7 ローズ王立魔法学園
「はぁ……なんとか、試験終わった……!」
ミーナが両腕を伸ばし、芝の上に大の字に倒れこむ。まだ空気が乾ききっていない早春の午後。学園の試験場を出たタケルとミーナは、校門前の広場で一息ついていた。
「……体力試験と筆記はまだなんとかなったけど、最後の魔力適性試験は……」
「うーん。私ちょっと暴走しかけちゃったかも……あはは…」
ミーナが頭を掻いて笑う。笑顔はいつもの元気なものだったが、その奥に少しの不安も見え隠れしていた。
一方、タケルは試験で使用した【サイエンス】スキルの再現にまだ戸惑っていた。
(魔法の構造を科学式に置き換える……あれは俺にしかできない。でも、あのとき無意識でやった感覚がまだつかめない)
彼の頭の中では、いまだに“魔力ゼロ”という事実と、それでも魔法を操れた違和感が交錯していた。
そんな時、校門から真紅のマントを羽織った人物が近づいてきた。
「大和タケル、ミーナ・フレイア。合格だ。今日からお前たちは王立魔法学園の生徒となる」
そう声をかけたのは、編入試験の責任者でもあった中年の教師、ガラム・エグゼリア。
「やったわ…!合格だって、タケル!」
「……マジで? よ、よかった……!」
思わず立ち上がったタケルに、ガラムが少し険しい目を向けた。
「だが、Dクラスだ」
「……D?」
「魔力量、属性適性、筆記すべて平均以下の生徒が振り分けられる最下位クラスだ。まあ、お前らの点数では当然だろう」
ガラムは鼻を鳴らすと、2人に入学証と学生証――つまり魔法学園でのIDとなるカードを手渡した。
「この学生証には、お前たちのクラス、魔力量、ギルド認証番号が記録されている。街の施設の利用、ギルド連携、身分証明としても使用可能だ。なくすなよ」
ミーナは「すごーい!」と目を輝かせながら学生証を手に取り、タケルもまたじっとカードを見つめた。
(……俺は、本当にここから始まるんだ)
「魔力量ゼロでも、やれるってところを見せてやるさ……」
そんな独り言をつぶやくタケルを見て、ガラムがぴくりと眉を動かした。
「魔力量ゼロで学園に入ったのは……歴代でもお前が初めてだ。だが、お前には《推薦者》がいる。あの黒の魔女・マリアの推薦だ。……それだけで無下にはできん。せいぜい、恥をかくな」
「……ありがとうございます」
そう言って一礼するタケルに、ガラムは苦笑しながら去っていった。
「……ふふ、これで晴れて、わたしたちも魔法学園の生徒だね、タケル!」
「そうだな。やっと、スタートラインだ」
だが――。
その背後、白い塔の上から2人を見下ろしていた2つの影があった。
「タケルくん…」
白銀の髪を風に揺らす少女・ユリが、タケルの姿をじっと見つめていた。
その隣で、銀髪に翠の瞳を持つ青年・ハルトが腕を組む。
「記憶が戻っていない……か。だが、動き始めたな、ようやく」
「そうね……」
ユリの目にはわずかな涙が浮かんでいた。
(お願い……思い出して。あの未来を変えるために、あなたはここにいるんだよ)
――物語は、静かに、だが確かに加速を始める。