アルコのニジ
みならいニジしょくにんのアルコは、
いつもうみをながめて、ためいきをついていました。
「はぁぁ・・・
どうして、うまくできないんだろう」
きょうも、アルコはニジこうぼうで、
ニジをえがくれんしゅうをしていたのですが、
「また、いっしょくしかでていないじゃないか」
アルカのえごくニジをみて、あきれがおでそういいました。
そうなのです。
アルコは、まだ、
ニジをいっしょくしかえがけないのです。
おやかたみたいに、
まちからまち、みなとからみなとまでかかる
おおきくて、
なないろのニジをかけることができないのです。
アルコのニジのおおきさは、
せいぜい、おうちいっけんぶん。
なによりもいちばんのもんだいは、
いっしょくしかえがけないのです。
それも、ムラサキいろだけです。
「ムラサキのニジなんて、
そんなニジは、だれもみたくないだろう。
どうやらおまえは、
ニジしょくにんにはむいていないのかもしれないな」
おやかたにそういわれて、アルコはしょんぼり。
それで、きょうもみなとのかいだんにすわって、
うみをみながら、ためいきをついていました。
と、そこへ、イルカがやってきました。
「おや、またおちこんでいるのかい?」
「ぼくは、ニジしょくにんには、むいていないんだ。
いっしょくのニジなんて、だれもみたくないんだ」
「そうなのかい?
ぼくは、きみのニジがすきだよ。
きみのニジをくぐるのもとびこえるのも、
たのしいもの」
「ぼくのニジなんて、
イルカくんのゆうぐになるくらいちっちゃいんだ」
アルコは、しょんぼりおかへとあるいていきました。
そこへ、ハチがやってきました。
「やあ、アルコくん。こんなところでどうしたんだい?」
「ぼくは、ニジしょくにんにむいていないみたいなんだ」
「なるほど、それでおちこんでいたのかい」
「だいもんだいさ。
いっしょくしかえがけないニジしょくにんなんて、
ひつようないんだ」
「ふむ、だったら、
ぼくのあつめたハチミツをたべたらいいよ。
ぼくらみたいにキイロくなれるはずさ」
「ぼくがキイロくなったっていみがないよ」
アルコは、とぼとぼとあるいていきました。
きがつくと、そこはもりでした。
こもれびがいっぱいで、
まるでミドリいろのせかいです。
「とても、きれいなミドリだな。
こんなミドリをえがけたらな」
アルコはまた、ためいきをつきました。
そこに、コトリがやってきました。
「あら、アルコくん。どうしたの?ためいきなんて」
「ぼくは、ニジしょくにんにむいていないんだ」
「あら、それでおちこんでいたのね」
「いっしょくしかえがけないから、
しょくにんしっかくなんだ」
「だったら、ここにいたらいいわ。
ここで、あたしたちとうたってすごせばいいわ。
かんげいするわ」
アルコは、くびをよこにふりました。
「ぼくは、きみたちのようにはうたえないよ。
それにぼくは、ニジしょくにんになりたいんだ」
アルコが、もりをぬけてあるいていくと、
そうげんにでました。
いろとりどりのはながさいていて、
とてもきれいなばしょです。
でも、アルコのこころははれませんでした。
アルコは、そうげんのはなばたけに、
ひざをかかえてすわりました。
そこへ、チョウがやってきました。
「あらぁ、アルコではなくって」
「やあ、チョウさん」
「このばしょで、そんなかおですわっているなんて、
なんてしつれいなのかしら。
このはなばたけでは、くらいかおはマナーいはんだわ」
「そうだよね。ごめんよ」
アルコは、しょんぼりしたままたちあがりました。
「まったく、
ここにきたひとをそんなかおのままで
かえすなんてできないわ。
いったい、どうしたの?」
「ぼくは、いっしょくしかニジをえがけないから、
ニジしょくにんにむいていないんだ」
「いろなんて、いっしょくでじゅうぶんだわ。
わたくしたちは、
さいこうのいっしょくをめざしているもの」
「でも、ぼくのえがきたいニジは、
おやかたみたいななないろなんだ」
「なるほどね。
うん。わかったわ。
いまから、みなとにおもどりなさい」
「え?」
アルコは、チョウにいわれたとおりに
みなとまでもどってきました。
くれはじめたそらのたいようが、
うみにむかって、すっかりかたむいています。
「はぁ。もう、きょういちにちがおわっちゃう」
アルコのおちこんだきもちが、
よけいにかなしくなりました。
みなとからみえるうみのなみが、
もうすぐしずむゆうひに
キラキラとひかっていました。
アルコのめから、
ひとしずく、なみだがこぼれました。
それはかなしいなみだでした。
と、そこへ、イルカがやってきました。
「おや、アルコくん。ないているのかい?」
「ないてなんかいないさ」
「そうか、ならよかった。
いわれたとおりに、ともだちをつれてきたよ」
「いわれた、とおり?」
アルコはくびをかしげました。
と、そこへハチがあらわれました。
「おい、イルカくん。
アルコくんにいわれたわけじゃないだろう」
「あぁ、そうだった」
「きみはあたまがいいのに、おちょうしものでこまるよ」
「まったくだわ」
そこに、コトリたちもきました。
「あたしたちも、もうねるじかんだというのに、
チョウさんにいわれてやってきたのよ」
「あ、こら、キミもよけいなことをいわないでくれ」
ハチが、ブンブンとコトリにもんくをいいました。
「チョウさんが?
そうだ、ぼくもチョウさんにいわれてきたんだった」
アルコは、かおをあげてあたりをみまわしました。
うみには、たくさんのイルカのともだち。
アルコのあたまのうえには、たくさんのはちのともだち。
ちかくのきには、えだをうめつくすほどのコトリたち。
きづくと、アルコはみんなにかこまれていました。
「さあ、みんなあつまりましたわね」
そこへ、チョウがやってきました。
チョウもたくさんのともだちをつれています。
「さあ、はじめますわよ」
「え?はじめるって?」
「いいから、いいから」
と、チョウはクスクスわらいました。
「まずはハチくんたち!」
チョウのごうれいで、ハチたちがいっせいにとびました。
「つぎは、コトリさんたち!」
こんどは、ことりたちがとびたちました。
そのくちばしには、このはがくわえられています。
「つづいて、わたくしたちよ!」
ハチたちと、コトリたちのうえをチョウたちがとびます。
「さあ、みんなでアーチをつくって!」
ハチたちとコトリたちとチョウたちが、
とびながらそれぞれかさなったアーチをつくりました。
「さあ!イルカくんたち!
このアーチをじゅんばんにとびこえつづけて!」
「わかった!まかせて!」
みんながつくったアーチをイルカくんたちが、
たえまなくとんでいます。
「さあ!アルコ!わたくしたちのうえに、
めいっぱいおおきなニジをおかけなさい!」
チョウにいわれて、
アルコは、いまじぶんにできる
めいっぱいのニジをかけました。
すると、どうでしょう。
アルコのムラサキいろのニジ。
イルカたちのアイいろのジャンプ。
チョウたちのアオいろのダンス
コトリたちのミドリいろのはっぱのトンネル。
ハチたちのキいろのだいこうしん。
オレンジいろのそら。
しずみゆくアカいろのたいよう。
「ニジだ!!」
アルコは、おおきなこえでいいました。
「どうかしら。これが、あなたのニジよ」
チョウが、とくいげにいいました。
「うん!とってもすてきなニジだよ!」
うれしくて、アルコのめには、
うれしいなみだがあふれました。
「みんな、アルコくんがすきだからあつまったんだ。
まちがいなく、これはきみのニジだ」
ハチがむねをはっていいました。
「このニジに、すてきなうたをそえるわ」
コトリたちがうたいだしました。
「でも、いろはさかさまだけどね」
と、イルカがわらいました。
「よけいなことをいうな」
ハチがブンブンいいました。
そこにいるみんなが、おおきなこえでわらいました。
そうしたら、
うれしくてあふれたアルコのなみだがこぼれおちました。
そのなみだが、
うけとめようとした、アルコのてのひらではじけました。
そのはじけたなみだが、
ちいさな、なないろのニジになりました。
おしまい
無力さに落ち込む事ってよくあります。
解決するかどうかとは別として、誰かがきっと頑張っているのを見てくれている。
それって、力になりますね。