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科学者だって魔法を使いたい!  作者: メガ・ウルトラギガ
勇者の目覚め 出会い編
2/16

1 ミーナとの出会い


ーー風が、心地よかった。


草の香り。小鳥のさえずり。乾いた大地の感触。

けれど、それ以上に、胸の奥に渦巻く“焦燥感”が彼を締めつけていた。


(ここは……どこだ……?)


少年はゆっくりと上体を起こした。見渡す限りの草原。見知らぬ空。

そして、自分の名前「ヤマト・タケル」以外、なにも思い出せない。


(誰か……誰かを、助けなきゃいけなかった……)


確信とも妄想ともつかない思いが胸の奥に根を張っていた。

何を救わなければいけないのか。誰を救うべきだったのか。

すべてが霧の向こうにある。


右手に握っていたのは、壊れかけた銀色の機械の破片。

用途も名もわからない。けれど、なぜか──これだけは絶対に「捨ててはいけない」気がした。


それをポケットに仕舞い込み思考の沼に落ちる。


(……俺は、勇者なんだ)


思考は唐突に、そう結論づけた。意味も理屈もない。けれど、胸の内にこだまする使命感が、それを信じさせる。


(だから、きっと俺はこの世界を救うために来た……!)


その時だった。


「──キャァァァァァァッ!!」


遠くから、甲高い少女の悲鳴が草原に響いた。


タケルは無意識のうちに体を動かしていた。

悲鳴の方角へ、必死に草をかき分けて駆ける。


──そして見た。


短く切り揃えられた金髪の猫獣人の少女が、杖を抱えながらよろめき、後ろから追いすがる黒毛の狼のような魔物に迫られていた。

少女は怯えた目で逃げるが、足がもつれ、転倒する。


(考えろ……何か……何か……!)


手元にある機械の破片。それを見て、体が勝手に動いた。


眼前では金髪の少女が地に倒れ、肩で息をしていた。

その背後に、全身を黒毛で覆った異形の獣。

大きな牙。赤い瞳。地を蹴るその姿は、まさに獲物を狩るものだった。


「逃げろっ!!」


タケルは迷いなく叫び、少女と魔物の間に割って入った。


「な、なにして──っ!?」


少女は怯えた瞳で見上げる。

タケルは武器もないまま、手頃な石を拾って構えた。


(どうすればいい……? くそっ……体が震えてる……!)


魔物は唸り声をあげ、飛びかかってきた。


タケルは咄嗟に横に跳ぶが、肩に爪がかすめ、激痛が走る。


「ぐっ……!」


血がにじむ。足元がふらつく。

少女が悲鳴を上げて身をすくめる。


ーーこのままじゃ、死ぬ。自分も、彼女も。


(なにか……なにか武器はーー)


ポケットに手を入れた。冷たい破片が指に触れる。

これだけは、何故か「使える気」がした。知らない筈の破片が《解った》


(この形状……圧縮反応機構……?)


タケルの瞳が赤く光った。

頭の奥で、封じられていた何かが一瞬だけ“目覚めた”。


「……スキル《サイエンス》、起動──」


言葉が勝手に口から漏れた。


次の瞬間、破片が淡い光を放ち、空中に青白い円陣が浮かび上がる。

その中心から閃光が迸り、魔物の動きを一瞬だけ封じるバインドフィールドが発動した。


「なっ、なに……これ……!?」


タケルは自分でもわからない力を操っていた。

無意識に数式を組み、素材の構造を解析し、発動回路を構築していた。


「いまだッ!!」


彼は迷わず飛び込み、下に落ちていた枝を拾い上げ、魔物のこめかみに力いっぱい突き刺した。


──魔物は悲鳴を上げ、血を吐き、倒れた。


しばしの沈黙。草原に、風の音だけが残る。


タケルはその場に崩れ落ちた。


「はぁっ……はぁっ……!」


肩は血に染まり、呼吸もままならない。

それでも──少女が無事であることに、心底ほっとしていた。


タケルはその場にへたり込み、荒く息を吐いた。

少女が恐る恐る草木の間から顔を出す。


「す、すご……なにそれ、何者……?」


タケルは笑った。ぼろぼろの白い布と金属の破片だらけの自分の服を見下ろす。


「……俺は、勇者らしい」


「……はあ?」


少女はあきれたように呟いた。


「自分の名前以外……なにも思い出せない。でも、“助けなきゃいけない”って、それだけは……胸の中に、ずっとあるんだ」


少女はしばらく黙っていたが──やがて、ふっとピンク色の目を弓なりにして微笑んだ。


「……なんか、嘘ついてる顔じゃないわね。変な人だけど」


タケルも照れ笑いを返す。


「私はミーナ。見ての通り猫の獣人族よ。魔法学校を目指してたんだけど……こんな草原で迷って、魔物に襲われちゃって……助けてくれてありがとう、“勇者”さん!」


「お安い御用さ」



だが、タケルは知らなかった。

この世界には“魔法”という概念が存在し、自分が“魔力を持たない異端者”だということを──まだ。

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