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第3話 町に行こう!

ばさり、ばさり。

ドラゴンが風をきって、平野の上空を飛んでいく。

私、ナコリスは、その背中にどうにかしがみついている状態だった。


いやいやいやいや高度高え!!高いよ!!高度何mあんの!?あとだいぶ寒いな!?

馬の鞍ってやっぱ優秀だわ。つかむところがしっかりしてたらなんかちょっと安心するやん。

でもこのドラゴンくんがそんなものつけてるはずもなく、私はドラゴンの背中にたくさんある、なんかとげとげしてる突起のうちのひとつに必死にしがみついていた。

なんやねん。ファンタジー映画とかの主人公、よく鞍もつけてないドラゴンなんかに乗れるな。すげえわ。


私の握力と気力が限界に近づいた頃、ドラゴンはようやく地面に降り立ってくれた。

がくがく震える足で地面に降りてみると、私の愛馬も同じようにぶるぶると震えている。

そりゃまあ、いきなりドラゴンの手に掴まれて空を飛んだら、馬だってこうなるわな。

ドラゴンは、なんでそんなに震えてんだろ、って言いたげな、きょとんとした顔でこちらを見ている。

かわいい。いや、ここはちゃんと叱らなければ。


「えーとね、運んでくれてありがとう。でもね、今度からもう少しゆっくり低空飛行できる?高いところは怖いし、鞍も無いから危ないし。」


そう伝えてみると、ドラゴンは見るからにしょぼんとした。いやかわいいなお前。


「申し訳ございません。以後、気をつけます。」


ドラゴンは心底申し訳なさそうにそう言ってから、近くにある町について説明してくれた。


「あちらにあります町は、この平野にぽつぽつと存在する町のうちのひとつ、メルベリアでございます。城下町ほどではございませんが、この平野の重要な拠点となっておりますため、そこそこ賑わっているようです。」

「私が行くと人間達を驚かせてしまうため入ったことはないのですが、あそこからは活発に動いている人間の魔力が多数感じられます。きっと、必要なものを買い揃えることができるでしょう。」

「まず必要なのは、お勉強に必要な本です。入門書から始めて、徐々に高難易度の魔法を会得してまいりましょう。」


ドラゴンは、キリッとしてそう伝えてくれた。

ただ……


「えっと……。君も、ついてきてくれる?」


私がそう聞いてみると、ドラゴンは意外だ!という顔をした。

いちいち表情が分かりやすいなお前。かわいい。


「え、よ、よろしいのですか……?」

「うん。というか、私のこの身なりだと、たぶん信用してもらえないし。」


そう言いながら、あらためて自分の身なりを見直してみる。

元はそこそこ上等なワンピースドレスだったものだが、今はあちこちほつれていて、高貴な印象はあまり与えられないだろう。背丈も伸びたせいか、丈も足りずつんつるてんになっている。

こんな身なりで、私は王女です!と言い張ったところで、誰が信じてくれるんだろうか。

それに、それなりの規模の町に行くのは、この身では初めてだ。正直、ちょっと怖い。

ドラゴンがいれば心強いし、「王女が生まれるときドラゴンも生まれる」「その後はパートナーとして共に暮らす」ということだから、「ドラゴンを連れている」=「この人は王女である」、という証明にもなるんじゃなかろうか。たぶん。


ドラゴンは完全に予想外だったようで、ちょっとまごまごしながらついてきた。

放置しておくわけにもいかないので、馬も連れていって、町の入り口にあった馬の預かり屋さんに預けた。

店主がドラゴンを見て唖然としていたが、やっぱりドラゴンを連れていることで信用してもらえたようだ。王女だと言ってみれば、料金は王国に請求してもらえることになった。やったね!


そのまま町に入ろうとして、私はふと、ドラゴンのほうを振り返った。


「ねえ、そういえば君って、名前とかあるの?」


そうたずねてみると、ドラゴンがまたしょんぼりとして答えた。


「名前は……ございません。名付きのドラゴンは、そう多くはないのです。」

「王子・王女と共に生まれたドラゴンは、召喚された際、王子・王女によって命名されるのだと聞きます。私はその前に平野に追いやられてしまいましたので、まだ名前が無いのでございます。」


なるほど、そういうことね。

私は少し考えて、ドラゴンのそばに歩み寄った。


「じゃあ、ガーネットなんてどう?あなたの名前。」


瞬間。ドラゴンが少し宙に浮かびあがり、光に包まれる。

その光が弾け、降り立ったドラゴンは、目を見張るほど赤く光り輝いていた。

うろこはピカピカで、まるで丹念に磨かれた宝石のよう。

目の輝きも、爪も、歯も、生まれ変わったかのように綺麗になっていた。

嘘やろ。軽く提案しただけのつもりだったけど、これはもう正式な名前になっちまったやつか。

ドラゴン、いやガーネットは自分の変化に驚いていたようだったが、すぐに私の前に平伏した。


「ありがとうございます!このガーネット、誠心誠意あなた様にお仕えいたします!」

「いやいやいや!ちょ、顔上げて上げて!!」


つい本音が漏れてしまった。

ドラゴンの平伏って、こんなに迫力あるもんなのか。

ちらっと周りを見てみると、馬がめちゃくちゃ驚いてるし、さっきの店主も口を開けたままだし、いつの間にか集まっていた町の人々も口を開けたまま動けないでいた。そりゃそうだわ。こんなの目の前で見せられたら、そんな反応にもなるってもんだ。

てか、何なん?名前つけただけで、こんなすごいことになるもんなの?


町の人たちはしばらく動けないでいたけど、次第にどよめきが広がっていった。


「すげえ……。俺、名付けの儀なんて初めて見たよ……。」

「でも名付けの儀ってもっと早くやるもんじゃねえのか?何もんなんだあの子は……。」

「てかドラゴン連れてるし、王女じゃね?」

「わしゃこんなに立派なドラゴンは初めて見たわ。長生きはするもんだのう……。」

「ありがたや、ありがたや……。」


……これはもう、正直に、堂々と言うっきゃない、かもしれない。

私が町の人々のほうを向くと、人々は号令をかけられたかのようにシーンと静まった。


「皆様、ごきげんよう。私は、グランツェリーノ・ナコリス。この国の、第3王女でございます。」


出来るだけ大きな声で堂々と言ってみる。

すると、人々が一斉に歓声をあげた。


「すげぇ!!第3王女だ!!」

「ほんとにいたのか!俺生きててよかったよ……!!」

「ありがたや、ありがたや……!!」


いや、なんやねん、この歓迎ぶり。

私、この人たちにどう思われてるんだろう……?


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