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能ある多感派は爪を隠す! 神宝館奇譚 ナメクジナメちゃん

作者: 水瓶mizuhey

 梗概


 どこで売られているのか!いつ頃その店に並ぶのか、どうしたら買えるのか!澱んだ心の人々は知らない。

不思議な不思議な弁当の名は楽園弁当と呼ばれた。落ちぶれライターの俺が初めてその味に接したのは、出所した翌日、寂れた新居に落ち着いてからだった。

ある日、魔夢子が偶然買ってきたその素晴らしい盛り付けの弁当を二人で仲良く賞味してからだった。

それは幸福な味という曖昧な表現しか俺には出来なかったが、俺達はその弁当を食べてから奇妙な出来事に巻き込まれてしまった。




 ♬能ある多感派は爪を隠す!

 

 空が都会を淡い黄色に包む午後の事だった。町外れの忘れ去られた地域では健康な人間たちの陰はなかった。

ちょうど不用品を捨てるように国から捨てられた人達。俺達は外のエリアの願望を捨て去りプリズナーとして生活していた。

ただ一つの楽しみは弁当を食べる事だった。

遠い昔未だ平民としてみんなが暖かく迎えてくれた頃の記憶が、その弁当を食べると甦るのだ。俺は居住地の懐古的な佇まいのアパルトメントの屋上で、鳩小屋に飼われている女に餌をあげていた。見付かると管理人にどやされるのは分かっていた。

金網に手をつくと女がもっとくれと云うように駄々をこねる。

庭で拾った銀杏を袋ごと金網の隙間から投げ入れると非常階段を降りた、


 珍しく快晴な町並み、大型トラックが他所の町から不用品を満載してくる地響きが聞こえた、すり鉢の街に落とされてくる仲間の歓迎会をしなければいけないのか。すり鉢の町の実行委員会に任せておこう、パーティは疲れるだけだ。

異種排他運動を政治家が法案化してから、芸術的感性のある人々は捕獲されては送られてくる。此処は芸術家に与えられた巨大な刑務所だ。

俺は認められた事と送られた事のギャップにまた悩んでしまった。

……もうよそう。腹が減ってきた!

今頃あいつはあの弁当を買っているはずだ。


 店員から黄色い包み紙を毟り取ると魔夢子はマンションに直線に延びている坂道を駆け足で下り始めた。

春先の沈丁花の香りが魔夢子の走る動きに掻き分けられ行き場を無くし上昇する。短距離走者としての資質があると思われる程魔夢子は駿足だ。

神宝館から駅まで普通の女では20分はかかるのに魔夢子は8分で往復する。

そのついでに色々な買い物迄してくる。財布も持たず買い物出来る理由は二通り在るらしい。秋波を送りレジボーイを惑わすのが尤も得意な方法らしい。マーケットのレジスターが女の子の場合はやり方が違うらしい。韋駄天式にかっぱらうのだ。

叔父が盗賊だったと云うのも当初は疑ったが、人は真実を話す時何かにあてつけて話すものだから信頼出来る。

その時の魔夢子はビニールシートを敷き詰めた台所で9インチのテレビから流れる美容番組を見て必死に脱毛していた。

(肉食が君達を毛深くする)と医学的見識から説いても魔夢子は食生活を変える気が無いらしい。


あなたには分からないわ。魔夢子は呟いた。……もう眼球焼きが食べれないから仕方ないじゃない!山育ちの魔夢子が街に出て初めて体験した食べ物は眼球焼きであった。

神宝館の一室に移り住んでから好みが変わったのだ。早朝のジョギングで牛乳と新聞を仕入れては街頭で売っていた俺と魔夢子が逢ったのは、俺が売れ残りの牛乳をジャニーズ公園の捨て猫にあげていた時だった。眼球焼きをベンチで頬張っていた魔夢子と眼が合ったのだ。

魔夢子が裏一つ離れた路地から漂う眼球焼きの匂いに誘われ、口の周りに血味をつけて帰ってきた事がある。


俺も一度どんなものか、眼球焼き愛好会に参加して会食した事があるが、あの眼球焼きというのはあまり旨い物ではない。何より調理方法が野蛮なのだ。魔夢子が眼球焼きを注文すると、血だらけのまな板を公園の便所で洗ってきた店主が、自身の眼球を刳り貫き味噌と醤油の入った壺に漬ける。そしてゴキブリが炒められていたフライパンの上に眼球を転がすと強火で焼き上げるのだ。

「ヘーイお待ち!一個でいいかな」

「ええっ!」

「今日は新鮮な娘の眼球が有るよ」

「じゃあ3つ、2つはお土産にして下さい」

「あいよ、姉ちゃん、ついでに尻玉も要らないかい」

 屋台の親父は手をズボンの後ろに忍ばせると尻玉を転がしニヤっと俺を見て笑った。

「あっしの転がす尻玉は旨いって横丁の婆さんは日に5個買ってくぜ」

指の無い露天商は「まあ食ってみねえ」と言って魔夢子に尻玉を渡した。

魔夢子にとって幸福な一日の始まりでも、俺には異常な光景の描写の方が印象深い。あの手の商売人は客が来たら蛭の様に吸い付いて、買わなくて良いものまで押し売りする。

あんな不味い物を食わせた店主を殺してやると思っていた矢先。ジャニーズ公園で店主が殺された。

 眼球焼きを穴という穴に詰め込まれていた事から客の恨みを買っての犯行だと新聞に挟んであった3面チラシについ最近書かれてあった。この街の新聞は総て広告でニュースはチラシとなって挟まれてくるのだ。

 俺は赤飯を炊いて祝いたかったが、魔夢子の沈んだ顔と眼球焼き愛好会の解散を思うと素直に喜べず隠れて祝った。


 ベランダのコンクリートの柵に手をついて回想していた俺は、螺旋階段を大股で登っては掛け声をかけて部屋を目指す、魔夢子の凄まじい勢いを察知すると昆布茶の用意をした。錆びて取手が落ちそうな鉄扉をバタンっと締めた魔夢子はサングラスと帽子を取った。

黒くて長い髪が腰の辺りまで垂れ下がる。ドレッサーを睨み厚化粧を落とし

ヘアーピースを狸の縫いぐるみに被せた魔夢子は俺の肩を掴むと息をゼイゼイ吐いた。

……買うのが恥ずかしかったわ!

俺は魔夢子の付け髭の後を見て熱いものを感じてはテーブルに座らせた。


 私が小説を書かなかったらあなた飢え死にしていたのよ。

私に自叙伝を書けば当たると勧めたあなたの直感は当たったわね。楽園弁当を神棚に供え魔夢子は「能ある多感派は爪隠す」という小説を取ってきた。

甘い夢はなぜ永く続かないのでしょう。魔夢子は某刊行物に見出し付ですっぱ抜かれた、俺の写真を指さして笑った。

あなたが私の小説を自分が書いたなんて嘘つくからよ。

あなた文体を変えて再び投稿したけど落選しっぱなし。俺も忌まわしい出来事を思い出していた。

そうだね、俺は不貞腐れると人を殴り飛ばす暴力犯罪者になった。運命を恨みか弱い人を見つけては棒で殴り続けた。とうとう刑務所に入る羽目になってしまった。あの獄中の閃きが成功の鍵だった。ワイルドやジュネを真似て手記を書いたら雑誌社の目にとまった。君も俺を迎えに来てくれたしね!

「あなたの印税の受取人は私」と君は俺を脅したんだぜ!本当に相性が悪いよ、バイオリズムが常に逆なせいかも!俺がノイローゼのとき決まって君は元気溌剌娘だろう。

魔夢子は足でポットの向きを変えるとお茶を注ぎ足していた。

……あの時もそうだった。

留置所の中でいじめられ続けた俺はすっかり偏屈な男に成り下がっていたというのに、魔夢子は俺の首の周りを調べると縄の後が無いと悲しんだ。

腹が立つやら呆れるやらである。

……帰りの喫茶店のなかで魔夢子は気味悪い建築を俺に見せて微笑した。

13階建てのその建物の名は神宝館と言った。それは玄関の両端に巨大な玉が置かれて屋上にはピンク色のドームが設置されていた。

蔓草が延びて周囲を囲んでいたが血管のように見えるのだ。まるでアノものが反り返った様な格好の建物である。

俺は肌寒さを感じて魔夢子に訊いた。

魔夢子は「素敵なお部屋でしょう」と囁いた。「あなたを監禁するための新しいアパートなの」

何と言う祝いの言葉だったのだろう!


 神棚の楽園弁当を俺は取ってくると、魔夢子の処女作を神棚に戻した。

二人は黄色い包み紙のセロファンを剥がしお祈りをした。

今日も楽園が手に入りました。

「ラクエン!」

 過去のチャンネルに思考回路を戻すと神宝館の13階に転居した翌日の奇妙な体験が甦る。

……その日も朝から淫獣が暴れていた。タワーを毟り取ると雲を串刺しにして淫獣は一句捻った。人々の好奇心が産んだ哀しい生き物は歓楽街から産まれたサラリーマン達の精子であった。


 神宝館の庭先で俺達が古語の勉強をしていた矢先だった。巨大な影に気づいた魔夢子が仏教語を連発した。

あら〜、マ〜ラ〜が誕生したのね!

魔夢子は玄関先で立往生してしまった。巨大な淫獣は俺達を追い詰めて来た。淫獣は突起した局部を摩擦すると溶解液を放出した。

その時の淫獣の顔は満足感に浸っているように見えた。地面が溶液によって溶けては巨大な窪地を点在させていった。それは魚の腐った臭いヘドロ液であった。排泄欲の強さからいって原型時も女に持てなかった奴に違いない。

魔夢子は恐怖に襲われると木立の影に座り込み失禁してしまった。

「私達」見てはいけないものを見ているのね!

俺は幾分魔夢子を慰める様に手を伸ばすとお尻を擦った。

「あいつは露出症なだけだよ」「決して害はない!」

と言った矢先!魔夢子は淫獣が垂らした精液の池に足を滑らせてしまった。

びしょびしょになりながら起き上がった魔夢子は淫獣が何やら呻いているのに気づいた。

「いけない!あいつ想像力をマキシムにしてやがる!今度放出するスペルマ液を浴びたら淫夢の世界に墜落してしまう。」

「あいつの頭を狂わせるんだ!魔夢子アレを見せるんだ!」

あの時の魔夢子の赤面した顔はこの楽園弁当のご飯の様だった!

「そんな人前でするものじゃないわ!」

「そうしなければ俺達は俺達は溶けてしまう!速くあいつのH領域を破壊するには、生娘のあの部分を見せるしかない!」

魔夢子は生娘と云う言葉に照れた。

「散々私の身体で性欲を処理した癖に生娘なんて良く言えるわ!」

俺は真実を伝えた。

「君には何もしていない。君の快楽中枢は刺激はしたが、肉体的に君を凌辱した覚えはない。故に君はまだ無傷なんだ。」

魔夢子は説明を聴き納得すると淫獣に立ち向かった。

淫獣は縮んだ珍個を地面に這わせては淫らな想像に没頭していた。

魔夢子はその淫獣の横顔に上司のブーチン9世を思い浮かべた。

「課長、もしかしてこの淫獣は課長」

「課長には奥さんもいるし、愛人だってパチンコの景品係にいたはず!こんな淫獣になる資質があったなんて」

「でも、課長は出社前に個室マッサージに寄ってから来ると云う噂を聞いている」「精力と財力が折り合わず使い込みをしていたのも本当だったんだ」

 魔夢子は淫獣の視線が自分の下半身に集中しているのを確かめると、徐ろに今朝履き替えたばかりの桃色襦袢を降ろした。

「これを見ろ!」恥ずかしさをかなぐり捨てると叫んだ。

淫獣はそれを見た瞬間、人間の容貌に変化していった。

「なんていう物を見せるんだ、生娘が恥ずかしく無いのか」 

 淫獣はそう魔夢子に訴え掛けていたのか!唸りがそう聞こえた。

地べたに座り込んで崩れていたブーチン9世が凝視した魔夢子の恥部には複雑な化学方程式が書かれてあった。

……楽園弁当を食べると忘れていた物語りがイマジネーションとなり甦る。


 今度は俺が買いに行くと言っては見たが今度がいつかは分からない!

運が良いと買えるが、悪いとせっかく辿り着いた弁当屋で売り切れと言われてしまう。予約も賄賂も通じない。あの店員は固い意志の青年だがどうも無愛想で好きになれない。俺の偏見かと思い魔夢子にも聞いたが同じらしい。

「あいつインポよと」魔夢子が俺に言った事がある、

胸元が開いているブラウスで買いに行っても動じないというのだ!

魔夢子は通勤の往復に立ち寄りよく買えるが俺が行くと弁当屋が見付からない。初めの頃はマッピングしなかったので一日中探し廻った日が何日も続いた。偶然買えた日に目印を付けて、やっと俺一人でも買いに行けたあの日は

生涯で一番嬉しい日だった!

航空機事故で人々は喪に伏せていたが俺は万歳を連発して横断歩道の真ん中で袋叩きに遭ってしまった。

……楽園弁当とは何とも不思議な弁当だ!

黄色い箱に盛り付けられた楽園の美しさを見つめる度に胸が詰まる。

テレビでは「自粛しましょう」という歌謡曲が大流行だが俺には楽園弁当の方が重要だ。

この漂う香りは過去に賞味した事が確かあった筈だが場所を思い出せない。

でも口の中にとろけるこの甘さは心を邂逅させる。

何の肉か分からないがピンクの塊がとてもこの世のものとは思われない味覚を醸している。

胎内で初めて味覚が形成された時に味わった物なのかも知れない。

包み紙に印刷されている楽園弁当唱歌を俺達は歌い始めた。


  

♫〜楽園ラン・ラ・ラン

  楽園ラ・ラ・ラ・ラン

  清い心の人々だけが買える弁当

  楽園ラン・ラ・ラン〜


 現に神宝館のゴミ箱からは沢山の空箱が発見されている。

魔夢子も楽園弁当を食すると楽しい夢を見るらしい。

心の願望が実像を伴って現われる。恐らく他の階の人々も変装して買っているのだろう。

しかし悪い噂も聞いている。楽園弁当を残した人達が失踪してるというのだ。神宝館の13室のうち空き部屋が10も有るという。そして唯一の知り合いであり、管理人でもある1階のブーチン9世がジャニーズ公園で隠れて賞味しているのを俺は知っている。

きっと残さず食べる行儀の良い人なのだ。

一度、魔夢子に聞いたが赤面した。

「上司の悪口は云いたくないんだけれど以前ブーチン9世に化学方程式を見られたのよ!」と、忌まわしい事件を思い出していた。

あの人は運が良いらしい!会社の帰りに必ずと言って良い程二箱買っている。一箱は公園で食べてもう一箱はこれは秘密だが屋上の鳩小屋ドームに匿っている愛人に上げるらしい!

「最近顔色が良いですねと」挨拶すると、あの人も知っているのだろう、「アレのせいですよ」なんて小声で俺に同意を求めた。

俺も小銭を貯めている老人には頗る優しいので爺さんの金庫の番号を探り相槌を打った。

好きな数字はなんですか!?

爺さんは!?「8じゃ」と反射的に大声で答えた!「恥か」!?

管理人室の巨大な金庫室にどのぐらい財宝が隠されているのか!俺達の興味は尽きる事は無かった!



 俺達が買い物から返ってくると爺さんが縁の下を覗いては叫んでいた。

暫らく観察していると、ドジヒコが勢いよく駆け抜けて来た。爺さんは尻餅をつくと歯の抜けた口を魔夢子に見せて笑った。俺が振り向くと庭先で捕まえたばかりの蚯蚓を食べているドジヒコの姿が見えた。

爺さんはドジヒコを呼ぶと注意していた。「いくらお腹が空いても蚯蚓は食べちゃ駄目だよ」

ドジヒコは爺の腕を払い除けるとバルコニーの揺り椅子にジャンプしてダンスを踊り始めた。

10人目の妻のウソコがネグリジェのまま出てくると爺に言った。

蚯蚓が好きなんて飼い主に良く似ているわ!爺さんも私の蚯蚓好きだものね?!

爺さんは涎を垂らし照れていた。

俺が魔夢子の顔を見て笑うと耳元に囁かれた。

すけべー、あんたもウソコさんの蚯蚓食べさせて貰ったら、

俺は辞退したいと呟いて階段を登り始めた。

踊り場から庭を見るとまだ二人は言い争っていた。

……ドジヒコは毎日同じ食事がイヤなのよ!ドジヒコの友達のマラチコなんか鼠を食べるそうよ!

またいつもの嘘かと爺さんはウソコの顔を見上げていた!

ドジヒコはふくよかな顔を覗かせるとマラチコの恋人に糸電話していた。

もしもし…中盛のバギナちゃん!マラチコが交通事故で大怪我したんだ。いつものドジヒコの嘘であった。彼は人の恋人を異常なまでに欲しがる悪い病気があった。

この子は顔色一つ変えないで平気で嘘をつける!

天賦の才と云うのだろう!この子は芸能人になったら大成するに違いない。

ウソコは確信していた。

横丁の会議に出席するためドジヒコは尻尾を立たせると庭を駆け出していった。三味線にされる時間は近づいていた。


 10日後ウソコは三味線を手に取るとブーチン9世に三行半を突き付け逃げ出した。ウソコは賢明だった。何せ53も歳が違う夫婦が上手くいく筈がない!鬱ぎ込んだ爺さんは哀れだった。

「まだ鳩小屋美人がいるでしょう!」

と云うと、あれは蚯蚓じゃなくて蝮を巣食わせているからと幾分恐怖心を交えて爺さんは呟いた。


 ブーチン9世は亡き妻の位牌を7つ並べて庭先で落ち葉を燃やしながら供養していた。一時は仲睦まじく7人が共同生活をしていた神宝館も今では空室が目立つ。ヤクザの時クラブで知り合った最初の妻は宝石商の娘であった。

彼の一物に真珠を20個埋め込むと笑いながら逃げて行った。

今では代議士の妻として幸福に暮らしている。

不動産屋時代に1年置きにたらし込んだ7人の妻は真珠を歯ブラシだとバカにした為壁の中に塗り込まれてしまった。68で蕎麦屋の出前持ちになり、ウソコと知り合う迄は、ソープランドの課長とまで呼ばれたのがブーチン9世の唯一の自慢であった。

気丈な性格の彼は新興宗教に凝っていた。神宝教という男根崇拝の宗教である。神宝香という香を焚き全裸で仏壇の前で陰毛を抜くその教団で霊媒師のマゾコとも知り合った。

……思い出に酔い痴れた爺さんは庭先で芋を焼き号泣していた。


 ブーチン9世の不幸の翌日、俺の家では家族が出来るという幸運な朝がやって来ていた。ルサが日光浴をしているジャニーズ公園では家族連れが昼食を取っていた。いつもルサが座る指定席、其処からは園内と温水プールが眺望出来る。ルサは昼食を取っている家族連れの視線が自分に向けられているのを察知すると、思い立ったようにデモンストレーションを始めた。昼食の残りがルサの前に飛んできた。

ルサの好物のぶっといバナナである。

ルサは中身を食べると再びバナナの皮を使用してデモンストレーションを始めた。俺はルサの行為をじっと見守り逞しい父親の口調を真似て呼んだ!

「ルサ」人様の前でみっともないでしょう!ルサは声にちょっと驚いては振り向いて笑顔を向けた。

ルサは俺の胸に抱かれると毛むくじゃらの指を滑らせ膝の上に軟らかい糞を垂らした。

この子は人に抱かれると嬉しいのか!精一杯の感情表現をする。俺はそんなルサを数度観察しているうちに一つの決心をした!

我家の養子として迎えるという一大決心だ。

きっと魔夢子も喜んでくれるだろう。

動物園の園長は手長猿の飼育方法について二三の助言をしてくれた!



 魔夢子がある日、管理人室に盗聴マイクを仕掛けてきたと耳打ちした。

良く仕掛けられたなと感心すると魔夢子は超ミニを少し持ち上げて笑った。

「あの爺、やらしいからから簡単よ、あたしがお茶に誘われて座って居る間、何かとこじつけちゃあたしの太腿見るのよ、う〜!あの眼!思い出すたびゾッとする!可哀想だから少し足を開いて見せてやったの!そしたら鼻血垂らしちゃって!」

俺は魔夢子に注意した。

「老人をもて遊んじゃいけないよ!」

魔夢子は俺に強気に出た。

「更新料延期させたのよ!あんたなんかアレ見せたって更新料延期にはならないでしょう。」

其の日のうちに面白い事件が持ち上がった。大成功だ!



 愛人のマゾコが妊娠したと聞いたブーチン9世の懐疑は腹の中で踊った。

「本当に俺の子だろうか!」

俺は桃やアボカドではない。種無しシャインマスカットだ!

マゾコはブーチン9世以外にも複数の男と関係を持っていた。前の女房ウソコに棄てられてからの爺さんは女運が悪かった。よく庭先で嘆いているのを俺達は知っていた。ウソコは特上キッコーマンだったが、マゾコはパチンコ屋の景品所で拾った女の中でも最悪の梅毒入のキッコーマンだ。

爺の口癖を魔夢子は真似ては嘲笑った。

「好き者爺さんにはお似合いよ!

マゾコがいるからあたしは清い身体でいられるようなもの!」

魔夢子の顔を見た俺は恐れた。

「浮気などしようものなら、この女ならちょん切られる!」


 ブーチン9世がマゾコの脱ぎ散らかしたランジェリーを洗濯機に放り込んで化繊の目盛りにダイヤルを合わせたようだ。マゾコの下着はみんな破れていた。爺が石と一緒に洗濯したからだが、マゾコはそれをえらく気に入ってると魔夢子は言った。

「仲が良いのかいマゾコと」と聞くと

魔夢子は頷いた。

「あの娘結構貯金持ってるのよ、カラオケで知り合う客と売春してるから」

俺はぞっとした!

「お前もかよ」

魔夢子は笑い飛ばした!

「あたしお金積まれたってハゲとは厭!」

「洗濯おじさん」

マゾコの声がヘッドホーンから聞こえた!

昼間からベッドに潜ったきりで、夜になると近くのスナックでカラオケに没頭する!マゾコは自分の歌が上手いと思っているのだ。商店街のおっさんに褒められる事が嬉しいのだ。

 実際は売春をしているのはブーチン9世にも解っているらしい、酔っ払って帰るマゾコと接吻する度にエロエキスの臭いがしたからだ!

「なにか言えこのエロ女め」

甲高いブーチン9世の声が響いた!

マゾコは股を開いてはベッドで鼾をかいているらしい!

「これはもう駄目だ」

衣服を毟り取り洗濯機の中に放り込む音が聞こえた。目盛りは粉砕に合わせた様だ!

……開け放された窓から入道雲を見たブーチン9世は猫の餌を買いに行く事を決めた。新聞の全面広告に半額セールとあったのを思い出したのだ。

買い物から帰る頃には全てが洗われているだろう。

俺達は片耳ずつヘッドホンをしては互いに顔を見合わせ確信した。

「鳩小屋に隠しておけば良かったのに!」魔夢子が教訓を告げた!



 あれ程愛していたルサが栄養失調で死んだ。魔夢子に食事の世話を任せたのがいけなかったようだ。魔夢子はベランダで数日乾してから、玄関の敷物にしてスリッパを顔に乗せていた。俺は散歩から帰って来る度にルサの顔に乗せられているいちご模様のスリッパを履き胸を詰まらせた。

「死んでお役に立つなんてこのエテ公買い得!」

敷物の上で寝転がり、美容体操をしていた魔夢子が開脚して話し掛けた。

俺は考えてしまった。

「こいつが死んだら何の役に立つのだろう!?」ルサの食事まで内緒で喰って肥満の極致を目指している。

今ではユニットバスにハマり抜け出せない事もある魔夢子は養豚場に卸す以外は用無しかも知れない。

地響きかと思ったら魔夢子がでんぐり返しをしていた。

神宝館前のジャニーズ食堂一周年記念パレード!乞食達が奏でる鼓笛隊の雑音だった。

俺は書きかけの原稿を掴むと無性に悔しくなった。


 「暴力玉葱と虫食甘栗、腐っていない納豆をくれ!」乞食から無料食事券を奪うと這いつくばった俺は入口の土管を潜り一息つくと高飛車に注文した。

怪訝な顔をしたウェイトレスは狂人でも見る目つきで俺の顔を見た。「早くしてくれよ」俺は催促した!俺は庶民食が好きだが女の子はみんな自分が庶民食でもフランス料理だと思っている。マナーの居る食事は嫌いだ!

インスタント食品が一番良い!

お金のかかる料理は確かに美味しいが俺の口に合わない料理もある。

TPОがちゃんとしていれば良いのだ!

蛞蝓を食べる動画が出回っているらしい!芸能番組で噂していた。100万なら食べると云うアイドルがいた。殻の無いエスカルゴだと思い目をつむって飲み込むらしい!

100匹の蛞蝓が食卓に並んでいる風景を想像出来るか!数の問題だろう!

あのウェイトレスなら喰うなと俺は確信した。あの手の娘は実父や兄弟と淫行を繰り返し金持ちを見付けたら処女膜再生でおぼこを装う演技派なのだ!哀れ男とは騙される為に産まれた様な者である。歴史は繰り返すと云うから騙された男も小作りに励み娘が年頃になったら古女房と二股かければ良いのか!……ブーチン9世じゃ有るまいし、俺は神宝館の管理人を思い浮かべた!

……そう云えば珍固を切断して焼きそばに混ぜてメニューに載せてる店がある。其処では毎日、巨根の男子アルバイトを募集している。珍個を切断されて女になったウェイトレスが焼きそばを運んでくる光景は無気味だ。其処では彼女達は時給一万円貰っている。然し一日しか仕事が許されて居ない。その後はナイチンゲール養成所に送られるのだ!

彼女達は病院でも元気に働くという!

然し男子病棟よりも女子病棟に好奇心を寄せるのは元の男性としての原体験

が根強く残っている証拠であろう!

……教育雑誌から頼まれていた原稿を直していると、頭のあまり良くなさそうな娘が窓際に陣取った老人達の注文を聞いていた。

何度も老人客に文句を云われてはテレビで流行っている口調で弁明していた。

老人客達は知る人ぞ知る句会の奇人達であった。俺はその中の一人に見覚えがあった。神宝館の主、父娘強姦の常習者、ブーチン9世であった!

二人の娘さんは今では金持ちの妾になっていると云うことだ!

仕込まれ方が違うと良く氏は自慢したが、あの人の血を引く娘は畳の上では死ね無いだろう。


……俳句をこよなく愛したブーチン9世の作品は至る所で評判になったと聞く。

それは作品が良いからではなく何よりも下品ゆえだ、審査員達は一様に顔を顰めては投稿した人間の品性を疑い続けた。……

 

…肛門よ屁をこく指に着くマニキュア


ブーチン9世は某日俳界の御歴々が集まる茶室で一人肥壺に跨り一句捻っていた。「できた!」ブーチン9世は大声でで叫んだ!シリトリを拭く事も忘れて廊下を駆け出す陰に御歴々は仰天!

「何者だ!あれは!もしかしてブーチン9世!俳号ズリ川柳!ではないか!」

出来た〜!これは!傑作だ季語はマラだ!此れは春の季語として適している。何を言い出すかと句界審査員は顔を見合わせた。

こいつは脳味噌に糞が詰まっているんじゃないのか!審査員の一人がズリ川柳の下劣波に感染した。

普段は決して口からは出ない言葉と共に超強力な一句が、事もあろうに名人と謳われた御仁から飛び出したのだ!

(注)1.(余に下品で掲載出来ない)

ズリ川柳も負けてはいない。出来たての湯気の立つ下品な句を詠み始めた。


…弾痕を摘む看護婦 抜かないで 

 泣いて縋った 手術室


莫迦な詩を詠み始めたぞ〜!

何と彼の周りに集まって来た人々の総てが、今迄の品性のある句からの反動であろうか、より下劣な句を競っては捻り出したのである。

極めつけ!此れはどうだ!と名乗りを挙げたのは美人俳人として誉れも高い旧家の令嬢であった。

 

 産みの腹 不寝に揺られた 

 不倫の子 幽玄の性 迷い路


一同は呆気に取られると泡を吹いて倒れ始めた。

「莫迦な詩を詠み始めたぞ〜!」

この日から俳句は廃句となり、変わって川柳と呼ぼれる下劣な句が巷に流行ったという事である。

俺がブーチン9世から聞かされた裏話を思い出し、噴飯している事半時、娘はようやく注文が暗記出来た様だ!きっとタレント予備軍だろう、あの軽率な喋り方で日当が貰えるのは一般常識から逸脱した世界で生きるものだ!老人客の一人がおいたをした。

好色な散切り爺さん、ブーチン9世その人である!注文を聞いている娘のスカートを足で捲ると喜んでいる。娘も馴れたものである。尻を触られるとレシートに触り賃として書き込んでいた!

ブーチン9世は一人で興奮しまくっていた。俗に言う、悪のりである!

テーブルの上に乗っかると自身の萎えた物をウェイトレスに見せて、「俺は社長だ!」と絶叫とも取れる雄叫びを挙げて、泡を吹いてシャボン玉を作ると倒れた!思えば最後の芸であった!

………御臨終である!



 Epilogueエピローグ


 話が随分と横道に逸れてしまったが再び楽園弁当に戻ろう。

俺はあの味が何処から来るものなのか…

販売ルートを調べて調理場を覗いて見たくなった。

それに依ると航空機墜落の翌日に限り売られると言う情報と、黄色い自転車に乗った少年が配達して、あの店に届けてるというのは、隣人の恥部を記述しながら調べあげた!


 今や管理人のブーチン9世が居ない神宝館は俺と魔夢子の所有物と化していた。俺はブーチン9世の寝室にある位牌の並び方がいつも同じだった事に気付いた。魔夢子も勘が良い女だ!「この写真みんな向きが違うね!」俺は回路をパズラーに変えた。裏向きに列べると数字が書かれていた!

此れは!金庫室のナンバーじゃないか!金庫室の暗証番号を回す俺達はドキドキしていた。



 金庫の中には一本の通路が延びていた。地下室に続くと俺達は直感した。

あの好事家のブーチン9世の事だからどんな宝物が蒐められているかは容易に想像出来た。俺は期待に胸を弾ませてはロビンソンクルーソーの様に冒険者としての心構えを肝に銘じた。

1 財宝は俺だけのものである

2 魔夢子は壁の中に塗り込める

魔夢子は蜘蛛の巣を払いながら俺の腕にしっかり掴まっている。

……扉が見えた俺達は物見遊山で飛び込んだ!

其処は真昼の路地裏であった!

何処かで見た事のある黄色い自転車が一台眼にとまった。

此処はあの楽園弁当屋の裏じゃないのか!と俺は思った。袋小路のブロックに背中をもたれた魔夢子が急に消えてしまった。俺はブロックを調べ押してみた。魔夢子の叫びが鼓膜を破る様に響いたのはその時だった。

回転するブロック扉の向こうに驚愕した魔夢子の姿を発見した。

……此処は神宝館の13階よ!

魔夢子は伽藍とした空間に立ち竦むと、丸窓から視える景色を指差していた。いつも俺達が見慣れた町並みが少し狭まって存在していたからだ。

俺達は迷宮の世界に放り出された気分を味わった。


 柔らかい時間が流れ俺は町並みの風景を手繰り寄せる様に切り取るとその中に入っていった。

魔夢子は俺の背中に顔を押し付け恐怖を隠していた、

…空気の階段を一歩一歩踏み締めると突然落ちる感覚を感じる、無重力のなかで泳ぐ俺達は手を取り合っていた。忽然と空間が変化すると室内が現れた、俺達は足許を確かめると、眼をあげてみた!暗い倉庫の両端に何かが朧気に視えた。

……近づくと神宝館の元住民の頭部が棚に列べられていた!管理人室に飾られていた失踪した住民の写真と同じ顔だ!悪夢だ!魔夢子は気が触れてしまったのか!楽園弁当唱歌を口ずさみ包丁を振り回し踊っている!


♪〜楽園ランラ、ラン楽園ランララン


 切り開かれた頭部からは鮮血が滴り落ちている。脳がパーツ毎に転がされている!

俺達が食べていたのは、こいつらの脳味噌だったのか!




END





























































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