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221:真・褒賞の席~前編~



■ヴァーニー・エクスマギア 導珠族(アスラ) 男

■91歳 エクスマギア魔導王国第一王子 執政補佐



 迷宮勝負の数日後、謁見の間では再び、褒賞の席が設けられた。


 陛下の隣に私と宰相、目の前にはジルドラとメルクリオ、居並ぶ貴族と騎士団の様子は変わらない。

 ただ一点、今回の勝負の発起人となったドグラ侯爵の姿はない。



 勝負の行方を知っている者も多く居るし、知らない者も多少は居る。

 ドグラ侯爵がなぜ居ないのか知っている者は少数だろう。

 陛下の重苦しい挨拶と共に、その席は幕を上げた。



「まずは当人を呼ぶか。セイヤ・シンマとクラン【黒屋敷】の者たちをこれへ」


「ハッ!」



 前回と同じようにセイヤ殿たちが入場する。十三人(・・・)のメイドを引きつれて。

 やはりと言うか、足並みと姿勢、その歩く様は美しく思わず息を飲む。

 そしてまたも同時に膝をついた。



「セイヤ・シンマ並びにクラン【黒屋敷】の者たちよ。面を上げよ」


『ハッ』


「此度の勝負は我が国の諍いに巻き込んだもの。【天庸】の一件とは別に礼を言おう。大儀であった」


『ハッ』



 国王の()から始まる褒賞の席。自然ながらも違和感を覚える者が多い。

 陛下はセイヤ殿から目を外し、周囲の貴族達を見渡す。



「まだ知らぬ者もいるだろう。まずは私から今回の迷宮勝負について話す」



 これもまた異例。説明など宰相や私で十分。

 何も陛下自ら話す必要などない。



「今回の勝負は十日間のうちに【ツェッペルンド迷宮】を何層まで探索できるか、というものだった。相手は王都所属のAランククラン【相克の蒼炎】。この者たちは過去に迷宮を制覇した経験もあったらしい」


『おお……』


「まぁここにセイヤ・シンマたちを呼んでいる時点で分かるだろうが、結果は【黒屋敷】の勝ちであった。―――しかし、だ。勝敗はそれで良いとして、その勝負の中で″不正″があったと発覚した」



 ざわっ―――。


 貴族連中がざわつく。騎士団はごく一部だけだ。



「【相克の蒼炎】が【迷宮主】であるキングゴートのドロップ素材を最初から持ち込み、実際は五階層までしか到達していないにも関わらず、三〇階層まで制覇したと虚偽の報告をした」


『!?』


「しかも彼らの持ち物を調べれば【黒屋敷】への妨害目的で、毒や禁制品の『魔物寄せのお香』なども所持。つまりは【黒屋敷】を殺してでも勝とうという魂胆だったというわけだ」


『!!??』


「それを指示していたのは今回の勝負の発起人でもあるドグラ・マーキス侯爵である」



 ざわめきは一層大きくなる。

 迷宮勝負を持ちかけたのも、対戦相手を選んだのもドグラ侯爵であった。

 その侯爵が不正をし、勝負を穢したのだ。許されるものではない。



「ドグラについてはすでに捕縛済みだ。これは単なる殺人未遂(・・・・・・・)ではない。厳しい沙汰を下すものである」



 【黒屋敷】というクランは″ただの組合員″ではないのだ。

 害した上で、謝れば済まされるというものでは決してない。

 ドグラ侯爵がそれを知らずにいたのは果たして幸か不幸か。



「また、ドグラと【相克の蒼炎】を仲介し、禁制品やキングゴートの素材を提供した商業組合のキルギストン、【ジキタリス商会】の店主、ジキタリスについても、【相克の蒼炎】たちと共に厳罰に処する」



 そう陛下が口にした時、【黒屋敷】の幾人かに乱れが生じた。

 小声で誰かが慰めているようにも見える。微かに笑っている者も。


 そして貴族の中にも名前を聞いて驚く顔が見えた。

 ただの知り合いというわけではないだろう。



「キルギストンについてはトランシルの街にて大錬金術師デボンの殺害容疑も掛けられている。余罪も多数ありそうだ。同じく【ジキタリス商会】と妙な関係で繋がっている幾人かの貴族も居るようだ。もし(・・)この場に居るようならば首を洗って待っておけ。私はこの期に及んで容赦はしない」



 そう言う陛下の顔は、完全に悪人のそれだ。

 あまり貴族たちの前で出す表情ではないが、私はそれが″素″だと知っている。

 こうなると陛下は恐ろしい。だから次期国王の座は重いのだ。




「話しを戻そう。セイヤ・シンマ率いる【黒屋敷】はそうした害意に晒されながらも見事に勝利を収めた。それもたったの七日間で迷宮を制覇するという前代未聞の記録をもって、だ」


「うそだっ!!!」



 ここまでの無礼は聞いた事がないレベルで、陛下の言葉は遮られた。


 口に出し、赤絨毯の上まで出てきたのは、入口付近に並んでいた騎士団の一人。

 千人隊長ベヘラタ・グルンゼムである。



「ベヘラタ、貴様ぁっ!!!」


「よい、フォッティマ」



 無礼すぎるベヘラタを叱咤したのは実の父であり、王国騎士団長でもあるフォッティマ・グルンゼム伯爵。

 我が子の不祥事に身を乗り出した豪傑は、国王陛下の言葉によって渋々戻らされた。

 そんな事は知らぬと、後戻りのできないベヘラタはセイヤ殿に食って掛かる。



「ドグラ侯爵を不正と処し、なぜこの者を認めるのですか陛下! 七日で迷宮攻略など出来るわけがない! この者こそ不正を働いたに違いありません! 私がこの手でこの者が偽りであると暴いてみせますッ!!!」



 ベヘラタは腰に下げたミスリルソードを抜いた。


 謁見の間、陛下の御前で横やりを入れ、場を乱し、あまつさえ剣を抜いたとあっては死罪も同じ。


 分かっていないのか、それどころではないのか。いずれにせよベヘラタは危険な状態だ。



 陛下に一度止められたフォッティマ騎士団長や騎士団もさすがに取り押さえに動こうとする。

 が、それも再び陛下の目と手で遮られた。無言で「待て」と言っている。


 そしてその目はセイヤ殿に向けられた。



「……よろしいのですか?」



 セイヤ殿の問いに陛下は頷いて返した。


 それを受けてセイヤ殿は立ち上がり、絨毯の先に居るベヘラタを見やる。

 メイドたちがササッと立ち上がり、見事な所作で道を開けた。

 セイヤ殿とベヘラタの間を遮るものはない。



「この基人族(ヒューム)め!! 貴様さえ居なければあああああ!!!」



 ベヘラタがミスリルソードを上段にしたまま突っ込む。

 対するセイヤ殿は懐に手を入れ、一本の剣を取り出した。小さなマジックバッグでも隠し持っていたというのか。


 剣が抜かれると、誰もが息を飲んだ。

 刀身も柄も、全てが真っ黒な剣。片刃のレイピアのような細剣は、見るからに華奢で、だと言うのに何とも力強い。


 戦いに身を置かない私はともかく、眼下のジルドラの表情がその異様さを雄弁に語っている。



「うおおおおっ!!!」



 全く動かないセイヤ殿に対し、ベヘラタは突っ込んだ。

 そして父親譲りの力と技量をもって、セイヤ殿に振り下ろした。

 それは完全に殺しにいった一撃。私でさえもそうだと分かる渾身の一撃。



 ……しかし、私に見えた(・・・)のはそこまでだった。



 ベヘラタが振り下ろした次の瞬間、目に入ったのは、半ばから折れた剣を振り下ろしていたベヘラタの姿。

 そして、その背後から首筋に細剣を当てているセイヤ殿の姿だった。


 いつ迎撃して剣を折った? いつ回り込んだ? 全く分からない。

 瞬間的に記憶が飛んだような錯覚さえ覚える。



 斬り飛ばしたのであろうミスリルソードの剣先が宙を舞い、赤絨毯に突き刺さった。

 振り下ろした状態のベヘラタは斬られた(・・・・)剣の柄を握り、呆然と動けないでいる。


 それはそうだろう。ミスリルソードが斬られる(・・・・)などありえない。しかも音もなく一瞬でだ。

 武器の性能、力量、様々な要因はあるだろうが、根本的に何かが違うと思わせるには十分だった。



 静寂に包まれた謁見の間は陛下の指示により動き出した。

 フォッティマ騎士団長と数人の騎士により、ベヘラタが取り押さえられる。

 呆然自失といった様子のベヘラタは為すがままだ。



「連れ出す必要はない。後ろで取り押さえたままにしておけ。この場を最後まで見させてやる。これは私の慈悲だ」



 このまま牢屋行きかと思われたベヘラタは陛下のその言葉により、謁見の間の最奥に座らされた。

 両脇を騎士に固められている。

 なぜ見させる必要が? 貴族や騎士たちの中にもそんな疑問が見えた。



「【天庸】の一件に関する報告がまだであったので、先に言っておこう。セイヤ・シンマは()の【剣聖】ガーブを一騎打ちにて打ち破っている」


『!?』



 それは魔導王国の貴族、騎士たちにとっては衝撃の事実であり、迷宮勝負に勝った要因であり、今この場で起こった事に対する答えでもあった。


 【天庸】の恐ろしさは数あれど、【剣聖】ガーブの強さというのは非常に分かりやすい。

 世界で一番強い剣士が誰だと聞かれれば、その多くがガーブと答えるだろう。【天庸】に関わった者からすれば尚更だ。


 それを倒すどころか、一騎打ちで倒すというのは驚愕以外の何物でもない。



 皆の目、そしてベヘラタの目が見開き、再度膝をついているセイヤ殿たちへと注がれる。

 しかし陛下は追い打ちをかけた。



「加えて言えば、鬼人族(サイアン)のメイド、イブキは指名手配犯ラセツを一騎打ちで倒した。多肢族(リームズ)のメイド、エメリーもまた、研究所で捕らえていた妖魔族(ミスティオ)のドミオを一騎打ちで倒した。他にも【十剣】を相手に一騎打ちで倒した者、二~三人で倒した者も居る。―――それがセイヤ・シンマ率いる【黒屋敷】というクランなのだ」



 この期に及んで迷宮制覇が偽りだと吠える者などおるまい?

 そう陛下は締めた。


 正直、そう聞いたところでやはり「信じられない」という気持ちが勝つだろう。

 しかし目の前で起きたセイヤ殿の強さを否定する事など出来ない。

 セイヤ殿とは、【黒屋敷】とは我々の理外の存在なのだと、そう思うしか出来ないのだ。




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謁見の間で武器を所持してはいけない。マジックバッグも禁止。

国王は「おそらく投げ飛ばして気絶させるだろう」というつもりでいたはずです。

描写はしませんが。

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