3-3:希代未聞の報告会・中編
■エメリー 多肢族(四腕二足) 女
■18歳 セイヤの奴隷(侍女長)
四階層探索。廃墟の街から北進し火山方面へ。
ケニの<千里眼>で祠が出現していないのは確認していましたが、それでも一応その場所にも赴きました。案の定なんの痕跡もありませんでしたが。
ここで帰還しても良かったのですが、ガッカリした気分のまま探索を終えるのは我々全員が望んでいませんでした。
物資も十分、継戦能力は高い。モチベーション維持の為のお風呂もありますし、水竜のドラゴンステーキもあります。
なので何かしらの成果なり、新発見なりしたいものだとご主人様は仰いました。それに全員で頷きます。
四階層でまだ探索出来ていない場所というのは多くあるのですが、エリアで言えば山岳地帯の大半(氷晶竜のねどこ付近を除く)と火山になるかと。
ならば火山を探ってみるかと、さらに我々は北進しました。
ちなみに事前にジイナに鉄傘というものを造ってもらっています。ご主人様の指示で。
正確には鉄以上に在庫があるミスリルで造った『ミスリル傘』ですが。
祠付近からは火山の噴石が降って来るので、火山探索には必要だと思っていらっしゃったようです。毎度のことながらご主人様の元いらした世界の知識には感心させられます。
そのミスリル傘を一人一本、もしくは二人で一本差す形で、火山へと足を進めました。
「ほう、よく出来ておるのう。ミスリルの盾と言っても良いかもしれん。しかも畳めるから持ち運びも楽じゃ。どういう構造になっておるんじゃこれは」
「そこはうちの専属鍛冶師の苦労の結晶ですよ」
「これ一本でミスリルソード何本分になるのかも分からんのう。それをクラン全員で使うとか……しかも噴石対策の為だけに使うとか……とんでもない金満クランじゃの」
構造が特殊ですからジイナ以外に造れるとは思えませんしね。ミスリル代と技術料でとんでもない金額になりそうです。
しかし鉄よりも軽いですし、火山探索に当たって有効なのには違いありません。
弱点は上空が視認出来なくなる事と、集団で固まった場合、視線と射線が遮られる事。そして片手が塞がる事でしょうか。
弓を使うミーティア、マル、ケニは傘を差せませんし、後衛陣が魔法を放つのにも周りの傘が邪魔そうでした。
まぁ前衛に大盾が並んでいるのと変わらないですからね。そこは位置取りなどでカバーするしかありません。
私の場合、腕が四本ありますから皆からかなり羨ましがられました。
これでも多肢族の中では少ない方なのですがね。
六本腕や四本脚ならばもっと戦えていただろうに、と悔やんだ事も何回だってあります。
まぁ無い物ねだりをしても仕方ないと割り切ってはいますが。
ともかく火山を探索し、ケニの<千里眼>とパティの<探索眼>で何かないかと探しながら進みます。
元々、四階層のゴールは火山だろうと、それは最初から予想していた事で、だからこそその為のエリアなり、階段なりがあるはずだと。
ご主人様は「頂上から火口に下りていく感じかなー」と仰っていましたが、我々は皆「それはないでしょう」と。
溶岩も噴煙・噴石も絶えず出ているのですから、そこに五階層への道などあるわけがない。
あっても熱いわ煙いわでろくに歩けないでしょう。
そう反論したら「結構テンプレなんだけどな、火口が入口ってパターン」と仰っていました。よく分からないご主人様独自の基準があるようです。いつもの事です。
結局それは火山の中腹にありました。
大きく口を開けた洞穴の入口。
中は薄暗いものの、どこからか漏れている溶岩の赤い光でぼんやりと見えます。一応ランタンも付けていますが。
洞窟の中は多少入り組んでいて、一階層の迷宮部分を彷彿とさせます。あそこまで坑道迷路のような感じではないですけどね。
もちろん魔物も出ますし罠もあります。それに加えて暗さと熱さがあると。まぁ熱さに関しては侍女服の<カスタム>のおかげで問題ありませんが。
出て来る魔物も相変わらずサラマンダーやウィスプといった小物ばかり。巨人系ですと洞窟に入れなさそうですから仕方ないのでしょう。
ともかくそうして進む事しばし、最初に気付いたのは当然ネネ。
三階層における不死城の『玉座の間』のような、最終関門がそこにはある。
そして領域主と、それを固める近衛兵の存在――リッチとデュラハン、ガーゴイルのような存在が確かに居ると。
そこは大広間のようになっていました。天井もかなり高い大空洞です。
向かい側には窓のように穴が開いており、そこから火口の溶岩の光が照らされています。
中腹の洞窟を入って、火口まで壁一枚という所まで進んだという事なのでしょう。
いずれにせよ、ここが領域主の住処――四階層のゴールに違いありません。
敵の陣容もさすがに最終関門と納得出来るようなものです。
「火竜か……」
「風竜よりも一段階強い感じでしたね。攻撃的というか、常に飛んでましたし、戦いにくいったらなかったですよ」
「普通のクランじゃったら火竜一体だけでも死んでおるからな? お主らは風竜と水竜を倒したから平然としておるんじゃろうが」
確かにそれもあるのでしょうが、さすがに翼を広げた火竜を目前にすれば臆する侍女もおりました。
まさに竜の王者というべき姿。これぞ畏怖の象徴、これぞドラゴンといった風格でしたから。
ご主人様が以前に戦った風竜は、改造された影響で人のような戦いぶりだったと言います。それが故に戦いやすかったとご主人様は仰っていました。
魔物特有の獰猛さは鳴りを潜め、苛烈な攻撃もせずに体術ばかり使っていたと。
しかしこの火竜。風竜のように滞空し続けるのは同じでも、攻撃は風竜の比ではありません。
空中を巧みに飛び、襲い掛かる爪や牙、そして尾を薙ぎ払えば、大樹のような太さの鋼の鞭といった所。亀の攻撃に匹敵します。
さらには灼熱のブレス。その頻度は亀以上でしょう。
それらを竜の本能のまま、獰猛に繰り出せば、本部長の仰っていたようにSランククランであっても壊滅は必至です。
さらに厄介な事に、敵は火竜だけではありません。
「ファイアドレイク六体にフェニックス二体……? 難易度の次元がこれまでと違いすぎじゃろ……」
その通りだと思います。
三階層の『玉座の間』でも圧倒的強者であるリッチの近衛のようにして、ガーゴイル二体と、他エリアの領域主であったデュラハンが二〇体も居たのです。
そしてここでも同じように、廃墟の街の領域主であったファイアドレイクが一気に六体も。後列・空に火竜、その両脇にフェニックス、前衛・地面にファイアドレイクといった陣形です。
ドレイクは最強の亜竜である事で有名な魔物です。
それを六体同時に戦わなくてはいけない。もうそれだけで難易度は高いはずです。
しかし一番厄介なのはそこではありません。
「火竜とファイアドレイクはまだマシなんですよ」
「いやマシって事ないじゃろうが」
「問題は二体のフェニックスですね。これが一番厄介だと感じました」
火竜はご主人様単騎で相手しつつ、適当に遠距離攻撃を加えれば良い。
ドレイクは私、イブキ、ツェン、ティナ、ジイナがタイマン。それと新人五人をまとめて当たらせる事によって各個撃破します。もちろんバフも入れましたし、新人の所にはサリュが後方支援に入っています。ともかくドレイクは問題なし。
あとは氷晶竜戦のように盾役に守られた後衛部隊から適宜攻撃を加えていくわけですが、フェニックスに関しては対処する術が限られます。
相手は絶えず燃える炎の鳥。
物理攻撃は効かず、魔法攻撃にしても水魔法以外が全く効かない。それもただの水魔法ではダメで、氷魔法以外効かないように見えました。
おまけに火竜以上に素早く飛び回り、遠距離から火の玉を撃ってくるという厭らしさ。
水魔法を使えるラピス、ウェルシア、ポルは<水の遮幕>で炎を防ぐ役割があります。
どの魔物にしても炎を吐くのですから当然対処しなければなりません。
しかし攻撃に回さないといけない。それが厄介な所でした。
おそらくジイナの【魔剣マティウス】であれば物理攻撃であっても効くと思いますが相手は空で動きも速い。とてもジイナが戦える相手ではありません。
ミーティアの弓も魔力の矢ですから物理攻撃ではありませんが、無属性の矢では効いているのか微妙です。
と言う事で、結局はウェルシアの<魔力凝縮>からの<氷柱連弾>を叩きこむ感じになりました。
<魔力凝縮>であれば<氷の壁>でも良さそうでしたが、相手が素早く、一撃に賭ける必要があった為、最上位魔法を選択したようです。英断でしょう。
ともかくドレイクを倒し、火竜を倒し、最後にフェニックスを倒すという順番になりました。
さすがに四階層の最終関門。納得の強さだと言えるでしょう。
もちろん単体で考えれば炎岩竜や氷晶竜の方が強かったとは思いますが。
「いや比べる対象がおかしいからな? 火竜もフェニックスも有名じゃが討伐記録はないんじゃぞ?」
「あーそうなんですか。まあアレは倒すの大変ですしね」
「大変どころの騒ぎじゃないわい。お主らいくつ歴史を塗り替えれば気がすむんじゃ」
一応倒した後、通信宝珠で知らせたんですけどね。火山の領域主は火竜で、それも倒しましたと。
フェニックスやドレイクには触れていませんでしたから、それもあって頭を抱えているのかもしれません。
ともかく領域主である火竜を倒した事で、ドロップ品なども出ました。もちろん買い取りには出さずに博物館行きです。
そして戦場となっていた大空洞の端に洞穴のような入口と階段も発見しました。
見慣れた階段。間違いなく五階層へと続くものです。
「ん? つまり火竜やフェニックスたちと戦わずにその洞穴に逃げ込めば戦闘は回避出来るのかのう。三階層の玉座の間より逃げやすそうに思えるが」
「どうでしょうね。完全に防御を固めたままなら行けなくもないですけど、間違いなく攻撃に晒されますよ。火竜のブレスをもろに食らうかと」
「炎対策しても厳しいか。魔法防御を固めたところで火竜とドレイクに突っ込まれたらお終いじゃからな」
普通に正面から倒せる戦力で挑んだ方が良いという事でしょう。
となるとSランクの【魔導の宝珠】にAランクの三組が加わった所で厳しそうですが。
何名か死者を出して逃げ込む事なら出来そうですがね。
「それで五階層か。少し探索して帰って来たとしか聞いておらんから詳細が分からんのじゃが」
私たちは五階層へと足を踏み入れました。前人未踏の領域です。まぁ四階層でもそうでしたけど。
ほどよい緊張と、ワクワクするような期待感。侍女たちは二分されていたと思います。
ご主人様も警戒を絶やさずにネネやアネモネ、パティに注視するよう指示をしていました。
正直、四階層の時点でいかにも探索の難しい階層、そして何体もの竜や亜竜。難易度で言えば最上級であると思います。
だから四階層が最終階層でもおかしくはない。そう思っていました。
しかし実際に階段はあり、五階層へと繋がっている。
果たしてこの先に待ち受けるものは何なのか。私としては少し不安な気持ちもありました。
そこは一言で言えば――『城』でした。
「城?」
「うーん、城の廊下を模した迷宮って感じですかね。広~~い城を探索してるような感じです」
「小規模迷宮や中規模迷宮に使われておる迷宮壁が城の内装っぽいという事か?」
「ですね。床は絨毯っぽく、壁際には立派な柱。天井も高い。でも……巨人用の城って感じで、とにかくデカイんです」
私たちが階段から抜けると、まるで小動物にでもなったような感覚に襲われました。
明らかに豪華な城の内部ではありますが、どのパーツも大きい。天井など屋敷の屋根より高く感じます。
壁自体も迷宮壁のように薄く発光しているようですが、壁の装飾のような燭台も等間隔に並んでいます。
それらがあっても薄暗く、人気のない巨大な城はとても不気味に感じました。
ご主人様は「ラスボスは地下深くに城を作るもんだ」と納得されていましたが、どういう意味なのかは分かりません。
ともかく警戒を密に、私たちは探索を始めたのです。
おそらくカオテッドの四階層は他の大迷宮の最終階層以上です。
カオテッドの難易度が飛び抜けて高い。そりゃ本部長も頭を抱えます。
なんつー所に本部建てちゃったんだと。




