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第2話 お姫様とさら地のドラゴン

「てえまぱあく、とな。」


ドラゴンが、至極真っ当な返事を返してくる。

当たり前やん。この世界には、まだテーマパークの概念が無い。少なくとも、私が知っている範囲では。

私は、巨大なドラゴンに若干怯えつつ、それでもはっきり答えることにした。


「ええ、テーマパークです。申し遅れました。私、グランツェバーグ王国の第3王女、グランツェリーノ・ナコリスと申します。」


出来るだけ貴族っぽく見えるように、私はうやうやしく、着ている服のすそをつまんでおじぎをしてみた。

とはいっても、説得力は皆無だろう。今の私は、動きやすいけどあちこちほつれてる、古いワンピースを着ているのだから。

私は頭を下げたポーズのまま、ドラゴンの次の言葉を待ってみた。


正直に言おう。ドラゴンが来るなんて聞いてないぞ。

そりゃ剣と魔法の世界だもの、いつか来るとは思ってましたよ。でもまさか、こんな急に出るとか思ってないやん。何なん、まさかドラゴンが出てくるって知っててこの土地の使用許可証をくれたとでもいうんか。

はー、まったく、どこまでも性根の腐った野郎どもですわ。

それでも今、私はドラゴンの機嫌を損ねないように、精一杯のことはしてみたつもりだった。

運が悪ければ、食べられて終わるかもしれないけど。

あー、転生って2回めもアリなんかなあ。


私がそんなことを考えていると、頭の上からでかい水滴が降ってきた。一粒一粒が、バケツ1杯分はありそうなどデカさだ。

なんだ?と思って顔を上げてみると、ドラゴンがぼろぼろと、涙をこぼして泣いていた。


「ナコリス様、ああ、ナコリス様でしたか。よくぞ、よくぞご無事で……。」


ドラゴンは、涙声になりながらそう言った。

正直、なぜ泣かれているのかまるで分からない。

私がきょとんとしていると、ドラゴンは涙が私に直撃しそうなのに気がついたのか、頭を地面につけて、腹ばいになってしまった。私も地面に座って、ドラゴンの頭をなでてみる。するとドラゴンは、ごろごろと嬉しそうに喉を鳴らした。

これじゃドラゴンってより、猫だ。かわいい。


ドラゴンはその状態のまま、こんな話をしてくれた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

この国では、王子ないしは王女が生まれると、国のどこかでドラゴンが生まれます。

そのドラゴンは、子が7才になった時に召喚魔法で城に呼び出され、以降はお互いに良きパートナーとして暮らしていくのです。

それが、この王国での慣習だと聞いております。


しかし、ナコリス様がお生まれになった際、国王はナコリス様と共に生まれたドラゴン、すなわち私を殺そうといたしました。

ドラゴンは、それ1匹だけで数十人もの兵と同じだけの力を持ちます。

おそらく国王は、ナコリス様がいずれ、ドラゴンと共に復讐しに来ることを恐れていたのでしょう。


私は生まれてすぐに召喚され、殺されかけました。

しかし、私は腐ってもドラゴン。並みの剣では、私のウロコに傷ひとつつけることすらできません。

殺すことができないと気づいた国王は、代わりに私を、何も無い平野に投げ出したのです。

ご丁寧に、平野から出ることができない呪いまでかけて。


幸い、食事は仲間のドラゴンが持ってきてくれたため、どうにか生きていくことができました。

しかし、王子・王女と共に生まれたドラゴンは、彼らと魂が繋がっていると聞きます。

私も、ナコリス様がいじめられるたびにそのことが伝わり、非常にやるせなく悔しく思っておりました。

お会いできて嬉しゅうございます。

ーーーーーーーーーーーーーーー


聞き終わった私は、ふぅ、とため息をついた。

あのクソ王め。継母の意思も混じっているのだろうが、それでも、どうにも許せそうにはない。

生まれてすぐの子ドラゴンを殺すとか、マジ倫理的にありえねえんだけど。

しかも呪いかけるとか、ほんとにありえねえんだけど。

この平野は、動物の数がとても少ないように見える。私の目じゃ、ぱっと見、何かいるようには全然見えない。

もし仲間の手助けがなかったら、この子は飢えて死んでいたんだろうか。

そう思うと、あらためて怒りがこみ上げてきた。


ドラゴンはもう泣くのをやめて、私のことをじっと見つめている。

そして、こんなことを言ってきた。


「ナコリス様。魔法のお勉強はされておいででしょうか。」


私は、首を横に振る。

周りの人、特にシーバの真似をしてみたことはあるけれど、本格的な勉強はしたことがない。

城の図書室には入らせてもらえなかったし、ド田舎にはそもそも本屋が無い。

勉強本の類は注文しても届かなかったので、シーバに身の回りで使える簡単で実用的な魔法を教わったレベルで止まっている。

これじゃ、魔法の勉強をしている、とは言えないだろう。


ドラゴンは、むぅ、と小声でつぶやいて、また私のことをじっと見た。


「もったいない……。そんなに多量の魔力をお持ちだというのに。」


ドラゴンは心底もったいねえ、という顔をしている。

例えるなら、超絶素晴らしい推しの作品をまだ知らない人を見たときのオタク。あるいは、神絵師が仕事の関係とかなんとかで筆を折る決心をしたという内容のツイートを見たときの私。

そんなもったいねえんか。てか、私に魔力とかあったのか。全然知らんかったわ。


私は正直に、魔法の勉強どころか、城で教わるであろう勉強らしきことは何ひとつ教わってないと伝えた。

実際、シーバから火の起こし方とか掃除のコツとかは教わったけど、空の飛び方とか炎の出し方とかは全然知らない。

馬の乗り方もシーバから教わったけど、ドラゴンの乗り方は知らないし。

……転生系のやつって、もっとチートできると思ってたんだけどなあ。


私が話し終わると、ドラゴンはぐっと身を起こして、私の前にあらためて座りなおした。

座っただけでも、ものすごい迫力のあるデカさだ。見上げるだけでちょっと首が痛い。


「それでは、勉強いたしましょう。てえまぱあく、とやらを作る際にも、きっと役に立つはずです。」


ドラゴンは、やる気に満ちた顔でそう言った。


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