再会後 ハルトside
夜の訓練場。
誰もいない石畳の上に、カムイ・ハルトは立っていた。
剣を構え、無音で振り下ろす。
一太刀、また一太刀。月に照らされるその姿は、影すらも揺るがぬように静かだった。
(やっと……戻ってきたな、タケル)
広場でのあの姿。暴走した魔力に、臆さず飛び込んで制御しようとしたあの背中。
(お前の中に、まだ“あの頃の魂”は生きてる)
けれど――
(なぜ……俺のことを忘れてる?)
静かに、剣を下ろす。
(ユリのことも、過去のことも、全部……)
それは、自分を殺したあの上層部すら覚えていないということ。
“今のタケル”にとって、自分、カムイ・ハルトはただの“最強の魔法士”の一人でしかない。
「……クソが」
苛立ちを抑えきれず、拳で壁を殴った。
ガラガラと石造りの壁が崩壊する。やがてジンジンと拳が熱をもつ。
だが、その痛みが逆に彼を落ち着かせる。
(今は、それでもいい)
(あいつは必ず思い出す。そういう男だ)
彼の目には、確信があった。
(お前は、誰よりも諦めの悪い天才だったじゃないか)
(過去に抗い、未来を変えようとした。命すら惜しまなかった男だ)
「早く思い出せ、タケル。お前は“科学者”で、俺の……親友だった」
ハルトの目に、静かに決意の火が灯る。
「――そしてもう一度、一緒に世界を変える」
俺はお前のためならいくらでも待てる。
夜の訓練場に、一人の男の背中だけが浮かび上がっていた。