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第5話 2匹目のドラゴン

1ヶ月後。

何もなかったさら地に、こじんまりとした町ができた。


まじでか。

正直、1ヶ月でここまでできるとは思っていなかった。


私はどうやら、町の人たちのやる気を侮っていたらしい。

町の人たちはみんなやたらと元気でやる気に満ち溢れており、すぐに建設資材を持ってきたかと思うと、あっという間に小さな町を作ってしまった。

まだ規模は小さいが、レストランや売店、簡易宿泊所などがある。これは町と言ってもいいだろう。


私がテーマパークを作るにあたり最初に考えたこと。それは、最初に「町」を作ることだった。

メルベリアからテーマパーク建設地までは、それなりに距離がある。効率を考えると、建設に関わってくれる方々には、テーマパーク建設地にとどまっていただいたほうがいい。

それに、私が元々いた世界の各地に存在するテーマパークには、商店街のような場所がついていることが多い。そのような商業施設を設けて町を発展させ、訪れやすくするのがいいだろう。


城のある都市、つまり首都であるグランダナスからも道をひきたいが、一旦それは後回し。

まずはメルベリアから建設予定地まで道を作ってもらおう。まあそれで1ヶ月はかかるかな。そう思っていたのに、道路の完成どころか町まで作ってしまうだなんて。

ガーネットが資材運びとかを手伝ってくれたおかげでもあるんだけど、それでも早い。

非常にありがたい。

ちなみに私がしたことといえば、テーマパーク構想を練ったり、それを関係各所に伝えたり、あとは魔法の練習をしたりしただけ。

こんなんでええんやろか、私。


まあとにかく、まだ規模は小さいけど、町も道路もできた。次はまだまだボロっちい簡易宿泊所の環境をもっと整えて、それからエントランスでも作ろうか。

そう思っていたところに、それはやってきた。


「ナコリス様!ドラゴンが!青いドラゴンがやってきましたぞ!」


作業員たちに呼ばれて簡易宿泊所から出てみると、ガーネットよりは小柄な、だいぶぽちゃっとした感じの青いドラゴンが、ぶぶぶぶぶと不器用な音を立てて飛んでくるところだった。

小さな羽をせわしなく動かし、懸命に飛んでいる。かわいいけど、いわゆる「ブサカワ」というやつだ。

そのドラゴンは簡易宿泊所前の広場に降り立つと、ぜえぜえと息をついて座りこんだ。

こんなドラゴンもおるんやなあ。


ガーネットはちょうど資材を運んでいたところだったが、資材をそっと地面に置いてから、そのドラゴンのもとに駆け寄った。


「ブプルギス!ブプルギスじゃないか!」


ブプルギスと呼ばれたそのドラゴンは、ガーネットを見ると少し目を丸くして、それからぷふぅと息を吐いた。


「あーあー、かっこよくなっちゃって。さては名前もらったなぁ?君ぃ。」

「あー、俺のご主人も、そんなキラキラした感じにしてくれる人だったらよかったんだけどなあ。」


ブプルギスが大きくため息をつく。

その時私は、ブプルギスの丸々とした首元で、何かがきらりと光ったのを見た。

よく見てみると、カメラのような何かがついている。ネックレスみたいに紐を通して、ブプルギスの首にかけられているようだ。

ブプルギスは私に気がつくと、私に向き直って言った。


「えー、はじめまして、第3王女様。俺はブプルギス。あー、ドリゼラのドラゴンっす。」


ドリゼラ。

その名前を、私はよく知っている。


ドリゼラといえば、この国の第2王女、つまり私の異母姉妹その2のほうである。

私には異母姉妹が2人いるのだが、この2人は双子で、ドリゼラは「一応」妹だったはずだ。

ちなみにもう1人の名前はアナスタシア。継母の名前はトレメインである。

……シンデレラかよ!


まあとにかくドリゼラといえば、あのファッ○ン一家のうちの1人だ。

そのドリゼラのドラゴンが、こんなところに何の用があって来たんだろう。

とりあえず私は、このドラゴンにも挨拶しておくことにした。


「はじめまして。私はグランツェリーノ・ナコリスです。お会いできて光栄ですわ。」


そう言って貴族流のお辞儀をすると、ブプルギスは少し戸惑ったようだった。


「あ、えと、よろしくっす。あー、俺そんな、大したドラゴンじゃないんで。そんなことしないで大丈夫っす。」


ブプルギスは口からぶふぅと息をもらすと、用件を伝えはじめた。


「俺、ドリゼラから命令されてここに来てるんす。何でも、あの、みじめな妹がどうなったのか知りたいんだそうで。ほんと性根悪いっすよね。」

「ちなみにこの、首のあれなんすけど、これでいま向こうにこっちの様子が伝わってるはずなんすよ。あ、声までは聞こえてないはずなんで大丈夫っす。」


ブプルギスがそう言った途端、その首にかけられた物から、女性の怒鳴る声が聞こえてきた。


「聞こえてるわよ!ブプルギス!!」


途端、 ブプルギスがガタガタと震えだす。


「も、申し訳ございません、ドリゼラ様!聞こえていらっしゃいましたか……。」

「ええ聞こえてたわよ、バッチリとね!あと震えるのを今すぐやめなさい!よく見えないじゃないの!!」

「は、はい、申し訳……」

「帰ったらお仕置きよ!覚悟なさい!!」


かわいそうに、ブプルギスは今や硬直して、少しも動けないでいた。

まったく。ドリゼラの大馬鹿野郎は、クルーリソースマネジメントのクの字も分かってないらしい。

ガーネットも、ブプルギスに対して同情の視線を向けている。

ドリゼラはひとしきりブプルギスを罵倒したあと、私に向けて話しかけてきた。


「ごきげんよう、可愛い妹ちゃん。小汚い小屋に寝泊まりする気分はどうかしら?」

「大変そうねえ、あくせく働いちゃって。ドレスも質素だし、裾なんか砂まみれじゃない。」

「テーマパーク、だったかしら。そんなものはできないと思うけど、せいぜい頑張りなさいな。」


装置越しに、笑い声が聞こえてくる。複数人の笑い声だ。

やはり、向こうにいるのはドリゼラ1人ではなかったらしい。

私が黙っていると、我慢できなかったのか、向こうから再び話しかけてきた。


「あらあら、話せないのかしら?黙っちゃって、やあねえ。せっかくお姉さまが話してやっているのよ。ほら、さっさと口を開くのよこのドブネズミが。」


あーあー、本音出ちゃってまあ。

向こうにはたぶん映ってないだろうけど、ブプルギスの後ろにはたくさんの町の人たちがいて、もれなく全員苛立っているようだった。

そりゃまあ、ねえ。

こんな言葉を聞いちゃったら、そりゃあまあ、そうもなりますわな。


向こうは本当に国民がいることに気がついていないようで、ベラベラと悪口を並べたてていく。

途中からアナスタシアの罵声とトレメインの嫌味も加わって、国民の皆様の怒りはつのっていくばかりだった。


そして私はといえば、悔しくて言い返せない……わけではなく、魔力の逆探知をしていた。

まだ覚えたてではあるけれど、これを使えば、こちら側からも馬鹿野郎どもの様子を確認することができる。

私は顔を手でおさえ、泣くふりをして、向こう側の様子を確認してみた。


装置の前には予想通り、ドリゼラ、アナスタシア、トレメインの3人が座っていた。

その奥には執事が1人、メイドが2人立っている。だが、明らかに顔色が悪い。

そしてトレメインの隣には、あのクソ国王も座っていた。

なんやねんこれ。家族揃って悪口大会か。世界一嫌なライブストリーミングだわ。


私は逆探知を切って顔を上げた。もうこれ以上、あのゲロ以下家族の顔を見たくない。

そして空中を蹴って飛び上がると、ブプルギスの首についている装置を掴んで、自分の顔がどアップになるようにした。

練習中の魔法「空中歩行」と「脚力強化」が、こんなところで役に立つとは思わなかったな。


「お言葉ですが、お姉さま方。お母様も、そしてお父様も。」


淡々と言うと、向こうから動揺しているような声が少しだけ聞こえた。


「私は、私の『娯楽』を心の底から楽しませていただきますわ。これ以上口を出すようでしたら、私にも考えがございましてよ。」

「それに、そのような事を大勢の国民の前でおっしゃるとは、あまりにもはしたのうございますわ。」


私は装置をつかんだままブプルギスの背によじ登り、装置を外して、国民達の姿が見えるようにしてあげた。

いつの間にか集まっていた大勢の国民が、怒りの声をあげている。

国王が場をおさめようと何か言っていたが、国民はそれに反発するばかり。

私はそれをじっくりを見せてやってから、装置を思いっきり地面に投げつけてやった。

割れてひしゃげたその装置を、ガーネットの後ろ足が粉砕する。

ガーネットが足を上げてボロボロになった装置を見せつけると、みんなは思いっきり歓声をあげた。


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