84:おもしろいそざい
本日の4/4です。
■リリーシュ 樹人族 女
■223歳 【天庸十剣】第九席
「カカカッ! これが『神樹の枝』か! なんと素晴らしい!」
魔導王国の【天庸】本拠地へと戻った私は、盟主ヴェリオ様に『神樹の枝』をお渡しした。
その喜びようは、今まで幾人もの要人を殺してきたどの仕事よりも大きく、私も盟主様のお役に立てたことが誇らしくなる。
錬金術については詳しくない私でも『神樹の枝』という素材の価値は分かるつもりだ。
何しろ『神樹の巫女』以外が近づけない場所にあり、巫女もそれを素材にしようなどとは思わなかったはず。
だからこそ歴史上、唯一無二の、しかも神の力が籠った素材なのだ。
盟主様が喜ばれるのも分かろうというもの。
「うわぁ……私無理だわ~。部屋出るからね~」
「ええ、近づけないほどの神聖な魔力を感じますねぇ。こちらに向けないで下さい盟主様、ええ」
淫魔族のぺルメリーと妖魔族のドミオが拒絶反応を見せる。
魔族にとっては近づけないほどの素材だと言うことか。
魔族は神聖魔法に対して異常に弱いと聞く。
おそらく『神樹の枝』自体が神聖魔法と同様の何かを有して……いや、発しているのかもしれない。
「カカカッ! これだけの素材だ、じっくり調べて有効に使わねばなるまい! よくやったぞ、リリーシュ」
「ハッ、勿体なきお言葉」
私は再度頭を下げた。
これほど褒められるのは初めてだ。頬が緩む。
とは言え、報告はキチンとしなければなるまい。
「……しかし、ボルボラを失った事、相手を殺せなかった事につきましては弁解のしようもありません」
「罪人となったミーティア王女と基人族の男か」
枝から目を離さずに、盟主様はそう呟く。
最低限の仕事として『神樹の枝』と伐採の阻止は出来た。
が、ボルボラが殺られ、我々が【天庸】だという情報、私の情報、ボルボラの遺体など与えたままで私は逃げたのだ。
本来ならば情報を持ち帰らせないために、あの二人は殺すべきだったのだが……。
「火魔法を使う樹人族、ボルボラの肉体を一刀両断できる基人族」
「加えて言えばミーティアの身体能力は異常でした。私とさほど変わらない強さだったと思います」
そう、明らかにおかしな強さだったのだ。
『神樹の巫女』となるべき者は幼少期から単独で戦える強さを持つために鍛えられると言う。
しかしそんな次元ではなかった。
私が盟主様のおかげで異常な力を得たからこそ分かる。
あれは普通に鍛えただけで得られる力ではないと。
樹人族では持ち得ない火魔法を使ったことからも、やはり私たちと同じような強化を行ったと考えるべきか。
「カオテッドからの報告にあった【黒の主】でしょうねぇ、ええ」
「【黒の主】?」
部屋の隅にいたドミオの言葉に顔を向ける。
「ええ、そう呼ばれる基人族がカオテッドの迷宮組合で話題だそうですよ。大勢のメイドを引き連れ、迷宮で大活躍だそうです。風貌の特徴的にもそんな基人族が二人と居るとは思えません。ええ」
そう、基人族が保護区から出て、戦っていること自体が異常なのだ。
保護区の外を自由に歩いている時点で、世界唯一の存在ではないか。
しかも戦えば強く、ミーティア王女を従え、何かしらの力を与えている……?
「カカカッ! 面白い! 未だ世は未知で溢れている! そういう事だな!」
盟主様は持っていた『神樹の枝』を掲げ、それを見上げながら笑う。
「出来ればその基人族も生け捕りにしたいところだ。未知の能力ならば活用したい。しかし捕らえるにしても調べるのが先だろう。ドミオ、カオテッドの連中に探らせるのだ」
「ええ、かしこまりました」
異常な存在である基人族も盟主様から見ればただの素材か。
つくづくこの御方の底が知れない。
出来ればミーティアには私の手でローブの借りを返したいところだが……さてどうなるか。
■ドルチェ 針毛族 女
■14歳 セイヤの奴隷
アネモネさんとウェルシアさんが屋敷に来た翌日、朝からお庭では模擬戦の訓練が行われていました。
イブキさんの声に応える形で、ご主人様自ら皆さんの相手をしています。
ガキンガキンと音はすごいし、走り回ってお庭が大変な事になっています。
「はぁっ、はぁっ、ありがとうございました」
「イブキはやっぱり【攻撃】偏重だな、ステータスどうこうじゃなくて戦い方そのものが。ステ振りを見直すかどうかは少し考えようか。今のまま突き詰めても良いとは思うし」
「よっしゃ、次あたしな! イブキ、どけい!」
「あー、ツェンお姉ちゃんずるい! 私もやる!」
うわー、あのイブキさんがバテバテ……ご主人様やっぱすごいなー。
ツェンさんとティナちゃんが順番を取り合っている横で、ネネさんがチラチラ見ながら素振りしています。
仲間に入りたいんでしょうかねー。
私も強くなるために特訓したいところですが、ご主人様から止められています。
武器を用意して、迷宮に潜って、レベルアップをしてからご主人様が<カスタム>するので、それまでは見学だけだと。
ですので、我々新人組は戦闘どうこうよりも、まずは侍女教育をという事です。
私はご主人様にお会いするまで、エメリーさんからずっと教育を受けてきました。
侍女さんなんて今まで見たこともないので、教育と言われてもどうすれば良いのか分かりません。
だから随分と注意されました。
教育の時のエメリーさんは怖いです。
そういったわけでアネモネさんとウェルシアさんに比べてアドバンテージがあるはずなのですが……。
現在、ポルさんも含めて四人で教育の真っ最中です。
本当はお庭の模擬戦を横目で見ていたいのですが、怒られるのでもうやめます。
「ドルチェ、また散漫になっていますよ」
「ひぃっ」
「返事は?」
「はいっ!」
「よろしい」
なんでも侍女という者は『立ち姿から侍女然としていなくてはならない』という事で、頭にお盆を乗せ、姿勢をキープ。
手はおへそを隠すように軽く重ねた状態です。
そのまま喋ったり、歩いたりするわけですが、非常に難しい。
アドバンテージとは何だったのか。私の出来は悪いらしいです。
何気に今日初めてやったはずのウェルシアさんが、すごくキレイな姿勢。
「これでも一応貴族の端くれでしたからね。姿勢や立ち振る舞いは随分と勉強させられました」
「ご自宅に侍女は居たのですか?」
「おりましたが、エメリーさんが言うところのメイドですわね。こうした教育はしておりません」
そう話すウェルシアさんとエメリーさんの頭にもお盆が乗っています。
エメリーさんのお盆の上にはさらに紅茶の入ったティーカップまで乗っています。
よく零さないもんだなー。
「ではこのまま少し歩きましょう。姿勢を保ったままですよ。ポル、大丈夫ですか?」
「は、はいっ! 大丈夫なんで、うわああっ!」
ポルさんがお盆を落としました。
喋る方に集中しちゃって、一瞬姿勢の事を忘れるんですよねー、分かります分かります。
「アネモネ……ずっと喋ってませんけど大丈夫ですか?」
「ふふふ……これで失敗されたらご主人様に幻滅される……追い出される……そうしたらもう死ぬしかない……やはり私なんかがご主人様の奴隷など恐れ多い……いやでも……」
なんかブツブツ言ってますけど、大丈夫そう。
いつも切羽詰まってるというか、死の淵に立ってなんとか生き延びようとしている感があります。
ネガティブなのか何なのか、ともかく一見そうは見えないけど集中しているのは確か。
「ではこの状態でお辞儀の練習をします。続いて下さい『かしこまりました、ご主人様』。はいどうぞ」
……なんでお盆も紅茶も乗せたままお辞儀できるんですか?
「どうやってるです、それ!? 全然分からないです!」
「ふふふ……これが成熟した女神の加護の力か……」
「姿勢だけでなく体幹、細かな重心操作を行っている……?」
アドバンテージある私ですけど、これ一度も成功したことないんです。
規格外のご主人様に仕えるには、侍女も規格外でなければならない。
そういう事なんでしょうねー。
私も頑張らねばっ! かしこまり……うわあああっっ!! ドンガラガッシャーン
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