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科学者だって魔法を使いたい!  作者: メガ・ウルトラギガ
ローズ王立魔法学園編
13/16

9 炎の記憶



放課後――。


「おい、魔力ゼロ、放課後、裏のグラウンドに来い。言いたいことがある」


そう書かれた紙がタケルの机に投げられていた。

書いたのはジルベールに違いない。ミーナが心配そうに見てくる。


「タケル……やめよう? 絶対、ケンカになるわよ……」


「平気だって。ちょっと話すだけさ」


しかしタケルの声に、どこか覚悟が滲んでいた。



Dクラス専用の裏グラウンド。


夕陽の中、ジルベールが腕を組んで立っていた。少し離れた所にウルが無表情で立っている。



「――始めるぞッ!」


地を踏み鳴らすように、ジルベールが杖を地面に突き立てる。

その瞬間、彼の足元から赤い魔方陣が展開され、空気が一気に熱を帯びた。


「《フレア・ランス》!」


轟音とともに、灼熱の槍が複数、空中からタケルに向けて一直線に放たれる。


(速い……!)


タケルは即座に身を転がし、地面を滑るようにして火炎の直撃を避けた。炎が巻き起こした熱気が肌を焼く。


「こっちは手加減しねえぞ。お前がどうなろうと関係ねえからなッ!」


ジルベールの表情には怒りとも苛立ちともつかない、激しい感情が渦巻いていた。


「……なんで、そんなに……」


問いかけるタケルに、ジルベールは吐き捨てる。


「“貴族のくせに魔力が少ない”ってだけで《失敗作扱い》だ、笑われた俺たちに、お前みたいな魔力ゼロが何で笑ってんだよ…ヘラヘラしてる顔が……気に食わねえんだよッ!」


再び炎の槍が撃ち出される――!


(逃げるだけじゃ、終わる……!)


地面を蹴って接近しようとした瞬間、爆風が足元を吹き飛ばした。タケルの体が宙に浮き、瓦礫に叩きつけられる。


「ぐっ……!」


焦げた空気と、焼け焦げた匂い。傷ついた腕がジリジリと痛む。


「タケル!!」

遠くでミーナの叫びが聞こえた。


そして――。


火の粉が舞う赤い空を見上げた瞬間だった。


――その光景が、重なった。


燃える研究所。

火の海の中で誰かが叫んでいる。

白衣をまとった影が、こちらに向かって手を伸ばして――。


「……だれ、だ……?」


タケルの頭に、走る閃光。


次の瞬間、彼の目が冷静さを取り戻していた。


「解析開始──対象:魔法構造式フレア・ランス


静かに呟いたその言葉と同時に、タケルの瞳が淡く赤く発光した。


「っ!? 何をした……?」


ジルベールの魔法が軌道を逸れ、まるで何かに吸い込まれるように空へと消える。


「いまのは……【サイエンス】……?」


ミーナが呟く。

「解析・変換・融合」スキル――それがタケルの無意識の中で発動していた。


「お前の魔法は、炎系統でも旧式の術式だ。空気圧と熱圧のバランスが崩れてる。再編すれば、無効化だってできる」


「ふざけんなッ……!おまえ何者だよ」


「ただの魔力ゼロの《勇者》さ」


「バカ言ってんじゃ…ねぇよ…ッ!!」



ジルベールが再び杖を振り上げる。しかしその手首を、タケルが素早く掴んだ。


「悪いけど、そろそろ終わりだ」


タケルの拳が、まっすぐにジルベールの腹に叩き込まれた。


「……がはっ!」


炎の少年が倒れ伏し、決闘は終わった。


「……終わり、か」


肩で息をしながら、タケルは空を見上げた。夕暮れの空が、今はなぜかひどく懐かしく思えた。



「やれやれ、予想以上の被害者だね。正直、驚いたよ」


柔らかな声がして、後方から拍手が聞こえた。


振り向くと、カイラス・ヴェノートンが立っていた。

制服は乱れひとつなく、その整った顔立ちに微笑を浮かべていた。


「タケルくん、君がまさかこんな力を隠してたなんてね」


「……見てたのか」


「もちろん。ボクは情報収集が趣味だからね。注目株の2人の決闘とあればね…――けど、タケルくん、君の活躍は期待以上だったよ」


その眼差しはまっすぐで、嘘の色はなかった。

それでいて、どこか“底が見えない”とも思わせるのは、彼の持つ雰囲気ゆえか。


「……ありがとな」


タケルが静かに応じたとき、遠くでウルがジルベールに肩を貸して立ち上がらせていた。


「なぁ…、アイツに今度話しかけに行ってもいいか?知りたいんだ、アイツがなんであんな強いのか」


「……勝手にしなさい。私は関係ないけど」


ウルがどこか悔しそうな顔をしながら小さく呟く。


「そうかよ……」


そう呟くジルベールに、タケルは静かに近づいた。


「……俺に勝ったからって、調子に乗るなよ」


「わかってる。でも、戦ってくれてありがとう」


互いの瞳が交差する。

そこにあったのは、憎しみではなく――確かな火花だった。


(また、ひとつ近づいた。記憶の断片に)


タケルは拳を握りしめ、心に誓う。


(誰に何を言われようと、俺は……俺にできることを、やる)



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