閑話 緑目コンプレックス
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あたしにとってお姉ちゃんは憧れだった。周りからはよく似ていると言われたけど、私はそんなことないって思ってる。
私たち顔も仕草もよく似ている。目の色がなければ親だって私達の事は見分けられない。でも私とお姉ちゃんは全然違う。
私と違いお姉ちゃんはいつも元気で魅力に溢れている。時々抜けたような事を言ったりするのも魅力の一つ。そしてとても強い。
戦う時はいつも一緒に戦ってるけど、みんなからは実力は同じに見られている。だってお姉ちゃんはいつもあたしに合わしてくれてるから。
私がそんなお姉ちゃんが大好きだと思っていたから、そんなお姉ちゃんになりたいと思っていたから、私たちのエニグマは第2形態で入れ替わりという能力になったんだ。
☆☆☆
私にとってお姉ちゃんは憧れだ。そしてそれと同時にお姉ちゃんの事が憎い。
これは私が身勝手にお姉ちゃんに抱いてしまってるただの劣等感。原因だって私が全部悪いだけ。
小さい頃から私は少し人見知りだった。そんな私をお姉ちゃんいつも引っ張ってくれた。クラスに溶け込めたのだってお姉ちゃんのおかげ。
あれは小学校3年生の頃。私たちに入れ替わりの能力が目覚めた次の日のこと。私たちは入れ替わりで学校に登校しようと考えていた。
私たちのエニグマの入れ替わりはイデアル端末さえも騙していた。演技だっていつもお姉ちゃんを見ている私にとっては余裕だった。むしろ演技をしているという事が、私を人見知りから遠ざけていた。
緊張とうきうきとした感情が混ざりあって登校していた私を待っていたのは、沢山のお姉ちゃんの友達だった。
お姉ちゃんの友達が向ける顔は皆、私に向ける顔とは違っていた。みんなにこにこしていて心の底から嬉しそうに会話をする。何よりも目が綺麗だった。
そしてそれは私の親友も一緒だった。親友のななちゃんは、お姉ちゃんと話す時は私の時よりも楽しそうに、嬉しそうに会話をするのだ。
何よりもお姉ちゃんと話してる時の目が私の時よりも輝いていた。
この時少しだけ、私の胸は痛みを覚えていた。
☆☆☆
小学校5年生の頃私は告白された。相手は別のクラスの名前も知らない男の子。別にこれが初めての告白ってわけじゃなかったけど、こんな私に好意を寄せてくれることはとても嬉しかった。
ただ、知らない人だったし私は彼の告白を断った。でも友達からならおっけーしてたかもしれない。付き合うかは別の話だけど。
翌日、私はお姉ちゃんと入れ替わって登校していた。今でもお姉ちゃんとはよく入れ替わる。友達の少ない私にとってお姉ちゃんの友達と沢山話す時間は、少し楽しかった。
そしてその日の放課後、私は体育館の裏に呼び出されていた。きっと告白だ。お姉ちゃんはよく告白されているし、入れ替わっている時に私が代わりに受け答えすることも少なくなかった。
お姉ちゃんには告白はどんな人でも全部断っててと言われているので返事は決まっているけど。ただどんな人が告白して来るのかは、恋バナが好きな私としてはとても気になっていた。
でも私の前に現れた人は昨日私に告白してきた人だった。彼は入れ替わりには全く気づいていないようで、
「ずっと前からあなたの事が好きでした。付き合ってください」
と言ってきた。もちろんお断りした。お姉ちゃんに言われなくてもこんな奴とは絶対に交際は認めなかった。
そしてまたその翌日、私は聞いてしまった。
その日は学校に係の仕事で少し遅くまで残っていた。荷物を持って帰ろうと教室に近付いてみたら、中から話し声が聞こえてきた。最初は別に普通に入ろうとしていたけど、私の名前が聞こえてきた時、少し会話がきになってしまった。
「リヒト。そういえばお前告白の件はどうなったんだよ」
「それが聞いてくれよ。俺さ告白する相手を間違ってさー」
「間違う?もしかしてレナリアさんと間違えたのか?確かに2人は似てるけど、でも瞳の色が違うから分かるだろう」
「それがさ、俺とは違うクラスだしレナリアさんのこと完全に忘れててさ、ラナリアさんだと思って後ろから、校舎裏に来てくれませんか、って言っちゃって」
「お前馬鹿じゃん。で、どうだったの?」
「断られたよ。まぁその後ちゃんとラナリアさんにも断られたけど」
「何だよ。まぁレナリアさんとは付き合わなくて良かったんじゃ?ラナリアさんのお下がりみたいなもんだし」
「いやいや、あんな可愛んだから付き合ってもいいでしょ、ラナリアさんの下位互換とは言えめっちゃ可愛いじゃん。それに押したらすぐヤレそうじゃん」
「確かに。俺ちょっと告白してこようかな?ラナリアさんには振られたし、代わりにレナリアさんに、気弱だし押したら付き合えそう」
「付き合えたら俺にも貸してよ」
「嫌に決まってんじゃん。成功したら俺の都合のいい彼女になってもらうんだからさ」
「お前また浮気すんの?」
「いいじゃん別に。レナリアさんだし、ラナリアさんに嫌われなかったら俺は別に気にしない」
「それな。俺ももう少し押してみようかなー」
「真似すんなよ」
吐き気がした。それと同時に胸に確かな痛みがあった。
別に彼の事は好きじゃなかったけど、それでも私の胸には確かな傷が出来た。
☆☆☆
あの日から私は周りの目線を気にするようになった。
お姉ちゃんはあんなに話しかけられてるのに私は全然。
お姉ちゃんはあんなにも先生に信頼されてるのに私は期待はずれのような目で見られる。
お姉ちゃんは私より頭も良くて、可愛くて、強いのに、私は全然。
そして6年生の時、私は絶望した。
あの日と同じだった。委員会で遅くなった私が教室に行こうとした時、教室から喋り声が聞こえてきた。
あの日の傷を思い出し少し嫌な気持ちになったし、少し嫌な予感もした。
でも教室から聞こえてくるのは私の心友の声。こんな私といつも話してくれるし、いつも遊んでくれてるななちゃんの声がして私は一緒に帰ろうと教室の扉に手をかけた。
でも…
「ななー。最近あいつとはどうなの?」
「彼氏のこと?」
え!ななちゃん彼氏いたの?私聞いた事ないのに。
「違う違う。あのお下がりのこと」
「ああ。レナね」
「ななはよく仲良くしてんじゃん」
「別に。めんどくさいけど一緒にいたらラナちゃんとも遊べるし」
「いいよねー。家とかも行ってるんでしょ?」
「部屋着のラナちゃん超可愛いもん」
「見てみたいかも。あんな奴と一緒なのは面倒と思ってたけど、それ聞いたらちょっとありって思えてきた」
「無理でしょ。あいつ人見知りだし。ってか仲良くって言っても、ちょっと話しかけて、ちょっと遊んであげてるだけじゃん。彼氏のこととか一切話したこともないしね」
「うわー。さいてー」
「一緒に悪口言ってる時点で同罪でしょ」
………
私は荷物のことなんか忘れて、廊下を走り去った。
この時私の胸には…
☆☆☆
あのあと、私は何事もないように過ごした。ななちゃんとは絶交してないし、特になにか言った訳でもない。
でもあの日から私の心は変わった。お姉ちゃんは何も悪くないけど私は確かにラナの事が嫌いになってしまった。
でも、それでも私はラナの事が好きだった。矛盾してしまう気持ちだったけど、確かに私の中には、2つの気持ちが存在していた。
だから私はお姉ちゃんから少し離れることにした。中学は学園都市の中学校にしようと思った。少し遠いいし一人暮らしになっちゃうけど、今の関係をリセットできると考えたら都合が良かった。
ラナには進路を隠した。まだ決めてないって言い張って隠した。ラナはならここに一緒に通おうと言ってくれたけど、家の近くの進学校だったから嫌だった。
それから卒業式の日になった。両親もラナも号泣していた。でも私に涙はなかった。
意外だったのは、ななちゃんが私と離れる事に大泣きしたことだった。ラナのとこに行かず、ずっと私の傍で泣いていた。理由なんて全く分からなかった。
結局私はラナに進路を言わなかった。両親に言った時は意外にも全く反対されなかった。寂しくなるなと言っていただけ。
私の予定が狂ったのはその後。流石に私がラナに話そうと思って、進路のことを打ち明けたら、
「知ってるよ?私もそこに通うんだから」
「え?なんで知ってるの?お母さん達から聞いたの?」
「ううん。言われなくても分かるよ。だってレナの事だよ?何時でも一緒だよ?」
私には分からない。なんでラナが分かったのか。なんでそうまでして私と一緒にいたいのか。なんでそこまで分かって私の気持ちはわかってくれないのか。
そしてなんで私はこんなにも喜んでいるのか。
☆☆☆
中学校からは私は今までの自分を捨てた。
分かったのだ。私達を目の色以外でちゃんと見分けられる人はいない。ラナの真似をすれば私も人気者になれること。
ラナと一緒にいれば、みんながついてくるし、ラナの真似をすれば私も人気になれた。ただラナの天然なとこは真似出来なくて、ラナの方が人気になったけど。
やっぱりラナには勝てない。私の中には諦観があった。
高校に入っても変わらいない。私達を見分けられ人はいないし、入れ替わりを指摘できる人なんて尚更いなかった。
でもこれでよかった。ラナの真似をすれば、私はみんなに見てもらえる。本当の私を見てくれる人はいないけど。
それでも、ラナのお下がりとして、ラナの下位互換として、ラナの代わりとして、ラナに近づくための手段として、誰にも私を見られないあの時よりマシだった。
そして私は出会った。私達を初めて見分けられた人。入れ替わりさえも一瞬で見破った人。
この人なら私は…この人なら本当の私を見てくれるかも。絶対にラナには渡したくない。私達を見分けられる人にラナが興味を持たないわけが無い。
ラナには取られたくない。今回はラナには負けたくない。彼にはラナに会って欲しくない。私は彼を絶対に手に入れたい。
絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に




