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4 ジュレマイア

「クイン!」


 アイリス?

 目が覚めるとそこには泣きながら私を抱きしめるアイリスがいた。


「よかったです!起きました!」

「う、うん。起きた」

「ずっと目を覚まさなくて、三日もです」

「三日?!どうなってるの?」

「高台の崩壊に巻き込まれて、クインとハリストン様は医務室に運ばれました。外傷はないのに、二人ともずっと眠り続けていたのです」

「ジュ、ハリストン様も?」

「あ、ハリストン様は昨日目覚めて、お屋敷へ戻られてます。ものすごいクインのこと心配していました!」

「心配かけちゃったね。ハリストン様は大丈夫そうだったの?」

「はい!二人とも高いところから落ちたのに外傷がないのでお医者様は奇跡だといってました」

「奇跡ね」


 きっと最後に私が放った魔法で衝撃が薄らいだのかもしれない。

 それともジュレマイア、ハリストン様の魔法かな……。


「どうしたのですか?」

「なんでもない。心配してくれてありがとう」

「友達です。当たり前です!」


 アイリスが胸を叩いて言うので、あまりにも似合わないので笑ってしまう。


「笑わないでください!」

「ごめん、ごめん」


 アイリスは可愛い。

 こういうところ、ヒースト様は好きになったんだろうな。


「私は早速ニコライ様のところへ行ってきます」

「あ、うん」

「ハリストン様に知らせてくださいって言わないといけません!」

「え?どういうこと?」

「ハリストン様がクインが起きたら、ニコライ様に連絡してくださいっていったんです。私からハリストン様に連絡すると、ニコライ様が怒るからって言ってました」

「え?そうなの?」


 重い。

 それって嫉妬だよね。

 っていうか、ジュレマイア、ううん。ハリストン様もそんなに心配しなくても。ああ。付き合っているとかそういう話で気にしてるのかな。


「行ってきます!クインはこっちで待っていてください。絶対ですよ!」

「あ、え、待って!」


 アイリスは待ってくれなかった。

 うああ、ハリストン様きちゃうのかな。

 ううん。そこまでしない。

 多分ちゃんと私が起きたか知りたいだけだよ。


「エヴァ、クイン嬢!」

 

 それから二十分くらいして、大きな足音がしたと思ったら扉が開いて、ハリストン様が飛び込んできた。

 

「無事だった。よかった!」


 彼はいきなりベッドの上の私を抱きしめる。


「く、苦しいです」

 

 力一杯締め上げられて、息が苦しい。


「あ、ごめん。よかった。無事で」


 ハリストン様は私の体から手を離すと、本当に安心したように柔らかく微笑む。


「ハリストン様も怪我もないみたいでよかったです」

「ジュレマイア」


 何?


「エヴァリン。俺がジュレマイアだ。思い出した。全部」

「ジュ、ジュレマイア!」


 離れなきゃいけないのに、私は彼の腕を掴んでいた。


「本当に?」

「うん。思い出すのが遅くなってごめん」

「ううん。思い出させてごめん。嫌だよね」

「そんなことあるわけないだろう。思い出してよかった。俺は少し君の幼馴染の「ジュレマイア」に嫉妬してたんだ」

「嘘、」

「本当だ。俺は、クイン嬢。君に見られているって気がついて、嬉しかった。誰かに思われるのは嬉しい。それが君への好意に変わるのは早かった。あの日、わざと問い詰めて、君と付き合うように仕向けた。本当小さい男だと思う」

「嘘、嘘」

「俺は嘘はついてないよ。今は記憶が戻って、もう君を手放したくない。君を愛している。今度は君と最後まで過ごしたい」

「じゅ、ジュレマイア。私は嬉しい。私も最後まであなたと過ごしたい。だけど、だめだよ。私と一緒にいると、きっとあなたは死んでしまう」

「死なないよ」

「死んでしまうよ。だって、今も毎日危険な目に遭っているでしょう?高台のことだって、床に敷き詰めた煉瓦が突然割れるなんておかしいよ」

「誰かが、俺の命を狙っているか。嫌がらせだ。犯人は突き止める。だから、俺から離れるなんて言わないで」

「だめ。だめだよ。大体、私は男爵令嬢だし、あなたは伯爵令息。時期当主でしょう?ふさわしい人を見つけないと」

「君がふさわしい。身分なんてどうにかなる。伯爵と男爵の身分差くらいであれば何も言われない。それよりも君の友人のフォナン嬢の方が大変だろ?」

「確かに、でもあちらは別で」

「一緒だ」


 彼はもう一度私を抱きしめると、唇で私の反論を奪う。


「きゃ、ごめんなさい!」

 

 アイリス?!

 ジュレマイアの背中越しにアイリスとヒースト様の姿が見えた。


「邪魔したね」


 ヒースト様はアイリスの肩を抱くと、いなくなってしまった。

 扉はもちろん固く閉められる。


「ジュレマイア!」

「ごめん。だって、エヴァリンが嫌なことを言うからだろ」

「嫌なことって」

「大丈夫。俺は死なない。今度は絶対。今度はエヴァリンより長生きして、君を一人にしないから」

「……甘えていいの?本当に私を一人にしない?」

「本当だ」


 ジュレマイアの唇が再び私の唇に重なる。

 今のジュレマイアは前と違って、かなり積極的。

 だから、その手があらぬところを触ろうとしたので、叩いてしまった。


「ごめん。調子に乗った」

「慣れているみたい」

「な、慣れてなんてない!」

「どうだか」


 私たちはそれぞれ前世の記憶を持っているけど、今は別の人間だ。

 だから、別の道を歩むのが自然だ。

 神様、今日はジュレマイアと一緒にいさせて。

 明日から気をつけるから。

 彼の命を奪わないで。今度は。


 神様はジュレマイアを救ってくれなかった。

 彼は死んでしまった。

 王子は生き返ったのに。

 きっと私のせいだ。

 私が悪い魔女だから。


 今は私は普通の人。

 学園卒業したら、領地に戻って修道院に入る。

 神に毎日祈りを捧げるから。

 だから、神様。ジュレマイアを守って。


 


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