二話死に戻りガチャ
ナビが指し示した奇妙で派手な機械は目が覚めた時から気になってはいたが後回しにしていたものだ。
その見た目は原色をふんだんに使ったものでお世辞にもセンスが良いとは言い難いものだった。
ガチャと言ったがスーパー等に置いてあるカプセルトイの様な景品を出すために回す回転式のハンドルやお金の投入口はないが、その代わりに側面からレバーの様な物が生えておりハンドルや投入口の無い正面部分には細長いディスプレイの様な画面が付いておりガチャと言うよりはスロットに近い見た目をしている。
「アンタの与えられたスキルである【死に戻りガチャ】は、この空間も含めてのスキルで主な効果は四つ。
1つ目はアンタには今死んでも百回蘇る蘇生効果。
2つ目は死んだ際に一度だけ、ここに来てガチャを引くこと出来る。
3つ目は元に戻る際に死ぬ一分前、一時間前、覚醒時の三つの内一つを選んで過去に戻ることが出来る。
そして最後はこのアタシ! スーパー美少女型にして至高のサポート精霊のアイ・ナビ様が付いてくることよ! どう、嬉しいでしょ! おーほっほっほっほ」
「チェンジで」
「なんでよ!」
この見た目は良いが喧しいチンチクリンと四六時中一緒だと思うと、思わずチェンジと言ったがそんなものは今はどうでもよく【死に戻りガチャ】についてだ。
まだ、姦しく喚いているナビに質問する。
「百回蘇生すると言ったが今、虎に殺されたから後は九十九回ってことか?」
「もー流すんじゃないわよ! はー、今回は所謂チュートリアル的なお試しで蘇生はカウントされないわ」
「次、ガチャの中身は?」
「蘇生とスキルね」
「蘇生とスキル? 蘇生は別の効果じゃなかったのか?」
「ま、正確には蘇生回数をプラスすると思ってもらえればいいわ」
多少とは言え時間を巻き戻せるのだから、知った状態でやり直し出来る回数が増えるのは大きいな、だが。
「そうか、それって蘇生を引き続ける事になったら俺は寿命とかが来たらずっと、死に続けることになるのか?」
「基本的にはそうなるけど、余程偏りがなきゃ永遠に蘇生し続けるってことにはならないし、一応は十年この世界て生きたら死んだ時にそのまま蘇生せずに死ぬことも可能よ」
成る程、寿命で死んで蘇生されるをループし続けることはないようだな。
十年という区切りが最低限の仕事をしたということだろうが、それだけだとまだ転生者に何をさせたいのか情報が足らないな。
「じゃあ、スキルについては?」
「スキルは一般的に、この世界での力の一つで技能の神様に認められた時に認められた技能や技術がスキルとして昇華されるわ。
ただし、アンタの場合【死に戻りガチャ】はシステム周りが微妙に違うから厳密には一緒ではなく、大体一緒と思ってもらえればいいわ、手に入った時点でそのスキルの最低限の動きや知識を得られるわね」
「スキルが力の一つと言ったがそれは他にもあるということか?」
「ええ、スキル以外にもジョブとレベルがあって、この三つが異世界の人達の力の根幹をなしているわ」
「詳細は?」
「現状がチュートリアルなので関係ないから時間がある時にでも答えてあげるわ」
「は? サポート精霊なんだから教えてくれてもいいだろ」
「この空間は本来は死んだアンタがガチャを引くためにあるのであって長々と居る場所じゃないの、死んだ状況を整理する為にちょっと考える位は問題ないけど無駄話とかしてると追い出されたりするからね」
「誰にだよ」
「そりゃ、アンタを転生させた神様によ」
「マジで」
「マジもマジよ、面白そうだからって理由でアンタに与えるスキルを決めた位だからね、一応ルールとしてここでの不要な会話は推奨されないってなっているから面白くないって理由でここから追い出す位しかねないわ。
それにアンタがここを出てもアタシは念話的な感じ会話はで出来るから聞きたいことがあれば出てから存分に喋ってあげるわ、何せここは真っ白で退屈でアタシはアンタを通してしか外は見れないから退屈しない程度には、ちゃんと協力してあげるわ」
「そうか、分かった」
一体どんな神が俺を転生させたかは知らないが非常に面倒な性格のようだが一発殴りたい気分だが、ここに居られる時間が限られている可能性がある以上無駄な行動は避けて、先ずは【死に戻りガチャ】への質問を進めた方が良さそうだ。
「じゃあ、三つ目の巻き戻りだが今みたいに一時間しない内に死んだ場合は一分前と覚醒時だけという認識でいいのか?」
「その認識で問題ないわ」
そうなると戻る時間は覚醒時で決まりだろう少なくとも今の時点であの虎に勝てるビジョンは浮かばない以上逃げの一手に限る。
手に入れられるスキル次第では戦えるかもしれないが、そこが運に頼る以上は期待しすぎない方がいいだろう。
「それと時間の巻き戻しって何かしらデメリットはあるのか? バタフライエフェクト的なパラダイムシフトとか平行世界的な感じで時空消滅とか起きたりしない?」
「しないわ」
「本当に?」
「ええ、他の世界は知らないけど少なくともこの世界では過去に干渉したりすることは不可能で時間を巻き戻す様な能力は主神様以外には一人と決まっているから気にしなくてもいいわ、後主神様はアンタを転生させたのとは別の神様だからそこのところはよろしくね」
どうやらタイムループによるデメリットは無さそうだし主神様、一番偉い神様にさえ敵対しなければ問題なさそうだ。
俺を転生させたのが主神様なら敵対しただろうがそうでないなら別段敵対する理由はないしな。
「さあ! そろそろ質問はいいわね!
お待ちかねのガチャの時間よ、イエーイ! どんどんパフパフー」
別に待ってはいないが、ここがガチャを引く為に存在する空間であるのだから引くしかあるまい。
「とは言っても今回は初回限定の確定ガチャなんだけどね」
「へー、どうせ振る舞うならスキル確定十連ガチャとか引かせてくれれば良いのに」
どうやら今回に限りスキルを確定で手に入れられるようだか一連とは酷くケチ臭い。
「ソシャゲじゃないので集客効果を狙った、ばらまきは有りませーん。
それに転生させた神様はアンタの新しい人生をエンターテインメントとして楽しむつもりだからね、あんまり最初から強くなって人生イージーモードにしたくないらしいわ」
聞けば聞くほど俺を転生させた神様とやらに対して怒りが募るのだが、こいつはそんなにぶっちゃけてよいのだろうか。
「いいのかよ、神様相手にそんなに言って」
「いいのよ。それにアンタを転生させた神様とアタシを造った神様は別だからね、特別に敬ったりしてるわけじゃないわ。
そんなことより早くガチャを引いちゃいなさい、その横に付いているレバーを手前にグイっと引けばガチャは回るわよ」
そんなもんかと思いながらスロットみたいなガチャのレバーを握り思いっきり引く。
軽快な音楽と共にディスプレイは多様な模様を映し出したり光を放ったりする。
どうでもよいがこのシステムを神様が組んでいるのだろうか、いやきっと自分は発注だけしてふんぞり返る様な奴に違いない。
そんなどうでも良いことを考えていると音楽の勢いが弱くなり一度止まる。
《スキル:【剣術】を獲得しました》
《スキル:【剣術】はレベル1になりました》
音楽が止まると同時にディスプレイに剣術の文字が表示されると今度は短い効果音とアナウンスが流れた。
「スキル獲得したわね、じゃあこれは今回だけだけどおまけよ」
すると目の前に突然、鞘にに入った剣が現れた。
空中に現れた剣は一瞬だけその場に留まった後、思い出した様に重力に従い落ちていき慌てて掴む。
「これは、凄いな」
今の凄いは剣ではなくスキルについてだ。
剣を掴んだ途端に朧気ながら使い方が頭に浮かんできて今まで一度も剣を振ったことがない俺でも一端に戦える様な気がしてくる。
柄を掴み鞘から抜き出す、そして教えられた訳ではないが持ち方や姿勢を理解し構えて、そして後押しを受けながら振る。
熟練者からしたら未熟な物だろうがそれでも初めて振ると考えれば上出来ではないだろうか。
「舞い上がってるとこ悪いけどいいかしら」
「ん、何だ?」
「その剣は一応一般的な物だから期待しないでね」
どうやらポンコツ精霊には今の凄いが剣のことだと思ったのだろう。
剣に特別の見識があるわけではないので良し悪しは分からないが刃渡り80cm程の両刃の剣で振った感じも悪くなかったので不良品ではないと思う。
「いや、剣じゃなくてスキルが凄いなって思って」
剣を手にした時に感じたことを伝えると、あー、といった表情をされた。
「普通はそんなに劇的に感じないわ。
アンタみたいに前触れもなく獲得するんじゃなくて独学なり教えてもらうなりで経験を積んだ結果、獲得するから、ある程度基礎が出来てるから獲得する前よりちょっと理解出来たり動ける様になるのが普通だけどアタシも造られたばかりだから知識としては知ってるだけだけどね」
そうか、ある程度地力を上げてからスキルは与えられるのか。
俺はかなり特殊な例だが、それでもスキルを獲得し使った時にかなり強くなった気がした。
特に努力しなくてもスキルを獲得したら努力するのが馬鹿らしくはなりそうだ。
とは言え俺は、つい先程虎に殺されたばかりなのでそこまで楽観視はしていない。
確かに剣を振った時にはそれなりの万能感を得たが、じゃあそれでさっきの虎に勝てるかと聞かれたら俺は間違いなくノーと答えるだろう。
そういう意味では増長して後程に痛い目に合わなくて済むのは幸運だとは思うがそれで俺を転生させた神には感謝しないし必ず殴る。
「じゃあ、そろそろ戻すけど時間は何時がいい?」
ガチャを引いたので戻らないといけないようだ。
これから又あの巨大な虎に会うかと思うと気分が滅入るがそうも言ってられない。
「覚醒時で頼む」
「りょーかい、それじゃあ改めてマスター、異世界へようこそ」
今までのおどけた雰囲気から一転して厳かな空気を纏い笑顔でいう彼女の姿は不覚にもドキッとしてしまった。ギャップ恐るべし。
自らの体が段々と透けて行き、そうして異世界の地を再び踏みしめた。