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科学者だって魔法を使いたい!  作者: メガ・ウルトラギガ
ローズ王立魔法学園編
14/16

兄の意地 ジルベールside

誰にも見せられない日記がある。


貴族の長男として育てられた少年――ジルベール・アークライトは、夜、机に向かい、静かにそのページをめくった。


(今日、また“あれ”を言われた)


「おや、アークライト家にもこんな“控えめ”な魔力の子がいたとは」

「双子で、この差……ルル様はやはり別格ですな」


控えめ? ただの皮肉だ。

言外に言っている。「おまえは姉の劣化コピーだ」と。


ジルベールはペンを握る手に力を込めた。

手が震えているのは怒りか、悔しさか、それとも――。


(……妹の前では、そんな顔、絶対に見せられない)


双子の妹、ウル。

よく泣いていた。

でも泣いている姿を、外では絶対に見せない子だった。

だからジルベールは、**「兄であること」**に全てを賭けてきた。


(俺が、ウルの盾でなければならなかった)


姉のルルは――完璧だった。

魔力量、制御、魔法適性、すべてが規格外。

「アークライト家の誇り」と、堂々と呼ばれるにふさわしい存在。


だがその影に生きる双子は、どうなる?


貴族の宴席では、並んで立つだけで比較された。

訓練場では、手加減をされると分かっていても、勝負を挑み続けた。


それでも、ルルとの差は縮まらなかった。


(努力だけでは、届かないものがある)


それがこの世界の“現実”だった。

魔力量は血で決まる。才能は、家で決まる。

それを崩せるのは――奇跡か、あるいは……。


(あいつ……タケル。あいつは……なんなんだ?)


ジルベールは思い返す。


Dクラスの教室に現れた魔力ゼロ。


なのに、何も恐れず、堂々としている。

魔力量が全てのこの世界で、魔力がないことを恥じるでもなく――。


(“俺は俺のやり方でやる”って顔だった)


それが、癪だった。

悔しかった。

なのに――どこか、憧れてしまった。


「……違う。あんなやつ、俺は認めない」


口ではそう言っても、胸の奥が否定できない。


(俺たちを見下したやつらにも、あいつは似てない)


目が合ったときにわかった。

タケルは、誰よりも“誰かを守ろう”としている目だった。


それが――嫌だった。

羨ましかった。

どうして、俺には……。


「……っくそ」


手にしていたペンが折れた。

黒インクが滲み、日記の文字を黒く染めた。


ジルベールは深く息を吐いた。


(負けるわけには、いかない)


妹の前で、弱さは見せられない。

姉を見返すためにも、今度こそ――!


立ち上がる。視線はまっすぐだった。


そして、心の奥に――誰にも見せられない小さな声が響いた。


(……俺も、変われるだろうか)


それは、希望だったのかもしれない。

ただし、今はまだ、それを認めるには、彼は少しだけプライドが高すぎた。


「魔力ゼロの勇者なんて聞いたことねぇよ」


そう溢した口元には笑みが溢れていた。

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