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こ ま も り

作者: 空木弓


 二階の格子窓にもう四半刻(約三十分)近くも()()は張り付いていた。

もうすぐ来るはずだ。もうそこまで来ているに違いない。

 待ち人の姿を探しつつ道行く人々を二階から見下ろすのも、ひろには楽しみになっている。毎日全く同じということはないし、待ち遠しい気持ちで眺めていると、目につくのもどこか楽しげな人なのだ。

 見上げると、皐月に入ったばかりの空にはすっきりとした青い色が広がっていた。

だが、まもなく雨が振り続くことになる。ひろが嫌いな雨の季節だ。

雨降りでは、ひろの待ち人はたぶん来れない。昨年までよりも更に雨の季節が嫌いになっていた。

いつまでもこんな天気が続けば良いのに。そう思ってしまう、江戸しか知らないひろである。

「勘太!お待ち!」

 女の声が聞こえた直後に、窓の左下の方から男の子が飛び出してきた。

「あとでちゃーんとやるって!」

 勘太と呼ばれた子は後ろを振り向くと、あっかんべーをした。

「親に向かってなんて顔するんだよ!ほんとだね?やらなかったら、夜のご飯は無しだよ!全くちっとも言うこと聞かないんだから……」

 そう言いながらひろの視界に入ってきた女の後ろ姿は、それほど怒っているようには見えなかった。

ひろが暮らす表店のすぐ裏手にある長屋に住んでいるこの親子は、よくこうした言い合いをしている。勘太は幼い弟妹の面倒をみたり、母親の手伝いをするよう言われても、いつも途中で投げ出しているらしい。

 勘太が毎日この刻限に長屋を飛び出す理由は、ひろも楽しみにしていることである。ひろが勘太を知っているのもそのためだ。

「あ~め~、あまーい飴だよ~」

 姿より先に声が小さく聞こえた。

――来たっ!

 ひろは弾けるように格子窓から離れて階段にとりついた。

数えの六才、満六歳になるのは三月(みつき)先のひろだから、傾斜のきつい階段は一段ごとに両足を揃えながらでないと降りられない。

前に急いで降りようとして転がり落ちた時は、手代の作蔵が途中で受け止めてくれて助かった。

作蔵が通りかからなかったら死んでいたぞと、ひろは父親にずいぶん叱られた。

それ以来、降りる時は慎重に、後ろ向きに一段一段降りるようにしている。

気が急くのを我慢して、この日も後ろ向きに一段一段降りた。

――ああ、もう!

 ひろは自分がもどかしくて、苛々した。

やっと一階に降りると、脇目も降らずにペタペタと上がり框まで走り、そこでまた後ろ向きで土間へと降りた。

「あら、お嬢様。また飴ちゃんですか?」

 下女の()()の抑揚のない声がした。

 ひろはかなの方を見もせず頷き、草履を足に突っ掛けると、土間から勢いよく外へ飛び出した。


 一階で待ち受けていたらもっと早く行けるのに、番頭の達治に見つかると、そこにいては邪魔だとひろは二階に上げられてしまう。

年は四十過ぎで体つきもがっしりしている達治は、今いる奉公人では下男の平八と並んで最古参である。父親もなにかと頼りにしているから、ひろも口答えしづらい。しかも大抵店の表側にいるのだ。

 ひろの父親、八右衛門は枡屋という屋号で十年以上前から麹町で木綿問屋を営んでいる。薄利多売の方針のせいか、店は毎日まずまずの賑わいを見せていた。

 店のつくりは間口が十間もあり、十二畳の大広間を囲むように、店の前面から向かって右横には奥の土蔵まで続く土間があるのだが、ひろが寝起きしている二階から階段を降りたところにある板間は土間に面してはいるものの、客には見えない。

しかし時々奉公人が行き来するし、土間は大八車が奥の土蔵に木綿を運ぶため、或いは土蔵から持ち出すための通路でもあるから、邪魔になると達治は言うのだ。

それならば、早めに外へ出て待とうと思ったら、大店の娘がそのような()()()()()ことをするものではないと、これまた小言が降ってきた。

 誰もひろの味方になってくれない。ひろがどんなに飴売りが来るのを楽しみにしているか、父親はもちろん、下女、裏方を含めて十五人いる奉公人達も誰一人わかってくれない。ひろはそう思うと、最近は悲しいよりも店にいるすべての者に腹が立つようになっていた。


 犬走を覆うようにかけてある枡屋の大きな暖簾の下を潜りぬけたところで、ひろは飴売りの居場所を確認した。

いつもの路地に入るところだった。その奥にはお稲荷様の祠があり、いつも飴売りはそのお稲荷様の前で子供達に飴を売って人形芝居を見せる。勘太を含めて早くも三人の子供に囲まれていた。

 ひろは一目散に駆け出した。手にはしっかりと飴代の四文銭を握りしめている。

 通りかかった笊の振り売りが慌ててひろを避けた。

 ひろには飴売りのおじさんが消えた路地の入り口しか見えていない。

 路地に駆け込んできたひろを目にした飴売りのおじさんは、ひろが大好きな笑顔を見せた。痩せてはいるが、笑うと恵比寿さまのような雰囲気になる。ちょうど勘太に飴の袋を二つ渡したところだった。

 勘太はいつもひとつは自分、もうひとつは弟達のためと二袋買う。そこはちゃんと子守を放ったらかす穴埋めをしているのだなと、ひろが勘太を少し見直した部分である。

 飴売りのおじさんはいつものとおり、藍地の縞の着物を尻端折りして足には脚絆、首から長方形の竹籠をぶら下げた格好だ。竹籠には飴と人形が入っている。

「おひろ嬢ちゃん、そんなに急がなくても大丈夫でやすよ。お嬢ちゃんは御得意様なんだから」

 待ってくれるのはよくわかっているけれど、ひろは少しでも長く飴売りのおじさんの傍にいたいのだ。

 はぁはぁ息を切らせてひろは飴売りのおじさんの前に立った。おでこに汗がどんどん吹き出してくるのを拭いもせず、銭を握りしめた拳をおじさんの方へつきだす。

 おじさんはいつものように箱の中を探りながら、ひろに尋ねた。

「はい、はい。今日も雀のでいいんでやすか?」

 ひろはこっくり頷く。

 飴売りは箱から小袋を取り出し、ひろの前に差し出した。

 袋には赤い雀の判が押してある。他に犬と兎の袋がある。袋が違うだけで中身は全て同じ一口大の米飴なのだが、ひろが選ぶのはいつも雀の袋だ。

 ひろは右拳を飴売りの左手の上で開き、銭を落とすようにして渡す。汗ばんだ掌からすぐには銭が落ちない。

飴売りはその手を押しいただくようにしながら銭を受け取り、代わりにひろの小さな左の掌に飴の入った小袋を置く。毎日の作法である。

そのわずかな触れ合いにひろはいつもほっとする。

おじさんの手は骨張ってゴツゴツしているのに優しく、懐かしい。何故かひろは飴売りのおじさんを昔から知っているように感じていた。

 集まる子供達は毎日ほぼ同じである。ひろのあとに二人来たから、あと三人は来るはずだ。

集まる子供は、年齢は上は十になる勘太から、七歳の姉に連れられてやってくる四つになったばかりの()()と幅広いが、ひろ以外は皆裏店か長屋に住む子供達である。

長屋の子供達はどこかに継ぎ接ぎがあったり、色褪せぎみの木綿か麻の縞の着物を着ているから、継ぎ接ぎ無しの小紋を着ているひろは一人だけかなり目立っていた。

飴売りのおじさんが一目見た時から「お嬢ちゃん」と呼ぶのもそのせいなのだが、ひろ自身はそんなに目立っているとも思わず、人形芝居を見ている間は平気でお稲荷様の地べたに座り込んでいる。

 飴売りのおじさんが飴を買った子供達に見せる、たった二つの指人形を使っての人形芝居は、芝居というより小咄だが、声音を使い分けるおじさんが面白くてひろは大好きだった。人形を操る間も表情豊かで見飽きない。ひろは人形よりもそんなおじさんを見ている方が多かった。

 勘太は「つまらねぇ」とよく文句をつけている。しかしつまらない割には毎日飴を買ってもすぐには帰らず、人形芝居を最後まで見ているのだから、勘太もこのおじさんが好きなのだとひろは思っていた。

 芝居を終えると、おじさんは次の町へ向かう。

 ひろは前に次の町までついていこうとしたことがある。黙って後ろを歩いていたら、気づいたおじさんに止められた。ひろがついてきたら、明日からこの辺りへ来れなくなるとおじさんは言った。

「明日もここへきて、おひろ嬢ちゃんに会うために、ここでさよならだよ」

 しゃがんでひろの目線に合わせ、いつもの笑顔を浮かべて、そう言った。

 その日以降、ひろは路地を出た所に立っておじさんの姿が見えなくなるまで見送るだけにしている。姿が全く見えなくなったところで家に戻る。勢いよく飛び出した行きとは真逆で、帰りは右へ左へと、蛇行しながらとぼとぼと歩く。


 安吉という、年は三十くらいの飴売りが昼の八つ(午後二時頃)過ぎにこの辺りに現れるようになったのは二月(ふたつき)ほど前のことである。

二階で一人、人形遊びをしていた時に聞こえてきたおじさんの声にひろは惹かれた。知っているような気がした。なんとか父親の許しを得て初めておじさんの飴を買おうとその手に触れた時、ひろは更に不思議な経験をした。

 ――あたし、この手を知ってる……

 日焼けしたおじさんの顔に覚えはなかったが、ひろの小さな右手を受け止めた骨張った大きな左手に触れた瞬間、ひろはそう思った。更にはその夜、夢に頬にえくぼのある女が出てきた。

 ――おっ母さん?

 ひろには母親の記憶が無い。

「おっ母さん」はひろがよちよち歩きの頃に「店の若い男と逃げた」のだという。店内で小耳に挟んだその言葉をそのままに、どういうことかと白髪混じりの父親に尋ねたら、日頃の穏やかさが消え、ひろが初めて目にした背筋がぞっと寒くなるような冷たい目になり、「そのうち教えてやるよ」とはぐらかされた。その時の父親があまりに怖くてひろは母親のことを聞けなくなっている。

 昔からいる奉公人に尋ねてもはぐらかされるから、ひろは知りたい気持ちを宙ぶらりんに、色々想像してみたりもしたが、どれもしっくりもピンとも来ず、母親らしい姿も声も何も浮かんでこなかった。

それが飴売りのおじさんから飴を買うようになってからは、えくぼの女が頭に浮かぶようになったのだ。今まで何処に消えていたのか。

ひろは嬉しかった。

優しそうな女の人なのだ。優しい目で自分を見ているのだから、きっとおっ母さんに違いない。若い男と逃げたというけれど、こんなに優しそうな目で自分を見つめていたのだから、きっと仕方なく、泣く泣く自分を置いて逃げたのだ。近頃はそう思うようになっていた。

 ――今頃はその「若い男」と幸せにどこかで暮らしてるんだ。

 ひろのそんな想像は、母親と暮らしたい気持ちと父親を慕う気持ちを葛藤させ、結局は目の前にいる父親を取る。

 ――今頃はあたしのことなんて忘れてるかもしれないもの。

 あまりに悲しい想像だが、ひろなりの「今」の暮らしに得心する手だてでもあった。

 そうして、母親と逃げた「若い男」が、おっ母さんを思い出すきっかけになった飴売りのおじさんかもしれないとは、全く考えないひろだった。理由は簡単である。ひろにとって飴売りのおじさんは「若い男」ではないからだ。


 すぐには店に帰りたくなくて、ひろはこの日も読売の様子を見に行った。

枡屋から二町(約200m)ほど離れたところにある大通りが寺の参道と交わる四つ角には、大抵こそこそとかわら版を売り捌いている二人組の読売がいるのだ。大きな声で呼び込んでいては風紀を乱すと町方の取り締まりにあうが、かわら版の内容が(まつりごと)に関係なく、こっそり売っている分には役人も目こぼしする。

この日も編笠を被り、小声で通行人に呼び掛けていた。

「連雀町の金物屋が賊に襲われた話の続きだよ~。面白い話が出てきたんだ。賊を引き込んだのは子守りに雇われた小娘。どうしてその小娘が引き込みになったのか、そいつがこれに書いてある」

 連雀町の押し込みは、枡屋の奉公人達も話題にしていた。もっとも、かわら板に書かれていることがどこまで本当かは常に怪しいところがある。

 ――かななら、盗っ人の『ひきこみ』とかいうのでも驚かないわ。

 ひろはいつも無表情なかなを思い浮かべた。

 かなは一年半ほど前から枡屋に下女として住み込みで働いている。年は数えの十九である。どちらかというと美人顔だが、目に鋭さがある。下女はもう一人、二十三歳になる女がいるが、こちらはもっぱら義母付きだ。

 かなの前にいた下女がやっていたことからして、八右衛門からはひろの身の回りの世話だけでなく、遊び相手もするよう言いつけられていると思われるのだが、下女として雇われたから子守は二の次と思っているのか、かながひろの遊び相手をすることはなく、ひろが寝起きしている二階へあがってきた時も、布団の上げ下ろしやおまるの準備、片付けを黙々、淡々とやるだけだ。話しかけても聞こえない振りをされることすらある。

 かながこの店へきて間もない頃、ひろは人形遊びの相手をしてほしくて「遊ぼう」と声をかけたことがある。かなの前にいた、父親に近い年齢だった下女はよく遊んでくれたからだ。だが「忙しいからできません」と睨み返され、ひろは呆然と立ちすくんでしまった。

てっきり遊んでくれると思っていただけに幼な心に受けた傷は大きかった。それ以来遊んでくれと口にしたことはなく、ひろの方もかなに冷たい態度をとっている。

 かながひろの遊び相手をしない代わりに、最年長の奉公人で七十を過ぎている下男の平八がなにかと相手になってくれるのだが、この半年でぐっと老け込み、言いつけられる仕事をこなすのがやっとという様子に、この頃のひろは独り遊びをして過ごすことが多くなっている。

 ひろにはなんともおもしろくないかなの振る舞いだ。そのうえ、半年ほど前には満二十歳になったばかりの手代の三吉と土蔵の陰から出てきたから、ひろは顔が熱くなるくらい、ムッとした。三吉とサボる暇はあってもひろと遊ぶ暇はこれっぽっちも無いのだ。

またひろにしてみれば、よりによって三吉と、であった。五人いる手代の中でひろが一番好きになれないのが三吉だったのだから。三吉を好きになれない理由は色々あったが、一番は自分を見る目の冷たさだ。

 ――かなはほんとに『ひきこみ』とかいうのだったりして……


 店に戻ると、土間は旅姿の男達でにぎわっていた。何ヵ月かに一度現れる男達だ。この男達が現れると、間もなく父親は旅に出る。仕入れのためとだけで、どこへ行くとはひろに教えない。

「お嬢様、早くこっちへ」

 かなの抑揚のない声がしたと思ったら、ひろはぐいと手を引っ張られた。

 上がり框に引き上げたひろをかなは抱えあげた。かなの手の冷たさが着物越しにも感じられた。水仕事が多いからか、たまに触れるかなの手はいつも冷たい。

「お客様が大勢来たから、今日は二階で大人しくしてないといけない日ですよ。お夜食も二階」

 二階の畳の上にひろをおろした後でいつものように淡々とかなが言った。

「お夜食いらない。飴食べるから」

 ひろはもやもやと膨れ上がる嫌な気分を言葉にすることができず、飴の小袋を胸に抱き締めた。

「ちゃんとお夜食食べないと、旦那様に叱られますよ」

 それだけ言うと、かなはさっさと階段を降り始めた。頭だけがひろに見えるようになった時、急に振り向いた。

「明日の朝は旦那様の所へお連れしますからね」

 ひろはかなの方は見ず、返事もせずに小袋から飴を一つつまみ出して、ポイと口に入れた。口のなかでコロコロと転がしながら、ゆっくり飴を溶かす。ひろの二番目に楽しい一時だ。

 明日の朝、父親の所へ行って何があるかというと、旅に出る前の挨拶である。

「あたしがいない間はおせきや達治、おかなの言うことをよく聞いて、良い子にしているのだよ」と、ひろの頭を撫でながら父親はいつも言い、ひろがどこへ行くのと尋ねれば、いつも返ってくるのは「ちょいと遠くだ」だけだ。それだけのやり取りである。

 父親のいない大店は、ひろには落ち着かない。ひろの母親がいなくなってから三月後にこの店に客として表れ、あっという間に義理の母親になったという()()は、ひろを抱き抱えたことはもちろん、近くへ寄ってきたことすらない。そんな女をとうてい「おっ母さん」とは呼べず、ひろは「おせきさん」と名前を呼んでいる。

 ひろのことを本当に気にかけてくれているのは父親の八右衛門だけだ。父親がいないと、それがよくわかる。

 ひろは小さくなった飴をコリコリと砕き始めた。頭の中ではわずかに覚えている女の顔を思い浮かべようとした。思い浮かべることのできた、飴売りのおじさんと会って思い出せるようになったえくぼの女は、少し寂しげな様子だった。



 二


 翌朝の父親との挨拶は、いつものやり取りを予想していたひろに意外な展開があった。

「仕入れの旅は今度を最後にしようと思ってるんだよ。だからお前に淋しい思いをさせるのも、これで最後だ」

 嬉しい話だった。

「次からは達治が仕入れに行くの?」

 これまでにも何度か父親の代わりに達治が仕入れの旅に出たことがあったから、当然そうなのだろうと思ってのひろの問いだったのだが、八右衛門の答えは違った。

「伊三郎に任せるつもりだ。あれは頭も良いし、商いに向いている。今度の旅で伊三郎の仕入れ先への面通しも終わるから、来年には伊三郎にこの店を継がせて、あたしは隠居しようと思ってるんだよ。お前を連れてここを出て、根岸辺りで暮らそうとな。良いだろう?」

 ひろには意外過ぎる話ばかりだった。

「達治じゃなくて、伊三郎なの?」

 平番頭の伊三郎は三十になったばかりである。枡屋には達治同様、開店から奉公しているというが、平番頭になったのも昨年の話だ。枡屋を開いた時から番頭をしている達治ではなく、伊三郎を後継者に抜擢するとは、幼いひろにもかなりの驚きだった。

「そうだよ。達治は(かしら)には向いてない。あれは二番手が良いのだよ。お前にはわからんだろうがね。このこと、まだ当分は秘密だ。誰にも言ってはいけないよ。指切りだ」

 ひろは父親と指切りを終えたあとで不安を口にした。

「『ねぎし』にはおせきさんも連れてくんでしょう?」

 ひろに近づかないせきと父親との三人暮らしは思い浮かべただけで、穏やかに過ごせるはずがないとひろには思える。そんな気持ちから出たひろの問いに父親は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「さぁ、そいつは来年になってみないとわからないね。ところで、先の土産で渡した御守りはちゃんと持ってるかい?」

 ひろはこくりと頷き、柿色をした守り袋を胸元から取り出した。紐がついていて首からぶら下げている。

前回の旅から帰ってきた時に八右衛門がこいつはよく利くんだよ、いつも首から下げていなさいと、二人だけの時にひろに渡してきた御守りだ。しかもその御守りのことを誰にも言ってはいけないという。ひろは父親との秘密ができたのが嬉しくて愉しくて、言い付けを守っていた。

「あたしが留守の間は……」

 ひろはいつもの言葉だと聞き流しかけたが、その後もまたいつもと違っていた。

「おかなの言うことを聞いて、良い子にしてるんだよ」

 ひろは怪訝な顔をしていたのだろう。八右衛門はひろの顔を両手で包みながら「わかったね」と念を押してきた。


 挨拶から半刻(約一時間)後、父親は手甲、脚絆に草鞋の旅姿で、伊三郎、手代の与五郎に、前日現れた五人の男達を引き連れて店を出ていった。

 ひろはいつものように、そんな一行を二階の格子窓から見送った。父親はこれまたいつものように、一度だけ振り向いてひろに手を振った。ひろの目に父親の後ろ姿は前回の旅立ちよりほっそりして見えた。

 小さくなる父親の姿にひろは寂しい気持ちが、これもまたいつものように、お腹の底から沸きあがってきた。

ひろは父親と出掛けた覚えがたったの一度しかない。いつも留守番だ。店の中では暇な時を見計らって甘えれば甘えさせてくれるが、私用で出かけることをしないから、ひろを外へ連れていくことがない。

そんな八右衛門だが、ひろのことを心から心配してくれている、ひろが大好きな父親である。

 ――お父つぁんがいないこの家は……

 思わず懐の小袋を握りしめる。雀の判を押した小袋には飴が二個残っている。淋しい気持ちが和らいだ。

 ――はやく八ツの鐘がならないかな

 こんな日は一段と飴売りのおじさんが現れるのが待ち遠しい。思えば、飴売りのおじさんが現れてからは初めての父親の旅だ。

 ひろは小袋から飴を一つ取り出すと、暫く眺めてから、ぽいと口に入れた。


 八ツの鐘がなった時、達治は階下に見当たらなかった。せきと奥にいるのだとひろは思った。それがどういうことか、理解はしていなかったが、父親にばれたら大変なことになるのだけはなんとなくわかっていた。いや、今朝の父親の様子では、もうばれているのかもしれない。

 ともかくもこの機会を利用しない手はない。ひろは飴売りのおじさんをお稲荷様で待ち受けることにした。

 うきうきとひろが稲荷へ向かっていると、行き交う人の間にちらりと飴売りのおじさんの竹籠が見えた。

 ――飴売りのおじさんだ!今日は早かったんだ。お稲荷様へ急がなきゃ。

 と、ひろが思った時、竹籠が横を向いた。横を向いたと思ったら、次の瞬間には竹籠が消えていた。

 突然竹籠が横へ向いて消えたのは、おじさんがそこにある路地へ入ったからに違いない。ひろはおじさんが消えた路地へと急いだ。

 路地奥に飴売りのおじさんの後ろ姿が見えた時、おじさんと向かい合っている男の横顔もひろの目に入った。

 二人は顔を寄せて話していた。相手は濃い眉毛に鋭い目付きの、茶色い縞の着物を着た大柄な男だった。飴売りのおじさんよりかなり年上で、ひろの父親と同じくらいに見えた。

 男はめざとくひろを見つけ、飴売りの肩越しにぎろりとねめつけてきたから、ひろは震え上がった。

 男の視線に飴売りが素早く振り向いた。

「おひろ嬢ちゃん……」

 驚いた顔が次の瞬間にはいつもの笑顔になった。

「こんなところでどうしたんでやすか」

 飴売りは声をかけながらひろに近づいてきた。その動きで茶色の縞の男がひろに見えなくなった。そうしてひろが飴売りの横から後ろを覗いた時にはもう影も形も見えなくなっていた。

「今話してた人はだあれ?」

 ひろは飴売りの顔を見あげながら尋ねた。

「道を聞かれたんでやす。こんな商いしてると、いろんな人に道や店を聞かれるんでやすよ。さ、いつものお稲荷様へ行きやしょう」


 その夜、ひろはなかなか寝付けなかった。目蓋の裏に飴売りのおじさんと話していた目つきの鋭い男がちらついてしまい、どうにも不安な気持ちが消えなかった。

 飴売りのおじさんはあの人をよく知っている。二人が話している様子からひろはそう感じた。

「飴を売り歩いているようなのは、ろくな連中じゃないんですよ。気を付けないと」とは、達治の言だ。

おじさんから飴を買う表店の子がひろだけなのは、他の表店の子供達は親や奉公人に止められているからだと思われた。

 ――飴売りのおじさんはいい人だ。あの男の人が悪いんだ。

 思い返すうちに茶色の縞の着物を着た男は飴売りのおじさんを唆す悪者にしかひろに思えなくなってきた。そんな不安を感じながらうつらうつらと眠って明け方に見た夢は、赤い雨が降ってくる夢だった。

 ひろは自分の悲鳴で目が覚めた。目が覚めた時には全身が小刻みに震えていた。訳のわからない恐怖だった。

 暫く耳を済ましてみたが、階下に物音は何もしない。誰もひろの悲鳴を聞かなかったらしい。いや、聞こえていても、どうせ寝ぼけたのだろうで済ませるのだ。

 記憶にある限り寝起きしてきた六畳の部屋と夜具なのに、隅には見慣れた絵草紙や人形、独楽といった玩具がいっぱい並んでいるのに、ひろはたった一人で知らない場所に置いてきぼりにされている気がした。震えが止まらなかった。

 がばっと布団を頭から被って横向きに丸くなり、ひろは訳のわからない恐怖に必死に堪えた。心のうちでは早く明るくなれを呪文のように繰り返していた。

 ――お昼の八ツにおじさんがやってくる。おじさんに確かめなきゃ。

 何を確かめるというのか。あの茶色の縞の男のことならば、もう一度おじさんに近づいた時に尋ねないと、確かめることなどできはしない。幼いひろにもわかっていた。何かで心を埋めておきたいだけだ。



 三


 それから六日間は何事もなく過ぎた。

 朝は明け六つ(午前六時頃)にかなに起こされ、昼の八つ過ぎにおじさんから飴を買って人形芝居を見、読売がいれば、暫く集まる大人達の様子を眺めてから家に戻る。

 強いて変わったことといえば、かなが三吉と喧嘩したらしいことだった。

 ひろが庭掃除をしていた平八に絡んで遊んでもらっていると、「そんなことできるわけないでしょ」と言いながら、かなが蔵から出てきた。

 すぐに三吉も蔵から出てきてかなの腕を掴もうとしたが、かなは三吉の腕を振り払い、台所の方へと去った。ちらりとひろの方を見た気がしたが、見たのは平八の方だったかもしれない。

 三吉は、ひろと平八が見ているのに気がつき、それ以上かなを追いかけることはしなかった。

 たったそれだけのことだったが、ひろは少しばかりワクワクした。かなに対しても、三吉に対しても「いい気味だ」という気持ちが湧いた。

 その気持ちが表情に出たのだろう。平八が珍しく諭すように言った。

「そんな顔するもんじゃありませんですよ、お嬢様」

 ひろは恥ずかしくなった。だが続いた平八の言葉に反省する気持ちが飛んだ。

「かなは口下手なだけで、義理堅いええ娘です。義理堅いってのはまだおわかりにならねぇかな。言いつけを、約束を守る娘ですよ」

 ひろは平八の言うことに納得できなかった。かなが消えた台所に顔を向けたまま言った。

「だったら、どうしてあたしに冷たいの?お父つぁんはあたしの面倒をみるように言ってるんでしょ?遊んでくれないだけじゃないもん。話しかけてもいつもぶっきらぼう。あたしのこと嫌いなのよ」

「ぶっきらぼう、ですか。ははは……かなは旦那様から色々仰せつかっとりますからな。忙しいでしょうよ。それに……」

 平八はそこで口を閉ざした。

「それに、なあに?言いかけて止めないでよ」

 ひろは催促に平八の腕をつかんで揺すった。

「あの子は、ここへ来るまでに辛い目に遭うとるんですよ。冷たく見せてるのはそのせいでやしょう。かながお嬢さまを嫌いだなんてこたぁありませんよ」

 ――冷たく見せてる?

 ますますひろは納得いかない。

「お嬢様ももう少し大きくなったらおわかりになりやすよ」

 むっとして平八の顔を見上げると、平八は皺だらけの顔を更に皺だらけにして笑みを浮かべていた。


 父親が旅に出て六日めも、ひろはいつものように飴売りのおじさんを見送った後には読売がよくいる寺の参道と交わる四つ角へ向かった。

 いつものように、編笠を被った読売の二人組がこそこそとかわら版を売っていた。

 この日の目玉記事は、「(ましら)の銀三」という八州荒しの盗賊が御府内のすぐ外である甲州街道の入口、内藤新宿で押し込みを働いたという事件だった。

「猿の銀三」は、ひろも聞いたことのある名だ。奉公人達が噂していたことがあるのだ。

 半年ほど前のことである。なんでも二十年近く八州で年に一、二度押し込みを働いてきた賊で、「猿の銀三」とは、目撃者が証言した、賊が被っている猿の面と手下が呼んだ頭の名から八州回りの役人が呼び始めたという。これまで盗んだ金は一度には百両前後で、押し込んだ家の者を皆殺しにしたこともなかったのに、半年前に押し込んだ武州の商家でとうとう一家皆殺しをしたため、府内のかわら版でも大きく取り上げられ、枡屋の奉公人達の会話にも出てきたのだが、やり口の違いに模倣犯ではないかという話も出ていた。めったに声を荒げない平八が卒中で倒れるのではないかというくらい皆殺しにしたことを怒っていたのが、その話がひろの頭に残っている一番の理由である。

「いよいよ次は御府内狙ってるのかもな」

「この前の、あの子守娘が引き込みだったってのは、なんて盗賊だったんだ?」

「知らねぇ。通り名もわかってねえんだろ。町方も火盗改も出し抜かれてばかりだな。物騒でいけねぇや」

「ま、どこのどいつがやったにせよ、金のねぇ俺達んとこに押し入るわけねぇから、気にするこたねぇけどよ」

 ひろが大人達の間を行きつ戻りつ、情報を集めたところでは、内藤新宿に現れた賊は、一人が猿のような面を被っていたことから猿の銀三ではないかと言う人があっただけで、確かではないらしい。一家皆殺しではなかったことが以前のやり口に戻ったのか、模倣犯なのか、却って役人も決め手がないという。

 ――なあんだ。『しんじゅく』のほうもわかってないんじゃない。

 ひろが一番知りたかったのは、この前押し込みの引き込みをしたという子守のその後なのだが、これまでのところ誰かが話しているのを耳にすることができていない。この日はやっと「子守娘」と聞こえて大いに期待したのに、後ろが全く違ったから、ひろはがっかりした。

 店へ戻る途中では勘太とすれ違った。いつものようにお互い見ないふりをした。

 勘太を始め、長屋の子供達は遠くからは囃してきたりするが、ひろに近づいて話しかけてくることはない。近くに来ないから、ひろは何を言われようと無視していた。どうやら親に近づくなと言われているらしい。

家でも商いの場に顔を出さない限りは誰にも何も言われない。父親以外は誰もひろが何をしていようと気にしないのだ。

 そんな好きなように過ごせる日々は楽しくもあり、淋しくもある。しかしそれもいつものことである。ひろは慣れている。無性に苛々して玩具を壁に投げつけることが時々あるが、そんなことをしても誰にも何も言われない。

 ――お父つぁんはあたしを大切に思ってくれてるもの。

 父親から感じる愛情がひろの心の支えだ。気が強いのはお父つぁん譲りだねと言われるのもひろには誉め言葉である。ただ最近は苛々したり、寂しい気持ちが募ってくると、えくぼのある女の顔を思い浮かべるようになっていた。

 ――おっ母さんだ。

 そう思うと、お腹の辺りが温かくなった。苛々も消えた。会いたい気持ちで息がつまるような苦しさを感じることもあったが、そんな気持ちもひろには父親のいない店の雰囲気から逃れられる、救いの一時になっていた。

 あの日以降、あの茶色の縞の着物を着た男は現れていない。飴売りのおじさんにも変わった風は何もない。本当に道を聞かれただけかもしれないと、ひろは思い始めていた。

 ところが枡屋の屋根看板が見えるところまで戻ってきた時、大柄な茶色の縞の着物の男がひろの視界に飛び込んできた。

 ひろはぎょっとした。ぎょっとした時にはもう茶色の縞の着物を着た男は人影に隠れて見えなくなっていた。

見間違いかもしれない、おちつかなきゃと、ひろはちょうど横にあった天水桶の影に隠れて深呼吸をし、もう一度辺りを見回した。

大柄な茶色い縞の着物の男はどこにも見当たらなかった。

 ひろは暫くそこに立って人の行き来を見ていた。また現れるかもしれないと思ったからだ。

ひろとしてはずいぶん長い間待ったのだが、大柄な茶色の縞の着物を着た男をもう一度目にすることはなかった。

 思いの外辺りが暗いと思ったら、空はいつの間にかすっかり雲に覆われていた。そろそろ梅雨が始まると平八が言っていた。

 ――明日は雨かな。嫌だな。

 ひろは茶色の縞の着物を着た男を見間違えたとも思えず、といって絶対に飴売りのおじさんと話していた男だとも思いきれず、もやもやとした気持ちで我が家へと帰った。

「遅かったじゃないですか。達治さんに見つかったら小言言われますよ」

 草履を脱いでいる時にかなの声がした。

 ――こんなときばっかり声かけてきて……

 ひろは無性に腹が立った。かなの方は見ないようにしてペタペタと早足で板間を歩き、懐の飴の袋が落ちない位置にあることを確認してから、壁を頼って階段を一段ごとに両足を揃えながらのぼっていった。



 四


 翌日、父親が旅に出て七日目は、朝から大雨だった。

 ひろはこれでは飴売りのおじさんは来ないだろうとがっかりしながらも諦めきれず、いつものように昼からは二階の窓に陣取り、通りを眺めて八つ半(午後三時頃)近くまで過ごした。

行商人は僅かに数人が犬走の下を歩いていただけで、飴売りのおじさんはもちろん姿を見せず、いつもは賑やかな大通りに雨音が異様に大きく響いていた。

 皮肉にも七つ(午後四時頃)の鐘がなる頃には雨が止んだから、ひろは天気を呪った。

 父親はいない、飴売りのおじさんにも会えなかったとなると、母親に会いたい気持ちがふつふつと沸き上がってきた。

ひろはそんな自分の気持ちを持て余して落ち着かず、雨上がりの中庭で雨水を溜め込んだ枝葉を揺らす遊びを始めた。自身もびしょ濡れになりながら水を辺りに撒き散らすことが楽しいのだ。

知らずに通りかかった手代が慌てて避け、かなも濡縁から一度こちらを見たと思ったが、二人とも何も言わずにそれぞれ土蔵や台所の方へ消えた。

 揺らした枝や葉っぱの先が時に顔や手にピシリと当たっても、葉裏に隠れていた虫が飛び出してきても、ひろは怯まずに手当たり次第に枝葉を揺らしたり叩いたり蹴ったりして、パラパラばらばらと飛沫を撒き散らし続けた。

そうやって何かに夢中になっているうちに気持ちが落ち着いてくることをひろは知っているのだ。

 ふと我に返ると、表の方がなにやら騒がしい。商いはそろそろ仕舞う刻限である。

 ――お父つぁんが帰ってきたのかな?

 ひろは濡れ縁から板間へ回って表の方を窺おうとした。

 ひろの予想外に台所に面した板間に人の気配があった。そっと柱の影から覗いてみると、与五郎が暗い顔で正座しているのが見えた。その前にはひろに背を向けて達治とせきが座っている。

「伊三郎だけでなく、旦那様の亡骸もみつからないというのだね?」

 達治の質しに与五郎が項垂れた。

 ――お父つぁんの「なきがら」?

 ひろは「なきがら」が何を意味するのかわからなかったが、その場の雰囲気からかなり深刻な、よくないことが父親の身に起きたことだけはわかった。

「お嬢様、こちらへ」

 後ろからかなの声がしたと思ったら、いきなりひろは抱えあげられた。

抱え上げられてひろが間近に見たかなの目には涙が光っていた。ひろは心底から驚いた。濡れた着物を着ているからか、いつもは冷たいと思う手に温もりが感じられた。

「お父つぁんと伊三郎に何があったの?」

「旦那様と伊三郎さんは……訳あって遠いところへ行かれたんです。当分戻ってこれないんですよ。これから下は人の出入りが激しくなるから、お嬢様は二階へ上がってましょうね」

 それだけいうと、かなはひろをいつもの板間からではなく、遠回りして商い場の方から二階に抱えてあがり、びしょ濡れの着物を着替えさせた。ひろはその間も「どうしたの?何があったの?」とかなに何度も尋ねたが、かなはいつもの無表情に戻り、何も答えなかった。

 それから一刻(約二時間)ほどたって日が沈んだ頃、かなの言ったとおり、人の出入りが激しくなった。

 ひろは二階からそんな階下の様子を覗き見た。この店で誰よりも自分を大切に思ってくれている唯一の大人、父親に何が起きたのか知りたい気持ちから、そうせずにいられなかった。

 慌ただしく現れた人物には黒羽織を着た見慣れた侍もいた。番頭の呼び掛けからお役人は野添という名の、この辺りが持ち場の町奉行所のお役人だとひろは知っている。その役人が帰る時にこう言った。

「賊がこの辺りの商家を狙っているという噂もある。気を付けるんだな。当主が亡くなってバタバタしてるってのは、狙い目だと思うかもしれねぇ」

 ――お父つぁんが「亡くなっ」た?……うそ……

 乳幼児の死亡率が高く、平均寿命の短い時代である。五歳でも「亡くなる」ということがどういうことか、ひろは知っていた。信じられなかった。階下を覗きこんでいたところから目をあげて、茫然と天井裏の暗い空間を眺めた。

 そのうち階下の板間にも土間にも誰もいなくなり、声は微かにしか聞こえなくなった。皆、店奥の座敷に集まっているようだった。

 ひろは我慢できなくなり、そろりそろりと階段を降りていった。降りてきたことを叱られたら、かなを探しに来たと言えばいいのだと開き直っていた。

 ひろが店奥で一番広い座敷の手前まで来た時、話し声が耳に入ってきた。

「あの娘はあと七、八年すれば、良い値で売れるさ。それまでは面倒みてやろうじゃないか。そうつっけんどんにしなさんな」

「あんた、まさかその七、八年後にあの子に手を出すつもりじゃないだろうね?」

 声の主は達治とせきだ。聞こえてきたのは座敷の方からではなかった。庭の方である。

 ひろは自分のことを話していると直感した。よくない話であることも勘でわかった。

 ひろは足がすくんで動けなくなった。

自分の周りがなにもかも変わったのだと感じた。

これまでは一人でいても、この家は確かにひろの家だったのに、見慣れた家が急によそよそしくなった。

父親が死んだとは信じられていないひろだったが、家の気の変化をひしひしと感じた。この周囲の変わりようが何よりもひろに父親の死を突きつけている。でも、信じたくはない。

 ――おっ母さん……

 動揺する心でどこにいるかもわからない母を呼んだ。ひろは自分でも不思議だった。どれくらいそうして突っ立っていたのか。

「お嬢様」

 かなの小声が聞こえた。

 振り向くと、かなはすぐ後ろにいた。障子越しの淡い灯火を背に受けたかなは顔の辺りが真っ暗で、顔つきはひろに全くわからなかったが、一段と固く張りつめた気を纏っていた。

「すぐにここを出ましょう」

 言うやいなや、かなはひろを抱えあげた。その手からは温もりと共に不思議な強さをひろは感じた。

 ひろが「どうして?」と聞いた時、男の悲鳴が上がった。

「与五郎!何しやがる!やっぱり……」

 作蔵の声だった。複数の人間がもみ合っているような物音と奇声が続いた。

 かなはそうした騒ぎにびくともせず、ひろを抱えて土間がある方へ向かい始めた。土間から表へ出ようというのだろう。だが入り口の方で人声がした。

「逃がすな!」

「なんでこんなことを……うわぁっ」

 かなはほんの一瞬逡巡し、入り口とは逆の台所の方へ向きを変えた。台所の広い土間に降りると、片隅に置かれた大甕の蓋を開けた。米櫃として使っているのだが、中には少ししか米が入っていなかった。

「ここに隠れててください。決して声をあげちゃいけませんよ」

 かなは早口にそう言いながら、ひろを大甕の中へ下ろした。屈むとひろは中に余裕で収まった。

 かなが木蓋を置くと甕の中は真っ暗になった。

真っ暗な中にいる怖さと訳のわからないことが起こっている怖さでひろは震え始めた。その震えが甕をも震わせるのではないかとひろは手をぎゅっと握りしめて、肩に力を入れた。なんとか震えが治まった。と、達治の声が近くに聞こえた。

「おかな、お嬢をどこへやった?」

「二階で寝てますよ」

「いねぇから聞いてるんだ」

「知りませんよ。あたしはついさっきまで三吉さんといたんですから」

 ひろはそっと少しばかり蓋を持ち上げてみた。達治の背中が見えた。その向こうにかなが二つ並んだ大きな水瓶を背にして立っている。水瓶は米櫃にしている甕より一回り小さい。

「そこに隠したか?」

「違います」

 そう言いながらもかなは水瓶の前から動かなかった。

「どけ!」

「嫌です!旦那様に御恩がありながら、あんたという人は……」

「ふん。恩なんざとっくに返しちまって、今じゃこっちに利子つけてもらわねぇといけねぇよ。お前こそなんであのガキを庇うんだ?嫌ってたんじゃねえのか?」

「あんたなんかにゃわからないよ!」

 次の瞬間、かなが絶叫をあげて水瓶の上に倒れ、ひろには赤い雨が見えた。

 赤い雨に打たれたと思った。木蓋の下にいるのに、ひろは赤い雨を浴びたと思った。

 その刹那、ひろの周りがなにもかもがボヤけた。

 すぐにまた周囲がはっきり見えてきたが、ひろは目にしたことも、目にしていることも信じられなかった。

夢を見ているような気がした。

 達治はやはりこちらに背を向けていた。右手に持つ匕首が薄暗い中でなんの光を集めたのか、不気味に光っていた。

 人形のようにだらりと変な姿勢で水瓶に仰向けに倒れているかなを達治は荒々しく水瓶からどけて蓋を開けた。隣の水瓶の蓋も取った。

 かなは土間にどさりと落ちた。

ひろは動かないかなを見つめていた。かなから目が離せなかった。

かなの回りが黒ずんでいく。

 ――嘘だ。これは夢だ……

「いねぇ……ガキをどこへやりやがったんだ!」

 ひろが初めて聞いた達治の凄みの利いた声だった。母親のことを尋ねた時の父親に勝るとも劣らない迫力だ。

 ひろの頭にかなが自分にかけた最後の言葉が甦った。旅立ち前の儀式で聞いた父親の声も甦った。

 ――かなの言うことを聞かなくちゃ……

 慌てて蓋を元に戻して真っ暗な米櫃の中で縮こまった。

 ――かな!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!

 ひろは米櫃の中でひたすらかなに謝った。自分のことをあまり好いていない、気にしていないと思っていたかなが命懸けで自分を助けてくれたことに、驚きと申し訳なさと悔やむ気持ちがごちゃ混ぜになり、謝る言葉しか浮かばなかった。

「おかな!」

 三吉の声だ。

「達治さん、おかなを殺っちまうなんて……」

「ガキを隠しやがるからだ。もっと良い女が他にいくらでもいるぞ。時間がねぇ。火をつけろ。そうすりゃあ、どこに隠れてたって御陀仏だ。猿のが襲って火をつけたのさ。なに突っ立ってる!早くしろ!」

「けど、あの子が持ってるかもしれねぇんじゃ……」

「隠し所の見当はついてるよ」

  何の話をしているのか、ひろにはさっぱりわからなかったが、自分に恐ろしいことが起こりつつあることだけはわかった。

 微かに聞こえるごそごそという音は、三吉が竈の中の残り火を探しているのだろうとひろは思った。火打ち石も台所にある。もうダメだと思った。金切り声をあげたい衝動にかられた。

 ――お父つぁん!飴売りのおじさん!おっ母さん……

 もう我慢できないと思った時、どこかでバーンという板が割れるような音がした。

「ん?何の音だ?見てくる」

 そう言った達治の声にかぶさって、「神妙にしろ!逃げられねぇぞ!町方だ!」と、野太い怒鳴り声がした。

「なんだと?」

「畜生!」

 何人もの声に足音、物が倒れる音や割れる音が混ざりあって聞こえた。

 ひろはまたそっと蓋を上げて外の様子を窺った。

達治も三吉も見えず、土間にかなが横たわっているだけだった。

 ――かな……

 漸くその時、自分が泣いていることにひろは気がついた。蓋を左手と頭で支えて右手で涙をぬぐおうとしたら、何かを握りしめていた。

「おひろ嬢ちゃん!どこです?無事で……無事であってくれい!」

 自分を探す声が聞こえた時、ひろはやっぱり夢を見ているんじゃないかと思った。聞こえた声が飴売りのおじさんの声にそっくりだったのだ。

 その直後にやわらかな光が水甕を照らしだした。そして、その光を背に人影が現れた。

「なんてこった!あいつら子守を殺ってやがる!」

 人影は土間に倒れているかなに気づいたらしい。それから周囲を見回した。

「女を殺りやがったのか。子供は?」

 違う声がして、また人影が現れた。そして、その後ろからもっと強い光が射してきた。

 ひろは慌てて米櫃の中に引っ込んだ。だが却ってその動きが相手の目を引いたらしい。

「あ!そんな所に!」

 ひろは目を瞑り、聞こえたおじさんの声が夢ではないことを祈った。

いや、違う、これまでのことが全て夢でありますように、朝になったらいつものように屋根裏部屋のあの布団の中で目が覚めますように。そう願い直した。

「よかった……怪我はしてないですかい?今、出してあげやすからね」

 おじさんにそっくりな声が近づいてきた。最後はいくぶん涙声だった。と、ひろの上でゴトリと蓋をどけた音がし、骨張った腕と手がひろを米櫃から引き上げた。

 そーっと目を開けたひろに見えたのは、涙ぐんでいる飴売りのおじさんの顔だった。

やっばり夢かしらとひろは思った。これが夢なら、覚めないでほしいと思った。

「どこにも怪我はありやせんか」

 ひろは夢見心地で頷いた。

 飴売りはひろを抱き締めた。

「よかった……よかった……」

「よかったなぁ、進吉。この子守は仕事を全うしたんだな。見上げた度胸と覚悟の娘だ。可哀想に」

 野太い声が飴売りのおじさんの後ろから聞こえた。

 ――しんきち?おじさんの名前は安吉でしょ?

 ひろは「しんきち」と呼ばれた飴売りのおじさんの後ろを覗き見た。しゃがんで優しくかなの姿を整えている男がいた。立ち上がってこちらを見たその男の顔を見て、ひろは「あっ」と声をあげた。いつか飴売りのおじさんと話していた茶色の縞の着物を着た男だったのだ。

「親分、いいんですかい?」

 飴売りのおじさん、進吉が言い終わるかどうかという時、暗闇から何かが飛び出してきた。光るものを手にしていた。ひろは悲鳴を上げた。

 進吉の手がひろの頭を抑えてひろの視界が進吉の着物だけになったと同時に、キーンと金属が激しくぶつかる音がした。

「進吉、早く行け!」

 ひろは進吉にしがみつきながらも、何が起こったのか知りたくて、進吉の手が緩んだところで先ほど何かが飛び出してきた方を覗いた。

 親分が進吉の後ろに立ちはだかっていた。

 その向こうにいる相手の顔が龕灯で照らされた時、ひろは息を呑んだ。達治によく似ていたが、あまりに人相が違っていた。絵草紙で見た鬼だとひろは思った。

 親分は相手の匕首を十手で受け止めたところから、弾き返した。

 だが相手もさるもので返しは早かった。再び匕首が親分めがけて振り下ろされ、また十手が弾き返す。先ほどと同じ音がした。三度めには横から匕首が突き出された。親分が今度は十手で匕首を巻き上げ、相手の手から飛ばした。

 しかし無腰になっても達治は怯まなかった。間髪入れずに親分に組みついた。そこから押し倒そうとしている。

 親分は右腕の上から組みつかれてしまい、十手を使えなくなっていたが、左腕はがっしりと相手の帯を掴んでいた。

 二人はそのまま力比べのように組み合ったまま動かなくなった。

「親分!」

 進吉は達治の鬼の形相にこの場を立ち去れなかったのだろう。ひろを庇うように抱えたまま、二人の攻防を凝視していた。

自棄(やけ)を起こしてやがる……」

 進吉が小声で呟き、ひろを下ろしかけた。その動きを感じたらしい親分が怒鳴った。

「進吉、その子をしっかり守ってろ!俺は大丈夫(でぇじょうぶ)だ!」

「へ、へぃ」

 進吉は慌ててひろを抱え直した。

 声を出したのが均衡を破ったのか、組み合った親分と達治が右へ左へと動き始めた。

 龕灯を持った細身の男がどうしていいかわからないらしく、男二人が力比べしている廻りをうろうろしている。

 ひろは話に聞く相撲はこんな感じかなと、進吉に強くしがみつきながらその様を見つめた。不思議と怖くはなかった。

「梅吉、腰の木刀でそいつを殴れ!」

 進吉が叫んだ。

「お、親分に当たったらどうすんですか!」

 梅吉と呼ばれた男の声は震えていた。

「それくれぇ見極められねぇのか!」

「頼りがいのある子分だぜ、ったくよ」

 親分がそう云った直後から、組み合った二人は米櫃がある方へ動き始めた。

親分が達治に押されているようだった。

このままでは親分が米櫃に押し付けられてしまう。ひろがそう思った直後、親分は気合いの一声をあげて見事に達治と入れ替わり、相手を米櫃にぶつけた。米櫃は大きく揺らいだ。

 ぐえっという声を漏らして、達治は親分から手を離した。親分はその隙を逃さず、相手を十手で右から左から右からと、三度張り倒した。

 達治は土間に膝から崩れ落ちた。倒れこんだ達治からは鬼の形相が消えていた。

「なりふり構わずってのが気に入らねぇ!女を殺すこたなかったろうに!」

 親分は梅吉に向かって怒鳴った。

「はやくこいつを縛れ!」

 それから進吉に向きなおって話しかけてきた。

「こんな有り様、そんなちっちゃい子に見せるもんじゃねぇぞ。……そうだ。さっきその子の手からなんか落ちたぞ」

 親分が土間から薄っぺらな物を拾いあげた。

「これだ……なんだ、こりゃ?」

 親分がつまみあげたものを見て、進吉は笑った。

「あっしが売ってる飴の袋でやすよ」

 それから腕に抱えたひろの顔を見直した。

「おひろ嬢ちゃん、こんなのをずっと握りしめてたんで?」



 五


 安吉と名乗っていた飴売りのおじさんは本当の名を進吉といい、正体は北町奉行所の臨時回り同心、田所平右衛門の御用聞きである五郎左衛門の子分の一人だった。あの強面の茶縞の着物を着た大柄な男は、巷で「五郎左親分」と呼ばれる、平川町に住む香具師の元締め兼腕利きの岡っ引きだったのだ。

 このことをひろは進吉が親分や田所という初めて見た侍と、見慣れたお役人の野添やその岡っ引きと話をするのを聞いて知ったが、どうして進吉が名前を偽って飴を売っていたのか、また騒ぎが起こって間もなく町方が店に飛び込んでこれたのはなぜなのか、そもそもなぜ達治がこんな恐ろしいことをしたのかは誰も口にせず、ひろには謎だらけだった。

進吉に聞きたかったが、少し落ち着いたところで恐怖のあまりお漏らしをしていることに気づいて恥ずかしくなり何も言えなくなった。進吉は「あんな怖い目にあったんだから、無理もない。気にするこたぁありやせんよ」と慰めたが、ひろには幼いなりに自尊心が芽生えていたのである。

 進吉は、野次馬根性で恐る恐る表に顔を見せた裏の長屋の住人の一人、鋳掛屋の女房にひろの世話を頼んだ。

女は快くひろの行水と着替えの世話を引き受けた。これまた声に聞き覚えがあると思ったら、勘太の母親だった。

 長屋の狭い土間で女がひろの着物を脱がせていると、勘太が弟一人と妹二人を引き連れて寝ぼけ眼で起きてきた。

「へっ!その年でお漏らしかよ。いつも済ましてやがったのがいい気味だな」

 いつもの口の悪さでひろをからかった勘太の頭を、母親はすかさず「七つまで寝小便してたお前が言えることかい!」と言いながら、ひろがびっくりするほど力強く叩き、すぐに何事もなかったかのようにひろの着替えを続けた。

恥ずかしさで身体はカチコチに強ばり顔が赤くなっていたひろが、この親子のやりとりにはつい笑いがでた。笑いつつ、羨ましい気持ちも沸いた。

「ようやく笑ったね。よかった、よかった。勘太の減らない口もたまにゃ役に立つね。おや、御守りを首から下げてたんだね。そのご利益かねぇ」

 勘太の母親の言葉にひろはやっと父親がくれた御守りを思い出した。すっかり忘れていたのだから、ご利益と言われてもぴんとこなかった。飴売りのおじさんが現れたのは、首から下げていた御守りではなく、甕の中で握りしめていた飴の袋のおかげの気がしていた。

 勘太の母親に手際よく行水させられ、着替えさせられながら、ひろは思った。

 ――あたしのおっ母さんもこんな感じなのかな?

 頭に浮かんだえくぼの女は優しく微笑んでいた。


 進吉はひろを鋳掛屋の女房に任せたあとは枡屋に戻り、騒動の後始末をしたようである。ひろの身繕いが終わった頃に迎えに現れた。

「お嬢ちゃん、五郎左親分がちゃんと面倒みてくださるからね。そうですよね?」

 鋳掛屋の女房はひろを進吉の方に押し出しながら、少し不安げに最後を進吉に向けて言った。

 進吉は頷いた。

「親分がこの子に一番良いように取り計らってくださるよ。おひろ嬢ちゃん、今夜だけは番屋で我慢してくださいやし」

「おじさんと一緒?」

 ひろは一人で番屋に置いておかれるのは嫌だった。怖かった。

「もちろんあっしも一緒でやすよ。夜が明けたら、親分がお嬢ちゃんが落ち着ける所へ連れていってくださるはずだ。もちろんあっしも一緒に行きやすからね」

 進吉は大きく首肯しながら請け合った。


 番屋まではわずかな距離だったが、進吉に背負われたひろはすぐに眠ってしまったらしく、気がついたら番屋奥の腰高障子際に掻巻にくるまれて寝かされていた。

 狭い番屋の中を揺らぐ灯火が照らし出していた。まだ夜は明けていないらしい。

「けど、あんな大店で暮らしてきた子があっしの狭いぼろ長屋で我慢できるかどうか。あんな良い着物も買ってやれねぇし……物心つく前とは違いますよ」

 進吉の小声が聞こえた。

「そんなこたぁ気にしねぇだろ。大店で暮らしてたっても、ほとんど屋根裏に押し込められてたっていうじゃねぇか。あの屋根裏とお(めぇ)の長屋じゃ、広さは変わらねぇぞ」

 五郎左衛親分の声である。こちらも小声だ。

 ひろは声のする方をちらりと見遣った。番屋に詰めている町役人と思われる髷に白髪の混じった男が膝隠しの裏に置いた小机に突っ伏して眠り込んでいる。その向こうに、今や見慣れた二つの背中が見えた。

 進吉と親分は、並んで上がり框に腰かけているらしい。

「なによりお前にあれだけなついてるんだ。どんな広い屋敷やお城より、お前の傍がいいに決まってる。着る物だって着れりゃあいいんだよ。子供ってのはそういうもんだ。お前もあの子のことが気になって仕方なかったんだろうが」

 自分のこと、これからのことを話していると知ったひろは、眠ったふりをして、二人のやり取りに耳を傾けることにした。

「えぇ、まぁ、そうでやすが……でも、まずはあの子の気持ちを確かめねぇと。それからうちの嬶にも聞いてみねえと……」

「二人とも嫌がるとは思えねぇが、確かめるのは、まぁ常道だな。目が覚めたら聞いてみろ。嫌というわけがねぇから、連れて帰って、おりくにも尋ねてみろ」

「へい……」

 ――もちろんおじさんの長屋がいい!あたしはまだ小さいもの。広くなくて大丈夫。着る物なんてなんでも良いもん。ううん、おじさんが着てる着物が好き。おじさんに言わなきゃ……

 そう思った時、ひろはおじさんがどこに住んでいるか、女房や子供がいるかどうかも知らなかったことに気がついた。おじさんに会ってから母親らしい女の人を思い出せたことで、おじさんに連れ合いがいても、同じようにひろを好いてくれると思い込んでいたところがある。親分の言葉からは大丈夫そうだが、父親はまさかせきがひろにあんな態度を取るとは思っていなかったらしいから、何事も蓋を開けてみないとわからない。

 ――もしもおりくさんがおせきさんのようにあたしを嫌いだったら……

 ひろは誰も知らないところへつれていかれるのかと、一気に不安になった。

 ――おっ母さんはどこにいるんだろう?

「それにしても薄情過ぎるやつだ。あの達治とかいう番頭」

 ひろはギクリとした。眠っている振りができなくなった。ムクリと起き上がり、声の方に身体を向けた。

「達治はなんであんなことしたの?どうしてかなを……平八は?作蔵は?おせきさんはどうなったの?」

 途中からは声が震えていた。

 親分と進吉は揃って後ろを向いた。町役人は突っ伏したままだ。

「目が覚めたんですかい」

 進吉が町役人の横をすり抜けてひろの傍へやって来た。そして、優しくひろの肩に手を置いた。

「達治って野郎もおせきさんも別の番屋で元気にしてますよ。達治は親分に歯を折られやしたがね。二人とももうすぐ伝馬町の牢屋入りだ。おかなさんと作蔵と平八爺さんは……なんとも残念だったけども、おかなさんは親分がちゃんと供養してくださいやすよ」

「おかなって子には身寄りがいないらしいから、俺がちゃんと戒名もらって、小さいながらも墓をつくってやる。安心なさい」

 進吉の後ろで親分が付け加えた。

「達治はどうしてあんなことを?」

 進吉が答えないから、ひろは繰り返した。必死に涙をこらえていた。

「まだ小せぇお前さんにどこまでわかるか……だが、あらましを話しておこう」

 そう言って、親分もひろの傍へやってきた。

 町役人は親分の動きで目が覚めたらしい。すっくと上体を起こし、慌てて辺りを見回した。その動きは、普段ならひろを笑わせただろうが、この時には何の感情も起こさなかった。

 ひろは親分の顔を見つめた。

「あの達治って野郎はお前さんの親父の古くからの奉公人だったようだが、強欲なヤツで、店の金が欲しかったんだな。つまり……お前の親父と伊三郎を旅先で与五郎達に殺させ、店に貯めてる金を奪い、あの店に火をつけてずらかろうとした。……が、それを作蔵達、達治の仲間じゃなかった連中が気づいて揉めているうちに、俺達が踏み込んで悪党どもをお縄にしたのさ」

 ひろは親分が言ったことの半分しか頭に入らなかった。

 ――達治と与五郎にお父つぁんも伊三郎も殺された?

 その時、町役人が進吉に短く囁き、湯飲みを手渡してきた。

 進吉は町役人に礼を言い、その湯飲みをひろの前に差し出した。驚きのあまり呆けているひろの顔を覗きこんで言った。

「喉が渇いてるでやしょう?さ、お飲みなさい」

 ひろは黙って湯飲みを受け取り、口に持っていった。一口飲んだら、薄いお茶がとても甘く感じられた。一気に飲み干した。

「今は何も考えないでおきやしょう。お父つぁんやおかなさん、作蔵さん達のあの世での幸せを祈るだけにしてね。達治達のことは、もっとずうっとあとに考えやしょう」

 ひろはぼんやりと進吉の言葉に頷いた。と、そこで父親が出かける前に打ち明けたことを思い出した。

「お父つぁんは達治じゃなく、伊三郎にお店を継がせるつもりだったの。お父つぁんはそのことはまだ秘密だ、誰にも言っちゃいけないと指切りもしたけど、達治はわかってたのかも……」

 進吉と親分が顔を見合わせた。

「なるほど。達治が店を継ぐのは自分だと思っていたのに、自分じゃなくて伊三郎だとわかったら、二人をまとめて殺す動機になるな」

 親分がふむふむと頷きながら言った。

 ひろは他にも色々聞きたいことがあるのを思い出した。

「おじさんはどうして本当の名前を教えてくれなかったの?どうしてあの時うちに親分とやって来れたの?」

 進吉は困った顔になり、ひろから親分の顔に目を移した。親分はニヤリとして、任せろというように進吉の背を軽くたたいた。

「実はね、おじさんはちょいと前から達治って野郎が怪しいと思ってたから、見張るために枡屋の裏の長屋に幸太という子分を三月前からこっそり住まわせてたんだよ。幸太が下っ引きだとばれちゃいけねぇから、こいつは飴売りのふりしてその幸太とのつなぎ、連絡係をやってたんだ」

「でも飴を買いに来た大人のひと、見たことない……いつ買いに来てたんですか?」

「ふふっ。おひろちゃんもわからなかったんだから、大成功だったな。進吉」

「へぇ、勘太はうまくやってくれました」

「あの文句言いの勘太が何をやったの?」

「ははは。あの子はいつも二袋買ってたでやしょう?」

 ひろはこくりと頷いた。

「弟や妹のためって……」

「本当はひとつは幸太の使いで、幸太に渡すために買ってたんですよ。一袋を弟達と分けてね」

「幸太からの文は俺の別の子分が豆腐の振売りに化けて朝のうちに受け取り、こっちからの文は飴の袋に忍ばせて進吉が飴売りのふりして勘太を通じて渡してたってわけだ」

「あの勘太が……」

 ひろは勘太を羨ましいと思った。おじさんとそんな大事な秘密のやりとりをしていたなんて、と。そんなひろの心の内を読んだように、親分が続けた。

「勘太は何も知らないよ。幸太、長屋では文太と名乗って勘太一家の隣に住んでたんだが、勘太は今もそいつは酒より何より飴が大好きな変な大人だと思ってるだろうよ」

「間違って勘太が文の入ってない方を渡したりとかしなかったの?中を覗いたりとか……」

 ひろはあの勘太ならやりかねないことだと思った。ひろの勘太評は渋い。

「幸太に渡すのは特別な袋だったんだ。大人用ということで、何も判を押してないヤツだったのさ。開けただけでは文に気がつかないようにしていたしな」

 大変な用心である。達治は岡っ引きがそんなに用心しないといけないような極悪人だったのだ。あの親分と取っ組み合いをしていた時の鬼の形相が達治の本性だったということだ。ひろには驚くことばかりである。

「でもどうして達治が怪しいって思ったんですか?前に悪いことしてたんですか?」

 ひろの当然の問いに、親分はひろから視線を外し、進吉はまた親分の顔を見た。

「うん……まぁちょっと訳ありでな。そのうち教えてあげるよ。様子がおかしいと知らせてきたのは幸太だ。そこはまっつぐ番屋に飛び込んでな。ここ数日のうちに何かありそうだと、俺達は近くの番屋に控えていたから、幸太の知らせにお前さんのうちにすぐに走っていけたというわけだ」

「……親分さん、昨日この辺りに来てましたよね?」

 ひろの質しに返ってきたのは、昨日ひろが親分だと思った茶色の縞の着物を着ていた男は親分の息子、太一郎だという返事だった。

「あっしが文を持って出たあとで、八右衛門さんと伊三郎さんの殺……その、悪い報せが届いたもんで、太一郎さんに急いで幸太に知らせてもらったんですよ」

 親分は不満げに「図体だけでけぇ兵六玉なあいつと俺が見違えられるなんざ、がっくりくるぜ……」とぶつぶつ言っていたが、ひろが親分を見つめていることに気がつくと、急にニカッと笑顔を見せてひろに尋ねてきた。

「これからお前さんがどこで暮らすかだが、もちろんこの飴売りのおじさんとこが良いよな?」

 その顔に疱瘡よけの御守りに描かれた鍾馗様を思い出したひろだった。いかつい顔だが、怖くはない。よく見るとなんと優しい目をしていることか。

 ひろは控えめに頷いた。

「おじさんのお内儀(かみ)さんが嫌でなければ……」

「おりくが嫌がるものか。そこは大丈夫だ」

「ほんとですか?」

「ほんとだとも。なぁ、進吉」

 いきなり振られた進吉は少し狼狽えて見えた。

「え?た、たぶん……」

「なら、いいよな?」と、親分はひろに向きなおって言った。

「親分、そんな聞き方じゃ嫌とは言えねえじゃねぇですか」

 進吉の抗議は無視して親分は続けた。

「狭くて古いなんか、気にしねぇよな?」

 ひろは先ほどより大きく頷いた。

「ほら、決まった。ちょうど夜が明けてきたから、これから早速進吉おじさんのところへ行こう!」

 親分の科白にひろは一段と大きく頷いてから、祈る気持ちで進吉を見つめて言った。

「着る物はおじさんのお古で良いの。おもちゃも要らない」

 親分と進吉は揃って間の抜けた顔になった。それから吹き出した親分が、進吉を小突いて「それみろ」と囁いた。

 ひろはこの時になってもうひとつ引っ掛かっていたことを思い出した。暗がりの中で倒れているかなを見て、すぐに子守だと進吉が言ったことである。ひろと一緒にいたところは見たことがなかったはずなのに、また幸太から聞いていたとしても、あんな暗がりの中でもわかるくらいかなの顔を知っていたのが不思議だ。

 ひろの疑問に進吉は一段と優しい表情になった。

「ちょくちょくお嬢ちゃんの様子を見にきてやしたからね。気づいてなかったんでやすか?」

 ひろは暫く口が利けなかった。顔がくしゃくしゃになるのがわかった。涙がどんどんこぼれる。ようやく口にできた言葉は、かなに最後に言った言葉だった。

「どうして……どうして……」

 町役人が今度はきれいに折り畳まれた手拭いを進吉に手渡してきた。



 六


 ひろは進吉と手を繋ぎ、顔を出したばかりの御天道様に向かって、色づいていく早朝の江戸の町を歩いた。時々進吉の様子を窺うと、進吉も「どうしやした?疲れやしたかい?」とひろを見る。その度にひろは首を横に振った。

 ひろはなんともいえない、清々しい心持ちで歩いていた。

昨夜のことは夢に思えてきていた。

作蔵も平八も、亡骸を見ていないから、死んだと聞かされただけでは今一つ実感が湧かず、いつの間にかどこかで元気に生きている気分になっていた。

唯一、殺されるのを目撃してしまったかなだけは、死んだという現実と本心に全く気づいていなかった後悔がひろの心にずっしりと横たわっていたが、家の者は誰も自分のことを気にかけていないと思っていたのが、そうではなかった、一人ぼっちではなかったんだという嬉しい気持ちも同時に沸いていた。

更には進吉と五郎左親分には危ないところを助け出され、勘太の母親も、番屋にいた町役人も気遣いを見せてくれた。

そして今、心から信頼できる進吉と手を繋いで歩いている。

 ――お父つぁんとこうして歩きたかったな。

 途中でそんなこともふと思ったりしたが、父親が死んだということももう一つ実感できていないからか、ひろの気持ちは父親の思い出よりも、目の前にいる進吉の方に向いていた。手を繋いで歩いているのが嬉しかった。

 やがて平川町に入った頃、ひろは不思議な感覚になっていった。

 その頃には通りに面した大店は次々と引戸を開け、丁稚や手代が暖簾を出したり、上げ床に品物を並べたりと、店を開き始めていた。

 ――あたし、この辺のこと知ってる気がする……もう少し行くとお茶碗がいっぱい置いてあって、そこを右に曲がると、大きな蝋燭があって……

 進吉はひろの覚えている道を、躊躇うことなく瀬戸物屋がある角で右へと曲がった。その左手には大きな蝋燭を暖簾に描いた蝋燭屋があった。

 ――どうして知ってるんだろ?前に来たことがあるのかな?どうしてだろう?

 きょろきょろと辺りを見回しながら、ひろはだんだんわくわくしてきた。

 ――あ、あの本屋さんと筆屋さんの間を入れば……その奥から二軒めの……

「おじさん、あたし、この辺のこと知ってる」

 そういって見上げたひろに進吉は驚いた顔で曖昧な頷きを返した。

 果たして、進吉は書物問屋と筆墨硯問屋の間の路地へひろを連れて入った。

ひろは嬉しくてはしゃがずにいられなかった。

「あたし、知ってる!おじさんがどこに住んでるか知ってる!」

 ひろは進吉を引っ張るように走り出した。路地の真ん中に敷かれたどぶ板が、走るひろと大股で歩く進吉の草履の下で揺れてガタガタと音がした。その音もまた馴染みの音にひろは感じた。

 ――あの奥から二軒目の、引戸を開けたら、そこにはきっと……

 奥から二軒めの店の前にくると、ひろは迷わず引戸を開けた。思わず声が出た。言わずにいられなかった。

「ただいまぁ!帰ったよ!」

 土間にある竈で女が引戸に背を向けて火の加減を見ていた。炊きたての飯の匂いが外へ溢れだした。

 ひろの声に引戸の方を見返った女は目を見開いた。それから笑顔になった。頬にはえくぼが現れた。

「お帰り、おひろちゃん」



「まだよちよち歩きの頃の、たった二月くらいのことだったから、覚えてないと思っていたのに……」

 ひろがぐっすり眠っているのを確かめ、上がり框に腰掛ける五郎左親分と正座している進吉の所へ、えくぼの女、りくがやって来て、そう言った。ひろが「ただいま」と引戸を開けてから半日が過ぎていた。

「数えの三歳だったな。その二月があの子にはこれまでで一番幸せだったんだろう。本当の母親もあんまり面倒みてなかったのかもな……だから断片ながらも覚えてるんだ。いきなり『ただいま』で戸を開けたのには、俺としたことが腰を抜かしそうになったよ」

 五郎左親分はニヤけた顔で進吉とりくを交互に見た。

ちょっと様子を見に来ただけだからと上がり框に腰かけた親分だったが、出された白湯をのんびり啜り、りくが膝の上で眠りこんだひろを蒲団に寝かせるのを見守った。

「もちろん引き取って育てるだろ?お前さん夫婦はあの子と縁があるんだよ。それとも盗賊の娘だってのが気になるかい?」

「まさか!そんなことちっとも気になりませんよ。あの子は何も知らないのですし、あの子のことがうちの人が親分のお世話になるきっかけでしたもの」

 親分は進吉を横目で見て言った。

「あの頃、お前は妙に意気がってたもんな」

「もうそのことには触れねぇでくだせぇ」

 進吉が肩をすぼめて一段と小さくなった。

 りくは夫の様子を気にした様子なく、親分に向かって話を続けた。

「気になりますのは、前にあの子がここへ来たのもやっぱり恐ろしい目にあった直後でした。思い出して怖がったりしないでしょうか?」

「目の前で母親が間男共々父親にバッサリ斬り殺されるなんていう恐ろしい目を忘れさせたのは、誰あろう、お前さん達じゃねえか。今度も忘れさせてやるんだな」

「あたし達もあの子に正吉の死から立ち直らせてもらいました。最初のうちは怖かったことを思い出してか、しょっちゅう泣いてましたけど、少ししたらよく笑う、手のかからない子になって……」

「お前さん達にも良い方に転がってよかったよ。余計に辛くなるかもしれねぇと心配もしたんだが。思えば、あの時この親父は只者じゃねぇと思ったのに、賊の頭かもしれねぇと疑わなかったのが俺の失敗だ。しかも、よりによって猿の銀三だったとはな……今は亡き与力の旦那がなにやら気になさって三月近くも吟味に時間をかけて何も出なかったのを、あんときゃ旦那に似ねぇヘマだと思ったが、なんのなんの、ヘマやらかしたのは俺達の方だったわけだ」

「評判の良い木綿問屋を何年も営んでたんですから、そりゃ誰もまさか盗っ人とは思いませんよ。でも二年も前から疑ってたんでやしょう?さすが親分です」

「最初は俺も『まさか』だったよ。猿の銀三が八州で押し込みを働いた三日後にあの親父が旅から戻ってきたってのに気づいた時にはな。偶然かもしれねぇが、念のため確かめようと様子を窺っていたら、旅に出かける何度に一度かは八州のどこかで猿の銀三が暴れていた……まさかてめぇの片腕のような手下にあっさり殺られるとは思ってもみなかったが、盗賊の繋がりなんてのは所詮そんなものだ」

「けど繋がりといやぁ、下男の平八、作蔵という若い手代やおかなは達治に与しなかったでやしょう?それだけでなく、命懸けで止めようとした……他にも何人か斬られてたじゃねぇですか」

「達治らは何も知らねぇ奴まで手にかけたからな。これまで何十人と盗っ人連中を見てきたが、命懸けるぐれぇ義理がてぇ奴にお目にかかったこたぁねぇぜ。たいていは隙をみせたらおしまいだ。だからこそ、まだ若かったし、作蔵とおかなが気の毒でならねぇ」

「それにしても猿の銀三はなんで盗っ人から足を洗わなかったんでやしょう?店は繁盛してたわけで、なんでわざわざ危ない橋を渡り続けたのか、あっしにはどうにもわかりやせん」

「俺にもわからねぇよ。桁は違うが、掏摸と一緒で、一度味をしめたらやめられねぇのかな。達治に聞いたら、わかるかもしれねぇ。聞いてもわからねぇかもしれねぇ……」

 親分は奥で寝ているひろの方に目をやった。

「あの子を養女にする諸々は俺がちゃんと手を打つから、お前達はなんにも心配することはねぇぞ」

 進吉とりくは顔を見合わせた。見事に動きが揃っていた。

「俺はお前が良いなら……と思ってる」

「あたしはあんたが良いなら……よ」

「お前ら、ほんとにウマが合ってるよな」

 親分は豪快に笑いだした。

 進吉とりくは二人揃って人差し指を口に当てた。

「あの子が起きます」

「あの子が起きちまいやす」

 言い出しまで揃った。

「決まりだな。……ひょっとしたら、あの子がお前さん達を強く慕う気持ちが今度のことを招……いや、穿ち過ぎだな」

 親分は湯飲みに残っていた白湯をくいと飲み干し、漸く腰をあげた。視界の隅で何かが動いた気がしてそちらに目を遣ると、ひろが寝返りをうったのだった。その手には柿色の守り袋が握りしめられていた。





―― 完 ――


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