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短編2

自作自演! 聖女召喚!!

作者: 猫宮蒼
掲載日:2026/06/08



 とある世界のとある国には、異世界から聖女を召喚する秘術というものが伝えられていた。

 聖女にできるのは、世界の淀みと呼ばれる人々にとって害のあるものを浄化する力。

 淀みは世界を蝕んでいくので放置してはいけないものだった。


 淀みが発生する条件はわからない。学者たちが調べたものの、明確にこれと言えるものにはたどり着けなかった。


 環境汚染によるものなのか、それとも魔法を用いた結果の魔力の残滓が淀みに変換されているのか。

 もしかして、という可能性のあるものはいくつかあったが、だがそれが原因であるとはハッキリ言えなかった。

 何らかの行動を引き金にその場で淀みが発生した、というのであれば、それは確実に淀みの原因だと言えるだろう。けれどもそういった事がない以上、それを原因と決めつけるわけにもいかなかった。


 言ってしまえば容疑者の段階であって、確実に犯人ではない。


 調べてもわからないまま月日ばかりが過ぎ去って、そうしていくうちに淀みは世界を覆い尽くす。


 淀みが世界に蔓延すると、人体に影響が出始め異形へと変化する者が現れる。

 異形となった者たちは理性を失い暴れ、人々を襲う魔物と呼ばれるものになるために、淀みを放置してはいけない。

 聖女を召喚せずともこの淀みを浄化できれば良かったが、しかしその方法さえ人々にはなかったのである。


 淀みというものが良くないものである、と人々は理解している。

 けれど、その淀みが一体どういったものなのかを、人々は正確に理解できていないのだ。


 自らで浄化しようと試みた結果逆に悪化する、なんて事にもなりかねない。


 故に人々が魔物に変じる事のないように、彼らは異世界から聖女を召喚するのであった。



 聖女は黒い髪の少女である。


 こちらの世界の住人から見て変わった衣服に身を包んだ、異国の存在というのが一目でわかる年の頃十五から十八くらいの少女。


 過去聖女を召喚した者たちの記録に残されている聖女たちは皆同じ特徴を持っているからこそ、此度召喚した少女もまた聖女である、と一目で彼らには理解できた。


 淀みを祓うために聖女がやるべき事は難しい事ではない。いや、この世界の人間からすれば不可能だが、聖女という存在にとっては簡単な事だ。


 聖山と呼ばれる場所にある、神樹に聖女の力を注ぎ込む。


 これだけだ。


 そうする事で淀みは祓われ世界はしばしの安寧を得る。


 絶対的に平和かと言われるとそうではないが、しかしそれでも淀みに怯え警戒する日々からは逃れられる。


 既に魔物になってしまった者たちが元に戻る事はないし、人同士の争いが消えるわけでもないために絶対的な平和とは言い難くとも、それでも。

 淀みにいつ我が身が汚染され魔物に変じるか、という心配はしなくてもいいのだ。


 道中に危険がないとは言い切れないので、護衛と共に旅立つ事にはなるけれど。


 それでも、世界を救う方法としては不可能なものではない。


 故に彼らは、世界を救うという名目でこの度聖女を召喚したのであった。



 異世界から呼び寄せられた聖女は最初、見知らぬ場所にいる事に警戒し、次に聖女と呼ばれた事に困惑し、一体何が起きたのかさえすぐには理解できていないようだった。


 けれども召喚した魔法使いたちと共にいた国王が聖女についてを語り、王子がどうか、と救いを求め、救ったその後の報酬についても説明したところでようやく。


 聖女はそれでもまだ戸惑っていた様子だが、確かに頷いたのだ。



 聖女の身の回りの世話をする使用人や護衛が彼女の傍に控え、そうして数日はここでの生活に慣れてもらう事になった。ある程度この国の――ひいてはこの世界の事を知らなければ困る部分も出るだろうと。


 過去、召喚された聖女たちがどうなったのかを王子は知らない。


 かつての伝承、それらが残されたものはあるけれど、どの代の聖女も淀みを祓った後の事は詳しく書かれていないのである。


 人知れず姿を消した……


 どの代の聖女も多少の言葉の違いはあれど、似たような終わりで締めくくられている。



 これを王子は用済みになって処分したのか、はたまた一人の人として、聖女としての役目から解放され平穏に過ごしていたのか、それとも元の世界へと帰還したのか。

 そのいずれかだろうと考えた。


 だがしかし、かつて授けられた聖女召喚の秘術において、呼び寄せる方法は教われど帰す方法は教わっていない。なので召喚された聖女が、役目を終えたら帰れますか? という質問を投げかけてきたがそれについて答える事はできなかった。


 こちらの都合で一人の少女の人生を狂わせたという自覚はある。

 けれど、聖女に頼らねばこの世界はいずれ滅びを迎える。

 故に、帰せない事の代償として、救ってもらった後の事は何不自由なく手配するつもりでいた。

 彼らに出来る事はそれくらいしかなかったので。


 帰れない、という事実を知った聖女は泣きそうになったがそれを堪え、どうにか自分の中で気持ちの整理をつけたようだった。

 その瞬間、思えば王子は彼女に恋をしたのかもしれない。


 見知らぬ世界にたった一人。

 世界を救うという期待を背負わされ、役目を終えた後も帰れない。


 もし自分がそのような事態に見舞われたら。

 果たして彼女のように冷静でいられるだろうか。


 異世界で、平民として生きていた、という聖女の言葉に。

 王子はしかし自身の知る平民とは別の、気高さを確かに見たのである。


 そう自覚した王子は率先して彼女の助けとなるべく動いた。

 最初は戸惑っていた聖女も、少しずつ心を開き王子と接していた。


 聖女としての力の使い方だって、すぐにできるわけではない。

 過去の文献から読み解いたものを聖女へ伝え、そうして彼女がどうにか力を使いこなせそうだとなった所で。



 聖女たちは淀みを祓うため旅立った。


 道中、野生の獣や魔物たちが襲ってくる事もあったが、聖女を守るために共に旅立った者たちによってそれらの脅威が聖女を害する事はなかった。

 危険はない。

 ない、けれどしかし一歩間違えば聖女だって無事では済まない。


 肉体の面では安全であっても精神が常に平静を保てるか、となると話は別だ。

 ひとたび戦いが終われば無事だったと言えるが、魔物が襲ってきた直後、戦闘が終わる前から無事だと思えるはずもない。

 そうなるたびに聖女の精神はすり減っていくだろうし、無事だと安堵したところで次も必ず無事でいられると思える程のものもない。


 その不安を払拭すべく、共に旅立った王子はいっそう聖女を大切に扱った。


 もし、この旅が終わり無事に淀みが消えたのであれば。


 彼女と共に、人生を歩めないだろうか。

 そんな風にも考えていたし、聖女にも自分を選んでほしくて、自身の気持ちを少しずつ伝えていった。

 いきなり全ての気持ちを伝えたところで、彼女にとっては重荷にしかならない。

 けれど、帰れない彼女の新たな居場所に自分の隣を選んでくれたなら――



 そんな風に旅の途中で二人は想いを確かめ合いながら進んでいった。


 そして聖女は見事に淀みを祓った。



 無事に凱旋し、国を挙げて宴が行われた。

 平民も貴族も関係なく、淀みが消えたというその事実に喜びあった。


 夜の闇をも掻き消す勢いで灯りがともされ、朝も夜も関係なく盛り上がり――



 そうして宴が終わりを迎え、新たな朝がやってきた。



 そこに、聖女の姿はなかった。



 取り乱したのは王子だ。

 世界が平和になって、彼女と人生を共に歩むはずだったのにその彼女が忽然と姿を消している。

 何故。どうして。

 そんな疑問が渦巻くのは当然の事だった。

 元の世界に帰れたのだろうか?

 それならば良い。彼女がいなくなったという事実は自身の胸を重くしたが、それでも彼女が望んでいた帰還が果たされたのであれば、きっと向こうの世界で健やかに過ごしていけるのであれば。

 それが彼女の幸せならば。


 だが、もし。


 もし何者かに連れ去られ、恐ろしい目に遭わされているのであれば。

 役目を終えた聖女だが、もし他に利用価値があると思った者が彼女を無理矢理連れ去ったのだとしたのなら。

 このまま黙っているわけにはいかない。

 姿を消した聖女を探すべく、王子は必死に捜索した。

 けれど聖女の痕跡はどこにもなかった。


 まるで最初から聖女なんて存在、この世にはなかったとばかりに。


 愛する者を失った王子が立ち直るまでに、少しばかり時間はかかったけれど。


 それでも彼は、聖女が守ったこの世界を少しでも長くより良いものであるようにと。

 新たな王としての道を歩み始めたのであった。






「――っあー! ホンット、もうヤだーーーー!!」


 自室。自分以外に誰もいないため、叫んだところで誰に迷惑がかかるでもない。

 それでも女は部屋の外に音が漏れないようになのか、ベッドに顔を埋めて叫んでいた。


 女は女神である。

 今しがた、世界を救ってきたばかりだ。


「うぅうぅうう……心が……心が痛い……ッ!

 甘酸っぱい恋の訪れに胸ときめかせたいけどそれができない苦しみよ……」

 ベッドの上で手足をバタバタとさせていたが、やがて女神はすっと起き上がった。


「ホント、何、この……何をどうすればいいの? 淀みってなんで発生してんの? ヤだもうこのバグ……」


 ベッドに腰かけた状態で、女神は両手で顔を覆ってさめざめと泣き始めた。



 女神は神々の中では割と下っ端である。それでもようやくその力を認められて上の神々に、

「ヌシもそろそろ世界を作ってみるかえ?」

「そうじゃの、頃合いかもしれぬ」

「なに、最初は上手くいかぬかもしれぬが、そのようなものはやがてどうとでもなる」

 などとコロコロ笑われながらも、自身の世界を持つことが許されたのだ。


 他の友人である女神たちにアドバイスを聞きまわったりして、意気揚々と臨んだ世界。

 確かに最初から思うようにならない事ばかりだったけれど、その分手をかけてきたために愛着はあった。


 だが、そんな世界によくないものが現れた。

 その世界の人たちの言葉で言う淀みである。


 最初の頃は気付いてすぐに取り払った。それでも何故だか、気付けばまた現れているのである。

 それはまるで、部屋に積もる埃のように。

 最初のうちはそこまで問題もなかったけれど、積もり積もって明らかに増えてくるとそれが世界の住人たちに害を及ぼし始めた。

 魔物に変異してしまった人は元に戻らず、あまり放置していてはいけないものだと女神が悟りはしたものの。


 毎日女神が部屋の掃除感覚で世界の淀みを祓えばいいだけなのだが、しかし女神も他にやる事がある。

 部屋の掃除だってできるなら毎日やるけれど、しかしできない日だってあるのだ。

 それと同じで、世界の淀みを毎日気に掛ける事ができない場合だってある。


 忙しすぎて食事だって抜く事もあるのだ。

 暇なときは手をかけられるが、忙しい時に同じだけ手をかけろと言われても無理な時は本当に無理。


 だが、その無理な期間が長引くと世界は大変な事になっている。

 女神の部屋は忙しい時、女神が部屋にいなければそう汚れないので大変な事にならないが、しかし彼女が作った世界は大変な事になってしまう。


 ほんの少しの淀みならささっと祓えるけれど、それが増えてくるとささっとで済まない。

 その時はもうちょっと女神としての力を使って祓う事になる。

 最初はそれでも良かった。

 世界に光が満ちて次の瞬間淀みは消える。


 神の奇跡だ、と人は言った。


 神が救ってくださった。おぉ神よ感謝いたします……!


 そんな風に信仰が集まり、それらは少しだけ女神の力を底上げする形となったのだ。



 ところが。


 ちょっと忙しい時期が増えて、世界に目を向ける余裕もない間に淀みが増えて、世界は大変な事になってしまっていた。


 神に祈り縋る者たち。

 けれど淀みは祓われない。


 そうなるとどうなるか。


 神は我らを見捨てたのだ、と嘆くだけならまだいいが、神なんてくそくらえだ! なんて者も増えてくる。

 結果として信仰は減った。どうにか用事を片付けて世界の様子を確認した頃には、神様なんてゴミクズだとばかりに人心は荒れていたのである。


 折角たまった信仰パワーも綺麗さっぱり消失してしまった。


 それでも女神は世界の淀みを祓おうとしたのだが、人々が神を拒んだ結果なのか、どうにも上手く力が乗らない。世界が神を拒絶する事で更に淀みは増えていき、世界はどんどん大変な事になっていく。

 このままでは世界が崩壊するかもしれない。


 そうなってしまえば、他の神々になんて言われるか。


 折角作った世界が滅べばヌシにはまだ早かったのぅ……なんて言われるのが目に見えていたし、そうなれば折角最近他の神々からおぼえが良くなってきたのにそれも台無しだ。

 また世界を新たに作り直せばいい、と言われればいいが、当分世界を作るのは禁ずる、と言われてしまえばまたも女神は以前のように他の尊い神々の雑用に回されてしまうかもしれない。


 最近折角そういうのから脱却したのに、逆戻りは嫌だった。


 なんとかしなければ……!


 そんな風に考えに考えて。


 他の神々から聞いた話を元に、一つの案がうかんだのである。


 神が淀みを祓うのが駄目なら、神の代理人を立てればいい。


 他の世界でも聖女だの聖人だの勇者だの、名称は違えどそれらしいものはいくらでもある。


 他の世界の成功例を聞いて参考に出来そうなところを真似してしまえば、案外どうにかなるのではないか。


 と、早速やるぞと思ったものの直前で思いとどまる。


 そもそも他の世界から勇者だの聖女だのといった者を呼び寄せるのは、事前にきちんと根回ししておかないとその世界の担当である神に睨まれてしまう。一度くらいなら協力してもいいよ、という神はいるかもしれないがそれが続けばいい顔はされない。

 それどころか未だに解決できてないの? だとか言われて自分の実力不足であると思われてしまえば次の評価に関わってくるし、結果としてまた以前のような下働きの立場に降格、なんて事も考えられる。


 そうでなくとも、毎回助けてるのだからその分の借りを返してもらおうか、なんてとんでもない無茶振りをかまされるかもしれない。


 只より高い物はない。


 下手に借りを作れば後々自らの首を絞める事になるかもしれないのだ。ちょっとしたヒントをくれるくらいならどの神々も気軽に教えてくれるけれど、それ以上、となるとそうもいかなくなってくる。


 こっそり内緒で他の世界から一時的に借りる、という事ができないわけではないけれど、それをやった世界は大抵ロクな結果になっていない。

 世界が最悪の方向に転がる事もあるし、滅んだ挙句他の世界から勝手に住人を拉致った、と後から知られれば下積みからやり直せと上から言われ、長い年月をまたも辛く厳しい雑用係として励まねばならなくなる。


 一度上にいったのにまた下に戻ってくるとなれば、上からはできない子扱いだし下からは落伍者扱いだ。何故なら折角上にいったのに落ちてきたのだ。まだ上に行った事のない見習いレベルの神々は落っこちるという経験をしていない分、落伍者扱いの神は出来損ないという認識なのだ。


 中間管理職以上に身の置き場がなくなるのでそれだけは避けたい。


 そうして考えた結果、誰かの手を借りて外部の者を神の使いに仕立てるよりは、じゃあいっそ自分がそれをやればいい、となったのである。


 他の世界を参考にした結果、異世界から召喚される聖女や勇者にありがちな髪や目の色にして、さも自分のところもそういうやつですよと言わんばかりに装う。


 そうして淀みをなんとかする方法をこっそりと一つの国に提示しておいた。

 全ての国に教えたところで、一斉に召喚されても手が回らなくなるからだ。

 その代わり、各地の淀みではなく世界の淀みを一度の召喚で全て祓うようにする。


 神として祓っていた時はいまいち実感されてなかったが、既に危うい状況だと思われた頃に召喚されて淀みを祓えば。

 神が遣わした聖女によって救われた、と目に見えて明らかになる。


 直接神への信仰が強まる事にはならないが、それでも聖女経由で少しだけ神への信仰が増えるのであれば、いずれ神が直接世界に関与しやすくなるかもしれない。

 現状とにかく神への信仰を少しでも増やさなければ、世界に手を入れるにしても難しいのでまずはそれをどうにかするしかないのだ。



 そうして聖女を召喚した国は、過去いくつか存在する。

 唯一教えてあった国が聖女の存在を世界に大々的に広めたりして権威を強め他国をも取り込もうとしていたが、それくらいなら女神も何を言うでもなかった。

 下手に分かれているから争うのなら、いっそ統一でもなんでもしてしまった方がいいだろうと考えたのだ。


 けれども淀みを祓うだけのみならず、当時のその国は聖女を他の事にも利用しようと目論んでいた。


 まぁ実際この世界の聖女の正体は女神であるので、利用しようと思った事の大半はやろうと思えばできる事ではあるけれど。


 女神は別にその国のためにずっと仕えるつもりなどあるわけがなかった。

 他にもやる事がたくさんあるのだ。

 下働きから脱しても、他にやるべき仕事が増えた。同時に他の神々との付き合いも上手くやらねばならない。

 なので淀みを祓った後は、どうにか適当に周囲を誤魔化して消える必要があった。


 聖女に帰ってほしくない者にとっては痛手である。

 だが女神としても利用され続けてやる義務まではないので。


 聖女の力を他に――それこそ軍事などに――利用できないかと目論んでいた国は、このままいけば他の国との争いを起こし世界に大きな傷痕を残すと思ったからこそ、そういった国は滅びに向かわせた。

 そうしてその国が滅んだ後に、そっと新たな国に聖女を呼ぶための秘術を授ける。


 淀みによって世界が危険な状況になりそうだ、となれば彼らが召喚するので、そうなるまでは女神も神としての仕事に集中できた。


 利用しようとする者にはこっそりと天罰を与え、そうでなければ役目を終えた後そっと姿を消す。


 世界を救った後の聖女がどうなったかを知る者はいないが、むしろ知られては困るので知られていない事こそが女神にとっては正解だった。



 大抵は、そこまで大きな問題もなく終わる事だった。


 だが今回は。


 まさか王子様が聖女に恋をするなんて、女神だって思ってなかったのだ。

 こっちからすれば何度目かの聖女、役割の説明だとかそういったものは不要だが、しかし最初から全てを知っている風を装うと他にも何でも知ってるものだと何故だか思われて、万能の賢者だのなんだのと持ち上げられて政治利用されそうになったりした過去があったので、女神は聖女が召喚された時、何も知らない小娘の振りをする事に決めていた。


 今までは、何も知らない小娘に一から説明しないといけない、というのを煩わしいと思っていたり、時間がないからと焦っていたりする者が多かったが、まさかこちらを労わってくる相手――それもよりにもよって王族だ――が出てこようとは。

 女神もうっかり今までとは違うパターンだと思い、うかつにもときめきそうになってしまった。


 うっかり王子と共に今後の人生歩みます、なんて言ったとしても、女神も聖女の姿になっている時はその姿で固定してしまっているので、年をとる、というのが難しいのだ。それに神としての仕事もあるので、そちらに行かねばならないとなると、世界から出る必要がある。

 神々が住まう地の時間と、それぞれの世界の時間の流れは異なるので、ちょっと一仕事してくるわ、で離脱して戻ってきたら既にこの世界では数百年が過ぎてました、なんて事にもなりかねない。


 そんな事になってしまえば、聖女に見捨てられた、と思われてまたも世界は別の意味で荒れるかもしれないのだ。

 折角少しずつ増えつつあった信仰が今度こそ完全崩壊しかねない。


 なので役目を終えた後は速やかに、それでいて密かに戻らねばならなかった。


 いっそ王子様が恋をしないような、嫌な女を演じれば良かったのかもしれないが、しかし聖女が性格クソ女とか女神にとっても解釈違いである。

 代々の聖女についての伝承なども残されているくらいだ。そこで嫌な女だったと残されてみろ。どの聖女も女神なので、そんな嫌な評価まで残されるのは流石にちょっと……となるわけで。


 あくまでも見知らぬ地に召喚され、家族も友人もいない世界にただ一人、という状況になっても挫けず努力を続ける少女――これが、女神が聖女を演じる点で譲れない部分だった。

 これは単純に女神が頑張り屋のヒロインって可愛いよね、という思想からきただけである。


 だがその結果、まさか今回王子様の恋心に火をつける事になろうとは。

 どう足掻いても結ばれるわけにはいかないので、女神としてもとても心が痛い。


 異郷の地で孤独に役目を果たそうとする聖女の支えになりたいと望んだ王子様。けれどその聖女は既に何度も聖女をやってる女神である。

 騙している、というのは否定できない。


「んあぁあああもぉおー、違うの私だって別に男心を弄ぼうだなんて思ってないのにー!

 いっそ新たに聖女としての生命を作って送る? いやでも、結果として政治利用とかされたら面倒だし……

 うわぁんホントなんで淀みなんて発生してんのよぉおおおおお」


 ぴゃあん、と泣き言を漏らし女神はベッドの上でじたばたとするのであった。



 淀みのせいでいらんマッチポンプをする羽目になっている哀れな女神は、この事態を解決できない限りまだまだ己が作り出した世界に召喚され続けるのだが……問題解決まではまだまだ遠い道のりである。

 次回短編予告

 父が再婚した。新たな妻となった女は傲慢に振舞い、その女が連れてきた妹と呼ぶのも烏滸がましい卑しき娘は少女から何もかもを奪おうとした。けれど父親はそれを諫めもしない。

 あぁもう終わりだわこの家は。

 あっさりとそう見限った少女は、かくして家を出る事に決めた。

 ろくでもない家族へこっそりと嫌がらせを仕込んで。


 次回 魔法使い令嬢のお手軽な復讐

 貴方が見ている光景は、本当に真実のものかしら?

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