うのに不便で。父に相談してこの学校に入れてもらうのと、近くのマンションに1人暮らしさせてもらえるようにしてもらったんです」

私の話を聞くと、さっきまで険しい顔をしていた先輩達が、次々に私から目を逸らし始めた。

「…そうとは知らず、ごめんな。こいつらも悪気があったわけじゃないんだ。ただ、今野や長門がこの学校に入学してから、毎年入学してくる奴はそいつらのファンだったりしてさ。いい加減俺達もうんざりしてたんだ。俺達はこの学校が気にいって、この学校に入学したのに、そんなおふざけみたいな連中に入ってこられたんじゃ、俺達が真剣に勉強や部活やってるのが馬鹿みたいだろ?!」 私、先輩の気持ち分かるな。

だって私も先輩と同じ立場だったら、絶対に許せないもん。

「…ごめんなさい、眞琴ちゃん。私てっきりあなたも生徒会目当てで入って来たのかと思って、あんなヒドイ事言って。…本当にごめんなさい!」

「…私も。生徒会の入ってる部活に入れないってわかると、親愛隊みたいなの作っちゃって。おっかけして。私、そういうのが許せなくて。あなたもそいつらと同じだと思い込んじゃって、あんな事言って、ごめんなさい」

「…ごめんね、眞琴ちやん」

「…ごめんなさい。許して」

先輩達が次々と頭を下げてくる。

私は慌てて、先輩達に顔を上げるように言った。

「謝んないで下さい。私、全然気にしてませんから。…それに、先輩達の気持ち良くわかります。私もそういうの嫌いですから」

私の言葉にホッとしたのか、先輩達の顔に笑顔が戻って来た。

「…良かった。あなたみたいな人が入学してくれて。陸上部に誘うのは、残念だけど諦めるわ」

「でも、いつでも遊びに来てね。眞琴ちゃんだったら、いつでも歓迎しちゃうから!」

先輩達のその言葉に私は嬉しくなった。

入学して初めての友達って思っていいよね!?

「あ、そういえば。合気道部に入りたかったんだよね?!残念だけど、今日は合気道部はお休みだよ。登校初日から始まるから、またその日に行ってみなよ」

「はい。分かりました。…それじゃあ、私はこれで。先輩方、部活頑張って下さいね」

私はそう言うと、陸上部を後にした。 他の部活も色々と見学しようとしたが、そろそろお母さんのお見舞いに行きたいと思い、そのまま病院に向かった。

病室につくと、ちょうど診察中だったらしくて、先生とばったり会った。

 私は先生と目が合うと、ぺこりとお辞儀をした。 「やぁ、眞琴ちゃん。こんにちは。今日は制服だね。学校だったのかな?」

先生は聴診機をしまいながら、私に話しかけてくれた。

「橘先生。母がいつもお世話になっています。今日は、学校の入学式だったんです」

「そうだったんだ。その制服、よく似合ってるよ」

先生はそういいながら、私にウインクしてきた。

私はそんな先生にニッコリと笑いながら言葉を返した。

「ありがとうございます!先生にそう言ってもらえて嬉しいです」

私の返答に、先生は苦笑いを漏らした。

「…う〜ん、僕のウインクが通じないなんて…」

「え?先生、何か言いましたか?」

「あっ!いやいや何でもないんだよ。…じゃあ、ごゆっくり。…っと、楠木さん。大好きな娘さんが来たからって、くれぐれもはしゃぎ過ぎないように!いいですね。眞琴ちゃんもだよ!」

『は〜い』

先生の厳しい注意に私とお母さんは、声を揃えて返事をした。

その後には病室内が笑いの渦に巻き込まれた。

「じゃあ、お大事に」

そう言うと、先生と看護士さんは病室を出て行った。

「眞琴。学校はどうだった?部活何入るか決めたの?好きな人出来たの?何か困った事はない?え〜っと、それから…」

「お母さん、落ち着いて。そんなに一遍に質問されたんじゃわかんなくなっちゃうよ」

私が制止をかけると、お母さんは苦笑いを漏らした。

「ごめんね。つい…。真琴に色々聞きたくて。会うの久しぶりじゃない!?」

「こっちに引っ越して来たんだし、これからは毎日会いに来るから」

「ねぇ、眞琴。無理してない?わざわざこっちの学校に通うなんて。地元の高校に行きたかったんじゃないの?お母さんの事なら気にしなくていいのよ。前みたいに休みの日に会いに来てくれるだけで十分だから」

「病人がそんなことまで気を回さなくてもいいの!お母さんは、病気を治すことだけ考えてなさい!それに、私今日行った学校ちょっと気に入ってるんだから。今日、先輩達とお友達になったのよ。陸上部の先輩達なんだけど、凄くいい人ばかりなんだから」

お母さんは私の言葉にホッとしたように溜息を吐いた。

「そっか。良かったわ。でも、お母さんいつこの心臓が止まっちゃうかわからないから…今のうちに聞き逃したことがないようにと思って」

お母さんのその言葉に、私はムッとした。

「お母さん!『病気は治ると信じなさい。そうすれば、必ず奇跡が起こるから』 途中からお母さんの声とハモった。

お母さんを見ると、私の顔を見ながら苦笑いを漏らしていた。

「そうだったわね。病気は気からって言うしね。ごめんね、眞琴」

お母さんの顔に笑顔が戻った。

やっぱり人は笑ってるのが一番だよね。

そして、私とお母さんは、学校の話や、私生活の話を面会時間ぎりぎりまで話していた。

『まもなく、面会時間の終了となります』     「あっ、もうこんな時間なんだ。時間が流れるのは早いね。じゃあ、私そろそろ帰るね。春休み中は身の回りの整頓しちゃいたいから暫く来れないかもしれない。学校が始まったら絶対に来るから」「あんまり無理しないのよ。学生は学生らしく勉強や部活動に励みなさい」

「大丈夫だよ。そっちも怠る気ないから。…じゃあ、またね」

私はそう言うと、病室を出た。

そのままロビーに回ると、ちょうど帰りの仕度をした橘先生と会った。

「やぁ、眞琴ちゃん。今帰りかな?良かったら送っていくよ。夜道の一人歩きは危険だしね」

「え?いいんですか?」

私がそう言うと、先生はニッコリと笑って頷いた。

「もちろん!じゃあ、行こうか」

先生はそう言うと、私の手を握り歩き出した。

先生の手がとても温かくて、私はゆっくりと握り返した。

その行動にビックリしたのか、驚いた顔で私を見てきた。

「…天然……だよね?!」

「はい?何がですか?」

「いやいや、何でもないよ。さぁ、早く行こうか」

先生はそう言うと、私の手を引いて歩き出した。

駐車場に行く途中に、先生はお母さんのことを話してくれた。「お母さん、随分と良くなってきたよ。最近じゃ咳もあまり目立たなくなってきたし。やっぱり眞琴ちゃんのおかげかな!?」

「いえ、そんな事ないです。先生が一生懸命してくれたおかげです。本当にありがとうございます」

そう話している内に、駐車場に着いた。

先生は私の手を握りながら、助手席へエスコートしてくれた。

「あっ、ありがとうございます!」

「いいえ、どう致しまして。…さぁ、出発致しますよ、お姫様」

先生はそう言うと、車を発進させた。

「さっきの続きなんだけどね。最近のお母さん随分と明るくなったでしょ?これはお母さんに口止めされてることなんだけどね。お母さん、眞琴ちゃんがこっちに引っ越してきて凄く喜んでたよ。これから毎日のように娘が会いに来てくれるのよって、来るナース1人1人に自慢してたんだから」

先生の言葉が凄く嬉しかった。

さっきお母さんは、私に無理しなくていいと言っていたから、もしかしたら私が来るのが嫌なんじゃないかと心配していたが、先生の言葉を聞いて、私の思い過ごしで良かったと思った。

「…そうですか。お母さんにそう思ってもらって良かったです」

そして、私と先生がお母さんの話で盛り上がっていると、車は私の住んでいるマンションに到着してしまった。

「…送って下さって、どうもありがとうございました!」

「どう致しまして。じゃあ、お休み」

「お休みなさい」

私は先生に挨拶すると、マンションの中に入って行った。

今日は色々あったけど、楽しい1日だったなぁ。

お母さんも元気そうだったし。

明日からは一人暮しだから、色々と忙しくなりそう。

でも、頑張らなきゃ!!

第1話終了いたしました!本当はプロローグとしてもう少し短くまとめたかったのですが、思いの外まとまりが悪くて…(私のまとめ方が悪いんですけどね…)そんなわけで、第1話目として書かせていただきました!急いで書いたものなので、誤字脱字あるかも知れません!もし、見つけましたらご指摘のほどよろしくお願いします!それでは、ここまで読んで下さった読者の皆様、どうもありがとうございました!また次回、お会いいたしましょう!

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