SNSは健全にご利用ください ~ 白雪姫はインフルエンサー ~
昔々、あるところに、それはそれは美しいお姫様がおりました。
その名は白雪姫。
肌は陶器のように白く、髪はカラスの羽のように黒く、そして何よりも、自撮りの腕がプロ級でした。
しかし、白雪姫の幸せは長く続きませんでした。彼女の父である王様が再婚したのです。新しい王妃は、それはそれは美しい女性でしたが、何よりも自分の美貌に絶対の自信を持っており、毎日毎日、魔法の鏡に問いかけていました。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだあれ?」
すると鏡はいつもこう答えるのです。
「それはもちろん、王妃様、あなた様です」
王妃は、その答えに満足し、優雅な日々を送っていました。しかし、白雪姫が成長するにつれ、その美しさは増すばかり。特に、加工なしでも完璧なその美貌は、SNSで瞬く間に話題となり、フォロワー数は王妃を遥かに凌駕する勢いでした。
ある日、いつものように鏡に問いかけた王妃は、信じられない答えを聞いてしまいます。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだあれ?」
「それは……白雪姫様です。その美しさはSNSで世界を魅了し、フォロワー数はすでに女王様を大きく上回っております」
この答えに、王妃は激怒しました。「なんだと!?あの小娘が私より美しいだと!?しかもSNSでチヤホヤされているなんて許せない!」
王妃はすぐに狩人(実はただのリストラされた元ITエンジニア)を呼びつけ、白雪姫を森に連れて行き、始末するように命じました。
「もし、生かして帰ってきたら、お前の過去のSNSの黒歴史を全て暴露するぞ!」
脅された狩人は、渋々白雪姫を森へと連れて行きましたが、彼女のあまりの美しさと、「お願いです!私の盛れてる自撮りデータ全部あげるから見逃してください!」という懇願に負け、見逃してしまうことにしました。
森の中で一人になった白雪姫は、心細く歩き続けました。すると、可愛らしい小さな家を見つけました。中に入ってみると、小さなテーブルに7つの小さな椅子、そして7つの小さなベッドがありました。
「わあ、ミニマリストのシェアハウスだ!」
白雪姫は、疲れていたので勝手にベッドを借りて眠ることにしました。
夜になり、家に帰ってきたのは、なんと7人の小人……ではなく、7人のインフルエンサー予備軍でした。それぞれが、ゲーム実況、ASMR、料理動画、Vlogなど、異なるジャンルの配信者を目指していました。
白雪姫は事情を説明し、しばらくの間、彼らの家に住み着くことになりました。彼女のプロ級の自撮りスキルと編集技術は、7人のフォロワー数を劇的に増やし、彼らは大喜び。白雪姫は、彼らの動画に出演したり、サムネイルを作成したりと、充実した日々を送っていました。
一方、白雪姫が生きていることを知った王妃は、激しい嫉妬に駆られました。そして最新の変装アプリを駆使し、老婆に変身して白雪姫に近づきました。
「おや、お嬢さん。何かお困りですか?」
「いえ、特に……って、そのリンゴ美味しそうですね!」
老婆(実は王妃)は、毒入りのオーガニック青森りんごを白雪姫に差し出しました。
「これは特別に栽培された、美容効果抜群のリンゴですよ。一口いかが?」
SNSのネタになるかも、と思った白雪姫は、軽い気持ちでリンゴを一口かじりました。
その瞬間、白雪姫はバタリと倒れてしまいました。毒によって、彼女は意識を失い、SNSアカウントは凍結寸前に。
悲しみに暮れる7人のインフルエンサー予備軍。彼らは、白雪姫をガラスケースに入れ、彼女の美しかった頃の自撮り写真と共に、SNSで追悼配信を行いました。
すると、それを見た通りすがりのイケメンIT社長(もちろん王子様の生まれ変わり)が、「なんて美しい……いや、加工技術がすごい!」と感銘を受け、白雪姫に近づきました。
彼は、最新のVR技術を使い、白雪姫の脳波を解析。すると、微弱な信号が残っていることを発見しました。
「まだ、生きている!?」
王子は、白雪姫に最新の蘇生ポッドを使い、見事蘇らせることに成功しました。
目覚めた白雪姫は、自分のSNSアカウントが凍結寸前であることを知り、愕然。しかし、王子の協力により、見事アカウントは復活し、フォロワー数はさらに増加しました。
一方、王妃は、白雪姫が生き返ったことを知り、再び怒りを燃やしていました。しかし、直接的な接触は難しいため、SNSの老婆(裏)アカウントを使って、白雪姫とそのフォロワーたちを陰湿に攻撃し始めます。
最初は単なる悪口コメントでしたが、次第にエスカレートし、白雪姫の過去の投稿を捏造して中傷したり、フォロワーの個人情報を晒そうとしたりするようになります。
しかし、王妃の稚拙な ネットリテラシーが災いしました。IPアドレスの特定を試みたものの、VPNの設定を間違え、うっかり本アカウントに紐づいたままコメントしてしまうという致命的なミスを犯してしまったのです。
あるフォロワーが、王妃の過去の投稿と、老婆アカウントからの攻撃的なコメントの文体、時間帯、そして使用しているデバイスの情報を検証しました。すると、驚くべきことに、両アカウントの間にいくつかの共通点が見つかったのです。
そのフォロワーは、証拠となるスクリーンショットと共に、「この老婆アカウント、もしかして王妃様本人なのでは?」という考察をSNSに投稿しました。
最初は半信半疑だったフォロワーたちも、次々と過去のコメントや投稿を検証し始めます。王妃の過去の投稿に見られた貴族的な言い回しや、 憎悪に満ちた感情が、老婆アカウントのそれと酷似していることが明らかになっていきました。
さらに、王妃が過去にライブ配信でうっかり漏らした個人情報と、老婆アカウントが示唆する情報が一致する点も発見されます。
決定的な証拠となったのは、王妃が過去にアップロードした写真に、一瞬だけ映り込んだ変装アプリのアイコンでした。熱心なフォロワーがそのアプリを特定し、老婆アカウントが使用しているエフェクトと一致することを発見したのです。
「やっぱり王妃様だ!」
「自分のフォロワー減ったからって、陰湿すぎる!」
「白雪姫に謝れ!」
瞬く間に、王妃の裏アカウントの情報は拡散され、彼女の本アカウントにも非難のコメントが殺到しました。
「美しいのはお前じゃない!心が醜い!」
「フォロワー数操作してたのバレバレ!」
「もう二度とSNS使うな!」
王妃は慌てて裏アカウントを削除しましたが、一度ネット上に拡散された情報は消えることはありません。過去の栄光は地に落ち、フォロワー数は激減。アンチアカウントが雨後の筍のように現れ、彼女の全ての投稿は炎上状態となりました。
王妃は、現実世界でも非難の目に晒されるようになり、精神的に追い詰められていきました。かつて「この世で一番美しいのは私」と豪語していた王妃は、今や王城の片隅で、ひっそりと人目を避けて過ごす日々を送るのでした。
そして、白雪姫は、真の美しさは外見だけでなく、内面から輝くものだと改めて感じ、王子と共に、SNSの健全な利用を啓発する活動を始めるのでした。
めでたしめでたし?(SNSは怖いぞ!)