大きな子供
「やーい!ダッセー!!」
「うるせぇ!」
「アハハハハ」
5時になろうか、私は会社から帰宅しているところで、ちょうど目の前に公園がある。
子どもの声はそこから聞こえきて、その声の元気さと来たらまるで空がみかん色であることを忘れているかのようだ。
私は徒歩で通勤している。なんといっても足には自信がある。丈夫な足こそ私なのだ。
・・・とは言ってもやはり疲れる。
そこで私は半分子どもの声に釣られながら、公園へ休みに向かった。
「よし、じゃあ次はお前が鬼なー」
「見てろよー一瞬でつかまえてやるかんなー」
「皆逃げろー!!」
公園に近づくにつれて、声が大きくなっていく・・・
声を聞いているうちにやがて私は公園に着き、ため息をつきながらベンチに腰掛けた。
「今日も社長に叱られちまった・・・」
「こんなんじゃあ、いつまでたっても給料上がんねぇよな」
私にとっての会社は地獄である。なんといっても生きた心地がしない。
社長の叱り、次々と溜まる紙の山、社員の心の冷たさ・・・
とにかく会社は地獄なのだ。
「やーい、だっせぇ!!」
「ばーかばーか」
急に聞こえた子どもたちの声に私は思わずドキッとし、「誰がじゃ!!ボケ!!」と叫びそうになった。
しかし、すぐに私に言ったのではないのに気づき、大人気なさがすこし恥ずかしかった。
「子どもは元気で良いなぁ・・・」
目の前で暴れている子どもたちが羨ましくなり、体力の差を比べるとなんだか悔しさを感じる。
いくら足が丈夫といっても、目の前の子どもたちには敵わないだろう。
それに、平気でお互いに罵声を言い合い、笑い合っているのがなんとも羨ましくてしょうがない。
「今度社長にクソったれなんて言ってみるか・・・」
「馬鹿!!何言ってるんだ自分、そんなこといったら手と足が無くなるぞ!」
そこで私はまた深いため息をつき、自分の情けなさを思った。
「子供に戻りてぇなぁ…」
「あの時に戻って、鬼ごっこしたいものだ」
・・・私が子供のとき、どんなに大人になりたいと思ったことか。
だけど今の私になりたいとは絶対に思わなかったはずだ。
もっとかっこよくて、大人っぽくて、誰からも尊敬されて・・・
そんな完璧な大人を夢見てた私は、今の自分を見るとなんとも情けなくて仕方ない。
会社では謝ってばかりで趣味も無く、家に帰ればただ寝るだけ・・・
こんな私になりたいなどと、誰が思うだろうか?
あまりにも情けなくて嫌になる。
・・・完全に落ち込んでいる私の事は知らずに、子供たちは変わらずに鬼ごっこをしている。
「なに疲れてんだよー、よわむしー!!」
「お前だって疲れてんじゃねぇかぁ!!」
「アハハハハ」
子供は喧嘩はするけど最後は必ず笑い合う。
大人は喧嘩したら徹底的に傷つけあう。
「これが大人なのかな・・・」
私の出した結論は合っているかわからないが、これだけは確実に言える。それは大人になると「毎日苦労する」量が半端じゃあないということ。
「そろそろ帰ろうか」
そういって私はベンチから立って、最後に子供たちに叫んだ。
「おまえたちー!遊ぶことを大事にしろよー!!」
公園を出る途中、後ろの方から「クソジジィ!」という声が聞こえた気がしたが、私は大声で笑っていた。
《おわり》