六話 ゴブリンに~、出会った~
「!?」
藪を抜けた先で出会った緑色の何かが上げた奇声に正気を取り戻した俺は、左斜めから振るわれた棒から逃げるように右側に飛んで避ける。
避けられるとは思っていなかったのか、それとも振り下ろした反動かどちらかは解らないがが止まっている間に観察する。
緑色の肌に汚いぼろ布を腰に巻いた姿で大きさは1mを少し超えるくらいだが、背中が曲がっているから伸ばせばもう少し大きいだろうか。
その姿に想像される名前が一つ思い浮かぶが命の危機である以上、先入観での動くのは危険だ。
『ナビ、あれは何だ?』
『あれはゴブリンよ』
そう思い、ナビに聞いてみれば返ってきた言葉は俺の予想通りゴブリンだった。
ゴブリン。
現代の創作においてスライムと並ぶ雑魚モンスターでもあり、大きな紳士の薄い本でオークと双璧を成すかなりメジャーなモンスターだ。
由来からいくとモンスターよりも妖精に近い存在らしいが、この世界ではどうなのか。
『ゴブリンは人類の敵であるモンスターの中でかなり弱いモンスターね。
繁殖力が高い以外は突出した能力はないから保護者の見守り付きでなら子供にもやれる雑魚ね。ただし成長力もそこそこあるから、上位の個体へ進化するのが多いのも特徴よ。
スキルや魔術を使って隷属していない限り出会った瞬間に殺しにくるから逃げるかブッ殺すかしか対処はないわ』
聞いた感じは健全なタイプのファンタジー作品のゴブリン、ただし殺意マシマシと言ったところだろう。
『じゃあ、あのゴブリンも弱いってことでいいのか?』
『そうね、見た目も武器もみすぼらしいし、群れで動ごくはずのゴブリンが一匹でいるのは群れから追い出された、はぐれだからね』
『はぐれ?』
『そう、ゴブリンは群れで生活するけど欲深で知能が低いから上位の個体がいない限り群れの数が、10匹を超えた辺りで統率しきれないから仲間割れを起こしたり弱い個体が群れを追い出されるのよ』
『つまり、あいつは弱いと?』
『まとめると、そうね』
数が多くなって追い出されたカーストの低い弱いゴブリンとは、モンスターの世界も世知辛いな。
そう思いながら腰に差した剣を抜き構える。
『戦うの?』
『ああ、今後ダンジョンを攻略するのに戦うんだからこんなに良い条件で戦えるならチュートリアルにはちょうど良いじゃないか』
俺を転生させた神をぶん殴るためにはダンジョンの攻略つまり戦闘は避けては通れないだろえ。
もしかしたら他に方法があるかもしれないが、探すのは戦闘がまったく向いてないとか、ダンジョンを攻略しながらでも良いだろう。
剣を構えてゴブリンの動きを観察していると、何故かゴブリンはニヤニヤと笑っていた。
『何であいつ笑ってるんだ?』
『さぁ? ゴブリンの低能な頭の中なんて、どうせしょうもないことしか考えてないと思うけどね。
マスターの剣を見て笑ってるから既に、ゴブリンの頭の中ではマスターを倒して剣を自分の物にした位の気持ちでいるんじゃないかしら』
それはなんとも、某小鬼殺し的なゴブリンっぽいな。
『マスター、来るわよ』
そんなことを考えていたらゴブリンがまた、襲いかかってくる。
最初の出会い頭の突発的な攻防と違い、今回は確りと構えて余裕を持って見る事ができた。
あのジャイアントタイガーを見た後では、ゴブリンの動きなど月とスッポンいや、スッポンに例えるのも失礼な程にお粗末な動きだ。
先程と同じ様に飛び上がり、今度は真上から棒を振り下ろしてくる。
右手一本で技術もなく、ただ振り下ろされる棒に対して剣を合わせる。
ぶっつけ本番になったが受け流しのスキルを上手く使えたようで棒の左側に合わせた剣で少し押してやることで、俺の頭を狙ったゴブリンの棒は右側に逸れて、もう一度、先程と同様に地面を叩く。
「おいおい、こんなもんかよ。もっとやる気出せよ」
『へいへーい! バッターびびってる!』
「ゲ、ギャー」
振った棒が俺に当たらず不思議な表情をしているゴブリンを煽ると理解出来たのかは不明たが、奇声を上げて棒を振り回してくる。
と、言うか。
『お前が煽っても聞こえないんだから、意味はないだろ』
『合いの手があった方が気分上がるかと思って』
『まぁ、分からんでもないけど程ほどにな』
『はーい』
そうしている間にもゴブリンが攻撃してはくるが、ゴブリンの攻撃がショボいからか、又は受け流しのスキルが優秀なのか、若しくは両方なのか、脳内で馬鹿な話をしながらでも十分に対応可能だった。
雑に振るわれる棒に剣を合わせて受け流す。次がくる前に構え直して受け流すか、一歩下がって避けるか選択する。スキルに促されるままに連続で受け流すとまだスキルのレベルが低いからか、偶に失敗して掠ったりするがゴブリンの腕力では、ほとんどダメージにはならないが喜んでニヤニヤした面は非常にムカつく。
「ゲー、ゲー」
そうして打ち合っているとゴブリンは疲れたのか肩で息をし始めた。
俺の方はそこまで疲れていないのは疲労耐性の効果だろうか。
『ナビ、どれ位ゴブリンと戦ってた?』
『ん? えーと、十分経ったくらいかしら』
そこまで経っていないようだしゴブリンの体力がゴミなだけか。
流石に疲れたゴブリンを虐める趣味はないのでそろそろ楽にしてやるか。
意識を受け流しから剣術にシフトする。
ゴブリンと打ち合っていて気付いたのだが、スキルを使う時は、使うスキルを強く意識すると、より効果が発揮する気がする。ただ、これは俺が剣を使って受け流しのスキルを使っているせいで、攻撃を受け流す時に剣術と受け流しの二つのスキルが同時に主張して喧嘩して効果を発揮しきれないからなのではないかと思っている。だから、どちらのスキルをメインに据えるのかを意識したほうがスムーズにスキルの力を引き出せるのだと思う。
閑話休題。
意識を剣術にシフトして、そのまま剣を振るうべく踏み込む。
スキルのレベルが低いからか足運びに違和感を覚えるが武術の心得がない俺には今はどうすることもできないので構わずに足を進める。
「ゲー!」
今まで攻めてこなかった俺が、急に攻勢に出たことに驚きつつも疲れたゴブリンは動くことは出来ず棒を突き出して近づけさせないようにするだけで精一杯だ。
とはいえ、このまま進めば棒にぶつかってしまうので避けないといけないが剣術は剣を使った攻撃や防御にはアシストしてくれるが、回避には力を貸してくれない。
「ここっ!」
だから、構える棒が当たるギリギリまで惹きつけてから一度スキルから意識を外してアシストを解除して避ける。
無理にスキルのアシストを解除したせいか、体勢を崩し倒れそうになりながらも棒を避けてから、もう一度、剣術を意識しアシストを受けて不格好ながらも、ゴブリンの横を抜けつつ、その貧相な緑色の胴体を切り裂いていく。
「ゲギャー⁉」
切られたゴブリンは汚い悲鳴を上げながら、そのまま地面に倒れ伏す。
「ふー」
一度、深呼吸をしてからゴブリンを見る。
切られて虫の息だが、まだ死んではいない。
ゴブリンを切ったことに対して特に思う所はなく、死ねずに苦しんでいるのは少し可哀想だなと思うぐらい。俺自身は、そこまで冷血な性格ではないと思っていたが想像以上に生物を殺しても心は動かなかった。
これが元からの性格なのか、それとも転生するときに神に弄られたのかは、分からないが、もし勝手に弄ったのならば、やはり殴らなくては気が済まない。
新たに神を殴る決意をしつつ、ゴブリンに近づく。
「南無三」
それっぽい仏教用語を唱えながら死にかけのゴブリンの首に剣を振り下ろす。
《レベルが上昇しました。レベルが3になります。》
確りと、止めを刺すことができたようでレベルが上がったようだ。
今の俺のレベルは同じぐらいの年の一般人と比べてもかなり低いらしい。他人のレベルが見えるものなら怪しまれるかもしれないし、そこの所もナビに聞いて確認して今後の予定を立てていかないとな。
『ナビ、今後の予定の為に聞きたい事……ガァ⁉」
『へっ? ちょっと、何? どうなってるの? マスター! 大丈夫?』
脳内でナビに声をかけていた所で直ぐ近くに何かしらが落ちてきたようで、轟音とその衝撃で吹き飛ばされた。
あまりに突然の出来事に俺は反応することは出来ず、ナビも取り乱しているばかりだ。
「ふぅ、到着ね。さてと、お目当ての人物はどこかな~」
そんな、呑気な声が微かに聞こえてきたが、どうすることも出来ずに俺の意識は闇に沈んでいった。
死亡数1
ガチャ獲得・次回持ち越し
残りライフ103
主神様「……(啞然)」
神「www草」