第24話 私は決めた
その夜、美奈子は眠れなかった。
ベッドの上で天井を見ている。
部屋は暗い。
カーテンの隙間から、街の灯りが少しだけ差し込んでいる。
隣では橘が静かに眠っていた。
規則正しい寝息。
長い時間を一緒に過ごしてきた夜の音。
その音を聞きながら、美奈子は目を閉じる。
でも、すぐに開ける。
胸の奥が落ち着かない。
橘の言葉。
園田の声。
その両方が、頭の中に残っている。
「幸せになれる?」
橘の静かな質問。
そして。
「誰かを泣かせる恋は、少し悲しいですね」
園田の言葉。
どちらも優しい。
だからこそ、苦しい。
美奈子はゆっくり体を起こした。
ベッドから降りる。
キッチンへ行く。
水を一杯飲む。
冷たい水が喉を通る。
それでも、胸の奥のざわめきは消えない。
窓の外を見る。
夜の街。
遠くの信号が赤から青へ変わる。
美奈子は思う。
恋は、簡単じゃない。
好きという気持ちだけでは、決められない。
時間。
思い出。
優しさ。
全部が混ざっている。
橘と過ごした時間は、長い。
笑った夜もある。
喧嘩した日もある。
何も話さずに過ごした休日もある。
その全部が、嘘じゃない。
でも。
園田といる時間は、少し違う。
まだ短い。
それなのに。
一緒にいると、胸の奥が静かに温かくなる。
その違いを、美奈子はもう気づいていた。
美奈子はスマートフォンを手に取る。
画面を開く。
メッセージアプリ。
園田の名前。
最後のやり取りは、昨日の夜。
何気ない言葉。
それでも、その画面を見ていると、胸の奥が少しだけ速くなる。
美奈子はしばらくその画面を見ていた。
そして、ゆっくり打つ。
園田さん
指が止まる。
これを書いたら、何かが変わる。
今までの夜には戻れない。
それでも、美奈子は続けた。
今度
少し話せますか
送信。
画面にメッセージが表示される。
その瞬間、美奈子の胸が強く鳴る。
スマートフォンをテーブルに置く。
すぐには返信は来ない。
夜は静かだ。
時計の秒針が動く音だけが聞こえる。
しばらくして。
スマートフォンが震えた。
画面が光る。
園田からだった。
美奈子はゆっくり画面を開く。
いつでも
その短い言葉を見た瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなる。
逃げない。
園田はいつもそうだ。
静かに、まっすぐ。
美奈子はスマートフォンを置く。
深く息を吐く。
まだ何も終わっていない。
でも。
もう、逃げない。
恋というものは、
好きになる瞬間より、
自分の気持ちを認める瞬間
の方がずっと重い。
その夜、美奈子は初めて思った。
もう、答えから目を逸らさない。
どんな結果になっても。
自分で選ぶ。
それが、
美奈子の決断だった。




