心の準備
「え、要再検査って書いてるけど?これ、いつ届いてたの?それよりCDの中見ていいの?もう見たの?え、え、脳ドッグだけが要再検査ってこと?」
堰を切ったように、妻は高めの早口で聞いてきた。私は黙っている訳にもいかず、こう答えた。
「うん。詳しくは検査しろってことだよな。とりあえず、どこの脳神経外科に行くのが良いか、一緒に調べてくれないか。」
妻はいくつか候補の病院を挙げた。そして、私の自宅から1番近い脳神経外科のある私立病院へ行く日も決まった。
妻への隠し事がなくなってしまったからか、脳の病気のことで頭がいっぱいになっている。
落ち着くんだ。落ち着こう。脳ドッグの再検査ということは、まだ、何もわかっていないということだ。自覚症状は何も無い。自分でCD-ROMを見たところでわかるもんか。まな板の上の鯉の気分だな。検査結果によっては職場へ報告することになるな。
そんなことを思いながら、無意識に私は親友のヒロにLINEをしていた。
「脳ドッグ、要再検査だった。」
電報の様な短いメッセージは、すぐ既読になった。
ヒロは職場の後輩で、クルマを熱く語り合える親友だ。異動で違う営業所勤務ではあるが、お互いの近況は常に連絡しあっている。ヒロは数年前に癌が見つかりリモート勤務している。コロナ禍でリモート勤務になった日から、社内チャットではヒロ先輩と呼ばせてもらっている。
翌朝ヒロから「おはよう猿スタンプ」と共に返信があった。
「お疲れ様っす。コウさんもうすぐ定年だから脳ドッグ受けたんですね!自覚症状無く精密検査に至るなんて凄いことですよ。再検査する病院決まったんなら、何も考えず行くのみ!あ、自覚症状はどんな細かいことでも良いからメモしておくと問診の時に役に立つかもですよ。」
なるほど。脳ドッグでは細かな問診など無かったが、再検査となると、心の準備と、自覚症状のメモの準備が必要なんだな。私は準備リストを手帳に書き込んで閉じた。