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科学者だって魔法を使いたい!  作者: メガ・ウルトラギガ
勇者の目覚め 出会い編
9/16

5 地獄の特訓 マリアの密かな願い

王都ロゼリア南部、ギルド管理下の特別訓練場――通称「地獄の円環」。


広大な結界空間に造られたこの場所は、魔力を持たぬ者にとっても生命の危機となる苛烈な修行場であり、ロゼリア魔法ギルドのギルドマスターのマリア直属の訓練施設として知られていた。


今そこにいたのは、ミーナとタケル。

黒の魔女マリアの指導のもと、極限の修行が始まっていた。


「魔力がないからといって、休んでいい理由にはならないわよ」


マリアの美しい声が、鋭利な鞭のように飛ぶ。


「次。魔原子操作基礎、十二式。無詠唱連続変換、五連射」


「えっ、待って、いまの連続って……あっつぅぅ!? もしかして水って言ったのに火ぃ!? ギャーッ! 尻がぁぁぁああ!!」


「タケル燃えてる!?!? っていうか……これ、ほんとに初心者レベルの内容!?」


ミーナもまた、既に何度も魔力操作を誤って地面に突っ伏していた。


しかしマリアは表情一つ変えず言った。


「これが“普通”よ。特にあなた、タケル。あなたのような“異物”は、魔法を“理解して”使わない限り、一生使い物にならないわ」


「理不尽だあぁ……」


タケルは呻きながらも、サイエンススキルによる構造解析を無意識のうちに行っていた。

風、水、火、土。魔原子の配列を感覚で読み取り、変換のための流れを頭の中に描き出す。


(……まるで、分子構造の化学式みたいだ)


そして何度も、何度も失敗しながら、タケルはゆっくりと「魔法の原理」を“知識”として自分に刻んでいった。



数日後。夜。訓練場近くの休息所。


ミーナは布に包まれた手をさすりながら、焚き火を見つめていた。


「……痛いけど、不思議。タケルと一緒にいると、どんな無茶でも“できるかも”って思える」


小さく笑うミーナ。その視線の先には、疲れ果てて薪の上に寝転がるタケル。


その姿を見つめるもうひとつの視線があった。


――黒の魔女、マリア。


その目は鋭さを湛えつつも、どこか懐かしげな色が混じっていた。


(やっぱり……)


「あなたを見ていると、思い出すわ。昔……“魔力ゼロ”だった男を」


マリアの紫の瞳が、焚き火の中に滲んだ。


「いけないわね、歳をとるとすぐに思い出に浸っちゃうわ」


すっと表情を戻す。


「さあ、明日も地獄の一日が待ってるわ。せいぜい覚悟しておきなさい」


そう言い残すと、マリアは夜の闇に溶けるように姿を消した。



一方――同時刻、王都北側 学園寮


ユリは月を見つめながら、訓練着のままベランダに出ていた。


(……タケルくん)


彼が“黒のマリア”の元で修行していると聞いたとき、胸が強く脈打った。


(あの人の修行は、魔力がある者にとっても苛烈……タケルくんに耐えられるの?)


不安と同時に、どこかで嬉しさを感じる自分もいた。


(でも……)


思い出す。タケルとミーナが、並んで歩いていたあの姿を。


(……ずるいな)


胸の奥が、チクリと痛んだ。

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