プロローグ(1)
光輝くイルミネーション、壮大に奏でられる音楽、色とりどりのキャラクター、非現実的な建物達。
ああ、もうあの素晴らしい空間に、たどり着くことはできないのだ。
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私はグランツェリーノ・ナコリス。
広大な大陸を統べる超がつくほど巨大な王国、グランツェバーグ王国の第三王女である。
そして、転生前は、安曇 奈子という名前だった。
率直に言おう。
なんじゃあこりゃあ。
まず最初に、私は車に轢かれて死んだはずだった。
あの新型クソ感染症野郎のせいで行きつけのテーマパーク「東京デルヴィスランド」が一時閉園となったことを知り、絶望と深い悲しみに包まれながら歩いていたら、赤信号なのに気がつかず、ものの見事に轢かれてしまったのだ。
最初はそう言ったものの、死んだかどうかは正直よく分からない。だってそうだろう。私が覚えているのは、意識が途切れるまでの出来事。そこから私の体が死んだかどうかなんて分かるはずもない。
まあ、たぶん死んでるだろうけど。
とにかく、次に目覚めた時、私は赤ん坊になっていた。
嘘やろ。
これが俗に言う「異世界転生」ってやつか。
最初こそ魔法とか使えるんかな、とワクワクしていたが、その期待はすぐに裏切られることになる。
たしかにこの世界は、剣と魔法の世界だった。
しかし、私が生まれたグランツェバーグ王国は長年にわたり圧制を強いていて、城で見かける面々の顔に、全くと言っていいほど笑顔が無い。
おまけに私は正妻と国王との間にできた子供であるにも関わらず、正妻が出産の際、つまり私を産んだ時に亡くなり、国王が他の女性と結婚してからというもの、私は冷遇されまくっている。
具体的に言うと、私の世話をするのは「シーバ」という名前の30代のメイドさん1人のみ。
国王と結婚した女性、私から見て継母であるあの女は2人の子供を連れてきていたが、彼女は早々にあの異母姉妹を第1・第2王女とし、私を第3王女にしてしまった。
ふざけんなし。本来なら、私が第1王女のはずなのに。
こんなのってありかよ。
それが、赤ん坊時代の率直な感想だった。
その後、時は流れまくって、今の私は16才。
王国のはじっこにある超がつくほど田舎の町の外れあたりで、小さな屋敷に住んでいる。
おいおい、姫やぞ。こちとら姫なのに、そんな扱いしてええんか。
と、赤ん坊時代の私ならツッコんだだろう。ただ、今はもう、ツッコむ気にもなれない。
だって笑ってしまうほどに、継母や異母姉妹たちからの嫌がらせが毎日届くからだ。
よく飽きないな。実は好きなんじゃねえの?私のこと。
いや、そんなわけねえか。
彼女たちは、事あるごとに私をバカにする。
言葉を覚えるのが遅い、アホ面の醜い豚、きちんとした教育を受ける資格も無い。
歩き方が下品だとか、食べるのが汚いだとか。
それはシーバと一緒に城から追い出されてからも同じで、わざわざ嫌みたらしく悪口を書いた手紙をよこしてきたり、馬車いっぱいの馬糞を送りつけてきたりする。
なんやねんこいつら。アホすぎて草生えるわ。
ちなみに手紙は燃料に、馬糞は肥料にして近隣の農家にプレゼントした。
そんな私が、いま考えていること。
それは……
「あー……。テーマパーク行きてえ……。」
娯楽がクソほども無えこの世界で、それは叶わぬ願いであるかのように見えた。
不定期投稿のつもりです。
ゆるく見守っててくだされば幸いです。