68:悪逆の兄王
本日投稿分の3/4です。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「フューグリス……貴様ぁぁぁっっ!!!」
「おやおや、これは父上ではないですか。母上に……そこの罪人はミーティアですかな? 随分と慌ててどうしたのです」
「貴様は国を! 民をなんだと思っておる!」
「ハハハ、これは異な事を。王が民をどう使おうが自由でしょう? それが樹人族ではないこのような劣等種族ならば尚更だ」
王城に乗り込んで来た俺たちは、とりあえず王城制圧しなければと現王フューグリスを探していた。
途中で絡んでくる者は全員なぎ倒し、敬礼してくる者からは居場所を聞き取る。
そうして辿り着いたのは玉座の間だった。
森を愛する樹人族の玉座にふさわしく、石畳と木材が調和し、優美な彫刻に暖かな光が差し込む厳粛な場所。
ところがその場は、現王の遊び場となっていた。
幾人もの奴隷が身ぐるみ剥がされ、四つん這いになり首輪から伸びたリードを握られている。
樹人族以外の樹界国の他種族、『日陰の樹人』となった樹人族、他国から取り寄せたのか獣人系種族や鉱人族までいる。
そういった者たちが鞭で打たれ、剣で傷つけられ、それでも奴隷契約により喋ることも動くことも出来ずに、ただ折檻されるのみ。
玉座の間に入った瞬間、思わず顔をしかめたのは言うまでもない。
ミーティア、お前のお兄さんいい趣味してんな。
親父さん、あんたどういう教育したんだよ。反抗期ってレベルじゃねーぞ。
親父さんと現王の舌戦は続き、お母さんは叱咤している。
そんな中、現王が控えていた近衛兵に指示を出した。
「何をしている、さっさとその罪人どもを捕らえよ」
『ハッ!』
息のかかった選民思想の連中だろうか、十人ほどの近衛兵たちは奴隷たちを見ても何とも思わない様子で、こちらに剣を向けて来た。
仮にも現王の肉親だぞ?
それに躊躇なく剣を向けるとは……これもう終わってんな。
「ミーティア、悪いがさっさと終わらせるぞ」
「っ……はい。もう何を言っても無駄でしょう」
「殺るのは俺だ。ミーティアは陛下たちを守れ。ネネ、兵士を頼む」
「分かりました」「はい」
言うや否や、俺とネネが走り出す。
ネネは風のごとく、次々に近衛兵たちを殺していく。
何が起きているのか分からないうちに、首に一閃されていく。
誰も防ぐことも逃げることもできない。
俺はそんな蹂躙を無視して、現王フューグリスに突貫。
「なっ……!?」
何も言わせない。
ただ斬るのみ。
戦いでもなければ、粛清でもない。
一瞬で首をはねる。
何をされたかも分からないまま、フューグリスは首から大量の血を噴き出し、そのまま動かなくなった。
すると、二つの事が起こった。
一つは周囲にいた奴隷たちの解放。
おそらくこの場以外にも大量にいるであろうフューグリスの契約奴隷が一斉に解放されたことになる。
ある者は泣き、ある者は失神し、ある者はフューグリスの遺体に怒りを向ける。
その混乱を鎮める余裕もなく、二つ目の事が起きる。
フューグリスの遺体から、白いモヤのようなものが立ち上がったのだ。
そのモヤは瞬く間に人の形になっていく。
男性に見えるそれはまるで幽霊か魂か、しかしフューグリスとは顔形が違う。
「幽魔族か!?」
後方から親父さんの声が聞こえた。
こいつが魔族……幽魔族か!
じゃあフューグリスはこいつに操られていた? 元凶はこいつ?
大司教のとこにいた淫魔族といい、魔族に暗躍されまくってんじゃねえかこの国!
『くそっ! こうも簡単に殺られるとは……!』
幽魔族の男はそう言うとふわりと浮き上がって、部屋の奥へと逃げようとする。
逃がすか馬鹿が!
一度納めていた黒刀をそのままに、即座に接近して居合いの一閃。
―――ズバッ! ……手ごたえなし。
まじかよ! 物理無効!?
ならばと<飛刃>を食らわせるも、これもダメ。どうやら<飛刃>は物理扱いらしい。
「ミーティア!」
「はい! 炎の槍!」
その発動速度は<ステータスカスタム>と今までの戦闘経験によって、そこいらの魔法使いが尻尾を巻いて逃げ出すほどだ。
火魔法を使い始めたのは奴隷になってからだが、それ以降、スタンピードや迷宮での連戦を潜り抜けてきている。
そうして放たれた炎の槍は一瞬で生成され、一瞬で放たれ、一瞬で幽魔族を貫いた。
少しこちらを振り返り、ギョッとした表情をしたまま、何も言えず幽魔族は消える。
フューグリスの遺体に怒りを向けていた奴隷たちは再び声を失ったようにその様子を見ていた。
自分の兄が操られていただけかもしれない、ミーティアはそう思っていてもおかしくはない。
両親もそうだろう。そして『日陰の樹人』となり樹人族の禁忌とも言える火魔法を使った我が娘をどう思うのか。
混乱の残る玉座の間。
しかし呆けていてもらっては困る。
俺はフューグリスの遺体を収納しつつ告げる。
「陛下、彼らの保護を。他にも奴隷となった者が囚われているはずです、暴動や混乱を来たす前に保護してください」
「あ、ああ、分かった」
「まだフューグリスの配下のヤツが居るはずだ。そいつらが陛下を狙ってこないとも限らん。ネネとポルはここで警護に当たれ」
「はい」「はいです!」
「ミーティアは俺と来てもらうぞ。偽巫女と宰相を捕らえる」
「っ、はい!」
道中にまともそうな騎士もいたし、奴隷やら混乱の対処はそいつらを動かしてもらおう。
俺はとにかく主犯格のあとの二人を狙う。
王城に居るだろうって話しだから、道案内にミーティアは必要だ。
そしてまた走り出す。
正直もう働き過ぎでお風呂に入りたい気分なんだが、あと少しの辛抱だ。
俺以上にミーティアは疲れているだろうが頑張ってくれ。
広い王城を走り回る。
宰相の自室、執務室、ユーフィスの自室、食堂、トイレ、どこを探しても居ない。
警備兵に無理矢理話しを聞くと、宰相は今朝から姿が見えないとの事。
逃げた? 俺たちが動いてるのがバレたか?
そしてユーフィスは神殿に向かったとの事。
入れ違いか! いや、そうすると大司教が居ないのもバレてるはず。遺体は<インベントリ>の中だ。
異変に気付いたユーフィスはどうする?
王城に戻るか、逃げるか、それとも……。
ともかく一度玉座の間に戻って、それを親父さんたちに伝える。
「二人とも姿を消したと……?」
「ここに向かってきてくれれば捕らえるのは楽ですが、逃げられると面倒です。まずは王都の出入りを封鎖すべきです。同時に二人を見つけたら捕らえるようお触れを」
「うむ」
さて、俺とミーティアは神殿に向かってユーフィスの行方を―――
「ご主人様、姉は神樹へと向かったのかもしれません。姉の目的が神樹の伐採であれば、それを為そうとするのでは」
……確かにそうだな。
聖域の森の伐採が進んで神樹への道が出来ていても時間的におかしくはない。
異変に気付いたユーフィスがとにかく神樹を伐れば勝ちだと急ぎ向かう事も考えられる。
いずれにしても神樹は守らないといけないんだ。
早めに確保・守護しておいて損はないか。
「よし、じゃあ俺とミーティアは神樹へ向かう。ネネ、ポル、ここは頼んだぞ」
『はい』
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