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イベント・春 (2025)

子どもを育てる話し方




「ちょっとユウキちゃん!どうして落書きするの!?」

 私は甲高い声で息子に言う。

「♪~~♪~~♪~~」

 ユウキちゃんはクレヨンで線を家具や壁に描く。

 直線、曲線、くるっと輪を描いては走り回る。 

「そこまでにしようか」

「あ!パパ!」

「イサムさん!」

 夫のユウキがユウキをひょいっと持ち上げた。

「壁や家具が傷んじゃうだろ?」

 そのままユウキちゃんを抱っこする。


「こっちの大きな紙になら好きなだけ書いていいぞ」

「ホント!?」

「ああ。落書きをやめてくれたらね」

 ユウキちゃんが(うなず)くのを見てイサムさんはおろす。

「ありがとう。はい紙」

 A3用紙をイサムさんはユウキちゃんに手渡した。

 そして床に新聞紙を()き横に紙の束を置く。

「わーい!ありがとうおとうさん!」

 ユウキちゃんは床に寝そべって絵を描き始めた。

 

(よかった……)

 そう思うと隣の部屋から泣き声が耳に届く。

「マキちゃんね。今行くわ」

 私は赤ちゃんのマキちゃんを抱きに向かった。


    ☆    ☆    ☆    ☆    ☆


「はい。お弁当。お仕事応援してるわ」

「ありがとうマイさん。行ってくるね」

 

(あ!しまった!聞いとけばよかった)

 昨日ユウキちゃんがすんなり言うことを聞いた。

(聞いとけばちょっとは楽になったかも)

 疲れてて眠ってしまった自分を恥じる。

(夜に聞こう。それまでおとなしいといいな)

 そう思ってわたしは子どもたちに会いに行く。

 

「ねーねーおかーさん遊んでよー」

 ユウキちゃんがペチペチたたいて催促(さいそく)してきた。

「お茶碗(ちゃわん)洗い終えたらね」

 理由を話すとユウキちゃんはたたくのを止める。


    ★    ☆    ☆    ☆    ☆


(叩くのやめてほしいなあ。なんて言い聞かせよう)

 私は昨日のイサムさんの一挙一投足を思い出す。

(私となにが変わってたかな?)

 洗い物をしながらイサムさんを振り返っていく。

(抱っこはやってるしお絵描きも一緒にやるし)

 私と変えている部分はどこかを探す。

(職場でなにか教わってるのかな?)

 やっぱり帰ってきてから聞こう。

 そう思い私は洗い物と考えを終える。

  

「はーい終わったよ。なにして遊ぶ――ってあれ?」

 私が振り返るとユウキちゃんの姿が消えていた。

「どこ行ったのかな?かくれんぼかな」


    ★    ★    ☆    ☆    ☆


 私はユウキちゃんを探しにあちこちの部屋に行く。

 

 いた。

 ぐずりだしたマキちゃんの相手をしようとしてる。

 椅子に立ちベビーベッドの柵の上から手を伸ばす。

(私の代わりになだめようとしてる?ありがとう)

 椅子の上に立っていることは大目に見よう。

(しっかり手すり(つか)んでるしあとでいっか)

 伸ばしていた手の方向を見て私は固まる。

(マキちゃんの目に入っちゃう!)

 

「ありがとね。マキちゃん見ててくれて」

 慌てて駆け寄った私はユウキちゃんを抱き上げた。

 そしてぎゅっと抱きしめタッチングする。


「えへへ」

 ユウキちゃんは嬉しそうな声を出す。

(背中ポンポン気持ちよかったのかな)

 私はユウキちゃんを床に下ろし頭をなでる。

(抱きしめるとかをアタッチメントっていうのよね)

 赤ちゃん教室での学びを記憶の引き出しを開く。

 

「ごめんね。寂しかったんだねー」

 私はマキちゃんを抱きしめ話しかける。

 するとマキちゃんはうれしそうに笑う。

 

「お母さんもやること終わったらすぐ来るからねー」

 しばらくマキちゃんをゆらゆらと揺らしてあやす。

 安心したのかマキちゃんは眠りに落ちていく。


「おかあさんまねるーマキちゃんあやすー」

 やり方を教えてほしいのだろう。

 教えようとした私にひらめきが走る。

「そうね、椅子に立つのをやめたらね」

 ユウキちゃんは椅子から降りて言葉を待つ。

 私とユウキちゃんは隣の部屋に静かに移動する。

 私はウサギのぬいぐるみをユウキちゃんに手渡す。

「どう撫でたいの?お母さんに教えて」

 

「こんな感じ」

 ユウキちゃんはすごい勢いで撫で始めた。

 クマのぬいぐるみの首が上下左右に激しく揺れる。


「ちょっ!やりすぎ――」

 言いかけた私に再度閃きが走り言葉を飲みこむ。

(そっか。そういうことか)


    ★    ★    ★    ☆    ☆


「撫で方が強すぎます」

 イサムさんを真似て低い声でユウキちゃんに言う。

 ユウキちゃんはビクッとして手を止める。

 

「撫で方はこうやるの」

 私はユウキちゃんの手を取って教え始めた。

 

「どう?できそう?」

 手を離して私はユウキちゃんに聞く。

「うん!こうでしょおかあさん!」

 ユウキちゃんはやさしくぬいぐるみを撫でだした。

 

「そう!ありがとうユウキちゃん」

 私は高い声でユウキちゃんを褒める。


「あと大切なことがひとつあるの」

「なあにお母さん」

「人をたたくのはお母さん悲しくなっちゃうわ」

 再び声のトーンを落としてユウキちゃんに言う。

 

「どうすればいいの?」

「声をかけてくれるだけでいいわ」

「うんわかったそうする」

 ユウキちゃんは素直に返事をした。

「わかってくれてありがとう」

 私は高い声で言ってユウキちゃんを抱きしめる。

「えへへ」

 よろこぶユウキちゃんを手元に引き寄せ強く抱く。

「愛してるよ。生まれてきてくれて」


    ★    ★    ★    ★    ☆


 夜になりイサムさんが帰ってきた。

「大変だったんだね。いつもありがとう」

「うん。ユウキちゃんも椅子に座るって言って――」

 イサムさんと話してるとマキちゃんの声が届く。

「ミルクの時間かな」

 私はそう言ってマキちゃんの部屋に向かう。

 

「あら?まだ欲しいの?待ってて準備するから」

 授乳を終えた私はげっぷをさせようとする。

「あれ?あれれ?」

 いつもなら出せるのに今日はとまどう。

「僕がやってみるよ」

 ノックが聞こえ、イサムさんが部屋に来た。

 イサムさんはマキちゃんを担いでげっぷを出す。


「ありがとうイサムさん。助かるわ」

「僕にできるのはこれぐらいだから。はい」

 イサムさんは私に温めてきた缶ミルクを渡す。

 

「授乳中も部屋にいていいのよ?」

「家訓でね。授乳中は母と子だけって言われてる」

「注意するときの声や言い方も?」

「うん父さんを真似た――ってごめん言い忘れてた」

「いいのよ。久しぶりに考えられた」

 忙しい日々の中私は久々に心を取り戻せた。

 

 私は缶ミルクにアタッチメントを取り付ける。

 マキちゃんは一口飲んですぐにぐずりだした。

「あれ?どうして?」


「飲み方変わったからとか?」

「授乳のニップルガードと同じ型だから大丈夫よ」

「ニップルガード?」

「赤ちゃんかむし吸う力強いから……」

 イサムさんは恥ずかしそうに顔を背ける。


    ★    ★    ★    ★    ★


「なら調べてみよう」

 イサムさんはマキちゃんの口のミルクを指ですくう。

 口に入れた後舌を拭き缶ミルクも同じことをする。

 そして持ってきた手荷物から道具を取り出す。

「缶ミルク借りてもいいかい?」

 私は缶ミルクをイサムさんに手渡す。

 イサムさんは缶ミルクの中身を哺乳瓶(ほにゅうびん)(そそ)ぐ。

 そして粉ミルクを少し混ぜかき回して温めなおす。

 

「これでどうかな?」

 手渡された哺乳瓶をマキちゃんに与えてみる。

「あ!飲んだ!」

「パパ友から聞いてさ。味を合わせてみた」

「ありがとうイサムさん。そうだ!飲ませてみる?」

 イサミさんは私の提案に目を白黒させた。


「僕が?いいのかい?」

「赤ちゃんはミルクをくれる人を好きになるそうよ」

「そっか。ならやってみるよ」

「赤ちゃんの目を見て与えると効果あるわよ」

「わかった。ありがとう」

 ぎくしゃくとイサムさんはマキちゃんを抱える。

 

「あ!飲んだ!」

 おっかなびっくりのイサムさんが驚きの声を上げた。

 

(もうちょっとしたら離乳食かな)

 そのあとはトイレトレーニング。

(イサムさんギャザー立て忘れたからな)

 オムツはギャザーまでしっかり広げて欲しかった。


 うんちで汚れた部分の後始末の記憶が(よみが)ってくる。

(ちょっとずつ勉強していけばいいのよね)

 忘れようと私は首を横に振ってかき消す。

 そこらへんは学校と一緒と私は思う。

 

(オムツとトイレトレーニングの確認はしとこう)

 漏らしたりして叱るとトイレが怖くなる。

 怖くなって我慢してまた漏らす。

(漏らしてもトイレで座らせるのよね)

 それが循環を断ち切るコツと教わった。

 

(教えていこう。教わっていこう。夫婦だもの)

 そう考えながらイサムさんを微笑ましく見守る。


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― 新着の感想 ―
子供にどう接すれぱ良いか真剣に考えるマイさんに好感か持てますね。 イサムさんもしっかり育児に参加していて微笑ましいです(*^^*)
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