No.3 マケーン・ケルトロス・バレンタイン
お祖父様が手に取ったのは直方体の細長い木箱だった。その中には羊皮紙が入っていて魔法陣が血液で描かれていた。お祖父様がメイス語の呪文を唱えるとそれは赤色に発光し、女性のホログラムが浮かび上がった。彼女は言う。
「ミケーネの遺跡に残されていた象形文字、パスグリフの解読は未だ完了しておりません。しかし、地質調査から興味深いことが分かりました。かつてミケーネの地で大規模な戦争があっということです。そして、そこでは現在の魔術よりもはるかに高出力な魔術が使われていた可能性があります。具体的には100人の魔女による破壊魔術の1000倍の威力。つまり、ミケーネの遺跡全域が消し飛ぶ威力です。パスグリフの解読が完了すればこの技術を使用することができるようになると考えられます。失われた技術の復興のために、この国のさらなる繁栄のために技術開発部門への資金増額をよろしくお願いします」
ホログラムはここで終わった。
「この人は?」
「バレンタイン女史じゃ」
「彼女は女官だったのですか?」
「そのようじゃな。だが、どこの国の者かは分からん。だが、あの魔剣は彼女自身だ。もし、彼女がパスグリフの解読に成功していたなら、やりようによっては、な?」
お祖父様は気味の悪い顔で俺を見た。この人は、まだ、やり足りないようだ。さっさと逝ってもらわねばならないなと思った。その後、俺はこの部屋の物はこの部屋から持ち出されれば灰になること、今日聞いたことはくれぐれも口外してはならないことを聞いた。お祖父様が出て行った後、この部屋のものをいろいろいじってみた。どれもこれも奇物、秘宝のたぐいだった。そういえば、バレンタイン女史はヴァール語を話していた。パーシーも500年前、統制王の命で世界中の奇物の詳細をヴァール語でまとめた。「奇物見聞録」に記載されていることが正しければ、魔剣は俺が生きている現在からさかのぼって約900年前、つまり、聖暦1221年に創造されたものだと考えられる。エリーリ師に教わった「正史伝」によると統制王の「ヴァール帝国」は聖暦1645年に滅亡する。一夜にして帝都「ヴァール」が蒸発したからだと師は補足していた。中枢機関を失った帝国は各地の諸侯を中心に小国に別れ、覇権をめぐって争った。そして、100年前、二大帝国の講和というかたちで戦乱の世は幕を閉じる。今日の話を総合して考えると、聖暦1221年から聖暦1645年の間にパスグリフは解読され、その魔術によってヴァールは吹き飛んだ。解読したのは「技術開発部門」の関係者、もしくはバレンタイン、カーナーのうちの誰かだ。いや、組織的に解読したのかもしれない。まずはあの魔剣と対話することから始めるべきだろう。一刻も早く解読者を特定し、技術を手に入れ、技術の拡散を止める必要がある。でなければ、この帝国もヴァールの二の舞になる。恐ろしい想像が頭をよぎった。