32:仕立てちゃおっかな、侍女服
■イブキ 鬼人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
カオテッドという巨大な街は区画によって特色が異なるらしい。
建物、人種、宗教、食事、特産など様々なもので違いがある。
とは言え、四つの国、四つの区画が繋がっているので平均的に混じり合っている部分も大きい。
【混沌の街】とはよく言ったものだ。
中央区はほぼ迷宮組合員の為の区画となっている。
その為、中央区だけで色々と物を揃えようと思えば揃えられる。
しかしそれぞれの区画に沿ったものがあり、そういった物は種類も多く、安くなる。
例えば箪笥などの木工品や木製家具、これは南東区の得意分野。
樹界国は森の国。良質な木材が多く、その加工技術も持ち合わせている。
だから良い家具を買うなら他区画より南東区で買ったほうが良い、となる。
主だった特産はこのような感じらしい。
・北東区(エクスマギア魔導王国領)
魔道具、錬金アイテム、装飾品、本、ガラス
・南東区(ユグドル樹界国領)
木材、木工品、薬草類、衣類、植物紙、野菜
・北西区(ドボルダート鉱王国領)
石材、武具、鍛治、金属加工品
・南西区(ボロウリッツ獣帝国)
穀物、畜産、養蜂、羊皮紙
こうした形で得意分野は量や種類があったり、値段が安かったりするわけだ。
我々はまず侍女服を製作依頼しようと南東区に来た。
ついでに木皿などの食器類、シーツやタオル等の日用品、足りない家具など。
ご主人様は植物紙も欲しいらしい。割高なのだから羊皮紙で良いと思うのだが。
予定としては南東区が終われば北西区で武器の発注を行う。
そこまでは先に終わらせる。
その後は北東区と南西区、どちらが先でも問題ないという事だ。
地図を集めるために行くことは行くのだが、急ぎではない。
南東区は大通りに面して街路樹が多く見られる。
建物も石造より木造のものが多く、高さもあまりない。
全体的に自然を多く取り入れ、それを邪魔しない程度の住空間という感じだろうか。
ただの『大地の蓋』であったこの地に、よくもこれだけ樹木を植えたものだと思う。
樹人族が森と共に生きるという意思がよく伝わる。
木々が全くない人混みの街に住むというのが嫌なのだろう。
「ほんとに樹人族が多いんだな。しかも何人かだけだけど、確かに『日陰の樹人』もいる。これだけいればミーティアを知ってる人もいそうだけど、案外目立たないもんなんだな」
いや、ご主人様。
ミーティアに行くべき目がご主人様に向けられているからだと思います。
ご自身が注目される事に慣れ過ぎてしまったのか。
「私が王都で表舞台に立ったのはそんなに多くありません。それもたかがここ五〇年くらいの事です。顔を知っている人の方が稀です」
「ご、五〇年か……」
基人族の寿命を考えれば長い年月なのだろうが、樹人族にしてみれば短期間と思える年月。
私からしても短期間とは思えないがな。
それに果たしてご主人様は普通の基人族と同じ寿命なのかと勘ぐってしまう。
女神の使徒である事は確実。加護も受けていよう。ならば寿命が延びてもおかしくはないが……。
「おいおい基人族が何でこんな所にギャアアア!!」
「罪人なんか連れていいご身分だギャアアア!!」
「てめえ何してギャアアア!!」
どこに行ってもこうした輩は居るものだ。
樹人族のチンピラというのも珍しいがな。
ともかくそうしたいつもの撃退劇がありつつ、変な目で見られつつ、商業組合で南東区の地図を入手した。
「思いの外注目を浴びるものだな。我の侍女服はおかしくはないよな?」
「大丈夫ですよ! フロロさん綺麗です!」
「……すぐに慣れる」
後ろでフロロとサリュ、ネネが話している。
奇異の目で見られると自分が何かおかしいのでは、と思ってしまう。
我々にはよくある事だ。
……まぁ実際おかしい面も多々あるのだが。
買った地図には色々な店舗情報が載っていた。
どこに行けば良いか迷うほどだ。衣類を扱う店だけでもかなりの数がある。
「やっぱ高級店だろうな。侍女服自体が貴族向けだろうし、使ってもらう予定の素材が素材だし」
「高級店というと大通り沿いでしょうか。地図で言うとココかココか……」
との事で、いかにも貴族御用達といった外観の衣料品店へやってきた。
通りに面した壁にはガラスがふんだんに使われ、ドレスが飾られている。
色も造りも普通の店とは一線を画す服が並び、店員もご主人様の『喪服』に似た執事の衣装だ。
躊躇しないで入るご主人様に続き入るものの、私は少し落ち着かない。
場違いだとは思うが、ご主人様の手前「入店して当然ですよ」という顔をしている。
少なくともサリュのようにアワアワしていない。
「……いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」
執事姿の年配の樹人族が丁寧な挨拶をする。
驚かず、侮らず、しかし目だけは警戒しているようだ。
なかなか出来た店員だな。
「ああ、これで彼女たちの侍女服を作ってもらいたいんだが出来るか?」
「ほう、見事な反物……こ、これはっ!」
見た目はただの綺麗な生地。しかし触れば分かるだろう。普通の生地ではないと。
「【鉄蜘蛛の糸袋】ってタイラントクイーンからドロップした素材から作った反物だ」
「なんと! タ、タイラントクイーン……! し、失礼ですが組合員の方で?」
「ああ、一応Aランクだ。それはイーリス迷宮の迷宮主だな」
「!?」
さすがに驚いたらしい。
迷宮制覇者のAランクと聞いて、より丁寧な対応になった。
「これほどの素材を侍女用の服に……その、よろしいのでしょうか。組合員の方ならば鎧下に使ったりローブにしたりだと思いますが……」
「ああ、いいんだ。それで作るのは可能か?」
「ええ、もちろん作らせて頂きます。このような高級素材を使わせて頂けるのであれば職人も張り切ることでしょう。では採寸を」
私たちは順番に採寸をしてもらった。
その後ろでご主人様が細かい注文をつけている。
「スカートの丈は足首。若干フレアなスカートが望ましい。肩はパフスリーブで長袖にしてくれ。袖は白生地で折り返し。エプロンドレスが問題だが、肩ひものフリルはつけるとしてやはりここは王道のヴィクトリアンで固めるべきだろう。つまり前掛け部分から太いひも状の――」
「お、お客様、所々分からないのですが!」
ご主人様は侍女というもの、侍女服というものに並々ならぬ熱意を持っている。
我々や【アイロス】に住まう人々と違う感性を持っているのは、やはり元いらした世界の人特有のものなのだろう。
その世界では侍女や侍女服といったものがありふれたものだったのかもしれない。
「という事で何着くらい作れそうだ?」
「六名様分ですと……二着ずつくらいでしょうか」
「じゃあそれd」
「ご主人様、これから人数が増えることを考慮すれば、サイズ違いを用意しておくか反物の状態で持っておいたほうが宜しいかと」
「お、おう」
エメリーが良い感じに遮った。英断だ。
これだけのものを二着も貰うのは申し訳ないし、奴隷が増えるのは間違いないだろうからな。
というわけで六着を注文し、後日取りに来ることとなった。
「本当にご主人様は金持ちだな。我も占いで稼いでいたほうだと思うが気軽に買える値段ではないぞ」
「しかも材料持ち込みでこれですからね。奴隷に着させる服ではありません」
スタンピードと山賊に感謝だな。
いや、感謝してはいけない対象なのだが。
その後、南東区を巡り、家具や紙、シーツなどの日用品を買いあさった。
このペースが続くのかと思うとさすがに懐が心配になる。
早めに迷宮に潜ったほうが良いのではないだろうか。
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