31:真実
真崎芽衣は援助交際などしていません。
純然たる被害者です。
それだけはまず最初に明言しておきます。
何も悪くない。
何もしていない。
ただ、巻き込まれただけです。
そして、芽衣を殺したのは浜部拓也です。
それは間違いありません。
ですが、それだけではない。
この事件を「浜部拓也という男が起こした、単独の行きずりの犯行」として終わらせたこと自体が、二度目の殺人です。
芽衣は、一人の男に偶然狙われて殺されたのではありません。
「浪川結花」
そして、珂木共生会の母体である宗教団体「天霊の会」
この二つもまた、芽衣を殺した加害者です。
私はここから、芽衣が殺されたあの日に至るまでに何があったのかを説明します。
浪川結花は、新興宗教団体・天霊の会の信者です。
両親も同じく信者であり、情報提供者である立花さんとは違い、浪川結花本人も、自分の意思で教団に属し、信心を持ってその活動に携わっています。
天霊の会は、珂木共生会として珂木市における地域振興や地域支援を行っており、それにより助けられている人がいることも事実でしょう。否定しません。
ですが、その外面の良さの奥に、腐った中身があるのです。
天霊の会には、悪しき「繁殖の仕組み」があります。
信者同士の結婚を、積極的に勧めている。
いいえ、勧めているという生易しいものではありません。
強制的に組み合わせる。
カップリングする。
交際させる。
結婚させる。
そうして信者同士が家庭を持ち、その子供も入信させる。
それを繰り返すことで、天霊の会の地盤は揺るぎないものになる。
この教団は長年、それを続けてきました。
立花さんのご両親も、浪川結花の両親も、同じ経緯で結婚したものだと私は把握しています。
信心の名のもとに、本人たちの意思よりも、教団の存続を優先する。それが当たり前として運用される。最悪の仕組みです。
そしてさらに、この仕組みには、もう一段、腐った部分がありました。
高額献金者には、より希望に沿った相手をあてがう。
“捧げた額”に応じて、相手が変わる。
最低最悪です。
浜部拓也は、その高額献金者でした。
そもそも浜部は、古参の信者ではなく、比較的歴の浅い信者です。
どこかで彼は聞いたのでしょう。
「高額献金者には理想の女性があてがわれる」というような、そういう噂を。
浜部はそれを目的に天霊の会に入信しました。
そして数年にわたり高額献金を続けました。
浜部が望んだのは、若い嫁でした。
教団がその候補として選んだのが、浪川結花です。
浪川結花の両親である浪川誠也と乃利子も、教団内の繁殖の仕組みで結婚していた。
そういう背景もあり、候補に挙がったのでしょう。
ですが浪川結花には、どうしても浜部拓也を受け入れることができませんでした。
当然です。周囲にいる友人たちは、みんな年相応の恋愛を楽しんでいる…そんな女子高校生が、五十歳を過ぎた中年男性と交際をするなど、受け入れられるはずがない。
しかし、両親や幹部は交際を迫りました。
二人は幾度もデートを重ねることになります。
浪川結花にとっては、苦痛だったことでしょう。信心と、浜部に対する生理的嫌悪の狭間で苦しんでいたのだと思います。
ここまでだけを見ると、彼女は被害者です。
実際、天霊の会の悪質な仕組みと、浜部拓也の自己中心的で異常とも言える性愛の被害者でもあったのでしょう。
ですが、このあと浪川結花がその苦痛から逃れるために取った手段は、自分の置かれてる状況が苦痛であることを理解した上で、その苦しみを他人に押し付けて逃げようとする、加害性のある行為でした。
彼女はまず、友人である芽衣を、九月に開催される地域振興イベント、珂木共生祭に誘いました。
なぜ芽衣を選んだのか。
芽衣は、心の優しい、人を思いやる気持ちがある女の子でした。NOと言うのが苦手なタイプだったのです。
強引に誘えば、ついてきてくれる…浪川結花は、芽衣のその優しさに目を付けたのです。
そして思惑通り、芽衣と一緒に珂木共生祭に赴くことになりました。
共生祭では、一橋鎖のブログにも記述があった通り、勧誘対象を祭りに誘い、幹部と会わせ、勧誘し、入信へと繋げる仕組みがありました。
浪川結花は、その勧誘の場に浜部拓也を同席させるよう求めました。
当日はひとまず祭りを楽しみ、「挨拶をする」と言って幹部のいる部屋に芽衣を連れ込みました。
その部屋には、幹部と、浜部拓也がいました。
浪川結花は、浜部拓也を「お世話になっている人」と紹介しました。
そして芽衣は、一通りの勧誘を受けた。
断ることが苦手な芽衣は、どんな思いでその場にいたのでしょうか。
親友に裏切られ、汚い大人たちに怪しげな宗教に勧誘される。きっと、挫けそうになりながらも必死でその場を切り抜けようともがいたのでしょう。
想像するだけで胸が張り裂けそうになります。
ともあれ芽衣は、明確な返答をせず、どうにかその場をやり過ごすことには成功したようです。
後日、浜部拓也との強制デートの日に、浪川結花は幹部との三者面談を希望します。
そこで彼女は、浜部と幹部にこう告げました。
「先日、共生祭に連れてきた親友の芽衣が、浜部さんのことを好きになってしまったようだ」
「私は、親友が好きだと言っている人と付き合うなんて、できない」
浜部拓也のような歪んだ性癖を持つ者は、自分よりもルックスの良い芽衣に流れるだろう。それは容易に想像できた。
教団側も親友と恋人が信者となれば、芽衣さんも入信する可能性が高いと踏んだのでしょう。最低最悪の仕組みの矛先は、芽衣へと向いたのです。
浜部拓也は浪川結花を通し芽衣の連絡先を手に入れて、積極的に芽衣にデートをするよう迫りました。しかし、芽衣はそれを拒絶します。
当然です。ほんの少し顔を会わせたことがあるだけの、怪しい宗教団体に属する中年男に、執拗に二人で会うことを迫られる。恐怖でしかありません。
ですが、「真崎芽衣は自分に好意を持っている」と愚かにも信じ込んでしまっている浜部拓也は、何度も、何度も、何度も、執拗に芽衣にアプローチを続けました。
それでも芽衣は二人で会ってくれない。
会えない。
浜部拓也はついに、浪川結花と教団に不満をぶつけました。
焦った浪川結花は、勧誘行為のあった日以来疎遠になっていた芽衣に連絡し、呼び出します。
「今までのこと、会って謝りたい」
2020年12月10日、23時30分。
林道近くの公園。
芽衣は、家族に「コンビニに行ってくる」と告げ、約束の場所に向かいました。
なぜ芽衣は、家族にも、私にも、浜部や教団に関する悩みを相談してくれなかったのでしょうか。
それはきっと、芽衣の優しすぎる性格がそうさせたのだと思います。
その優しさが、結果的に芽衣自身の命を奪う結果になってしまうと知らずに。
浪川結花は、浜部拓也を、芽衣を呼び出したのと同じ場所に、芽衣に告げた時刻よりも少し早く呼び出しをかけました。そして、「このあと芽衣が来るから、二人のこれからについて話し合って」と伝えます。
そして、おそらく自分の行動が良くない結果に繋がる可能性があることを感じていたのでしょう。少し離れたところから、隠れて二人を見守っていました。
そして、あの悲劇が起こったのです。
親友だと思っていた友人に裏切られた。しかし、仲直りできるかもしれない。
まったく友人を疑わず、健気にもそう信じて人気のない暗い待ち合わせ場所まできた芽衣を待っていたのは、恐怖の対象でしかない、浜部拓也でした。
驚く芽衣。
交際を迫る浜部拓也。
芽衣は拒絶し、逃げ出そうとする。
浜部拓也の、交際が進展しないことへの苛立ち。
自分に好意を持っていると思っていた相手からの、拒絶。
その歪んだ欲望と怒りは、最悪の形で発露しました。
現場を隠れて見ていた浪川結花は、教団幹部に連絡します。
ほどなくして現場に到着した幹部は、すでに冷たくなり始めた芽衣と、呆然自失となって立ち尽くしている浜部拓也を見ると、「あとはなんとかする」と言って浪川結花を帰しました。
浪川結花が知っているのは、ここまでです。
その後、事件は公になりましたが、「浪川結花」の名前も「天霊の会」の名前も出ないまま、「浜部拓也と真崎芽衣の事件」として報道されました。
やがて浜部拓也は逮捕され、事件は「解決」し、忘れ去られていきました。
浜部拓也を爆発させることになった多くの火種を公表することなく、闇に沈んでいったのです。
これが、あの事件の真相です。
行きずりの犯行などではありませんでした。
浜部拓也が芽衣を殺したことには違いありません。
ですが、それだけではない。
天霊の会の歪んだ「繁殖」の仕組み。
浪川結花という人間の、「自分さえ助かればいい」という苦痛の押し付け。
それらもまた、芽衣を殺した犯人です。
天霊の会と浪川結花が裁かれずに、のうのうと過ごしていることは許されることではない。
私はこの真相を告発します。
そして願います。
両者に正当な裁きがくだされることを。




