あつあつ
トロピカルオーシャンパラダイスピースビーチリゾートアンドスパ高等学校、略してオパピ高校。
スポーツ全般の強豪校として有名でプロのスポーツ選手やオリンピック選手の出身校としてよくメディアに名が出るので何となく見聞きしたことのある人は多いだろう。
スポーツに興味のない俺でも名前だけは知っている。
校門をくぐると箒とちりとりをもって掃き掃除をしていたお爺さんと目があった。
お爺さんと言っても、背筋はピンと伸びていて、白髪頭はびしっとセットされていて、アイロンのかけられたアロハシャツの柄はとても派手だが品がある。
まだまだ現役の紳士という感じだ。
俺はすぐに目をそらし、横を通り過ぎようとした。
「君、ちょっと」
お爺さんに呼び止められてしかたなく振り向く。
「君は村上君じゃないですか?」
「はい……そうですが」
「おお、待っていましたよ。 こんな遠いところまでようこそお越し下さいました」
話を聞くとお爺さんの正体は校長先生で、俺が来るまで待っていたが暇だったので掃除をしていたそうだ。
教室まで案内してくれると言うので彼が乗って来ていたカートに乗せてもらう事になった。
荷物が多かったので助かった。
校内はとても広く、ヤシの木がいたる所に生えていて熱帯の花や植物が植えられ、大きな丸いプールのそばにはパラソルとベッドまで用意されている。まるで高級リゾートホテルのようだ。
時々遠くから人々の爆笑する声が聞こえてくるのも気になる。何かのイベントで芸人が来て漫才でもやっているのだろうか。
「長旅疲れたでしょう」
「いまはちょうどホームルームの時間だから人が居ないねぇ」
「わからない事や困ったことがあったらいつでも私のところに来るといいですよ」
「君凄い汗だね。今日は涼しい方なんだけどな。水分はたっぷりとりなさいよ」
校長先生が色々話しかけてくるが「はい」とテキトーに返事を返す。
俺は今それどころじゃないんだ。
スムージーを飲んで気持ちが悪かったのがカートの揺れに酔ったせいで悪化したのだ。
汗だくになっているのも暑いからじゃない。
変な汗をかいているんだ。
赤瓦屋根の4階建ての建物の前でカートが止まった。
「ここが教室のある建物だよ。後ろの荷物は後で君の部屋に運んでおいてもらうから、とりあえず先に教室に向かおうか」
「すみません、その前にトイレに……」
「校長先生ー!!」
元気いっぱいに俺の言葉をさえぎったのは偶然通りかかった30代くらいの若い女性だった。
身長は俺よりほんのちょっとだけ高いくらいで前髪をパステルピンクのヘアクリップで斜めに留め、首からホイッスルをぶら下げ、白Tシャツをジャージにインしている。
教育テレビの子供番組に出てくる体操のおねえさんのような明るく素朴な感じの美人だ。
「ああ、阿津先生。ホームルームはもう終わったのですか?」
「いいえまだです、これからです!」
「そうですか」
「はい! この子は?」
「村上君です。東京から生徒が来るって言っていたでしょう?」
「ああ~! 波平先生のところのクラスの」
「そうです。今から教室まで案内しようと思っていたところですよ」
「それなら私が連れて行きますよ。隣ですし」
「よかった、じゃあお願いしますね」
「はい! 任せてください! おいで、一緒に行こう」
まるで保育園児を相手するかのように明るい笑顔で手招きするこの女性に俺はついていくことになった。
胸元に帳簿を抱え、後ろでひとつに束ねた髪を揺らしながらスキップするように階段を上る。
歩いているだけなのに何だか楽しそうだ。
校舎内の造りは普通のよくある学校という感じで、前の学校と違うところと言えば外階段と外廊下になっているとこだ。
風がすごく吹いて開放感がある。
景色もすごくいい、畑や海が一望できる。
だけど今はそれどころじゃない、俺はグルグル唸るお腹をおさえた。
「あの、トイ……」
「君何くんだっけ?」
「あっ、村上晴太です……」
「ハルタ君か。 私は阿津温子って言います。2組の担任と体育の教師をしています。これからよろしくお願いします」
「あ、はい、よろしくおねがいします……あの…」
「ハルタ君は東京から一人できたの? 寮生活は初めてかな?」
「はい……」
「へぇ~、じゃあ不安でしょう? ご兄弟はいるの?」
「いません……」
「そっか、一人っ子か。 何か悩み事とか相談があったらいつでも先生に話してね」
「はい…」
「恋の相談とかでも良いよ」
「……」
「私の事を自分のおねえさんだと思っていいからね。 あつこおねえさんって呼んでね」
「えっ……そ、それは……」
「あつあつおねえさんでもいいよ」
何を言っているんだろうこの人は、頭がおかしいのだろうか、先生に向かってあつこおねえさんだなんて恥ずかしくて言えるわけがない、めっちゃ笑顔だし……そんなことはどうでもいい、それより今は……。
「あの、トイレ……」
「しーっ! 着いたよ、ここが2年1組の教室だよ」
突然人差し指を鼻の前で立てて小声で喋るあつこ先生。
彼女が言うには俺のクラスの担任である波平という人がサプライズ大好き人間らしくて、俺の登場もサプライズにしたいだろうからと彼を呼んでくるまでクラスの皆から見えないところで待っていてほしいと言う事だった。
「ハルタ君はここでちょっと待っててね」
頭をフリフリ、ポニーテールを揺らして楽しそうに教室へ入って行くあつこ先生。
やばい、気分が悪いのもあるけど緊張で吐き気がしてきた。
あつこ先生は同じくらいの身長の小柄な男性を連れてすぐに教室から戻ってきた。
色白で、若く、頭は禿げているが短く奇麗に切り揃えられて整っている。
清潔感があってかっこいい。
アイロンがかけられた長袖白シャツにネクタイをビシっと締めた真面目そうなその男性は俺を見るなり『あっ!』と言わんばかりの顔をして驚いた。
「それじゃあ私はこれで、ハルタ君またね」と二コリと笑って会釈して去って行くあつこ先生。
「あ、ありがとうございます」と深いお辞儀で返す男性。
男性は俺の方に近づくと両肩にポンと手を乗せた。
「よく来たね。村上晴太くんだよね。今からクラスの皆に紹介するから僕が呼ぶまでここでちょっと待っててね」と小声で言うとスキップするように教室の中に入って行った。
「クラスのみんなああ゛あ゛ー!!」
「「うおおおおー!!」」
「今日はとっても嬉しい知らせがあるぞおおー!!」
「「おおおおおおー!!!」」
「聞きたいかああー!!」
「「いぇえええええー!!!」」
「声がちっちゃいぞぉー! 聞きたいかああ゛あ゛ー!!?」
「「「ううぇあああおおおおおおー!!!」」
「転校生がきたぞおおおおー!!」
「「「きゃあああああああああー!!!」」」
「呼ぶぞおおおおお!!」
「「「いぇあああああああああああー!!!」」」
「よーし! 転校生カモオオーン!!」
「「「ぎゃあああああああああああ゛あ゛あ゛ー!!!」」」




