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二人の魔女

 ウェスタート王国の西の森には二人の魔女がいました。

 二人は仲の良い姉妹でしたが、ある日姉の魔女の恋人が死んでしまい、変わってしまいました。

 姉は恋人を殺した人間を殺し、悪い魔女になってしまったのです。

 悪い魔女は人間を脅かすようになりました。

 妹の魔女が止めましたが言うことを聞きませんでした。

 そのうち二人は対立し、姉の悪い魔女は妹の善い魔女の婚約者である王子を殺してしまいます。

 妹は嘆き悲しみ、奇跡が起きます。

 神によって王子が再び息を返したのです。

 神を味方につけて善い魔女と王子は、悪い魔女を退治します。

 そうして、ウェスタート王国は平和を取り戻しました。

 おわり。


「へんなの」

「どうしたのですか?お嬢様」

「だって、なんで悪い魔女の恋人は生き返らなかったの?生き返ったら、悪い魔女にならなかったんじゃないの?善い魔女の恋人の王子様は生き返ったのに」

「それは、妹の魔女が善い魔女だったからですよ。だから神様は王子様を生き返らせた。姉は悪い魔女で、きっとその恋人も悪い男だったんですよ」


 どうして、姉が悪い魔女だってわかるの?

 姉は愛する人を亡くして悪くなったんじゃないの?

 もしその人が死ななければ。


「クイン様。もう眠りましょう」

「眠くないの」


 眠くなんてないもん。

 サディ。

 だけど、私はいつの間にか眠っていた。

 「二人の魔女」の物語を知ったのは、六歳の時だった。


 ☆


 とうとう十四歳になってしまった。

 住み慣れた領地を離れて、王都の学園に行かなければならない。

 私、クイン・ヘラルドは、ヘラルド男爵家の一人娘だ。

 今年で十四歳になり、学園に入学する。

 学園入学は貴族の義務であり、二年間礼儀、教養、魔法について勉強する。

 伯爵以上の貴族の多くは学園入学前にある程度学んでいる場合が多く、学園入学の目的は社交だ。将来有望な婚約者を見つけたり、出世のための足掛かりにする。

 私は、一応領地持ちの男爵の娘だ。しかしど田舎で自然と共に過ごしてきた。勉強よりも領民たちと過ごすことが多かった。しかし入学して恥をかかないくらいの礼儀と学力は家庭教師に仕込まれた。

 ちなみに魔法のほうはさっぱり。

 教室は学力と魔力で振り分けられるため、入学試験があった。その時に初めて魔力検査をした。

 自分に魔力があるとわかり、びっくりした。

 魔法なんて身近にみたことがなかったから。


 王都から領地が遠いから、入学式の一週間前には学生寮に入った。寮にもしっかり身分で部屋が別れていて、男爵である私は下の階で、日当たりの悪い部屋の二人部屋が当てがられた。


「あのアイリス・フォナンと言います。よろしくお願いします」

「クイン・ヘラルドです。よろしくお願いします」


 同室の女性は私と同じ男爵令嬢。しかもこちらも田舎の領地。彼女と仲良くなるのは自然の流れだった。


「いよいよ入学式ですね!」

「うん」


 入学式の前日、私たちはドキドキして色々話した。

 学園の一学年の人数は100人ほど。そのうちの半数が寮生だった。入寮の条件は領地が遠いこと。けれども上位の貴族には学園寮で揉まれてこいと入学させられる学生もいる。その場合は大体問題児が多いって聞いた。

 しかも私たちのように領地が遠くない場合が多く、入寮するのは入学式の後からになるみたい。

 入学式は楽しみだったけど、変な人が入寮してくるのは嫌だな。


「カッコいい人、いたらいいですねぇ」

「うん。そうだね」


 アイリスはすこし夢見がちだ。

 私には弟もいるので、最悪結婚相手がいない場合は領内の修道院に入るつもりだった。両親にはまだ伝えていないけど、私に結婚願望は全くない。


「うわあ、綺麗な人です」

「うん」


 入学式の挨拶に立ったのは公爵令息ニコライ・ヒースト様だった。

 私は真っ黒な髪、アイリスは茶色の髪。領地でも明るい色の髪色の領民はいなくて、金色や銀色の髪は珍しくみえる。

 ヒースト公爵令息は、背が高く、顔も整っており、王子様の風格をもった青年だった。さすがに王家の血を引いてる。

 アイリスは一目で心を奪われたみたいで、ずっと見つめていた。

 男爵と公爵では身分が大きく違い過ぎる。

 難しいんじゃないかな?

 だけど、アイリスは諦めないだろうな。


「あ、悪い!ごめんな。大丈夫か?」

「大丈夫です」


 入学式が終わり教室に移動になる。

 残念ながら私とアイリスの教室は異なる。アイリスは魔力が高く一番上の教室だった。先ほどの美しい公爵令息のヒースト様も同じ教室みたいで、アイリスは浮かれていて、私の話なんて全然聞こえていないみたい。

 アイリスと別れ、階段を上ろうとしたとき、通り過ぎた人の肩にぶつかって少しよろけた。一段だけ登ったところ、しかも手すりをしっかりつかんでいたため、転倒するまでにはいたらない。

 だけどぶつかってきた男子学生は立ち止まり、謝罪してくれた。

 銀色の髪、綺麗。

 えっとこの顔は?

 目眩がして、ひどい頭痛が襲ってきた。同時に誰かの記憶が脳を駆け巡る。あまりの情報量には座りこんでしまった。

 どうしたの?私。


「大丈夫か?どうかした?」


 銀髪の男子学生、ジュレマイアはしゃがみ込み、心配そうに聞いてくれた。


「ジュレマイア」


 気が付くと私はその名を口にしていた。


「なに?」


 だけど彼には呼びかけが届いていない。聞き返されて、やっと我に戻った。必死に情報を書き集め、平静を保つ。


「少し立ち眩みがしただけです。ご心配いりません。どうぞ、教室へ行かれてください。私はこの上の階ですので」

「立ち眩み?医務室へ連れて行こうか?」

「ああ。必要ないです!よくあることですから」


 彼から離れたくて、必死に断る。


「ならいいが。無理はするなよ」


 必死の断りが効いたらしい。彼はそう言うといなくなってしまった。

 彼の背が視界から消えるまで追っていたい。

 そんな願望を持ったけど、堪え忍んで前を向く。


 彼は、前世の恋人だったジュレマイアによく似ていた。

 もしかしたら、本当に彼の生まれ変わりかもしれない。

 そんな期待もしてしまった。

 だけど、すぐに気持ちに蓋をする。


 前世で彼は私をかばって命を落とした。現世ではそんなことがないように距離を置こう。

 私の前世エヴァリンは有名な物語「二人の魔女」の悪い魔女だった。あの物語は実話だ。私はジュレマイアを失い、狂った。だから今の人生ではその過ちを犯したくない。絶対に。

 それを心に刻み、一歩一歩階段を登る。

 考えながら移動したのが悪かったみたい。遅刻で、しょっぱなから先生に注意を受けた。

 だけどその注意も半分以上頭に入ってこない。

 私は前世の恋人ジュレマイアによく似た男子学生のことを考えていた。


 ジュレマイア。

 声も一緒だった。優しいところも。今度は絶対に殺させない。私は彼に近づかない。そうすれば大丈夫。きっと。


 私はそう思ったけど、それは大きな間違いだった。


 


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