三話ただいま異世界
《レベルが上昇しました、レベル2になります》
二度目の異世界は一度目と違いアナウンスから始まった。
想定外の事態に驚きつつも、ここに長居は出来ない為すぐさま体を起こす。
「今の何だったんだ? ガチャを回してスキルを獲得した時の音声と同じだったような気がするが」
『今のはそのまんま、レベルが上がった音よマスター』
「うおっ! 頭の中から声が聞こえる」
更なる想定外に思わず声が出てしまったが、この精霊は死んだ後に行くあの空間でしか会えないと思っていたがどうやら違うようだ。
『そう、マスターが一度死んでスキルが発動したことでこの美少女型サポート精霊のアタシがこうして生きて行動しているマスターのサポートも出来る様になったわけ。
アタシの美少女ボディは残念ながらあの空間から出せないから意識の共有という形になるけど五感を共有しているから警戒したり、この世界の常識を教えたり出来るわ。
それで早速マスターの疑問に答えても……ってちゃんと聞いてるの!」
話が長くなりそうだったのでナビの話を聞きながら他にも変化がないか確認する。
先程のガチャを引いた空間(以降はガチャ空間とする)で貰った剣を腰に下げている以外は特に変化はなさそうだ。
「ああ、聞いてる、聞いてる。
ただ話は移動しながらでいいか? 直ぐに移動しないと虎に襲われる」
『虎? まぁ、問題ないわよ』
サッと辺りを見回して虎を確認出来ない事を確かめてから最初に背後から襲われるたからそのまま前に駆け出していく。
「それで、なんでいきなりアナウンス? みたいな音声が聞こえたんだ。
それとさっきから最初と呼び方違うんだ?」
『ケジメよケジメ。
サポート精霊としてマスターとの良好な関係を築く為には呼び方一つ取っても重要で最初に気安い感じ呼んだ後に丁寧な言葉に変わったら好感度上がるでしょ』
「そ、そうだな」
言わんとする所は分からなくもないが、それを相手に直接言っちゃうのはどうなんだ?
確かにアンタとか言われているときはチンチクリンとかポンコツ精霊とか内心思っていたがマスターとか言われて敬われるのは見た目が良いのもあって嫌な気分にはならないな。
「それでさっきのアナウンスは何だったんだ?」
あの巨大な虎の縄張りだからか木々の間隔はそれなりではあるが整備されていない森だからか足元は木の根や大き目な石等でデコボコしており走り難く注意しなければ直ぐに足を引っ掛けて転んでしまいそうだ。
それでも少しでも情報を得よう気を付けながら走りナビに聞く。
『さっきのはレベルアップのアナウンスね。
この世界には空気中や生物の体内に魔素という不思議物質があるんだけどそれを体内に吸収してある程度溜まると魂が強化されてレベルアップしてそれに合わせて肉体も強化されるのよ』
走りながらというのもあり全て理解した訳ではないがゲームのレベルアップの様なものなのだろう。
「それで、はっ、何で、レベルアップ、したんだ?」
『まだ説明の途中なんだから落ち着きなさい、レベルアップの方法は主に三つ。
一つ目は空気中に含まれる魔素を呼吸によって吸収する方法。
二つ目は生物を殺すとその生物が持つ魔素をある程度吸収する方法、後殺す程じゃないけど肉体にも魔素が宿ってるから食べることでも上がるわね。
最後はジョブに適した行動をすると魔素が獲得出来るわね。
他にもあるけどこんなもんね。
それで今回マスターがレベルアップした理由は、最後のジョブによる魔素の獲得ね』
「俺は、自分のジョブ、はっ、知らないだけど、何時、ついたんだ?」
全力ではないとは言え、走りながら喋るのはかなりきつい。
『マスターのジョブは転生の際に付与してあるわ。
この世界の人は15才の誕生日にジョブを授かるからマスターの体もそこに合わせて作られているわ。
そして、マスターのジョブはズバリ【ガチャ師】よ』
「は? 何だそれは?」
【ガチャ師】、はっきり言って名前がダサい。
ギャンブラーとか賭博師とか他にも名付ようがありそうなのに圧倒的にダサい。
『【ガチャ師】の効果はガチャを含めランダムで結果を発揮したりするものの結果を良くなる、つまり運が良くなるわね』
名前はダサいが聞く限り効果は良さそうだ。
【死に戻りガチャ】の結果が良くなるなら強力なスキルを手に入りやすくなるなら名前のダサさを許容してもよい。
『あ、でも【死に戻りガチャ】は効果の範囲外ね。
正確には【死に戻りガチャ】を引く空間は別世界の扱いだからジョブの補正とか効果が発揮しないのよ』
「何でだよ、はっ、それじゃあただ名前が、ダサいだけじゃ、ねぇか」
ぬか喜びさせやがって。
それじゃあ滅茶苦茶産廃ジョブなんじゃねぇのか?
『確かに名前はダサいわね。
でも、ジョブの効果は発動しないけど、ガチャを引いたっていう結果は残るからジョブの適正行動による魔素獲得は正常に作用して覚醒と同時にレベルアップしたって訳ね。
あっ、それと一々声に出さなくても私に伝えたいと思いなが心の中で念じれば私に伝わるわよ』
「そういうことは、はっ、もっと早く、言え」
こいつ実はわざとやってあるんじゃないかと、思いながらも伝えようと思いながら念じてみる。
『おい聞こえるか、ポンコツ精霊』
『ちょ、マスター。
幾らなんでもその発言は聞捨てならないわ!
この美少女サポート精霊であるアタシを言うこと欠いてポンコツなんて屈辱すぎるわ! こんなこと生まれて初めてよ!』
『いやお前は、生まれたばかりだろ』
どうやら、ちゃんと伝わったようだ。
ただ、俺の言葉は琴線に触れたようで、かなり喚き散らかしており、途中の俺のツッコミにも反応せず喚き続けていた。
一通り言い尽くしたのか息を付いている様な呼吸に見えはしないが肩で息をしている様子が幻視される。
『それで今回は一回でレベルアップしたが普通はこんなに簡単にレベルアップするものなのか?』
『はぁ、はぁ、マスター、後で覚えておきなさい。
ふぅ、それでレベルアップについてね。
今回のレベルアップの要因はマスターのレベルが1だったことね。
【死に戻りガチャ】自体が死んだら引ける希少性のせいか魔素の獲得量が多めなのもあるけど、呼吸や食事での魔素の獲得で殆どの人一年で1レベル、ジョブを授かる頃には大体15レベル前後になってる人が多いから今のマスターは見た目の割にはかなり低レベルだから今はかなりレベルが上がりやすいわよ』
成る程、普通は今ぐらいの年齢なら既にレベルが上がっているのか。
更に聞くとレベル1から2まではそれほど魔素は必要ないらしいがレベルが高くなるにつれ必要な魔素は増えるのだが肉体の成長に合わせて呼吸や食事による魔素の獲得量が増えるそうなのでそれで大体十五才位までは個人差はあるが一年に1レベル上がるそうなのだ。
そんな感じで話ながら移動しているのだがどうにも嫌な感じがする。
『ねぇ、何か足音聞こえない?』
『言うな、敢えて考えない様にしてたのに』
レベルが上がったからなのかそこまで大きな音ではないが右後方から、それなりに大きな生き物が追いかけているだろう気配が感じ取れる気がする。
今走っているいる所はそれなりに木々が生えているから先程の巨大な虎になら襲われないが開けた場所に出たら襲われるかもしれない。
『あっ、マスター。この先に開けた場所がある』
「まじか」
『まじよ』
思わず声に出してしまったが止まる訳には行かないのでそのまま突き進む。
そして開けた場所に出た。
それなりに広い空間を軽く見渡すと右手側に離れているが虎が二頭いた。
殺された虎と比較してかなり小さい虎は体こそ虎と呼ぶに相応しい大きさだが、その瞳は肉食獣特有の鋭さはなく、つぶらな瞳をしている気がするが離れているのに、そう認識出来る程の大きさとなるとこの虎達は……。
「グルガアァァァアアア!!」
「でぇすぅよぉねぇぇぇぇえええ!!!」
そして俺と虎との中間地点から突如として飛び出す後方からついて来ていたと思われる、一度目に俺を殺したのと同一個体と思しき巨大な虎。というかあんなのが近くに複数いるとか勘弁して欲しいが。
一度目に現れた時と比較にならない殺意と迫力の巨大な虎にあ、死んだなと思いつつも一縷の望みをかけて駆け出す。
戻るという選択肢はない、死にたくはないが戻って怯えて殺されるよりも万が一、駆け抜けて振り切れればその後死んでも次に活かせる可能性に掛ける。
『ヒンギャァァァァアアア!!! 何なのよ、あの巨大な虎は! すんごい! 大きいんですけどぉ!』
うわっ!? うるさっ、ここで急にナビが脳内で騒ぎだした。
『五月蝿い、騒ぐな。というか俺がこれに殺されて死んだことぐらい知ってるだろ』
『私がマスターとリンクしたのは死んでガチャを引く空間に来てからであって、その前は認識出来ないんですぅー。そんなことも分かんないんですかぁ? だから直ぐに殺されるんですよ、よわよわマスター。ほら、折角剣持ってるんですから、あのデッカイ虎をバサーと斬っちゃって下さいよ』
『お前こそ馬鹿なんじゃないの? 剣持った位であんなデカイ虎を準備や作戦もなく倒せるわけないだろポンコツ精霊「グルァアアア」ノギャワー!!』
何か煽られたので言い返していたら、途中で巨大虎に襲い掛かられて脳内で悲鳴を上げながらなんとか転げ回りながら避ける。
思ったよりも距離を稼げてない。
途中であの巨大な虎に襲われるのではと気付かずに道中で思ったより速度を出したか精神が追い詰められてたようで疲労が結構溜まっているせいか全力で走っても思ったほどスピードがでない。
それに動きに違和感がある。多分アラサーの体から15才の体に変わって感覚が追いついていないのだろう。
衰えているとは思っていないが、成長途中の体と転生前の体では身長や体格の多少の違いを感覚で掴みきれてないから思ったように動けずに、動きに齟齬が出ているのだろう。
もう少し進められれば木々の間に飛び込んで木を盾に出来そうだが、今の距離ではたどり着く前に虎の餌になってしまう。
仕方なく剣を抜き巨大虎に対峙するが、正直言って勝てるビジョンは一切見えない。
『さぁ、マスター。あんなデカイだけの猫なんてナマスにしちゃいなさーい』
脳内の喧しい応援? を聴きながら先手必勝とばかりに切りかかるが。
「『嘘ーん』」
強者の驕りか、こちらが攻撃するとは思っていなかったのか、巨大虎は避けることなくその巨体に似あった太い前脚に剣術のスキルに導かれて、剣を振って当てることが出来たのだが一切傷つけることはできなかった。
毛を切ることすら叶わず多少の衝撃を与えるのみに留まった。
「お手柔らかにお願いいたします」
「ガアァァァアアア!」
俺の言葉が聞こえたかは解らないが巨大虎はその大きな前脚を振り下ろし一撃であっけなく死んだ。
死に際に思ったことはナビと言葉が被ってあのポンコツと感性が一緒なのかと凹んだ。
死亡数1
ガチャ獲得・次回持ち越し
残りライフ99