まだ気になる人 ミーナside
ギルドの宿の一室。
夜は静かに深まり、遠くで風が窓を震わせた。
(また……やっちゃった)
魔力暴走。
何度も繰り返した、忌まわしい記憶。
周りの人に“危険な子”と距離を置かれ、家族にすら扱いきれないと悩まされた過去。
(なのに、タケルは……)
ミーナはタケルの顔を思い出す。
魔物が襲ってきたとき。
あのとき、真っ先に自分をかばってくれた。
しかも彼は、魔力がゼロ――それなのに。
「……バカみたいに、無茶して」
枕に顔を埋める。
怖かった。でも、嬉しかった。
誰かに全力で守られたのなんて、きっと、初めてだった。
(……なんだろう。変な人。ちょっと抜けてて、でもすごく優しくて、勇敢で)
“仲間だから”って言ってくれた。
(仲間……か)
それだけのはずなのに、どうしてこんなに胸が苦しいの?
ギルドの廊下を歩くとき、彼がふと笑いかけてくれるたびに――
心臓が、どくんと跳ねる。
(これって、まさか)
自分でも気づかないふりをしていた想いが、そっと顔を出す。
(わたし……あの人のこと、好きになっちゃったのかな)
窓の外を見ると、月が静かに照らしていた。
(だけど――)
ミーナはそっと目を閉じた。
(あの人には、何か“大事な人”がいる気がする)
あの草原で出会ってからここ王都ロゼリアにくるまでの道中、彼の横顔は、時々、とても遠いところを見ている気がした。
名前も思い出せない“誰か”を、探しているような。
(……わかってるわ)
(わたしじゃ、あの人の過去には入れないかもしれない)
でも、それでも――
(今のわたしが、“今のタケル”にできることがあるなら)
(そばにいたい)
(それが例え憧れの人相手だとしても…)
月の光が差し込む中、少女はそっと、胸に手を当てた。
(これが、“恋”なのかもしれないね)
「あ〜あ!最初から勝ち目の薄い戦いなんてヤんなっちゃうんだから!」
(それでも、わたし譲ってあげないんだから)